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【第2話】Y先生のこと
2013.5.4
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私、吉井尚紀は2005年の4月26日(自分の誕生日)にシャントの手術をしました。慢性腎不全だと分かったのは、1991年ですから保存期を14年過ごしたことになります。
14年の間に担当の先生は3人変わりましたが、3人目の先生−−Y先生が一番長く付き合ってくれたことになります。この先生が居なかったら、私は透析導入を上手く行えなかったかもしれませんし、また現在続いている仕事も続けていなかったかもしれません。Y先生は非常に丁寧に、患者の気持ちを支える形で透析導入を進めてくれました。
保存期の頃、4週間に一度、お茶の水にある大学病院のY先生の診察を定期的に受けていました。血液検査を受けてクレアチニンの数値などから、今月は良かったとか、今月は少し進行したとか、そういうことを長く続けていました。比較的長く保存期を続けることができたのはY先生があまり悲観的な言葉は仰らなかったからだと思います。
とはいえ、Y先生もどういうタイミングで透析導入するかはよく考えてくれたようです。保存期を比較的長く続けていた私は、心のどこかで、自分はこのまま保存期のままで透析導入にはならないのではないかと思っていました。ですがクレアチニンが8を超えたところでY先生から透析導入を勧められました。
今でこそ、透析は長時間を受けるべき、透析が毎日の生活を支えてくれる治療だと考えていますが、さすがに透析導入の話しを聴かされたときは抵抗がありました。自分の場合、クレアチニンの数値は上がったり、下がったりを繰り返していたので、また8から下に下がるものと思っていたので、もう少し様子を見ても良いのではないかと先生に伝えました。ですが、先生は、「シャントの手術をしていないと非常に辛い方法で透析をする必要がある、そうならないためにもシャントの手術だけでもしておいた方が良い」、と仰ってくれました。手術だけならばと、私も納得し先生の勧めを受け入れることにしたのです。
手術日の前後、入院中の間、Y先生はよく病室に顔を見せてくれました。こちらが疑問に思っていること、不安に思っていることはよくよく話しを聴いてくれて、また疑問に応えてくれました。私が一番に不安に感じていたことは、透析をしながら仕事を続けることはできるだろうかということでした。それに対してY先生は、「透析を受けながら働く人たちはたくさんいます。出張先で透析クリニックを手配して海外出張に出る人だっています。大丈夫、今まで通り、働くことができますよ」と力強く仰ってくれました。
この言葉が後々、自分を支えることになります。結局、2005年4月にシャント手術を受けて、その後も1年くらいは保存期が続き2006年9月に透析導入となりました。
腎臓病に関わる内科医は、根本的な治療方法が確立されない限りは、最終的には患者の透析導入をソフトランディングさせることが務めになる−−Y先生はそういう意識で常に患者に接していました。患者の不安や疑問を払拭し、患者が納得できる状態で透析導入させる。そこで失望する必要は無いし、希望を持った形で生きて行けるよう考えてくれていたと思います。Y先生に関わる人たちは皆さん同じ考え方でしたね。執刀医の先生や、入院中の担当医の先生、皆さん、Y先生と同じように接してくれました。誰一人として悲観的なことは言いませんでした。事実は事実として伝えてくれましたが、皆さん力強く励ましてくれたことが今も支えになっています。
そうした人たちの関わりのおかげで、自分は、透析導入も、また今現在、長く付き合っている維持透析も悲観的に捉えることはありませんでした。人工透析を始めて7年目になります。勤続は20年になりました。仕事と透析のバランスを取る必要はありますが、その中でも色々な仕事の機会を与えてもらっています。今年は、また新しい部署で新しい仕事を始めます。仕事を続け、また新しいことにチャレンジできるのはY先生のお陰だったと思います。
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