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透析から移植へ 〜戦いは終わらない〜

【第2話】透析患者の考えと医療関係者の考えの違い

2020.11.16

文:OZMA(オズマ)

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透析導入時、「透析患者になった事実を恨んでも仕方ない。この状況を目一杯楽しもう」と決意した。今回は、透析中に患者として何を考えていたか? また、医療関係者とのギャップなどについて話そうと思う。


コードネーム「透析室」

「先生、血液浄化センターっていい呼び方だね。30年透析やってるけど、なんかいい」透析の大ベテランの先輩の話声が聞こえてきた。なるほど。

透析室の入り口には【血液浄化センター】とサインが掲げてある。先輩はこれを見ていた。確かに【透析室】の看板はどこにも無い。なぜ、血液浄化センターなのか?

それはまさに血液浄化をする場所だからだ。透析はもちろん、血漿交換や解毒のための吸着療法を行う。しかし私たち患者にとっては「透析室」だ。先輩には何となくスマートに思えたのか、そこに透析の文字がないから良かったのかは定かでない。しかし、些細なことで患者の精神状態は安定する。医療機関の配慮なのか分からないが、先輩には大切な「血液浄化センター」の文字の並びだったのかもしれない。

北海道の冬は雪がよく降る。透析に遅れそうだ。電話で「透析室お願いします」と私。クリニックの方は「透析室に回しますね…」誰も「血液浄化センター」とは言わないのである。


透析室~その1:医療スタッフの苦労と配慮

「今日は2.3kg増?」
「何時間だっけ」
「5時間かぁ」「食事入れて3kgだね」
「1時間600mlだから大丈夫」
「じゃあ血圧測りますねぇ~」

看護師2人によって次々と確認が始まる。時には臨床工学技士もそれに加わる。透析には、ダイアライザ、回路、透析液などの高度な医療機器や医薬品が必要だ。医療チームは、それぞれの持ち場で力量を発揮し、安全第一で仕事をすすめる。事故が起きると命に関わるため、必然的にチェックは厳しくなる。透析は朝9時からオーバーナイトまであり、それこそ24時間対応だ。医療スタッフの苦労は計り知れない。

ある時、普段の時間を変更して朝から透析に行ったことがあった。並んでいた患者は新参者の私をジロジロと眺める。何か居心地が悪い。普段なら元気に挨拶して会話するのだが、そんな雰囲気はかけらもない。列に並ぶなんて娘と行った東京ディズニーランド以来だ。でも、ここは夢の国ではない。

一人ずつ体重を計りベッドへ向かい、38人が穿刺の順番を待つ。このクリニックは、前回1番の人から穿刺したら次回は2番の人から、と受ける順番を1人ずつずらすため、前回1番目に穿刺した人は次回は最後になる。透析患者は一刻も早く穿刺して早く透析を終え、すぐにでも帰りたいが、このような平等なしくみに則って順番待ちするのである。

病院によっては、5分刻みで穿刺の時間が決まっているところもあると聞く。今は新型コロナウイルスの影響で、一部ではオンライン受診、薬も配達や郵送になっており、待ち時間は少なくなっているものの、病院の受診もそうだが医療は待ち時間が長い。
「本当は一刻も早く穿刺して早く帰してあげたい」と看護部長。やはり患者の気持ちは理解しているのである。しかし安全が最優先される。


透析室~その2:できる限り最高の医療提供を~

「○○さん、8kgオーバーはダメですよ」看護師の怒気を込めた声が聞こえた。
2日で8kg? どうしたらそんなに増えるんだろう? 普通の食事をしてるのか? ススキノへ飲みに行ったのか?

恐る恐る患者さんを見た。悪びれる様子も無く淡々と透析の準備を始めていた。さすがに先生がやって来ていろいろ説明していた。「○○さん、ダメだよ。私たちはあなたのために言ってるんだよ?」確かにその通り。でも、患者にも8kgオーバーになったストーリーはあるはずだ。

例えば、大事な取引先とのお付き合いやお祝い事など。人は生活していれば様々な場面に出くわす。この患者さんもダメなことは百も承知かも知れない。

私は薬剤師として薬を渡す時、必ず患者さんのストーリーを思い描く。家族は何人なのかな? 朝ご飯はちゃんと食べてるのかな? 仕事はしてるのかな? 何時に起きるのかな? まさか単刀直入には尋ねないが、それぞれの生活に合わせた飲み方を指導するのが薬剤師だ。大きなお世話だと思う人もいるだろう。しかし私たちにとっては重要な情報なのだ。

私は患者として他の薬局に行くことがある。しかし、どこでもまずはアンケート…うんざりするほど何回も書いてる。薬の名前? 15種類書かなきゃいけないの? 極力その薬局にシステムに従っているが、本音は「面倒くさい」である。患者になるとこうである。人とは勝手なものだ。

維持透析を始めたばかりのある日、ダイアライザが今日から変わりますと言われた。この時は同じ大きさでメーカーが変わるとのことであった。「ダイアライザって種類があるの?」と疑問が浮かんだ。すぐに知りたい。1人の臨床工学士を捕まえて質問攻めにした。
「今のダイアライザは、透析を始めて間もないので膜面積が1.8m2です。そのうち効率を考えて2.1m2にするかもしれません」
透析の効率なんて考えたことは無かった。とにかく穿刺して解毒すれば良いと考えていた。

なるほど、人の腎臓は24時間休みなく動いている。1か月で5時間透析を13回、透析時間は65時間。1か月で腎臓が働く時間の約9%だ。その時間のみで血液を浄化する。それならダイアライザを大きくすれば良いのか? 答えは否である。

医療チームは患者の身体への負担を考える。身長、体重、心胸比、検査値などから、できる限り最高の医療を提供している。そんな努力も知らず、「なぜダイアライザを大きくしないのか?」「1分間の流量を上げて欲しい」などと好き勝手に思っていた。今でこそ冷静だが当時はかなり自分勝手に考えてしまっていた。お恥ずかしい限りである。


医療チームの一員として

今は腎臓移植済みだが、維持透析をしていたクリニックには今でも通っている。それは薬剤師としてである。かかりつけ薬剤師としてそのクリニックに私の患者さんを4名紹介している。今度は医療チームの一員として、自らの経験を伝えることにより患者さんのサポートに回っているのである。

医療チームの一員として分かったことは、とにかくミスを起こさないことの重要性だ。しかしヒューマンエラーは必ず存在する。早さを求めるのでは無く、最大限のスピードで1番ミスが少なくするにはどうしたら良いかを常に考えている。 真夏に海へいきなり飛び込むようなことはしない。入念な準備体操をして飛び込むのである。医療も見えないところで努力しているのである。

双方の立場を経験すると患者を気遣う医療チームの実態が見えてくる。看護部長は部下の看護師に必ず言うことがある。「透析患者さんは気が立っているから、一度や二度、怒鳴られることは覚悟しなさい!」これを聞いてかつての自分の愚かさを恥じた。なぜ、あの時に穏やかに言えなかったんだろう、と。透析患者だからと甘えがあったのか? 反省の日々である。

透析患者は必死に治療を受ける。医療スタッフは怒鳴られるのを覚悟で最善の医療を提供する。
現代社会は人との繋がりが希薄になっている。そんな中で、医療は患者の人生に入り込んでいる。私を含め医療に携わるものは、それなりの覚悟を持って働いているはずだ。

お互いへの理解が必要かつ大切だ、と強く思う。

次回は、「薬剤師の観点から見た透析の検査値、薬、チーム医療」についてお話しします。

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OZMA(オズマ)

OZMA(オズマ)
1961年2月生まれ。
59歳。埼玉県所沢市出身、札幌市在住。
糖尿病性腎症で54歳に透析導入。2年2ヵ月後、妻から腎臓移植。
仕事は、外資系製薬会社に13年勤務、営業、管理薬剤師、開発、広報などを経て1998年より薬剤師として勤務。2001年に独立して薬局経営。現在、新しい薬局の開設準備中。

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