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管理栄養士である私が、透析患者になった

【第4話】医療スタッフとのエピソード

2021.3.29

文:もみじ

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病気になると、さまざまな病院やクリニックを受診し、たくさんのスタッフ(医師、看護師、事務員等)と出会います。その中で、専門用語に首をかしげたり、言いたいことも言えずに我慢したりしている患者さんは多いのではないでしょうか。患者はわからないことばかりでも、医療スタッフ側から見たら大勢の中の一人に過ぎないのですから。私もあちこちの医療機関を受診してきました。ここでは、患者として避けては通れない、医療スタッフとのエピソードをいくつかご紹介します。


突然の耳鳴りからの経験

透析3年目の春、仕事中にいきなり“キーン!”という高音の耳鳴りがし、慌ててとある大学病院に駆け込みました。もし、突発性難聴だったら…とビクビクしながら。
ところが、時間外診療だったこともあり専門医がいなかったので、「ビタミン剤を処方しておきます。明日また来てください」とあっさりと帰されてしまいました。仕事を途中で抜け出し、タクシーを走らせて来たのに無駄骨に終わってしまったとがっかりでした。

患者は、「痛い」「辛い」症状の原因が何か、そして、原因が判明すれば治療ができると信じて受診します。できれば、その日の内に検査を受けて原因を知りたかったな…。
耳の症状なら耳鼻咽喉科に、お腹が痛かったらまず内科に、腰が痛かったら整形外科に、と救いを求めていきます。今回は耳鳴りだったので真っ先に耳鼻咽喉科に駆け込んだわけです。その耳鼻咽喉科で最後に言われたのは「透析の影響かもしれないから、透析の先生にも聞いてね」と。翌日、透析クリニックの先生からの回答は、「透析の関係もあるかもしれないけど、耳鼻科のことだから専門医を受診しなさい」と。結局宙ぶらりんな状態となりました。

「そうきたか…!」このような経験は初めてではなかったので、少し投げやりな気分になっていました。結局5か所の耳鼻科を転々と受診し(いわゆるドクターショッピングですね)、やっと「蝸牛型メニエール病」と診断されました。治療は、鼓膜へのステロイド注射やビタミン剤の点滴、音を発生させる機械を使って耳鳴りを打ち消すマスキング療法などたくさん試しました。しかし、5か所目の大学病院で「この手の耳鳴りは諦めるしかないよ」と最後通告をされてしまいました。不本意ながら抵抗するのをやめ、症状を受け入れて受診もやめました。
今、症状は一時よりは軽減しましたが、弱い耳鳴りが続いています。でも「受け入れる」ことをしたら体が慣れてきて、気持ちは楽です。

このような経験の中で、医師、看護師、臨床検査技師などたくさんのスタッフが優しく接してくださったわけですが、私はいつも医療スタッフの言動や来院している患者さんの反応に目を奪われていました。例えば、聴力検査担当の技師がいつも笑顔で患者さんに接し、こまめに声をかけていたこと、受付の人が患者を「患者様」と呼んでいたこと、看護師さんが腰を落として患者と目線を合わせ、高齢の患者さんへ優しい言葉使いで話していたこと…等々。

管理栄養士の私にとって、医療現場は貴重な接遇の勉強の場でした。病院は自分が病気にならなければなかなか足を運ぶことがない場所であり、多くの経験ができ、そしてさまざまな人と出会える場所です。病院が好きな人はいないと思うのですが、私にとっての病院は、貴重な経験ができ心がウキウキする場所でもあるのです。


スタッフとのやりとりで笑顔を身に着ける

泌尿器科に入院していたとき、男性患者が多いためか男性の看護師が多く、私のベッドにも男性看護師がきました。そのときは術後だったため、「お腹の傷を見ますね」と言ってきたのです。「ええ?」と思い抵抗があったため、後日、勇気を出して師長に「同性の看護にしてほしい!」と要望しました。いくらオバチャンになっても、異性にお腹を見られるのは嫌ですからね(笑)。師長は快く受け入れてくれました。そういう思いは口に出さないとなかなか伝わりません。その後は、女性の看護師が担当してくれました。

また、術後で動けなかったときに体位を変えるのにもぞもぞしていたら、大柄の女性看護師が私を軽々お姫様抱っこ! これが人生初のお姫様抱っこでした(笑)。このような看護師がいるのはありがたいですよね。でも、その看護師の腰痛を陰ながら心配しています。今では看護ロボットも実用化されているので、ゆくゆくは、そういう時代になってほしいなと感じています。

ある病院の透析室では、スタッフがみな同じ制服を着ていて、誰が医師か看護師か臨床工学技士かわからない! 思いきって尋ねたら、首からかけている名札ストラップの色で職種を分けているとのことでした。そこに至るまでにどのような経緯があったかはわかりませんが(苦笑)。しかも、その病院の男性スタッフはほぼ黒縁メガネの若いイケメン達。マスクをしていると、誰が誰だかわからなくなって、ベッドの中でクスッと笑っていました。


執刀医との20年ぶりの再会

昨年、私のシャントの手術をしてくださった外科の先生と20年ぶりに再会できました! それは思いもよらない偶然の出来事でした。

ある日急に、そして初めてシャントに血栓ができてしまい、何度か通院していた血管外科を受診した際、見覚えのある先生の名前を見つけたのです。その日の担当の先生にそっと聞いたら、「年数を考えると、もしかしたら執刀したドクターじゃない?」とのこと。そして、そこにその先生が週1回いらしていることが判明したのです。

翌週、その先生が来る日を狙って受診しました。先生は一人ひとりの患者のことは覚えてはいないでしょうけど、術後20年間シャントを使い続けていることを伝えると、ニヤッとはにかむような表情を見せてくれました。そう、あの第2話に登場したけんちゃん先生です!(あ、本人は嫌がっていたようでごめんなさい)

執刀した先生は、当時一度はベッドサイドまで来てくれましたが、そう何回もお会いすることがなく私は退院してしまったので、20年ぶりの再会でした。改めて御礼を言えてとても嬉しかったです。先生からも「よくがんばって使っているね」と褒められました。心がポカポカとあたたかくなりました。


20年を超えた週3回4時間の透析

現在、週3回、20年も通っている透析クリニックでは、新人スタッフを迎える側になりました。新人スタッフが入って、穿刺などの担当で来られたときは、まず名前を覚え挨拶をしてできるだけ話しかけることを心掛けています。
世間話、天気や仕事のこと、スタッフの趣味などを話題に…。少し太り気味のスタッフがいると、つい職業柄、ダイエットについて話したくなってしまうのですが、それはここでは静かに見守り、何か聞かれたら答える用意を準備しています。

また、回診の医師は毎回コロコロ変わります。一人一人特徴があって、診られる側なのに私の方がよく先生を見ています(笑)。時々、「先生、当直明けでお疲れのようだから、ちゃんと寝てくださいね。ちゃんと食べてくださいね」と、目の下にクマをつくっている先生に言うこともあります。先生は笑顔を保ちつつ、私の質問に目の前ですぐスマホで検索してくださったり、調べてくると言って後ほど資料をくださったりなどと、細やかに対応してくださる先生もいて、真摯に向かい合ってくださって本当にありがたいです。

クリニックのスタッフが、一人ひとりの患者さんの名前などを覚えようと努力をしている姿を見ると頭が下がります。だから、時々起こる穿刺の失敗も「失敗は成功の基」と言って労います。私も保健所で約30年にわたって多くの患者さんに育てられたので、医療スタッフの気持ちがとてもよくわかるからです。人間、「褒めて育てる」は大人になっても通用するものですね。

自分を弱い立場だと思い込み、スタッフには何も言えないと思っている患者さんは多いのではないでしょうか。でも、遠慮しないで自分の意見ははっきり伝えること、そして「患者が医療スタッフを変える、育てる」位の思いで関わることをおすすめしたいです。

透析をするようになると、医療スタッフとは長~いお付き合いになるので、できれば素敵な関係でいたいですよね。痛いときには「痛い!」と言いましょう。でも、わざとする人はいないので「ドンマイ、ドンマイ!」とも言ってあげたいですね。その痛みは、他の患者さんが笑顔になるための痛みでもあると思うので。「すべてのことに意味がある!」いつもその言葉を思い浮かべて心穏やかに過ごしたいものです。

次回は、「透析22年目にして思うこと」というお話です。

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もみじ

もみじ
福島県出身。1982年、女子栄養大学卒業。管理栄養士。結婚し子育てしながらでも働ける公務員を目指し、東京都台東区に就職、保健所管理栄養士として着任。子どもから高齢者まであらゆる世代を対象とする地域保健の第一線において栄養相談や講習会などを通して、人々の食生活改善に尽力を注ぐも2000年に透析導入。週3回4時間の夜間透析をしながら37年間常勤として勤務。2019年退職。

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