遅咲きボクサーの闘病記〜透析を受け止め、前を向くまで腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第2話】ボクサーがシャントを作る意味
2021.3.1
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「おやじファイト(30歳以上のオヤジがボクシングで王者を目指すスパーリング大会)」のチャンピオンとして戦った初めての防衛戦は、東日本大震災が起きた2011年の11月でした。当時の私の仕事は、主に高齢者を対象とした安否確認を兼ねたお弁当配達。被災した透析患者さんを受け入れた千葉県松戸市の施設に訪問したり、配達用のガソリンの確保に長い車列に並んだり…と、満足に戦える精神状態ではありませんでした。
無茶な調節で上った防衛戦のリング
この頃は仕事に費やす時間が大半を占めており、ボクシングの練習は週に3日程度。正直、ボクシングどころではない時期でした。また、責任ある仕事上の立場で心身ともにかなり追い詰められた時期でもありました。今思えばこのストレスが良くなかったのだと思います。
しかし、リングの上ではつまらない言い訳にすぎず、、「体力には自信があるから体に無理させても大丈夫!」「今までだってそうしてきたんだ!」この時はそう思っていました。
防衛戦に向け、自分が設定したウエイトをクリアするために1カ月で約10キロ体重を落とすという無茶な減量をしました。相変わらず高血糖状態は続いていましたが、インスリンを打っていれば大丈夫だろうと勝手な解釈で日々を過ごしていました。主治医からは「このままいけば透析導入になる」と言われても、どこか他人事のような気持ちだったのを覚えています。
そして迎えた防衛戦当日。試合は最終ラウンドまで持ち込む熱戦でした。
相手の選手は、勝利への執念を剥き出しにして唸り声をあげて向かってきました。かたや、どこかで終了ゴングを待っていた自分…。この“気持ちの差”は当然結果に表れます。判定の結果は、敗戦。本当にたくさんの応援、声援に後押しされたのですが、とても悔しい結果に終わりました。
シャントの作成で諦めた右ストレート
悔しい敗戦を喫し、防衛戦後は「必ずリングに戻る!」という熱い気持ちを抱いていましたが、そんな気持ちとは裏腹に体を動かすことはほとんどなくなってしまいました。仕事が忙しかった上に、常につきまとう体のだるさをはじめ、浮腫や頻尿などの症状も表れており、体調があまり良くなかったためです。
クレアチニン値上昇の指摘は受けていたものの時間ばかりが過ぎていき、2017年に体調を崩して入院。この頃は糖尿病網膜症も発症し、レーザー治療に加えて黄斑部の浮腫を取るため、眼球に直接注射する治療もしていました。
そしてとうとう2018年夏、「すぐにでも透析を始めましょう」と主治医に告げられました。以前から透析について医師から話は聞いていたものの、いざとなると気持ちの整理どころではありませんでした。
体の不調が顕著になればなるほどボクシングを遠ざけてしまっており、この頃テレビでボクシングの中継を見る程度でしたが、心の中ではいつかリングに戻りたいと思っていました。そんなボクシングに打ち込んできた私が腕にシャントを作る自分にとっての意味…。シャントのある腕には強い衝撃をあたえられません。つまりパンチが打てなくなるということです。左腕なら左ジャブ、フックが打てなくなり、右腕なら右ストレートが打てなくなる、と。
悩んだ末、私が諦めたのは「右ストレート」でした。
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