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透析患者さんと腎がん
〜透析患者が知っておきたい腎がんのこと〜
2016.7.11
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はじめに
透析患者さんこそ「腎がん」のことをもっと知リましょう
透析患者さんは、一般の方に比べて「腎がん」を発症しやすいことが報告されていますが、腎がんは早期であれば根治が期待できるがんです。また、透析患者さんの腎がんは比較的早い段階で発見されており、透析施設での定期検診の影響だと考えられています。
ただし、“がん”は“がん”です。透析患者さんの死亡原因の4位はがんを含む悪性腫瘍で、全体の9%を占めます。早期発見・早期治療が重要なことは言うまでもありません。より良い検診・治療を受け、QOL(生活の質)を保ちながら元気に長生きするために「腎がん」をよく知りましょう。
図1:透析患者の死亡原因
私は18歳で透析導入、透析22年目に初期段階の腎がんになり左の腎臓を摘出しました。今でも経過観察で年に1回CTと腹部エコーを受けています。
腎がんの基礎知識
- 患者数は増えているものの、検診の普及と進歩で早い段階での発見が増えたことも患者数増加の一因
- 早期発見では悪性度が低い傾向にある
- 根治を目的とした手術が標準的な治療
腎臓は、外側全体の尿を作る部分「腎実質」と、中心の「腎盂」に大別されます。「腎実質」にできる「腎細胞がん」が腎臓にできるがんの8〜9割を占め、これが一般で言う“腎がん”です。腎細胞がんは尿細管の細胞ががん化したものです。透析患者さんの萎縮した腎臓に発生した腎細胞がんを、一般的に透析腎がんと言います。
日本では欧米に比べて少ないとされていましたが、1980年代以降増加の一途をたどり、ここ20年ほどで患者数は約3倍に増えました。背景には食生活の欧米化や生活習慣の変化、高齢化などが関係しているようです。
図2:「腎細胞がん」イメージ
腎がんの3大病状は「血尿」「腹部のしこり」「わき腹の痛み」とされています。かつては病状が現れてから発見され、がんが進行しているケースが多かったのですが、最近では検診や人間ドッグなどの画像検査でたまたま見つかるケースが増えています。無病状のうちにたまたま見つかる腎がんの大部分はステージⅠ、つまりがんが小さく、悪性度も低い傾向にあります。このことから、病状がない状態での早期発見がいかに重要かがわかります。
腎がんの治療は、手術が標準的なかつ根治する治療です。がんの腎臓をまるごと摘出する手術、または小さい腫瘍に関しては腎臓の機能をなるべく残すため部分切除が行われます。
腎がんの基礎知識に関しては、今後じんラボでさらにくわしくお伝えします。
透析患者さんの腎がんの発症頻度と原因
- 一般の方と透析患者の方では腎がんの原因と種類が違う
- 透析患者の方は15〜20倍ほど発生率が高い
- 男性に多い(一般→男性2:女性1、透析患者→男性4:女性1)
- 透析自体ががんの危険因子
- 透析期間が長いほど後天性多発嚢胞腎(ACDK)を合併しやすく、嚢胞の中に腎がんが多発しやすい
透析を受けている方の発がん率は全がんで1.8倍です。また、透析期間が長くなると発がんリスクは高まります。 特に腎がんに関しては、1982年〜2004年までの日本透析医学会が行ったアンケート調査で通常の方よりも15〜20倍ほど発生率が高くなることがわかっています。また、男性の発症が多いことも透析患者さんの腎がんの特徴です。一般の腎がんでも男性の割合が多いものの男女比は2対1程度です。透析患者さんの場合はおよそ4対1と男性が多いのですが、はっきりとした理由はわかっていません。
図3:透析患者さんの腎がんの発症頻度
では、なぜ透析患者さんはがんになりやすいのでしょうか。 2014年の透析導入時の平均年齢は69歳と高齢です。一般的にも免疫力は加齢とともに低下しますが、透析患者さんは尿毒素の体内への蓄積などの影響でさらに免疫力が落ちています。また、透析療法自体ががんの危険因子であることが明らかになっています。
図4:透析患者さんの発がん率の高さの原因
- 尿毒症による免疫系の機能障害
- 慢性炎症や慢性感染の存在
- 腎不全による発がん物質の蓄積
- DNAの修復機能の障害
- 抗酸化防御系の傷害と過酸化物質の産生
- 後天性多発嚢胞腎(ACDK)に発がん物質が溜まる
腎臓の機能が低下して慢性腎不全(CKD)になると、腎臓は萎縮してきます。そこに透析を行うと後天性の腎嚢胞ができてきて、多発した状態のことを後天性多発嚢胞腎(ACDK、以下ACDK)と言います。
図5:後天性多発嚢胞腎(ACDK)イメージ
ACDKの発生は透析期間に比例し、3年未満で44%、3年以上で79%、10年以上では90%と次第に高くなり、程度も悪くなります。腎臓に溜まる原尿(尿の元)には尿毒症を起こすさまざまな物質が含まれており、その中には発がん性のものも多く含まれます。これらの物質が濃縮された状態で袋状の嚢胞に留まるため、がんが発生しやすいと考えられています。また、嚢胞の中にも腎がんが発生します。
透析腎がんの特徴
- 定期検診で発見され、比較的早期がん・悪性度の低いがんが多い
- 両側の腎臓に発症、多発例が多い
腎がんは淡明細胞がんと呼ばれるものが全体の7割以上を占めています。透析腎がんには一般的な淡明細胞がんもありますが、尿毒症物質の蓄積による透析腎がん特有の組織型(非淡明細胞がん)が多く見られます。透析期間が長くなると、進行して見つかることが多くなります。この原因として、腎嚢胞が多発すると、透析腎がんが超音波検査やCTでの発見が難しくなる、また進行が早くなるなどの理由が考えられます。
また、一般の腎がんのほとんどは2つの腎臓のどちらか片側にできますが、ACDKに合併したものの場合は15〜30%の割合で両側にがんが発生しやすいことがわかっています。
図6:透析患者さんの腎がんのACDK、両側腎がん合併頻度
発症する年齢については、今現在では一般の方が50歳代後半から増えていきます。透析患者さんは50歳前後と比較的若い方に多く発症するとされていますが、今後は慢性腎臓病(CKD)の原疾患が糖尿病の方の割合が増え、高齢化が進むと考えられています。
腎がんが発見された際の重症度に関しては、透析患者さんは比較的小さな腫瘍が多く、低いステージの割合が多いことがわかっています。
透析患者さんは、透析歴や年齢にかかわらず腎がんを発症しやすいことを理解しましょう。
腎がんを重症化させない・早期発見のために
透析療法の普及と進歩で患者さんは長生きできるようになりましたが、その反面、合併症と上手にお付き合いする必要もあります。
皆さんがパッと思いつく合併症と言えば、高血圧、不均衡症候群、透析アミロイドーシスや高リン血症、腎性貧血などがあると思います。
透析腎がんも透析療法の合併症として捉えることができますが、まだまだ認知度が低いようです。
腎がんの多くは超音波検査やCTなどの画像検査で見つかります。透析腎がんは透析施設での定期検診で見つかることが多いとはいえ、画像検査によるスクリーニングは透析施設の半数という報告もあります。
腎がんは早期に見つかれば転移も少なく、手術ができて予後もよく、根治も期待できるがんです。
図7:腎がん発見時のステージの割合
ぜひ定期的に超音波検査やCTなどを受けてください。
そして、病気をよく知ることで不安から逃れましょう。
私は無尿なのに血尿というか血液が出て検査して、初期の段階で腎臓がんが判明し左側の腎臓を摘出しました。私の患者仲間の多くの方にも腎臓がんが発覚しています。
発見が遅くなり悲しい出来事が起きませんように。
これが私の願いです。
参考
- 近藤 恒徳『透析患者に発生する腎癌 -最近の知見とわれわれの考え方-』第42回 東北腎不全研究会 講演スライド 2013.9.5
- 日本透析医学会(2014年12月31日現在)『わが国の慢性透析療法の現況』
- メジカルビュー社『腎癌のすべて 基礎から実地診療まで』改訂第2版 (2014/3/27)
- 石川 勲『透析患者と腎癌:—第59回日本透析医学会教育講演より—』日本透析医学会雑誌 47(10), 589-598, 2014
- 町口 充『腎疾患を併存するがん患者への対応 手術での腎全摘が最も有効な治療法 定期的なスクリーニングが重要 透析患者の腎がん治療』 がんサポート 13(14), 40-43, 2015-12 エビデンス社
- 中澤 速和、伊藤 文夫『透析患者の腎癌』日本臨床 68(-) (通号 976) (増刊4) 2010.4
参考サイト
- 腎癌研究会(2016/6アクセス)
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