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腎がんの経過観察(フォローアップ)
2016.12.5
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高齢の方や合併症が多い患者さんでがんが小さい場合などに、治療を行わずに経過観察を行うこともあります。ここでは、腎がんの標準的な治療である手術後の標準的な経過観察についてお話しします。
経過観察の目的は?
- 経過観察の最も大きな目的は2つ、1つ目は腎機能低下を含めた合併症、2つ目は再発や転移の早期発見
がんは慢性の病気です。そのため、適切な治療を受けることと同様に治療後にもしっかりと経過観察を続けることが重要です。治療が終わった後には、治療の効果のほか副作用や体調、そして何よりも再発や転移の有無を確認するために定期的に通院します。
経過観察は術式にかかわらず必要で、がんの大きさと広がり(T)(腎がんの病期(ステージ)参照)に応じて計画されます。
一般的にがんの経過観察は5年を目安としますが、腎がんは5年以上たって再発がみられることもまれにあります。そのため、腎がんの患者さんは他のがんに比べてより長期の経過観察が必要だと考えられています。
術後の腎臓の機能
腎がんは、腎臓の働きをする実質的な組織である腎実質にできるがんです。そのため、どんな治療を行っても少なからず腎臓の機能に影響します。近年、慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease、以下CKD)の概念が広がり、いかにCKDにならずに、またはCKDを悪化させないように治療を行うかが大きなポイントとなっています。
腎臓の機能の経過観察は、主には以下の項目を見ます。
クレアチニン(Cr) | 血清クレアチニン値が高いと、腎臓の濾過や排泄がうまくいっていないと判断できます。 |
---|---|
eGFR | 血清クレアチニン値、性別、年齢を用いた糸球体濾過値(GFR)の推算式をeGFRと言います。腎臓の機能を評価します。 |
尿蛋白 | 尿にあまり存在しないはずの蛋白質が含まれていると、腎臓がうまく機能していない可能性があります。 |
再発・転移
腎がんが発見された時と同じく、再発・転移の早期発見を目的に種々の検査を行います。そうすることで再発に対する手術が可能になったり、薬物療法の効果が上がる可能性があります。
再発しやすい状態としては、以下の4つが挙げられます。
- 腎がんの病気が進んでいる
- 腎がんの悪性度が高い
- 腎がんに伴う病状、「血尿」「腹部のしこり」「わき腹の痛み」などがある
- パフォーマンスステータス(全身状態)が悪い
※腎がんの治療を行うための検査(全身状態の評価)参照
再発は基本的に「転移」という形で表れます。最も多い部位は肺で、再発の半分以上を占めます。続いて腹部リンパ節、骨、肝臓が再発の頻度が高い部位として挙げられます。
他の臓器に転移したがんでも、切除が可能ならば積極的に手術が行われます。腎がんにおける手術は長生きと元気への近道なのです。その他、手術以外の治療や使える薬が増えたりと、腎がんの治療は薬物療法を中心に劇的に進歩しています。
経過観察での検査項目
- 術後の検査は再発や転移を見るための画像検査を中心に行う
- 腎機能の確認を中心として血液検査を行う
腎がんの術後の経過観察において一般的に行なわれている検査項目は以下の通りです。再発と転移に関しては、腎がんが発見された時と同じく画像検査が中心です。
- 血液検査
- 種々の臓器の機能のスクリーニングや、全身の状態を見るために行います。腎がんには特有の腫瘍マーカーはありません。体内の炎症反応に関わるC反応性蛋白(CRP)が再発や病気の進行に関係することがあり参考にすることはありますが、マーカーとして使用するにはまだ難しい点があります。
- 胸部CT検査
- 胸部X線撮影では発見が困難な、小さな転移が疑われる場合に行います。
- 腹部超音波検査、腹部CT検査
- 肝臓や副腎などの臓器、腹部リンパ節への転移や、がんを摘出した後の腎臓の局部再発の発見のための検査です。
- 脳CT検査、脳MRI検査
- 頭痛など、脳転移が疑われる病状が出た場合に用いられます。
- 骨シンチグラフィ
- 骨痛など、骨転移が疑われる病状が出た場合に用いられます。
経過観察は再発・転移のリスクに応じて計画されますが、手術を受けたすべての患者さんに必要です。
経過観察の頻度・期間
- 腎がんの経過観察は、各患者さんのリスクなどに応じて計画し、5年以上継続して行う
がんの病期(ステージ)と組織型によって、その頻度を変えて行います。高いステージの方にはより頻回で、より長い経過観察を行います。
図1:腎がん術後のフォローアッププロトコール
(EAUガイドライン2013)
経過観察 | ||||||||
リスク | 治療 | 6ヶ月 | 1年 | 2年 | 3年 | 4年 | 5年 | 5年以降 |
低 | RN/PN only | US | CT | US | CT | US | CT | Discharge |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
中 | RN/PN/cryo/RFA | CT | US | CT | US | CT | CT | CTまたはMRIを2年に1回 |
高 | RN/PN/cryo/RFA | CT | CT | CT | CT | CT | CT | CTまたはMRIを2年に1回 |
RN:根治的腎摘除
PN:腎部分切除
Cryo:凍結療法
RFA:ラジオ波焼灼術
CT:CT検査またはMRI検査
US:腹部および腎臓の超音波検査
経過観察の決まりごと(フォローアッププロトコール)はUISSリスク分類を元としたもの以外にもいくつかありますが、根拠となる臨床研究などは今のところありません。
治療後の生活で大切なこと
- 何よりも大切なのは経過経過観察での定期的な検査を怠らないこと
- 腎臓の機能を保つために腎臓をいたわる生活を送ること
がんは慢性の病気であるということを忘れずに、上手に病気とつきあいながら日常生活を送りましょう。もし2つある腎臓が1つになっても、残った腎臓が正常に働いていれば通常は生活に大きな支障はありません。何よりも大切なことは、主治医に言われたことを理解し守ることです。
腎臓の機能保持という観点から気をつけたいこと
近年では、腎臓の機能を温存するため観点から、可能な限りがんとその周囲の腎実質を一部切除する腎部分切除を検討します。しかし、がんのある腎臓を周囲の脂肪とともにまるごと摘出する手術の根治的腎摘除では、腎臓が1つ減るわけですから、当然2つあった時よりも腎臓の機能は低下します。 いずれにせよ残された腎臓をいたわるために、以下のことに気をつけて生活を送りましょう。
- 暴飲暴食を避け、肥満防止に努めましょう。
- 日常的に家庭で体重や血圧を測定して、管理しましょう。
- それぞれの状態に合わせた、疲れすぎない程度の運動を心がけましょう。
- 過労を避け、過度なストレスがかからない生活を心がけましょう。
- 服薬は必ず主治医の指示に従いましょう。市販薬やサプリメントに関しても同様です。
- 主治医から指示された食事制限・食事療法を守りましょう。
- 難しいと感じた場合は、栄養士さんに相談しましょう。
- 主治医に相談しながら、上手に脂質(コレステロールや中性脂肪)を管理しましょう。
- 異常を感じたり、不安に思ったりすることがあれば、すぐに受診し主治医の指示を受けましょう。
再発・転移の予防観点から気をつけたいこと
再発や転移に関して、予防できる方法や薬は今のところありません。
大切なことは、主治医に言われたとおりに定期的に検査を受けて、しっかりとした経過観察を行うことです。せっかく手術でがんを切除しても、術後の定期検査を怠って再発や転移に気付かず、手遅れになってしまっては元も子もありません。
手術後に腎臓の機能が慢性的に低下することを術後CKDと言います。腎臓をいたわる生活を送ることに関しては、慢性腎臓病(CKD)での生活上の注意と同じです。ぜひ「腎臓病を進行させない・透析にならないために」もご覧ください。
参考
- メジカルビュー社『腎癌のすべて 基礎から実地診療まで』改訂第2版 (2014/3/27)
- 日本泌尿器科学会 『腎癌診療ガイドライン 2011年版』金原出版
- 『インフォームドコンセントのための図説シリーズ 腎がん 改訂版』医薬ジャーナル社 (2011/11)
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