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【第19話】患者スピーカーとして講演しました
2015.2.13
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2015年2月1日、じんラボ所長の宿野部が事務局長を務めるNPO法人患者スピーカーバンク(理事長・鈴木信行)主催のシンポジウム「患者の語りを社会に活かす」が、東京都文京区にあるエーザイ株式会社本館にて開催されました。本シンポジウムでは「病気とともに生きるひとも、支えるひとも『自分の経験が誰かの役に立つ』『“患者の語り”を聞くこと、伝えることで、人生のプラスを見つけられる』ということを共感するきっかけを生み出そう」という目的を掲げており、実に140名を超える参加者が集まりました。
当日のプログラムは、以下の3つのパートに分かれる4時間半に渡るイベントとなりました。
- 患者スピーカーによる講演
- ゲストによるパネルディスカッション
- 参加者によるグループワーク
実は私も患者スピーカーの一人として講演させていただきました。今回はそれまでの準備や練習についてと、講演内容などをご紹介したいと思います。
実は人前で話をするのが苦手
実を言えば私は人前で話をすることが大の苦手で、大人数の前で話をした時“緊張で血の気が引いて倒れた”といういわくつきなのです。ですが、企業などでも講演活動されている所長の影響も多分にあり、どうにかこの苦手な領域を克服して自分も人前で話ができるようになりたいと考えていました。そこで前の会社を辞めてからは、NPO法人患者スピーカーバンクにて初級、中級、上級と研修を1年かけて受講し、患者スピーカーとして人前で話ができることを目指し訓練をしてきました。
そうして昨年11月に日本プライマリ・ケア連合学会開催の認定薬剤師特別研修にて『患者と薬剤師さんとのきっかけづくりって? 』と題した講演を行い、その経験を踏まえて本シンポジウムでの講演者募集に応募しました。「これは応募者が多く通らないのでは」と思っていたのですが、運良く…かどうか分からないのですが、このような大舞台で話をする機会を得たのです。
3週間前から準備を始める
今回のシンポジウムでは、日本プライマリ・ケア連合学会で講演した内容を15分に短縮して話すことになり、まずは投影用スライドの再構成を行いました。元の講演が30分でスライドもちょうど30枚でしたので、これをまず15枚に減らします。また、前後のつながりが途切れないようスライドの各所に修正を加えました。このスライド資料をもとにA5版の大きさの情報カードを使って講演台本を作成します。情報カードは1つのスライドに対して1枚の構成で作り全部で15枚作成しました。
資料の完成と共に練習を開始しました。できあがった情報カードを手元に置き、パソコンを前に置いてスライドを表示させ、スライドをめくるのに合わせて1枚の情報カードを読み上げます。この時スマートフォンの音声レコーダーアプリを使って読み上げた内容を録音しておきます。合わせて時間も計り、講演時間の15分に収まらない場合は情報カードに書いた内容から削る部分がないか再確認しました。
1回読み上げる度録音した音声を1度聞きなおします。自分なりに話しにくい箇所や、突っかかってしまった箇所などを確認し、話しやすいよう情報カードに修正を入れます。あまり修正が多い場合はまるまる1枚を書き直しました。こうして何度か読み上げ練習をして、ミスの少ない音声データを残して、透析の時間などに繰り返し聴き、内容を頭に入れておきます。この年齢になると若い頃に比べて記憶力が低下しているので完全に覚えるということはできませんが、話す順番を覚えるくらいの気持ちで聞き返しました。
読み上げ練習は毎朝6時に起きて30〜40分行いました。昼間は仕事があるため普段より1時間早く起きて時間を確保するより仕方がありません。この時間は家族もまだ寝静まっていますので、集中して取り組むことができます。また、これくらいの短い時間が集中するのにちょうど良いようです。私は喉が弱いので、あまり大きな声で長い時間練習するとすぐに声が枯れてしまいます。短い時間で適度な緊張感で取り組むというのが良かったように思います。
舞台女優さんから助言をいただく
練習をしている期間に、ちょっとした息抜きでとある小劇場での舞台を観に出かけました。舞台を観終わった後、その舞台に出演していた女優Sさんとお話しする機会があり、人前で緊張をせずに話をするにはどうすればいいのかということを相談したところ、Sさんは次のように助言してくれました。
「台本があることがまず大前提です。その内容を何度でも声に出して練習するのみです。日常生活では歩きながら台詞が自然に出てくるくらい、読み上げ練習を繰り返してください」
舞台女優というプロフェッショナルな立場の方から直接話を聞けたのは本当に心強かったです。台本のこと、読み上げ練習を繰り返すことなどが、自分がこれまで練習してきたことと一致していたことが少し自信につながりました。
ブラッシュアップ研修で振り返り
シンポジウムの1週間前に患者スピーカーバンク主催のブラッシュアップ研修に参加し、これまで練習してきたことを本番同様に話しました。患者スピーカーの仲間の他に、多く参加されていた一般の方からも数多くの意見を聞くことができました。講演準備の作業はずっと一人で進めていたので、資料を作っているときには気がつかないようなこともブラッシュアップ研修で気づくことがたくさんあります。具体的には次のような意見が寄せられました。
- 話す途中で「えー」が多く入る(話すときの癖)
- 「透析不足」という言葉の意味がよく分からない
- スライドで強調すべきところは文字の情報減らして、伝えたいことだけに絞る
- 「透析患者の時間的制約」について一般的な制約なのか、個人の制約なのかが不明確
- 最後は一番伝えたいところだと思うので、もっと時間を取ったほうがよい
これらの意見を持ち帰って、すぐに所長や患者スピーカーバンクのスタッフとも話し合い最後の修正を行いました。また、私の話をするときの「えー」と言う癖は長年放置してきたものですが、この機会にどうすれば治せるか検討し「えー」が出そうな時は意識して息を吸い逃すという方法をとりました。
そして本番では
いよいよ2月1日の本番当日となりました。普段通り朝6時に起きて1度だけ読み上げ練習し、時間を計ると15分20秒、これくらいであれば許容範囲です。電車の中でも少し読み上げたい衝動にかられますが、ここは我慢することにしました。本番で全力を出したいという気持ちの方が強かったのです。
当日の午前中は会場準備のため少し早い時間に集まり、会場設営、パソコンやプロジェクター、マイクなどの準備です。その横で他の講演者とともに最後の講演手順の確認をしました。そして瞬く間に開場の時間となり、多くの参加者の方々が入場してきました。
NPO法人患者スピーカーバンク理事長の鈴木信行さんの挨拶、そして事務局長の所長の活動報告が終わり、いよいよ患者スピーカーによる講演の時間、私と合わせて3人のスピーカーが話しますが、私はそのトップバッターです。
15分の講演で、腎臓病のこと、透析こと、透析導入時に感じた私の不安、普段、薬剤師さんとどのようなやりとりがあるのかを順々に話し、途中で私の透析中の写真もスライドで見せました。私は透析の時にベッドの周辺にiPadや本、DVDなど色々なものを置いていますが、これらから私がどんな人物なのか考えてもらいたい、そしてそれを患者さんと会話するきっかけにして欲しいということを話すためです。医療者は患者と接する際に単に病気の話に終始するのではなく、患者の日常生活に触れることで会話のきっかけを見つけ、そこから患者の心を開いてより良い患者との関係性を築いて欲しいということを伝えました。
不思議なことに、演壇に立った時は以前のような緊張した時の胸の鼓動は感じませんでした。緊張しなかったのかと問われれば、実のところどうなのだろうという感じでしたが、話すことに夢中であっという間の15分だったというのが実感です。ただ、客席にいらっしゃった参加者の方々の顔ははっきりと見えていて、講演中に私の話を聞きながらメモを取られている方を目にした時は、自分の話がきちんと相手に伝わっているのだと感じました。話し終わって演壇を降り、席に着いた時は少しホッとしたように思います。
多くの力や支援が集結され成功に導かれたイベントでした
その後はゲストによるパネルディスカッション、参加者によるグループワークが続きます。パネルディスカッションでは、各方面の専門家の方から患者スピーカーバンクの活動を高く評価いただき、また今後の課題なども挙げられたため団体として貴重な持ち帰りを得ることができました。さらに当日参加者された方々は、グループワークを体験することで我々の活動の一端に触れていただくことができたと思います。
患者スピーカーバンクには、さまざまな疾患を持ちながらもその活動を共にしたいという仲間が大勢集まっています。そして、患者では無いけれどその活動を支援してくれるという仲間もいます。こうした多くの仲間の力が集結されて、今回のシンポジウムの成功を導いたのだと感じました。限られた時間の中での準備では一同が顔を合わせる機会はそう多くはありませんでしたが、患者スピーカーの仲間はそれぞれが当日どのように動けば良いのかがわかっていたように思います。パソコンや機材の設営、街頭での参加者の方々の誘導、食事やお茶などの手配、そして的確なタイムキーパーなど、それぞれが持つ力が集結して形になりました。そしてシンポジウムはタイムテーブル通りに進行し、滞ることなく全てのプログラムが終了したのです。
また、会場を提供していただいたエーザイ株式会社様、ご来場された多くの参加者の方々、またクラウドファンディングでご支援いただいた方々のお力が、シンポジウム開催への大きな支えになりました。こうしたご支援に触れて、患者スピーカーバンクの今後の活動に対する期待は大きいのだと感じました。このシンポジウムは患者スピーカーバンクの次への一歩なのだと思います。私も微力ながらも患者スピーカーの一人として、今後の活動を充実させて医療や社会への貢献を果たさねばならないと思いました。
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