透析から移植へ 〜戦いは終わらない〜腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第8話】腎臓移植に向かって ~移植前の検査や心構え②~
2021.11.1
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ABO血液型不適合移植の準備
B型の妻からA型の私に腎臓を移植することはABO血液型不適合の移植であり、脱感作療法なしの移植は抗体関連型の拒絶反応を起こすことが知られている。免疫抑制剤の前処置に関しては前回お話しした通りである。
しかしこればかりではなかった。
入院中は移植前なので透析を行っていた。抗体価があまりにも高かったために透析後に血漿交換をすることになった。最終的に5回行ったと記憶している。
血漿交換とは、私の体にある抗体が妻の腎臓を攻撃しないようにするため、体の中の抗体を除去して抗体の入っていないアルブミン製剤に置き換える治療法である。血漿交換は透析と同じように血液を抜いて抗体除去し、また戻す。したがって血液透析が終了してから、また何時間か拘束され透析と同じようなことを行うのだ。
血液へのアクセスは確保してあるとはいえ、通常の透析を2回繰り返すようなものである。また血液凝固のための血小板も抜かれるため止血しにくくなる。最後の血漿交換時には、1時間30分もの間止血できなかったことを思い出す。
膀胱検査
透析を2年以上行っており、途中から尿は全く出なくなっていた。透析中はあまり不便を感じなかったが、腎臓移植時には膀胱に尿が溜まっていないことが問題だったのだ。
たとえ話としては飛躍するかもしれないが、お酒を入れる菰樽(こもだる)と同じである。
お酒を入れる樽には、すぐお酒を入れることはできない。なぜなら木が乾燥しているため隙間が生じ、お酒を注いでも漏れてしまうからである。水を一週間以上入れて樽に十分潤いを与え、隙間が埋まったところへお酒を入れるのである。これを人の膀胱に置き換えて考えると、尿がないということは膀胱がまったく潤っていないということになる。
また膀胱には、出口となる尿道に尿道括約筋、膀胱壁には平滑筋(排尿筋)という筋肉がある。尿をためるときは平滑筋を弛緩させ、尿道括約筋を収縮させる。
風船の口を手で押さえ、中にたっぷりと水が入っている状態が尿を溜めている状態だ。尿意を催すと風船の出口をいっぱいに開き、溜まった水を一気に放出する。これが尿を出すしくみだ。尿道括約筋(弛緩)と平滑筋(収縮)はそれぞれ違う動きをする複雑なメカニズムなのである。
尿が出ない状態ということは、この排尿の機能が衰えている可能性を考えなければならない。
膀胱の検査は、膀胱に尿道カテーテルから撮影ができる溶液を入れて、その溶液はどのくらい排出されるかを見るのだが、これがなかなか大変だった。尿道カテーテルを入れてモニターされながらおしっこするのである。「出るはずがない!」もう2年もおしっこしてない。おしっこする感覚なんて無くなっているのである。
検査後、「前立腺肥大の兆候が見られるのでその薬が必要になります」と主治医。排尿障害の治療に用いられるタムスロシンが治療の仲間に加わったのだ。
精神科の受診
2週間の入院中いろいろな処置や検査を行った。トリを飾るのは精神科の受診だ。
予め精神科を受診することは分かっていたが、何をどうするのだろうという期待感のほうが不安感を上回っていた。
腎臓に限らず、生体臓器移植は親族に限定される。6親等以内の血族と3親等以内の姻族である。文字で説明するのは難しい。叔父叔母は3親等、いとこは4親等であるため、かなりの人が対象となりうるのだ。
参考:生体臓器移植のドナーの範囲
ドナーは精神科医や臨床心理士などの第三者によって自発的な臓器提供の意思確認が必要になる。夫婦であれは主従関係にないか? 強制的ではないか? などを確認するという。そして、レシピエントは、腎臓移植を受けるのに適した精神状態にあるか? 腎臓移植後にしっかりとした自己管理ができるか、などの確認も兼る。
現に私は「もし移植腎がダメになったらどうしますか?」と聞かれた。
「透析をしていた元の生活に戻るだけ」と答えた記憶がよみがえる。本音は成功を願っていたが、第1話でお話しした通り一度は透析治療を受け入れたのだ。したがって戻ることは怖くない。何が起こってもその現状を受け入れる自信はあった。
いろいろなことを精神科の先生と話をしたが最後に「前向きな性格ですね」と言われ気持ちが奮い立ったのを覚えている。
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