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【第2話】透析導入って?
2017.4.17
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前回は、透析になっても落ち込む必要はなく、気の持ち方ひとつです、とお伝えしました。
今回は、実際の導入時には何が起きるのか、どんな感じなのか、私の導入の経緯をふまえてお話ししたいと思います。
腎臓病の保存期において「透析導入」という言葉は最後通告を意味し、禁句ですらあると思います。実際私が保存期の時は「透析導入は絶対に来てほしくない」と、この世の終わりのような気持ちでいました。何がなんでも、1日でも透析導入を遅らせたい、これが保存期のみなさんの本音ではないでしょうか。
この時期は本当に辛いですよね。食事なんて、カロリーを稼ぐために油を飲んでいるようなものです。蛋白質が少ない、またはほぼ無い食事なんて味気ないし、見た目もパッとしません。
ストイックに、まるで修行僧やアスリートが如く食事療法と投薬の生活が続きます。
さらに仕事や学校と、やらなければならないことは待ってもくれず、人目は冷たく、自分の生活に嫌気がさすことすらあるかと思います。
それでも、透析になるよりは…という思いで日々療養を続けていることでしょう。私もそんな心づもりでいました。
私の透析導入は、ある意味アクシデントでした。
私は中学から大学卒業までを保存期として過ごしました。まだまだ今の生活が続く、そう思っていました。それが、実際は卒業と同時に導入になりました。そのきっかけは「卒業旅行」です。
保存期を安定して過ごしていた中、大学卒業を迎え仲間と卒業旅行に行くことになりました。
行先はなんと「ドイツロマンチック街道」、男9名のロマンチック? な旅でした。
薬を飲むこと、暴飲暴食しないことを条件に主治医からOKをいただいたのです。
ところが、運命の女神は私を軽く突き放してくれました。
長時間の飛行機も悪かったのかもしれません。ドイツに着いた頃には既に足のむくみが酷く、下痢まで引き起こしてしまい体調は散々でしたが、それでも旅行中はなんとか楽しく過ごしました。
帰ってから定期検診に行けば…、くらいに思っていました。
帰国後、もう体はフラフラ。疲れ? とも思ったのですが、そんなものではありませんでした。
一旦岩手の実家に帰省するつもりが、熱が上がり体調は最悪なことになりました。
それでも帰るつもりで実家に向かいましたが、途中でどうにももたなくなり、仕方なく高校まで通っていたドクターに電話で症状を言うと、そのドクターは「直ぐに自分のところに来い」と言いました。
駅からタクシーで向かい、そこでの簡易検査の結果から即入院となります。
さらに肺炎を併発して腎機能が劣悪になったため、完全に透析導入が宣告されました。
それからは怒涛の日々です。
まずは肺炎の治療、つぎにシャント形成手術、安定したら透析。
その間に身体障害者登録、腎臓移植登録のための検査、移植医との面談などなど、あっと言う間に数か月が過ぎ、気づいたら季節は夏になっていました。
この期間に本格的に透析の勉強もさせられました。
この時はじめて血液透析と腹膜透析という2種類の透析があることを知り、それぞれのメリットとデメリットを見せられ選択することになります。
続いて食事内容の変化、腎臓食から透析食へ。カロリーはもちろんですが、摂取すべき栄養素、避けるべき栄養素を勉強するために栄養士さんのところにも数回は通いました。
私は考えた末、血液透析を選択し、1日おきに病院で数時間の透析治療を受けることが決まりました。
シャント形成手術は、あっという間です。私の場合、午後のほんの数時間で終わりました。
安定剤をもらい手術室へ。そこで局部麻酔から手術となります。執刀中もドクターと話ができるほどです。もちろん覆いはされているので施術部は見えませんが。
そのうち安心して寝てしまい、あとでドクターに笑われました。いやあ、どうも大いびきをかいてしまったようです。
次の日、抜針してからはボール握りなどをして、シャントを成長させることが始まります。
保湿・血行促進クリームを使った血管マッサージも毎日することになります。
寝る時もシャントをつぶさない寝方をマスターします。これがだんだん癖になって、それ以外の寝方はできないかもしれません。
次第にシャントが育ってきて、透析ができるようになるといざ透析の開始です。透析初日は3時間でした。
ここで初めて透析の針を見せられます。ただこの時は血流量も少ないので針も小さ目でした。
よく血液検査のときに見るような、トンボ型の針でした。それでちょっと安心したのを覚えています。
それでも最初は緊張します。
針を刺されたところから血が出て、回路を巡り、また還ってくる。
途中、ダイヤライザーというフィルターを通ってくることできれいになっている。
今では見慣れた光景ですが、最初はしばらく眺めていたのを覚えています。そのため、3時間もすぐ終わったような感じです。もちろん、スタッフさんも優しいのでことある毎に話かけてくれます。
透析時間は4時間の方が多いのではないでしょうか。3時間からスタートし、徐々に透析効率を見ながら増やすパターンが多いようです。
この透析時間にはもちろん個人差があります。体格、性別、年齢により毒素の量が違いますので、この抜け具合によって、ドクターと相談して決めることになります。
ちなみに、今の私の透析時間は、1回5時間です。
透析することの一番のメリットは「ご飯がおいしく食べられること」です。保存期をストイックに過ごせば過ごすほどこの快感を味わえます。なにせ量も質も劇的に変わります。
私も最初の食事で「え、こんなに食べていいんですか?」って訊いたぐらいです。
ただ最初の1年〜2年は、はっきり言って辛いです。ほとんど動けません。
保存期の最後、調子が悪くなってから導入までにだいたいの方は体力が落ちます。私は1年で大丈夫になると思い込み、無理をしたらもっとひどいことになりました。
この時期は無理をせず、まずは体を慣らすことに専念されることをお勧めします。もちろんこれも個人差があるので、自分で”問題ない”と思ったら少しずつ動いてみましょう。
黙っていてもその後ある程度は運動もできるようになります。いえ、むしろ「運動しろ」と言われるぐらいです。
次第に透析に慣れ、食べることができるようになり、それにつれて体も動くようになって快適になってきます。
これが透析をした私の素直な感想です。私の周りの方も、多くはこのような証言をしてくれました。
今現在辛い方、これから辛いゾーンに入る方、心配しないでください! みんな多かれ少なかれ、同じ思いをしてきています。疑う方は周りのベテランに訊いてみてください。
透析をすると、自然に抜けなかった毒素は濾されて取り除かれます。さらに足りない栄養素が透析液から補給され、お水もひかれるのでむくみも解消します。
もし今保存期で腎機能が落ち、ギリギリ保っているようなら医師と相談してみてください。
もちろん今の生活を維持できることが確認できたなら、という条件付きですが(例えば会社が継続して雇ってくれる、学校もそのまま就学させてくれるなど)。
透析は最後通告ではなく、リハビリ治療です。透析をして動けるようになり、またバリバリ働く。
これが治療の本旨だと思っています。
多くの方が苦しまず、楽しく病気と闘う日が送れることを願っています。
次回からは旅行透析について、国内、国外での経験をお話したいと思います。
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