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【第23話】息子が親の透析をどう受け止めてきたのか振り返る
2015.10.19
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先日透析を受けている時に、高1になる息子が透析室を訪ねてきました。すでに顔見知りになっている看護師長さんに入室の断りを入れてベッドに近づいてきます。
「いよっ! 今日はどんな具合?」と息子。
初めてのことでびっくりして「なんだ、どうしたんだ」と聞くと、忘れ物を届けに来たと言います。彼の手にはWi-Fi接続に使うポケットルーターがありました。
「これが無いと5時間の透析は辛いだろうと思って…」と、彼なりに気を利かせて持ってきてくれたようです。ごくたまにですが私はポケットルーターを家に忘れてしまうのです。確かにこれが無いと手元にiPadがあったとしてもインターネットには接続できず、5時間ひたすらゲームをして過ごすことになってしまいます。その後彼は「長居は無用」とすぐに帰りましたが、息子は透析を受けている父親のことをどう受け止めてきたのか少し思い返してみました。
私がシャント手術のために入院した時、彼はまだ6歳でした。家族で見舞いに来てくれた時には、右手に刺さっている抗生剤を投与するための点滴を見て、細々とした声で「これがトウセキなの?」と言うくらい怖がっていました。「まだ透析を受けるわけじゃないよ」と談笑で終わり、彼は“トウセキ”がどんなものか知ることもなく暫くの時が過ぎたのです。
私が透析を始めて1ヶ月が過ぎた頃、息子のビーバースカウト(ボーイスカウトでの小学校低学年の組織。この時彼は小学1年生でした)の活動で一緒に行動しました。近所の大きな区民公園で手作りのビニール凧を揚げるというイベント中に、私は急に立ちくらみをおこし倒れてしまいました。側で見ていた方の話によると「立っている棒が倒れるように突然ぶっ倒れたので、びっくりした」とのこと。当時は透析中の不均衡症候群も少なかったはずなのに、透析も受けていない休日に倒れるとは自分でも驚きでしたが、側で見ていた息子が一番ショックを受けていたようです。おそらくこの時に彼は、自分の父親が他の親とは少し違うということを知ったのだと思います。ちなみにこの時倒れたことを当時のクリニックの主治医に訊くと「平日は気が張っているから大丈夫だけど、休日で気が緩むということはあるヨ」とのことでした。
息子やカミさんには、何らかの形で透析とはどんなものであるのか知ってもらいたくて、一緒にクリニックに行ってみないかと誘ったことがあります。もちろんクリニック側にも了解を得ました。しかし二人とも「でも、ちょっと…ねえ」という反応。病院の雰囲気もあるでしょうし、血液が見える治療を目の当たりすることに抵抗があったのかもしれません。
第4話『家族がいてくれたこと』でも触れていますが、息子が中学生の頃のある日、外出先から帰宅すると息子とカミさんは部屋に寝そべって貪るようにして本を読んでいました。二人が読んでいたのは佐藤良和さんの『Dr.ジンゾーの透析療法の初歩』(南山堂)とバンザイさんの『透析バンザイ』(イーホープ)の2冊です。マンガなので手に取り易かったのでしょう。二人ともこの本を読んだことで、私が普段どんな治療を受けているのか、なぜこうした治療が必要なのか、そして私の体でどんなことが起こっているのかが理解できたと言いました。マンガで基本的なことが理解できると、もう少し難しい医学書も部分的に読むようになりました。
その後息子の口から「これらの本を読むまでは父親が病人だとはあまり意識しなかった」と、率直な感想を聞きました。私にとってはありがたい感想だったのかもしれませんが、そうは言ってもどこかで普通の健康な人とは違うくらいには感じていたそうです。
最近では息子が大きくなったこともあり、家での食事の支度などを手伝わせることも増えてきました。うちは“男子厨房に大いに入る”がモットーです。私が食べる分は野菜の茹でこぼしでカリウムを減らすことや、肉の分量などは私の分は全体のこれくらい、残りは家族の分と考えてスーパーで購入しているということを、一緒に台所にいる時などに伝えてきました。逆に健康な家族にはどんな栄養素が必要なのか、例えば一般的にはカリウムは体の中の塩分の排出に必要だし、血や肉を作るのに蛋白質が必要だということも教えたところ、透析患者である私が摂ってはいけない栄養素が何か明確に伝わったようです。
「本当は茹でこぼしじゃなくて、生野菜が食べられたらね」とちょっと愚痴っぽいこともこぼしますが、台所で二人、何かの作業をしながらだと「まあ、そうだよね」と息子も自然に受け取ってくれました。
また、私が書いたじんラボの原稿を読んでもらうということもしました。書いたばかりの原稿を読んでもらい、伝わりにくいところはないかのチェックを名目としていますが、私が病気や透析とどのように向き合っているのかを知ってもらいたいという望みもあります。これは一種の手紙でした。口では伝えにくいことを手紙に託したことと一緒だと思います。息子なりの目線で捉えてもらえればいい、それくらいの気持ちで読んでもらいました。感想を聞くと「うちでも在宅血液透析ができたらいいのに」と、息子なりにHHDのメリットを理解してくれたようです。
「なら、お前が介助をしてくれる? 」と聞くと「それはちょっと…。事故を起こしても困るしね」と渋り気味。そんな会話が日常的に交わされるようになりました。
私は透析を始めるようになってから、透析のない日はできるだけ息子と一緒にいるようにしてきました。息子を誘って自転車で出かけたり、家族での小旅行などにも行きました。最近では息子の方から、そろそろどこかへ旅行をしようよとか、今日はみんなで餃子を包もうなどと提案されることが多くなってきたように思います。家族揃っての行動が習慣化してきたとも考えられますが、私があまり病気のことで不安を感じたりしないように気遣ってくれている面もあるのだと思います。息子が私の病気のことをきちんと理解してくれるのと同時に、私が透析に行くことを自然に受け止めてくれていることに本当に感謝したいと思います。
先日、仕事から帰宅して夕食の支度をしようと台所に入ると、細かくちぎられたレタスが水にさらしてありました。「あれ? どうしたんだこれは? 」と息子に聞くと、2時間前から水にさらしていてくれたとのことです。
「いや、冷蔵庫から出してちぎっただけだし」
息子はボソっと言いました。
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- 【第23話】息子が親の透析をどう受け止めてきたのか振り返る
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- 【第20話】入院の心構え
- 【第19話】患者スピーカーとして講演しました
- 【第18話】自分にとって大切なものを見つける
- 【第17話】私のオフシーズン
- 【第16話】ボクの保存期〜今、CKDに生きる人たちに・6(最終回)
- 【第15話】ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・5
- 【第14話】ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・4
- 【第13話】水分管理について
- 【第12話】ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・3
- 【第11話】ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・2
- 【第10話】ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・1
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