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【第5話】人工透析で生きるということ
2013.8.9
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保存期の頃、私は会社に籍を置きながらもう一方で大阪芸術大学の通信生として文章芸術の勉強をしていました。仕事は収入を得ていく上で重要でしたが、自分らしく生きていく上での意味を、文芸の世界で見つけ出したいという気持ちも強かったのだと思います。
その当時、私は評論家の鈴木邦男氏(代表作「夕刻のコペルニクス」)に弟子入りをして文章指導を受けたり、先生の紹介で様々な文化人、主にドキュメンタリーの世界で生きる人々に会わせてもらったりしています。直接、人に会って話しを聴くということは、それだけその人の生き方に触れる大切な機会であることを知りました。
色々な人に会っていたのは、いずれ自分が人工透析を受けることで時間的な制約を受け、なかなか人に会うことが出来なくなるということを、心のどこかで恐れていたからだと思います。大学に籍を置いていたことも、鈴木邦男氏に師事し文章修行をしていたことも、体に自由が利くうちに、できること、やりたいことをたくさんやっておこうという気持ちが強かったからでしょう。
書くこと以上に本を読め、というのが鈴木先生の教えでした。鈴木先生は、月に30冊以上の本を読むことを自分に課す人です。簡単に真似はできませんが、私も月に10冊程度の本を読んでいた時期があります。
数多くの書物に触れ気がついたことは、小説の世界では障がいを持つ主人公や、主人公の支えとなるキャラクターに障がい者が多いということでした。小説では、自らの枷(障がい)を乗り越え、主人公が成長していくことを描いた作品が多くあります。また、健常な体を持つ主人公が、心の悩みや人生の悩みを抱えたとき、障がいを乗り越えたサブキャラクターに出会うことで自らの道を切り開くというストーリーも数多くあります。
自分自身が障がいを持っているということにも必ず意味がある。私はそう考えるようになります。いや、私だけではなく、障がいを持っている人全てに、生きていく意味が必ずあると思っています。三浦綾子の『塩狩峠』では、「障がいは人の心を映す鏡」という言葉が出てきますが、私はそこで障がい者が生きる意味を印象づけられました。
私たち透析者は、機器の力を得て生きながらえています。そこには必ず意味がある。確かに時間的な制約があり、4時間とか5時間、週3回の透析治療で拘束されるということはありますが、それ以外においては普通の人と同じ生活を送ることができます。制約の無い時間を使って、他の障がいに苦しむ人をサポートすることや、透析医療を含む様々な社会問題に対して何らかの提言などができるかもしれません。
私、よしいなをきは2013年9月を持って、20年勤めてきた会社を辞めることにしました。所長と共に株式会社ペイシェントフッドで活動していきます。透析患者の生活向上や、患者や医療に関わる数々の問題、課題に向き合い、少しでもその解決ができるよう注力していきたいと思います。
私自身が透析者として出来ることがそこにあると思っています。今まで培ってきたことや、人々との出会いをこの世界に役立てられたらと思います。
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