生活の“可能性”を広げよう腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第6話】海外旅行透析 その2(アメリカ編)
2017.12.11
緑の文字の用語をクリックすると用語解説ページに移動するよ。
じんラボ をフォローして最新情報をチェック!
前回は海外旅行透析の準備についてのお話でした。次は私のアメリカでの体験を少しお話ししたいと思います。
私が海外に行くのは主に仕事で、1週間程行くことになります。これまで一番多く透析を受けた国はアメリカ本土です。最初がミシガン州のアナーバー(Ann arbor)、次がワシントン州のシアトル、そしてイリノイ州のシカゴです。
ハワイでも透析をしましたが、やはりハワイは観光地ですから本土とはちょっと様子が違います。
まずは、それぞれの街について少し説明します。
アナーバーは、中西部デトロイトの郊外にあり、ミシガン州立大学やアメリカの自動車研究所などがある街でした。そのため、自動車関連のお仕事の方には馴染みのある街だそうです。
シアトルは、ご存じの通りイチローさんで知られたシアトルマリナーズの本拠地で、東海岸の港町です。ボーイングの本拠地であり、近年はマイクロソフト等の大手IT企業が本拠地にしているので、アメリカの住みたい街No.1の治安のいい街です。
最後のシカゴは、オバマ大統領ゆかりの地として知られ、五大湖の1つミシガン湖のほとりにあるアメリカ第2の大都市、巨大な摩天楼群でも有名です。空港(オヘア空港)も世界最大規模として知られています。
アメリカでの透析は自由な時間指定が可能
アメリカの透析施設は、透析専門棟が郊外にあることが多く、私の行ったシアトルの病院も同じでした。
Googleで調べると「Dialysis Center」として出てきます。
アメリカは日本と異なり車社会ですので、大体タクシーか路線バスでの移動になります。そのため、出張先の国際会議場前バス停から路線バスに乗り透析施設に向かいます。
バスセンターならいざ知らず、路上のバス停は日本と違い道端にちょっとしたポールがあるぐらいです。帰りは番号を確かめてから乗らないといけないので、ちょっと不安になります。
アメリカでの透析は、自分の予定に合わせて結構自由に時間が指定できます。都市部などは朝8時〜9時の始業時間に合わせて、午前3時からスタートするという設定もあるそうです。実際にシカゴでそういう方がおり、9時前に着いたら透析終わりで帰る方がいて、ビックリしたことがありました。
シアトルでは午前9時からの透析をお願いしました。これなら終わってから仕事に行けます。
開始時間に間に合うよう軽めの朝食を済ませて、7時半にはホテルを出て病院に向かいます。
透析室は総合病院の病棟3階。事務で保険や透析記録などを渡して、支払いを済ませ透析となりました。
除水量の設定は自己責任
日本だとここで着替えとなるのですが、アメリカではすぐに体重測定です。服を着たまま透析するので、行ったままの状態で体重計に乗ります。
そして、除水量の計算もこの時に自分ですることになります。日本ではドライウェイトまでスタッフさんが計算してくれますが、アメリカでは自己申告制となります。「今日は●●だから、除水は何キロ」と言った感じです。
実際、私の隣の方は「夜は妻と食事だから、今日は5キロね!」みたいな感じで、多めに引いていました。
私もそうでしたが、服を着ての計測はドライウェイトがわからないため困ることもあります。いつもの調子で除水量を設定すると、ドライが違っていて血圧が下がったり足がつったりします。最初は私も知らずにやってしまい、大変なことになりました…。ですから行く前に、透析後のドライの状態で同じ服を着て、体重を測って記録しておくと良いかもしれません。
さらに、ポケットに財布等が入ったままの場合もあるので、体重を測る前に鞄に入れておくことがおすすめです。鞄はベットサイドまで持っていけますので。
自分の血流量も自己申告、
アメリカ式で大変な目にあうことも
次に血流です。アメリカではこれも自己申告です。
何も言わないと一般的には300〜500 mL/minに設定されます。日本では200 mL/minぐらいが一般的で250 mL/minでも多いほうになりますね。
もともと体格が違うので、日本式に合わせてもらわないといきなりヘロヘロになりかねません。実際シカゴで一度だけ500 mL/minに設定されたことがあります。なんだかすぐに疲れてきたので、機械の設定を見てみたらびっくり! カルテに血流量が書いてあってもスタッフさんは気にもしません。「ちゃんと自分で確認して、自分から言う」これが自由の国の鉄則です。
自由の国は食事も自由
あなたは病院食ですか? お弁当ですか?
アメリカでは自分で持ち込んで食べるか、終わってから食べるのが普通です。透析中に食事する場合、食べる量は何グラムなのか何度か測定してみて、感覚をつかんでおくといいですよ。
アメリカ人の強者は、コーラの大きなペットボトルを持ってきてがぶ飲みしていることもあります。もちろん彼らはそれも込みで体重を引いています。
設備面では日本との違いを楽しめます
機械は全般的に古く、タッチパネルとかではなく、アナログなランプとダイヤルがあるだけのタイプなことが多いです。写真は、実際にシアトルでの透析機械です。これでも新しいそうです。
確かにパネルがきれいですね。
先ほどベットサイドと書きましたが、基本的に椅子です。リクライニングだけなので、普段ベッドの方だと最初は戸惑うかもしれません。これにテレビが付いています。このテレビ、インターネットも見られるケーブルテレビのこともあります。
アメリカの凄いところは、チャンネルだけで300とかあることです。そのため、全てのチャンネルを確認するだけで結構な時間がかかったりします。場所によっては、チャンネルを回しているとたまにNHKのBSが入っていたりもします。
アニメチャンネルでは、基本はディズニーのようなものが主ですが、日本のアニメが入っていることもあります。宇宙戦艦ヤマトなのに、古代君はジョン君だったり島君はスミス君だったりと、違いを楽しむこともできます。
そうかと思えば、戦車チャンネル、格闘技、スペイン語放送等など、本当にさまざまなチャンネルがあります。もちろん、映画チャンネルやニュースチャンネル、ドラマチャンネルもあります。回すだけで楽しいものです。
ちなみに映画は、大手の放送局(ABCとか、FOXなど)の映画の時間もあります。映画好きにはたまらない国です。
CMも日本のものとは違うので、違いを楽しむのも面白いですよ。トヨタ、日産、パナソニックなど、日本の多くのメーカーがCMを流しています。
「ちょうどいい」空調はサービス不足?!
部屋の空調は基本寒いです。なぜなら、彼らにとって空調を“効かせる”ということが基本的なサービスなのだそうです。そのため効いていない(ちょうどいい)はサービス不足と考えられてしまいます。
日本人には確実に寒いので、毛布をもらったり、厚めの靴下を用意するなど、防寒対策が必須となります。または、椅子にはヒーターが内蔵されていることもあるので、寒ければそちらを作動させることもおすすめです。
部屋を寒くして、自分をヒーターで温める、うーん、アメリカンな考え方ですね。
スタッフは国際色豊か、会話を楽しんでみても
スタッフさんは純粋なアメリカ人(白人等)は少ないようです。ドクターは白人の方が多いでしょうか。
それ以外のスタッフさんの多くはメキシコ人、ないしはフィリピンやインドネシアなどの南アジアの方々です。この点も日本との違いなので、近くに来たスタッフさんとしゃべってみると面白いですよ。
大丈夫、スタッフさんにとっての英語は我々と一緒で母国語ではないので、片言でOKですから。
透析が終わると体重を測定して、着替えもないのでそのまま帰宅することになります。このあたりもちょっと物足りないですね。 「サンキュー、シーユー ネクストタイム」なんて、ぜひ挨拶して帰ってください。
アメリカの透析事情
彼らにとって、透析はあくまで腎臓移植へのツナギ医療です。
そのためか透析時間も短めです。3時間から4時間ぐらいが普通でしょうか。
また、透析を選択する方は所得が低いこともあり、移植が受けられるほどの医療保険に加入できない低所得層の方への最低保証という側面もあります。
病院によっては、低所得の方が多い地区に透析室がおかれることがあります。そのため治安面は不安ですので、明るいうちに透析して帰られるようにセットしたほうが無難です。
アナーバーは田舎でしたし、シアトルはもともと治安が良かったのですが、シカゴの病院はギリシア人移民街にあり、まさに……でした。
シカゴに到着した日に透析施設の近くで銃撃戦があり、ポリスマンが射殺されていました。
オバマさんが大統領候補となって、ちょうど地元シカゴに帰ってきた時だったので、街中は軍隊や警察に厳重に警備されていたことが不幸中の幸い(?)でした。
おかげで中心部は夜でも安全地帯となっており、普通に歩くことができました。
ちょっと怖い話もしましたが、スタッフさんは気さくですし、透析中も「アメリカ」を感じることができ、いい経験になりました。
シアトルとシカゴ共に5時間×3回の透析をして、途中血圧が下がり足つりなどもありましたが、ちゃんと対応してもらいました。
さらに余興として、シカゴでは仕事の合間に大リーグ(シカゴカブスvsホワイトソックス)をナイターで見たり、シアトルではスターバックスの1号店でコーヒーを楽しんだりもできました。
そんな違いを見るだけでも、非常に面白いものです。
是非、このような違う世界を楽しんでみてください。
ご意見をお寄せください