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透析患者•よしいなをきの日常生活

【第12話】ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・3

2014.4.3

文:よしいなをき

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就職、そして出会い

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就職してしばらくの間は役立たずの状態でした。 最初は新人導入教育研修を受けながらプログラミングの勉強などをしていましたが、連日どこかの時間で会社の人事部門からの呼び出しを受けていました。当時、会社も採用した社員が慢性腎不全というケースが少なく、研修が終わった後の配属先をどこにするのか考えていたのだと思います。

人事部門の人同行で病院に行くこともありました。入社後に通っていた病院は大学病院でしたが、慢性腎不全がどのような病気なのか基本的な説明の他、雇用するにはどのようなことに気をつけたら良いのか、どのような作業が適しているのか、主に就業にあたっての雇用企業側での留意事項を説明してもらいました。

【就業・雇用での留意点など】

  • 決められた時間内でのデスクワークであれば問題ない。
  • 肉体的な負荷やストレスの掛からない作業が望ましい。
  • 残業、徹夜作業は望ましくない。
  • 保存期の間(透析になるまでの間)は4週に1度、通院させること。

病院からの説明を受けての会社の理解もあり、配属先はスムーズに決定しました。私自身の希望にも適う形で、管理部門内の技術教育部というところに配属が決まりました。自分自身が教育の仕事ができるかは未知数(大学では中国語を勉強していたので)でしたが、もしも適うのであればと第1希望にしていました。実際には技術教育部内の教務課での仕事で、主に社内教育における事務作業をする部署でしたが、「勉強しながらいずれは自分も教壇に立ちたい」と目標を立てるのにはちょうど良かったのだと考えました。

最初の仕事は、社内の教育申込事務を手伝いながら、作業の非効率な部分を探し出し、事務用のワークステーションコンピューターを導入して効率化を図るオフィス・オートメーション化(部内OA化)の仕事をしていました。

入社して2年目には、社内の情報処理部門に研修で入ることになりました。正式な異動ではなく、あくまで部内OA化のための勉強のためということでした。そのとき、私にシステム設計の「いろは」を教えてくれたのが、今の私のカミサンになってくれた人です。何故だか私は最初に会った時から、自分が慢性腎不全であることを彼女には伝えていました。「隠していても仕方が無い、この人と長く付き合っていくのであれば、早い段階で伝えておく必要がある」そう感じました。カミサンはカミサンで、「この人と交際したら、相当な苦労をするはず」くらいには思ったそうです。最初の段階ですでにお互いの将来を意識していたわけですが、実際の交際はもう少し後からになりました。「結婚は半径5メートル以内」というジンクスのようなものがありますが、近い距離での出会いや、ましてや社内恋愛となるとお互いが奥手になるようです。


入社してからの保存期の生活

保存期での具体的な生活について書こうと思います。 入社してすぐに会社の寮に入りました。当初は自炊する必要があることからアパートでの一人暮らしを希望しましたが、会社は、「病気を抱えた人間の一人暮らしで何か事故でも起こったら大変だ」と考えてくれたようです。当時、自炊するための小さなキッチン付きのワンルームタイプの寮が会社にあり、そこに入寮するよう言われました。「面倒見の良い管理人さん夫婦が寮と同じ敷地内で生活していて、万が一寮内で倒れるといったことがあっても安心だ」と会社の総務課からは説明されました。

食事は、最初に少量を作って失敗している経験から(第11回「ボクの保存期〜今、CKDを生きるひとたちに・2」参照)、土日の休日にまとめて作るようにしていました。最後まで作らず、途中まで調理したものを冷凍してストックしておきます。例えばコロッケならば、茹でたジャガイモをフォークで潰して、炒めたひき肉と混ぜ、形を作ってパン粉をまぶすところまででトレイに並べて冷凍してしまいます。生姜焼きや焼き肉であれば減塩醤油等で味付けをして、ビニール袋に入れて冷蔵庫へ入れておき、2〜3日の間に少量ずつ調理して食べきってしまいます。シャケやタラの切り身等なら3等分に切り分け、冷凍庫にしまっておきます。魚は主に朝食のおかずにしていました。

食事制限は長く継続していくことが大事ですから、1回の調理に手間が掛からないようにするのがポイントです。当時は一人暮らしの気ままさから、料理そのものを楽しむようにしていました。揚げ物にはレモン一切れを添えるだけでも、自分のこだわりだと思うようにしていました。レモン以外にもゆず、すだちといった、ちょっとした素材にもこだわってみます。大したことではないかもしれませんが、自分が出来ること、手を加えられることは大事なことだと思うようにしていました。

【たんぱく質の制限について】
私の経験から来る反省ですが、保存期の最初の頃は摂取するたんぱく質の量はできるだけ厳しくした方が良いと思い、極端に制限していました。それが原因で体重を落としてしまったことがあります。栄養障害もそうですが、極端なたんぱく制限を行うと、かえって腎機能を低下させてしまうことがあるそうです。

1日のたんぱく質の摂取量は、以下の式で計算します。

0.6g〜0.8g × 標準体重
(※標準体重は「身長×身長×22」で求める。身長が160cmならば、1.6×1.6×22=56.32kg)

係数を最小値の0.6gとすると、うっかり減らしすぎたときに0.5g以下でのたんぱく質摂取量になります。実際には主治医と相談しながら決める必要があると思いますが、0.7gから0.8gで計算するのが良いと書かれた文献もあります。


最初の頃の通院生活

通院に関しては、都内のとある大学病院に4週に1度通っていました。

最初の主治医は血液検査をして、その数値の説明をするだけでした。

まず、病院に着くと採血室に行き看護師さんから血液を採られます。その後、外来の待合室に行き1時間も待っていると自分の名前を呼ばれ、主治医から問診を受けます。

お互いのコミュニケーションに問題があったのかもしれませんが、最初の主治医とのやり取りにはあまり良い思い出はありませんでした。笑いながら「ここまで来ると、もう数値は良くならないから」とか「若い人の食事制限は無理なんだよねえ」と大きな声で言う人で、次第に待合室で待つ時間は辛くなっていました。食事制限を頑張っても効果が無いのかなと思ってしまうのです。もしもこの主治医から「一緒に頑張りましょう」と、一言あったら全然違ったのだと思います。

病院にいるあいだは本当に辛く、病院を出ると病気のことはあまり考えないようにしていました。当時は家に血圧計も置かなかったくらいですから、あまり真面目な患者ではなかったと思います。今、さまざまな勉強をしていると、あの時もっと血圧コントロールをしっかりとしておけば良かったと思います。

【血圧との付き合い方】
高血圧は腎機能悪化の最強因子だそうです。血圧が上がれば腎機能の悪化が進み、腎機能が悪化すれば高血圧になるという悪循環になります。

私自身のケースでは、薬で血圧を下げようとしましたが、一向に下げる事が出来ませんでした。そもそも血圧計を家に置かなかったということが、今思えば大きな反省点です。

きちんと朝・夕同じ条件で血圧を計り、記録するよう習慣化すべきだったと思います。本当は極端に血圧が高かった日や、安定していた日もあったかもしれません。そうした血圧の変化から、体に負担が掛かっていなかったか、食事の塩分が多くなかったかなどと、日頃の生活スタイルの「振り返り」をすれば良かったと思います。

また血圧の記録を主治医に診てもらい、具体的な生活指導を受けるということもできたと思います。


主治医が代わって

採血をして、その結果をその日のうちに聞いて、それで病院を後にするというだけの通院が数年続きましたが、ある時大きな変化が訪れました。主治医が代わったのです。

以前の主治医よりずっと自分に年齢が近く、今までに比べるとずっと話しやすい若い先生になりました。変わったのはそれだけではなく、検査の方法も変わりました。血液検査の他に24時間蓄尿検査が加わったのです。

この蓄尿検査は私にはちょっと辛かったです。

次の診察日の前の休日などを利用して、自宅で24時間分の尿をビニールの袋に貯めておくのです。1日目の最初の排尿から溜め始め、翌日の朝、最後の排尿を済ませたら、溜まった尿を少量、プラスチックの試験管に移し、これを病院で調べてもらうというものです。

正直に言うと本当にイヤでした。24時間すべての尿を採る必要がありますから、外出も控えなくてはいけません。会社の独身寮にいましたから、「同僚が遊びに来たら困る」と思っていました。でも、この蓄尿をすることで慢性腎不全の進行に対して具体的な指導が入るようになりました。今までの主治医には無かったことです。

【24時間蓄尿検査について】 最近ではこの24時間蓄尿検査をする病院が少なくなったそうですが、この検査は必ずした方がいいと思います。

蓄尿検査の結果からは、以下のようなこと分かります。

  • 摂取したたんぱく質量
  • 摂取した塩分量
  • リン、カリウムの量

自身の食事制限の何が良くなかったのか理解することができます。 血液検査の結果と共に蓄尿検査の結果も手帳やノート等に記録することをお勧めします。 可能であれば毎日の食事の記録、たんぱく質や塩分の摂取量、朝夕の血圧も記録してください。

これらの記録を基に主治医と対話し、日頃の生活スタイルなどの「振り返り」ができます。

たんぱく質の制限は比較的気をつけながらやっていたので、主治医からは「食事の制限は頑張っていますね」と言われることは多かったように思います。そういうときはホッとし、主治医とは雑談をしたりしていましたが、時折、仕事が忙しくなって生活のリズムが壊れてしまったり、外食が続いたりもしました。すると蓄尿検査にたちどころに悪い数値が出ていました。そういうときは主治医から厳しく指導が入ります。「塩分が増えていますよ、しっかりコントロールしてください」、「今月はお忙しかったのですか?休める時はしっかり休んでください」と、こんな具合です。

この方はまさに患者と二人三脚で治療するタイプの主治医でした。できないことはすっぱりと「できない」「それはダメです」と言う方でしたが、患者の気持ちを前向きにさせる暖かい言葉も仰ってくれました。保存期での運動は基本的に禁忌ですが、あるときどうしても自己責任でマラソンをしたいと思うようになり、主治医に相談したしました。すると、

「疲れたらすぐに休むようにしてください。人と競い合うのではなく、あくまで自分のペースで無理なく、歩いたり走ったりを混ぜながらのんびりと走るようにしてください」と仰ってくれました。

その時の私の体調を考慮しての言葉だと思います。保存期になったばかりの頃、「歩く時は分速5メートル」と言われて以来、運動は諦めていましたが、この言葉を聞いて希望を感じました。

以来、私はこの主治医と雑談を交わす中で、色々な相談を持ちかけるようになります。

人生の一大イベントである結婚についても、背中を押してくれたのはこの主治医でした。

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よしいなをき

よしいなをき
透析はしていますが普段はスポーツ自転車に乗って 体を鍛えています。
仕事は、平凡なサラリーマンですが、透析の時間を利用して、ブログを書いたり、小説を書いたりしています。

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