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腎がんと診断されたら②
〜やっぱり気になるがんとお金と仕事〜
2016.11.28
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はじめに:がんとともに“生きる”時代に
- 治療にまつわる支出と仕事の収入を考える
- がんの治療以外に、さまざまな社会保障やお金に関わる知識が必要
医療の進歩によって「がん=死」ではなくなってきています。もちろんがんの進行度によりますが、要するに現代はがんと生きていく時代だといえるでしょう。実際にがん治療後も活躍を続ける方も増えてきました。喜ばしいことですが、その反面、治療後の生計もきちんと計画しなければいけないという新たな問題も生まれました。
がんとともに生きる時代において、経済的な負担は大きな問題です。実際に治療にかかる一時的な支出、そして継続的な収入を考える必要があります。社会保障制度がある程度は力を発揮してくれるとは言え、それらの役立つ制度は自分で手続きをしなければなりません。
これからは、がんの治療にまつわる知識以外に、社会保障や会社の制度、お金に関わる知識などさまざまなリテラシー(活用力)がますます重要となることは間違いありません。
がんとお金
- 病院に支払う医療費だけではなく付随してかかる費用も少なくない
- 公的制度を上手に使うために制度と相談先を把握しておく
治療中にかかるお金の実際
がんと診断されたら考えなければならないことは山積みです。病院や治療の選択などの心配以外に「どのくらい治療費がかかるんだろう?」と心配になる方は多いのではないでしょうか。
直接的な医療費は保険適用になるとは言え、保険適用にならない先進医療や治療以外にかかる費用も少なくありません。
図1:実際にかかるお金の内訳
病院での治療に かかるお金 |
保険適用 |
|
---|---|---|
保険適用にならない |
|
|
治療以外にかかるお金 |
|
もちろん保険適用にならないものや治療以外にかかるお金は千差万別です。がんの進行度によってもかかるお金は変わってきますが、実際は何日くらい入院して、どの程度自己負担額がかかるんでしょうか?参考までに、腎がん以外のがんの平均入院日数と3割の自己負担額は以下のとおりです。
図2:がんの平均入院日数と入院中の自己負担額
がんの種類 | 平均入院日数 | 実質的な自己負担額 |
---|---|---|
胃 | 19.3 | 約28万円 |
結腸 | 16.6 | 約26万円 |
直腸 | 20.5 | 約36万円 |
肝臓 | 18.8 | 約28万円 |
肺 | 20.9 | 約29万円 |
乳 | 12.5 | 約22万円 |
子宮 | 13.7 | 約22万円 |
悪性リンパ腫 | 27.9 | 約45万円 |
白血病 | 46.0 | 約99万円 |
しかし前述の通り、保険適用にならないものや治療以外にかかるお金も気になりますね。下記の図は東北医科薬科大学の濃沼信夫教授(医療管理学教室)らのがんの医療経済に関する研究成果です。約3000人規模のがん患者の協力を得た大掛かりなアンケート調査で、病院以外に支払った間接的な費用も明らかになっています。あくまでも平均額ですが、1年間で実際に支払うお金は92万円という結果です。
図3:年間の自己負担額と償還額
全体 | 大腸がん | 肺がん | 乳がん | |
---|---|---|---|---|
平均自己負担額(A) | 92.0万円 | 126.4万円 | 107.5万円 | 65.5万円 |
入院 | 28.3万円 | 35.2万円 | 30.7万円 | 22.2万円 |
外来 | 24.2万円 | 43.6万円 | 30.5万円 | 22.5万円 |
往来の交通費 | 3.5万円 | 4.8万円 | 4.6万円 | 2.4万円 |
健康食品・民間療法 | 20.5万円 | 33.0万円 | 32.7万円 | 10.9万円 |
民間保険料 | 36.3万円 | 43.9万円 | 37.4万円 | 26.3万円 |
平均償還額(B) | 61.3万円 | 97.5万円 | 75.0万円 | 44.0万円 |
民間保険給付金 | 104.7万円 | 132.9万円 | 105.1万円 | 91.7万円 |
高額療養費 | 29.0万円 | 60.0万円 | 47.4万円 | 22.6万円 |
医療費還付 | 8.6万円 | 8.6万円 | 8.7万円 | 7.4万円 |
実質的な自己負担額(A)-(B) | 30.7万円 | 28.9万円 | 32.5万円 | 21.5万円 |
注)
n(サンプル数)=全体:2,666,大腸がん:256,肺がん:469,乳がん:722
各項目に該当した人の平均額を表す
項目により該当人数が異なるため、合計しても平均自己負担額にはならない
経済的な負担を抑える:公的制度を活用する
公的制度を活用すれば、医療費が軽減されたり低利でお金を借りることができたりします。ただし、公的制度のしくみは複雑で難解です。制度の存在自体を知らない、知っていても手続き方法や窓口がわからないなど、すべての人が十分に活用できているとは言いがたい状況です。もう一つ厄介な点は、患者さん自身による申請が原則だということです。
金銭面で不安を抱える患者さんをサポートするため、社会保険労務士やファイナンシャルプランナーなどの専門家が、病院で患者の相談を受ける試みが広がっていますが、すべての病院が当てはまるわけではありません。
このページの最後に「お金と仕事のことで困ったら ー制度と相談先一覧」を記載しました。お金のことで困ったときは、どんな制度があるか、どこに相談すればいいかをチェックしておきましょう。
経済的な負担を抑えるちょっとした知恵と工夫
高額な薬や、保険適応にならない先進医療は当然お金がかかります。しかし、保険適用内の標準的な治療が現時点での最良の治療法であるということも忘れずに、高額な治療が本当に必要かどうかを見極める必要もありそうです。
その他、負担を抑えるちょっとした工夫を挙げてみます。
- 高額な治療、代替療法や民間療法が必要かどうかを見極める
- 可能な限り保険適用内の標準的な治療を検討する
- 治療費をカード払いでポイントを貯める
- ポイントを貯める、分割払いなどで一括払いを回避する、明細でかかったお金が可視化できる
- ジェネリック医薬品を使う
- 低価格のジェネリック医薬品を使えれば使う
- 診断書などの文書作成を最低限に抑える
- 勤務先や保険会社に提出する診断書などは、代用が可能な場合や、まとめて作成して費用を抑えたりできる
- 病院にかかる費用を月単位で考える
- 医療費の基本単位は月単位なので、例えば月初めに入院して同じ月以内に退院すれば支払いが減る可能性がある
がんと仕事
- がんと診断されて仕事を辞めてしまう人は3割に達し、がんと診断された後の平均年収は大きく減少する
- 腎がん患者は全がんの中でもフルタイムの復職率は高い
- 理解者、相談できる人、支えてくれる人を作り、退職しないことが重要
がんと診断された後の仕事と収入の実際
がんの患者数は1970年代から一貫して増え続けています。高齢化の影響ももちろんですが、生産年齢人口(15歳〜64歳)、つまり働ける・働いている年齢層のがん罹患者数も増加しています。しかし、がんと診断された後に職場を去る方は相当数存在し、働く意欲と能力がある人材が流出していると言えます。 政府もこの状況を踏まえ、がん患者の就労は重要な社会問題として「がん患者を含む国民が、がんを知り、がんと向き合い、がんに負けることのない社会」を目指してさまざまな対策を行っていますが、依願退職した方の数は10年前と変化がありません。
図4:がんと診断された後の就労状況の変化
国立がん研究センターの昨年度の調査では、依願退職した方の約4割が治療を始める前に辞めていたことも明らかになりました。がんと診断されてショックを受けたり、仕事を続ける自信を失うなどで早々と退職してしまう方も多いようです。しかし、一度退職してしまうと再就職のへのハードルは高く、さらに金銭面でも大きな損失につながります。収入の減少と治療費での支出で、家計へのダメージは大きくなるはずです。
図5:がんと診断された後の職業と収入の変化
治療と仕事を両立するには①理解者、相談できる人を作る
仕事は生活や治療のためでもある以上に生きがいでもあります。がん患者さんの就労支援の取り組みが進んでいるとは言えまだ不十分で課題が山積みです。例えば時短勤務が望ましいと医師に言われても、企業側に制度がなければ治療を続けられずに退職に追い込まれることもあるでしょう。
時短勤務や有給をうまく組み合わせて治療と仕事を両立できても、それらの制度を導入している中小企業は多くはありません。制度がなくても企業側の柔軟な運営や判断が求められます。
では、治療と仕事を両立する環境を作るにはどうしたらよいのでしょうか。「がんの社会学」研究グループの調査で、「仕事を継続できた一番の理由」として4割以上の患者さんが挙げたのは「上司や同僚、仕事関係の人々などの周囲の理解や協力」でした。ついで「家族など会社以外の人々の支え」が2割以上という結果でした。これらのことから、会社と家族の理解と支えが仕事を続けるための大きな原動力となっていることがわかります。
企業側の柔軟な対応や、自身の仕事へのモチベーションを保つためにも、相談できる人、支えてくれる人を作り、周囲の理解を得ながら治療と仕事を両立できる環境を患者さん本人が意識的に作りましょう。
その他、病院が拠点となりハローワークと連携した、長期療養者向けの就労支援が全国展開され始めています。拠点ごとに対応力に差はあるものの、病院に窓口がある場合は相談してみてもよいでしょう。
図6:がん患者の就労に関する総合支援事業
治療と仕事を両立するには②とにかく“退職しない”こと
治療に専念したり、諸事情から会社を辞めざるをえない方もいるとは思いますが、被雇用者は社会保障などセーフティネットに守られていることを忘れてはいけません。下の図は、正社員を対象に2000〜11年の12年間がん患者さん(男性1033 人、女性:245人、腎細胞がんか尿管がんの方は30人)の復職実態調査です。
図7:がんの種類別累計フルタイム復職率
腎がんは、図中の尿路系腫瘍に含まれます。この図からわかることは主に2点あります。
1点は、尿路系腫瘍の病休から1年後に6割以上の方がフルタイムの仕事に復帰しているということです。
2点目は、企業が1年待ってくれれば、元いた会社に戻れるということです。さらに、企業に長期療養者の時短勤務制度や病気での休暇制度が充実していれば、復職率はもっと高くなるのではないでしょうか。
がんと診断された後、当然のことですが収入が減っても増えることはほぼありません。退職する場合、まず健康保険や年金の変更手続が必要です。さらに失業保険の申請など、治療前に煩雑な手続きなどに時間を割くことは賢明とは言えませんし、再就職も大変です。できる限り現在働いている企業で働き続けることが最も良い選択と言えるでしょう。
慣れ親しんだ場所で信頼の置ける上司や同僚の理解やサポートを得て、休職したり仕事をセーブするなどで体力を消耗しないようにしましょう。その恩義は仕事で返せばいいのです。仕事への情熱も、がんと闘うには良いエネルギーとなるのではないでしょうか。
お金と仕事のことで困ったら ー 制度と相談先一覧
- 公的制度・サービスの利用は患者自身による申告が原則
- どのような制度があるか、どこに相談すればいいかを確認しておく
- NPO等の団体でも相談窓口はあるが、団体について事前にしっかり精査することが大切
困りごと | 利用できる公的制度など | 相談先 |
---|---|---|
とにかくトータルに相談したい | 無料での電話相談、面談など | 国立がん研究センターがん情報サービス「がん相談支援センター」 日本対がん協会「がん相談・サポート」 自治体、病院 など |
医療費で困った | 「高額療養費制度」 | 公的医療保険の窓口
会社員:協会けんぽ、組合保険など 自営・自由業:市区町村の国民健康保険課や介護福祉課など |
医療費が高額になりそう | 「限度額適用認定証」 | |
がんで休職した | 「傷病手当金」 | |
がんで要介護状態になった | 「高額医療・高額介護合算療養費制度」訪問介護、通所介護 など | |
がん患者の家族が介護休職した | 介護休職・休暇 | 勤務先の人事課や労務担当部署 |
「介護休業給付金」(雇用保険) | 勤務先所在地管轄のハローワーク | |
がんで不当解雇を受けるかもしれない | 電話相談、来所相談など | 労働組合連合組織、労働基準監督署、労働情報センター など |
がんで失業した | 「基本手当」(雇用保険) | 住所地管轄のハローワーク |
医療費などを借りたい | 「生活福祉資金貸付制度」 | 市区町村の社会福祉協議会 |
がんで障害が残った | 「障害年金」 | 会社員:年金事務所、街角の年金相談センター 自営・自由業:市区町村の国民年金課 |
「身体障害者手帳」 | 市区町村の福祉窓口、福祉事務所 | |
生活が苦しい | 「生活保護制度」 | 市区町村の福祉窓口、福祉事務所 |
税金の還付を受けたい | 「医療費控除」 | 住所地管轄の税務署 |
民間保険の給付やサービスを使いたい | リビングニーズ特約 付帯サービス(セカンドオピニオンサービス、健康相談 など) |
契約している保険会社の担当者、コールセンターなど |
がんでうつなどの精神疾患になった | 「自立支援医療制度」 | 市区町村の障害福祉課、保険センターなど |
仕事について相談したい | 就労支援 | 住所地所管はどのハローワーク、病院での出張相談 |
参考
- 『【第1特集 がんとお金】−−働き盛りのためのがん読本 がんとお金』週刊東洋経済 第6663号(2016.6.4)
- 内田 茂樹『安心してがんと闘うために知っておきたいお金の実際』主婦の友社 (2015/8/26)
- 「がんの社会学」研究グループ『2013年 がんと向き合った4,054人の声(がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査 報告書)』2016年9月第3版
- 「がんの社会学」研究グループ『2003年 がんと向き合った7,885人の声(がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査 報告書概要版)』2014年1月
- Endo, M., Haruyama, Y., Takahashi, M. et al. 『Returning to work after sick leave due to cancer: a 365-day cohort study of Japanese cancer survivors.』2016 Apr;10(2):320-9. doi: 10.1007/s11764-015-0478-3. Epub 2015 Aug 30.
参考サイト
- 厚生労働省「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を公表します。〜がんなどの疾病を抱える方々の治療と職業生活の両立を支援する企業に向けて〜」 (2016/9 アクセス)
- 厚生労働省『がん患者の就労や就労支援に関する現状』 (2016/9 アクセス)
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