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血液透析との併用療法による腹膜透析「PD+HD併用療法」
2019.10.21
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血液透析との併用療法による腹膜透析(血液透析腹膜透析併用療法、PD+HD併用療法、以下 併用療法)をご存知でしょうか。腹膜透析に、1〜2週間に1回以上の血液透析(HD)または血液透析濾過(HDF)を追加する療法です。かつては一時的な除水不良、腹膜炎時、腹膜透析導入初期、腹膜透析をやめる時の腹腔内洗浄などの場合で不定期に併用は行われていました。定期的な維持透析としては1990年代後半に導入され始めて、2010年より保険適応が認められ、腹膜透析の枠内で行えるようになりました。2017年末の調査※では、腹膜透析患者さんの2割程度の方が併用療法を行っています。
※一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会『わが国の慢性透析療法の現況 2017年末の慢性透析患者に関する集計』
併用療法のメリット・デメリット
併用療法にはどんなメリットとデリットがあるのでしょうか。大きくは前述の 併用療法を取り入れている透析施設の報告や論文などで発表されているものを取りまとめました。
メリット | |
透析量不足の改善 | 血液透析を行うことで老廃物の取り除ける量が増える。特に腹膜透析のみでは十分に除去できないβ2-ミクログロブリン(透析アミロイドーシスの原因物質)の除去率が上がると考えられる。腹膜透析ではカリウム制限がゆるやかなことに加えて、食事制限をトータルでゆるやかにできる。 |
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体液管理が安定 | 血液透析を行うことで、除水量を明確に管理することが可能になり、適切な体重管理を行いやすくなる。 |
貧血の改善 | 貧血の薬の使用量を減らせる可能性がある。 |
腹膜が長持ちする | 血液透析を1〜2週間に1回以上行い腹膜透析を2日間(血液透析日と次の日)休むことで、約48時間の腹膜の休息が可能になり腹膜機能が温存される。透析不足で起こる尿毒症自体が腹膜の劣化に関係しているとも言われており、血液透析の併用で劣化の軽減につながることも期待できる。 |
QOL(生活の質)の向上 | 腹膜透析のバッグ交換を清潔に気をつけながらほぼ毎日行うことに精神的負担を感じることがあり、腹膜透析の休息日を設けることで、倦怠感や精神的負担、抑うつなどが改善されたという報告も多くある。また、施設には週に1回の血液透析のみの通院となるので、精神的にも時間的にも縛りが少なくなる。 |
残腎機能が低下する | 腹膜透析を単独で行っている場合と比較して、併用療法は血液透析によって尿量が減少する。 |
通院が必要になる | 腹膜透析のみの場合は月に1〜2回程度だった通院が、血液透析を受ける回数分増え、併用療法を始める前にシャント作製も必要。ADL(activities of daily living:日常生活動作)が低下した患者さんには負担となったり、通院介助が必要になる場合もある。 |
セルフケア | 腹膜透析の出口部のケアなどに加えて、血液透析で必要となるシャント(血液の取り出し口として使うもの)のケアの両方が必要となる。 |
デメリットや負担が全くないわけではありませんが、透析不足の解消によってさまざまな病状が改善されるなど、良好な予後やQOL(生活の質)を維持できるという側面においては可能性がある治療方法です。透析困難症の場合、シャントの調子が悪くて穿刺の数を減らさざるを得ない場合、血液透析を受けるための通院が困難な場合などです。その場合でも、良好な経過を得られたという報告があります。
数は少ないものの血液透析からPD+HD併用療法に移行する例もあるそうです。残存腎機能を保てることと、QOL(生活の質)や社会生活の維持という点から、透析導入時にPD+HD併用療法を選択する場合もあります。
併用療法の導入基準(腹膜透析単独の方の場合)
腹膜透析で、どれだけ老廃物を取り除けて(透析量)、どれだけ余分な水分を抜けたか(除水)は、残された自分の腎臓の機能(残腎機能)に大きく依存します。年数を重ねると、腎臓の機能が低下し、尿量が減り、透析が不十分になるというのが腹膜透析の弱点です。以下のような場合に、衰えた腎臓の機能を補い透析量を増やす目的で血液透析を併用します。
- 適正透析を維持できない
- 透析量が適正(Kt/V が1.7以上)でも腎不全の症候が見られる
- 透析量を増やしたくても、ライフスタイルや腹膜透析の液の量を増やすことが困難
- 精神的ストレス緩和のために腹膜透析休息日を設けたい
- 腹膜を休息させて保護したい
併用療法のスケジュール
一般的には1週間に5日の腹膜透析に週1回の血液透析を行い、1日は透析を休むスケジュールです。透析医学会の調査では、併用療法を行っている患者さんのおよそ85%が週1回の血液透析を行っています。
PD+HD併用療法のスケジュール(例)
併用療法の中止基準
腹膜が劣化して被囊性腹膜硬化症(EPS)という腹膜透析の合併症のリスクが高い場合や、8年以上腹膜透析をしている方に対しては併用療法は推奨されません。併用療法を中止するタイミングに関しては、透析量不足と除水不全のどちらか、もしくは両方が改善されなくなった場合は血液透析の単独への移行を検討した方がよいと言われています。
参考
- 一般社団法人 日本腎臓学会『CKD診療ガイド2018』
- 一般社団法人 日本腎臓学会『腎不全治療選択とその実際』2018.5
- 一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会『わが国の慢性透析療法の現況 2017年末の慢性透析患者に関する集計』
- 『透析ケア 2019年2月号(第25巻2号)特集:HD、PD、HDF、オーバーナイト…etc 透析療法 いろいろ比べる図解ナビ』メディカ出版 (2019/1/11)
- 丹野 有道『PD+HD併用療法』透析会誌 50(11):705〜709,2017
- 大橋 靖, 酒井 謙『腎代替療法のオプション選択と導入時期 (特集 一般内科医のための腎疾患AtoZ ; 病期からみた腎臓病治療(CKDとAKI))』内科 114(1):2014.7 p.49-53
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