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透析患者•よしいなをきの日常生活

【第20話】入院の心構え

2015.4.9

文:よしいなをき

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入院の心構え

2015年3月17日のことでした。いつも通りに目が覚めて、いつも通りにお弁当を作り出社しました。お昼ご飯を食べた後くらいから、左腕が突っ張るような妙な感じがしました。時折、左手をグーパーと開いたり閉じたりを無意識のうちにしていて「あれ? これってシャントが閉塞しそうな時によくしていた行動だったような…」と思いました。3年前のシャント再建手術以来、しばらくはシャントのトラブルが全く無かったのですぐには気がつかなかったのです。スリルを確認するとしっかりとした血液の流れは感じます。ですが、普段あまり触れない吻合部より少し親指よりの部分を触れると、かすかに痛みがあります。うっすらと赤みを帯びていて、よく触ってみると少し硬い塊のようなものを感じました。所長にも見てもらい「スリルはしっかりしていますが、確かに腫れて硬くなっています。すぐに病院に行った方がいいのでは」との助言を受けて、普段、透析でお世話になっている病院へと向かいました。


病院に到着後、すぐに入院へ

病院に着いたのはその日の18時頃。透析室に向かうと、普段透析を受ける時はスタッフがいますが、火・木・土曜日は夜間透析が無いことを失念していました。透析室のスタッフルームには誰もいません。急いで病院の総合受付に向かい、できるだけ簡潔に次のように伝えました。

「私はこの病院で透析を受けている患者です。シャントに異常があるので、至急透析室のスタッフに相談したいのですが、誰か連絡がつかないでしょうか? 」

受付の人が透析室に内線電話で連絡を取ったところ、すぐに受付に透析室の看護師長とスタッフ4人が駆けつけてくれました。皆、別室にいて会議中だったとのことで、残っていたスタッフ総出で来てくれました。

看護師長が透析室主治医と他の勤務医にも連絡を取り、勤務医のT先生が駆けつけてくれました。腫れている状態を診て「シャントの感染であれ炎症であれ、数日は入院して抗生剤を投与して様子を見た方が良い」との判断をされました。病床は満床でしたが翌日は1つ空くとのことで、その日は救急外来にて抗生剤の処置をして一旦帰宅、翌日から入院となりました。

【入院の準備は事前に】

私は過去にシャントのトラブルなどで続けて入院した経験があり、そのこともあってうちのカミさんは入院グッズを常備してくれていました。パジャマ、下着、ハンドタオル、歯磨きセット、入浴セットなどです。これらをバッグに入れてあり、いつでも入院できるようにしています。これに加えて、保険証、障害者手帳、各種医療証もひとかたまりにしておき、一緒に持って行きます。また普段飲んでいる薬(リンの吸着剤や血圧の薬など)もいつでも持ち出せるようにしておきます。お薬手帳などの記録もあれば一緒に持っていきます。

【もう一つ大事なこと】

シャントのトラブルは本当にいつ何時起こるか分かりません。もしもシャントのトラブルが起こった場合は、どうすれば良いか透析施設の主治医と事前に相談しておくのが良いと思います。クリニックなどに入院施設が無い場合や、シャント再建については他の提携医療機関で行われる場合もあります。提携医療機関の所在地など事前に確認しておけば慌てることなく向かうことができ、早い処置を受けることができるかもしれません。


数日の入院で済むものと思いましたが…

当初は数日の入院で済むものと思っていました。入院が決まると治療計画表というものを主治医が作成してくれますが、これには「当面は入院しながら抗生剤を投与し、経過観察を行う」とあります。ただし書きとして「ただし、病状などの変化に合わせて治療方法などは変わることがある」と書かれていました。まさか、書かれた通りになるとは思いませんでした。

スリルについては全く問題ありません。耳を当てればゴオン、ゴオンと激しい音が響きます。問題は赤い腫れと若干の痛みです。シャント感染の場合、多くは穿刺部から起こることが多いとのことで、私の場合はシャントを作った時の吻合部の辺りです。ですから単なる炎症の可能性もありましたが、万が一ということもあります。シャント感染となってしまった場合は、シャント血管から全身に菌が巡り、最悪、敗血症となって死亡するケースもあるとのことです。1日に1回、点滴で抗生剤を投与し、数日後には痛みが緩和されてきているように感じ、「これはそれほど時間もかからず退院かな」と思っていました。ところが…。


歯肉炎の痛みが酷く

入院から2日後は息子の中学校の卒業式なので外出願いを出し、一時的に帰宅して卒業式に出席しました。この時も体調の面では特に問題はなかったと思います。左手首に若干の痛みがあるくらいで、あとは元気という感じでした。病室にパソコンを持ち込んで、原稿のチェックや自分の原稿の執筆など、空き時間を活用できるくらいは元気でした。無事に卒業式に出席し病院に戻った翌日の透析の時に、突然不調は訪れました。

普段は夜間で透析を受けていますが、入院中は昼間透析を受けることになりました。夜間透析だと終了が10時30分を過ぎてしまい、入院病棟の消灯時間までに帰ってこられないからです。また透析室の空きベッドの問題もあり、普段の月・水・金ではなく、火・木・土の透析となってしまいました。一時的にですが2回続けて中2日空きの状態での5時間透析となりました。普段は透析後に急激に血圧が下がることもなく、自転車を漕いで帰るくらい元気なのですが、この時はなぜか血圧が急低下してしまいました。立って病室に戻ることができず、スタッフに肩を支えてもらい車いすで入院病棟へ戻ったのです。加えて歯肉炎の痛みが襲いました。入院生活のストレスが多少なりともあったのか、無意識に強く歯の噛み締めをしていたようです。

この時の血液検査ではCRP(体の中の炎症反応)の値が12mg/dLを超えていました(正常値は0.3mg/dL)。入院前日の救急外来でもCRPの反応は高く1.8mg/dLでしたが、はるかにそれを凌駕していました。これだけCRPが高いと入院が長引くことが予見できました。単純に考えれば歯肉炎が原因でCRPが上昇していることも考えられますが、簡単には原因は特定できません。


地域医療に携わる病院に入院して

入院中の病院の様子などを書こうと思います。私が入院した病院は、町工場が多くある地域の人たちを支える医療機関として古くからあったそうです。診療所を別棟として、一般病棟(入院施設として139床)、透析室、訪問看護ステーション、地域包括支援センターから成ります。

今はどこの病院もそうかもしれませんが、この病院でも高齢者の入院患者が多いことに気がつきました。フロアの中心にスタッフセンター、デイルームがあり、それを囲むように入院病室が配置されています。私がデイルームでパソコンを広げて作業をしていると、さまざまな入院病室から高齢者の声が聞こえてきます。

痛みや治療に耐えて苦しんでいる声が響いていて、医療スタッフが寄り添い、看護や励ましている様子が見られました。医学的専門知識の無い私は、ただその様子を聞き、時に目の当たりすることしかできませんでした。私にはその様子を言葉に書きおこすことしかできません。自分自身に対するもどかしさのようなものを感じました。

また時には、我がままとも取れる患者の訴えなども耳にしました。 昼間入院が決まった時は大人しくしていた患者が、夜が更けて辺りが暗くなってくると、 「こんな病院にはいられない。今すぐに退院する! 勝手に入院なんかさせないでくれ」と叫び出しました。高齢者の中には夜の病院の雰囲気に寂しさがこみ上げてしまい、その反動で感情的になってしまう人もいるそうです。

また主治医に対しては大人しくしていますが、看護師には横柄な態度をとる患者もいました。 「血液検査の結果がここへ来てからどんどん悪くなっている! 先生は良くなっていると言うが、自分は○○という病気だと思う!」と医学書を片手にクレームを言い始めるのです。私などはこうした横柄さを目の当たりすると激しいストレスを感じますが、この病院の医療スタッフはそうした患者に対しても、辛抱強く耳を傾け常に穏やかな口調でなだめていました。スタッフの冷静な対応に患者も一時的には興奮をさまして穏やかになりますが、翌日また同じことが繰り返されます。私は入院病棟スタッフの患者への冷静な対応に感心すると共に、スタッフの苦労は計り知れないと感じました。

【伝えたいことはアサーティブに】

患者として医療者に対し、自分の病気の不安や疑問を伝えたいという気持ちは誰にでもあります。ですが、そこはお互いを1人の人間として認め合い、礼儀をわきまえて冷静な伝え方を考えなければと思います。
お互いが対等な関係であることを意識し、自分の要求を感情的にはならずに「アサーティブに伝える」という考え方があります。
例えば喫茶店で注文した飲み物がなかなか出てこない時に、声を荒げ「私の注文したコーヒー、まだ出ないけれどどうしたんだよ! 忘れているんじゃないのか! 」と言ってしまった場合は、客側、店側の双方の関係が悪くなってしまうはずです。この後にコーヒーが出てきても美味しく感じないかもしれませんし、場合によってはこの店には行きづらくなってしまうかもしれません。しかし自分の要求を我慢してしまえば、客側にはストレスしか残らないという結果になってしまいます。そこで自分の要求を冷静に伝えるという方法が「アサーティブコミュニケーション」です。
「私が注文したコーヒーがまだ出てきませんが、オーダーを確認していただけますか? 」と感情を含めずに事実のみを伝えれば、自分の伝えたい要求は伝えられ、なおかつ相手との関係も損なわれません。医療の中でもこうした手法を使う事ができれば、お互い気持ちよくコミュニケーションができるのではないでしょうか。


歯の治療を行い…

入院した病院の同じ系列医療機関に歯科医院があるとのことで、歯肉炎の治療を受けることになりました。歯肉炎の痛みは透析を受けた後に必ずひどくなりました。私には医学的に正しいことかは分かりませんが、自分の感覚としては体の血の巡りに合わせて痛みが出るように思いました。歯の治療をした時には飲んではいけないお酒をうっかり飲んでしまった後のような痛みです。

私自身は、未治療だった右下の親知らずが歯肉炎の原因だと思っていましたが、レントゲンを撮ってもらったところ右上の奥歯が痛みの原因だと指摘されました。

歯科医師はレントゲンを指差しながら言いました。 「歯の根元に丸くて黒い影が写っていますが、これが今回の炎症の原因であることに間違いありません。抜歯すれば、原因の炎症部分が露出するので容易く治療することができます」

親知らずではない永久歯を抜く事にはためらいがありました。一旦考えさせて欲しいと伝え、明後日の予約を入れて病室に戻りました。

主治医に相談したところ「透析に関しては手術などで出血の可能性のある患者向けの抗凝固剤を使えば、抜歯しても大丈夫」と言われました。また「歯の治療をすることでCRPの値が低くなることも考えられる。もちろん平行してシャントエコーの検査、腹部などの画像検査も行い、一つ一つ原因を探っていきましょう」と言われたことで、まずは抜歯を決意しました。

抜歯に始まり、そこからは連日の検査で忙しくなりました。平行して抗生物質の投与、もちろん透析も行われ、体力的にも辛い日が過ぎていきました。幸いこの病院で出る食事は美味しくてボリュームもあり、唯一の楽しみは毎回の病院食でした。入院食として塩分、リンカリウムの量も調整されており安心して食べることができました。入院生活は普段の生活に比べるとストレスに感じることが沢山ありますので、食べる楽しみがあったのは良かったと思います。


抜歯してからの経過

抜歯してすぐに分かったのは、炎症の原因はやはり歯の根元にあったということでした。銀色のトレイに転がっている抜き取られた私の奥歯は、様子が奇麗なので出血はそれほどでもないようでした。この歯の根元に直径にして5mmくらいの膿みの固まりがあったのです。歯と一緒になって白いボールのような固まりが出てきました。指で触れてみると固いゴムのような弾力があります。この白い固まりが周囲の歯肉に痛みをもたらしていたとのことでした。

抜歯後、透析日毎に行われる血液検査ではみるみるうちにCRPが下がっていきました。シャントのエコー検査の結果も出て、手首の赤い腫れは「血栓性静脈炎」とのことで、既に抗生物質の効果が出ており治りかけているとのことでした。

入院から12日が過ぎた時、やっと主治医からは「次の透析の時にCRPの値が1mg/dLを切っているようであれば、以後は経過観察として退院ということにしましょう」と言われました。既に抜歯してから数日が過ぎ、片方の歯でものを食べることにも慣れていました。私の体には少し狭いベッドにも慣れてはきましたが、いよいよ家が恋しくなってきます。

そして入院15日目の血液検査の結果ではCRPが0.7mg/dLとなり、無事に手首に巻いたネームバンドが切られることになったのです。


入院して分かったこと

入院生活は、やはり大変なことの方が多かったですね。ですが私の場合、手首の炎症と歯肉炎以外では元気で、食事もしっかり摂れていたので大きな不安はありませんでした。辛いなあと感じたのは、家族と一緒の時間を過ごせなかったことくらいです。

それ以外では毎日規則正しい生活が続きました。朝は6時に起床。検温と血圧の測定が行われ、また日々の入院食のおかげか、血圧は健康な人と変わらない正常値になりました。検査や透析などが無い時間では、普段と変わらず「じんラボ」の原稿の執筆や校正作業をしていました。夜10時には消灯なので、早寝早起きが習慣化できたと思います。今はまだ経過観察の状態ですが、子供の高校の入学式の前に退院でき、家にも帰ることができて正直ホッとしています。

今回の経験で、いつ何時シャントのトラブルや入院といったことが起こるかは分からないということに気がつきました。「これは普段とは何か違うな」と少しでも感じたら、すぐにかかりつけの医療機関に相談し、早期に対応してもらうのが一番だと実感しました。

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よしいなをき

よしいなをき
透析はしていますが普段はスポーツ自転車に乗って 体を鍛えています。
仕事は、平凡なサラリーマンですが、透析の時間を利用して、ブログを書いたり、小説を書いたりしています。

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