生き活きナビ(サポート情報)腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
透析と水について考える【その2】
〜知っておきたい水のTips
2018.10.29
緑の文字の用語をクリックすると用語解説ページに移動するよ。
じんラボ をフォローして最新情報をチェック!
- この記事は「透析と水について考える〜水道事業民営化が私たちに与える影響」の補足記事です。
今年の国会(第196回国会、2018年1月招集の通常国会)で、水道法改正案は衆議院を通過しましたが、参議院では審議時間が不足して継続審議となりました。2018年10月24日(水)に招集され現在会期中の臨時国会で、参議院厚生労働委員会に付託された状態から再び審議が始まります。
統合型リゾート施設(IR)整備法(いわゆるカジノ法案)や、主要農作物種子法の廃止にも言えることですが、この法案は公共サービスのビジネス化です。法案に曖昧な部分も多く、十分な議論がなされないままの衆院通過も「なし崩し的な規制緩和」ではないかと懸念する声もあります。
この記事では、この水道法案について考える際、さらに理解を深めるための水の豆知識を皆さんにご紹介します。
世界の水格差
〜1日50Lの国、300Lの国
WHO(世界保健機関)は、1日に最低限必要な水の量を50Lと定めています。日本人は1日あたり約290Lの生活用水を使っています(国土交通省「平成28年版 日本の水資源の現況について」より)。
水道や井戸などがない場所では、水くみに多くの時間を取られ勉強や労働にあてる時間が足りず、貧困から抜け出せません。南アフリカでは水道民営化に伴い、すべて運営コストを水道料金に反映する『フルコスト・リカバリー』が採用され、貧困家庭は収入の30%を水道代に充てざるを得なくなりました。
気候変動と水の関係
〜気候変動が地域の水の量を変える
地球温暖化(気温上昇)により、氷河が溶けたり雪解け水が減少していることが分かっています。これは、自然の中に水を貯めておくことができなくなるということです。
水が多い地域では水蒸気が増えて災害につながる量の雨が降りやすくなります。水の少ない地域では土中の水分が蒸発してしまい、さらに乾燥が進んで水不足と干ばつが起きやすくなります。
このように、今後ますます進む気候変動は、水資源と私たちの環境に大きな影響があります。
日本国内での水格差
〜地理的、社会的、歴史的な要因で料金に差が
水道料金は地方自治体ごとの独立採算制なので、使用水量に応じて支払われる収入(水道料金収入)で運営することになってます。そのため、料金は単純に事業コストを給水人口で割った金額です。一定の水道管を使用する人口は最大100倍以上の差がつく場合もあり、人口が少なければ当然水量料金は高くなります。一番高い水道料金が高い地方自治体は安い自治体の8倍です。
今、日本の水道管は動脈硬化のような状態
〜老朽化が進んで1割以上が「期限切れ」
日本の水道管は老朽化が進み、総延長の1割以上が法定耐用年数の40年を過ぎてしまっています。少しずつ更新しているものの、年間更新率は0.76%程度、単純計算で全ての水道管を更新するには130年以上かかってしまいます。
現在も人口減少などで水道料金は上がりつつあります。そこにこの水道管の更新費用が加わることになります。土木学会の推計では、2040年までに水道事業体の91%にあたる1,180事業体が料金値上げを迫られるそうです。当然ながら小規模な自治体の方が影響は大きく、値上げ幅は大きくなります。
上水道と下水道、水の流れで所轄が違う
〜水の流れの特徴を反映した所轄の割り振り
「透析と水について考える〜水道事業民営化が私たちに与える影響」で話題にした水道法改正法案は、厚生労働省から第196回国会に提出されました。上水道は厚生労働省ですが、下水道は国土交通省、農業用水は農林水産省と、水施策の所管はバラバラです。
日本の水利用の歴史
〜農業における水利用、工業用水や水力発電事業、水資源の総合的な開発の3段階
日本では古代から稲作を中心の農業に水を利用してきました。米生産高のために河川の利用し、江戸時代になると大河川の治水工事と新田開発が進み、河川付近の平野の水田化が急速に進みました。
明治時代になると、水は工業用水としての需要が高まります。また、人口が増加し伝染病予防のために、都市部で近代水道の整備が進みました。電力需要の増大から水力発電事業が発展したのもこの頃です。
戦後からは経済の高度成長と人口の増加に伴い、安定的な水利用を確保のため、多目的ダムの建設などによる水資源の総合的な開発が行われました。
水循環基本法の成立は2014年
〜それまでなかった、水を守るための「水の憲法」
水を育むのは、海や河川、森林などの自然環境です。自然を守り大切にすることが、水を利用し続けるための唯一の手段です。
2008年、世界的な水不足への懸念が高まる中、水は「国民共有の貴重な財産」という位置づけとし、水行政の一元化とそのための根拠法を訴える水制度改革国民会議が設立されました。水循環基本法は、その後ようやく6年越しで法案成立に至りました。
当案成立以前の法律では、水道、河川、森林などを守る法律はそれぞれバラバラで、所管する省庁も別、当然責任の所在も不明瞭でした。
最後に
〜自然災害から浮かび上がる安定給水への課題
「のむとこの世にいられ、のまれるとあの世にいかなくてはならない。それはなあに?」というタイのなぞなぞがあるそうです。答えは、わかりますよね。
「のむとこの世にいられる」ものは飲み水で、「のまれるとあの世にいかなくてはならない」は治水のことです。
平成30年7月豪雨は、砂防ダムの決壊、河川の氾濫や土砂などが命や生活を押し流し、大きな爪痕を残しました。その後の断水が続く地域での飲み水不足や衛生状態の悪化、そして病院の被災での透析用水不足。まさに、タイのなぞなぞ通りの出来事を私たちは目の当たりにしました。
そして9月6日の北海道胆振東部地震でも、最大時で道内の376施設が停電し、非常用電源で透析に対応した施設もありますが82施設で断水が起きました。
さらに、7月豪雨から3ヶ月以上たった10月現在、広島県呉市の被災地では住民が管理する簡易水道の断水が続いているそうです。簡易水道は、住民の負担での修理が原則なため呉市の税金は使えず、復旧の見通しが立っていません。この呉市の例はコンセッション方式での民営化ではありませんが、水道民営化の問題点が浮き彫りになったと言えるでしょう。
これほどまでに生命維持に対する水の大切さを見せつけられる状況が、かつてあったでしょうか。患者として、災害の多い日本に住む者として、水と水道に関する知識を深め、私たちの水道と水環境に関してじっくりと考えてみてください。
参考
- 内閣官房水循環政策本部事務局(2018/9 アクセス)
- 毎日新聞「老朽化が進行 1割以上が「期限切れ」2015年12月31日 09時00分(最終更新 12月31日 11時29分)(2018/9 アクセス)
- 国土交通省「水利用の歴史」(最終更新 12月31日 11時29分)(2018/9 アクセス)
- 「水道料金表(平成27年4月1日現在)」公益社団法人 日本水道協会(2015/11)
- 橋本淳司「水がなくなる日」産業編集センター (2018/4/13)
この記事はどうでしたか?
生き活きナビ内検索
- 腎臓病全般
- ご家族の方