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自分のシャントをよく知ろう! 飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談【第11回】シャントの狭窄を防ぐPTA最新治療

2025.2.25

文:春口洋昭

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今回は、シャントPTAの最新治療について解説します。

PTAを施行しても、3ヵ月から6ヵ月程度で再度PTAが必要になることがあります。何度もPTAを行わなければならないのでしょうか?


1. PTAの効果が持続しない理由

PTAの効果が持続しない最も大きな理由は、PTAを行うと血管にダメージが生じるからです。PTAはバルーンカテーテルを用いて、血管を無理やり広げます。そうすると血管の壁が傷つくのです。
皮膚を切開し、縫合した後、皮膚が赤くなって、盛り上がったようなることがありますね。これをケロイドと言います。痛みやかゆみを伴うこともあり、不快なものです。ケロイドは真皮に炎症が続いてしまうことにより生じる疾患です。傷を治すためには炎症が必要なのですが、炎症が過剰に続いてしまうため、そこに血管ができて赤く見え、コラーゲンができて盛り上がります。

血管のPTAを行った後も同様のことが生じます。ダメージを受けた血管内皮細胞を治そうとして、炎症細胞が集まります。炎症が長く続くと、細胞が増殖して、血管の壁にケロイドのようなものができてしまいます。線維芽細胞という血管壁の筋肉細胞が増えて、血管壁を厚くします。そうすることによって、血管の内腔が狭くなってしまいます。


2. 薬剤コーティングバルーン

再狭窄を防ぐために、いろいろな方法が模索されてきましたが、細胞の増殖を抑える薬が有効であることがわかってきました。ただ、薬を点滴しても、血管の壁に有効に届きません。そこで、バルーンに薬を塗っておき、バルーンが拡張した時に血管壁にその薬が付着、浸透する方法が考案されたのです。このようなバルーンを「薬剤コーティングバルーン(Drug-Coated Balloon: DCB)」と呼んでいます(図1)。

図1:薬剤コーティングバルーン(DCB)

使用する薬は、炎症を抑える薬剤も試されましたが、効果は芳しくありませんでした。そこで細胞の増殖を抑えるパクリタキセルという抗がん剤が用いられるようになったのです。抗がん剤はがん細胞の増殖を抑えることを目的に作られていますが、その薬を血管壁の細胞増殖抑制に使おうとする発想です。抗がん剤と聞くと副作用が怖いですよね。

パクリタキセルは、抗がん剤として1回に120-140mgを点滴(全身投与)します。しかし、バルーンに塗布されているパクリタキセルの量は一番長い12cmのバルーンでも8.5mgであり、また、薬剤の一部はバルーンに残ったままとなるので、全ての薬が体内に入るわけではありません。全身投与で使用するパクリタキセルの量と比べると10分の1以下ですので、肝障害、脱毛などの副作用に関しては、ほとんど気にしなくてもよいと考えられます。

DCB治療は、心臓の冠動脈や下肢の血管で有効であったことはすでに実証されています。はたしてシャントでも効果があるのかどうなのか? アメリカ・日本・ニュージーランドの3か国330人の患者さんで臨床試験が行われました。その結果、DCBが通常のPTAバルーンと比べて明らかに治療の期間を延長させることがわかったため、2021年からシャントの狭窄に対してもDCBが使えるようになりました。

当院でも200人以上の患者さんにDCBを使用しました。多くの患者さんで次のPTAまでの期間は著明に延長し、平均で2倍以上となっています。3ヵ月に1回のPTAを余儀なくされていた患者さんが、1年はざらで、2年以上PTAが必要ないということもあります。これまで、いろいろなバルーンが登場して、開存率の効果をみてみましたが、DCBはけた違いに効果があると感じています。


3. ステントグラフト

DCBは通常の内シャントにしか使用できません。人工血管では延長効果が確認できていないのです。人工血管に関しては、DCBが使用できるようになった約1年前、2020年からステントグラフトが使用できるようになりました。

ステントについては「【第5回】今回は、バルーン拡張の話をします」でも紹介しましたが、通常は金属を編んだもので、いったん広がった血管が再度縮まないように、つっかえ棒の役割をしています。ただ、シャントに関しては、ステントの網から増殖した内膜が出てくるため、あまり効果がありませんでした。

ステントグラフトはそのステントに人工血管が巻き付けられたものになります(図2)。したがって、ステントの網目から血管内膜が出てくることはありません。狭窄部を完全にふさぐことができるのです。通常の内シャントの狭窄にも効果がありそうですが、現時点では、人工血管の静脈吻合部の狭窄に対してのみ、PTAの間隔を延長することに効果があることが証明されています。

図2:テントグラフト

ただ、ステントグラフトを留置すれば、その後は狭窄が生じないかと言えば、もちろんそんなことはありません。ステントグラフトの中枢の静脈やステントグラフト内に狭窄が生じることもあります。


終わりに

これらの新しい技術を使用することができるようになり、シャントがより長持ちするようになりました。ただ、DCBやステントグラフトはすべての医師が使えるわけではないのです。PTA治療の実績が十分あり、PTAに関する学会報告や論文を執筆している医師、すなわち技術・経験・知識が豊富な医師が、申請をして血管内治療専門医として登録して初めて使用できます。専門医は年々増えており、多くの施設で新しい技術が使えるようになっています。今後、より多くの施設でDCBやステントグラフトが使用できるようになってくるでしょう。

大好評の「自分のシャントをよく知ろう!」シリーズは、東京の「飯田橋春口クリニック」春口洋昭先生に執筆、ご回答いただいたシャントの情報満載のシリーズです。

バスキュラーアクセス(シャント)が専門の春口先生は、数多くの患者さんのシャントの診療・治療をなさっています。春口先生の連載記事や質問・回答集(FAQ)を通して、不安や疑問を解消しましょう。

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春口洋昭

春口洋昭
東京の飯田橋でバスキュラーアクセス専門外来のクリニックを開業しています。
午前中に主にエコーを用いて、シャントの診察を行って、午後はPTAや手術の時間にあてています。私は鹿児島大学医学部を卒業後、東京女子医大腎臓外科に入局し、太田和夫先生の指導のもと、一般外科、腎移植、泌尿器科などの研修を受けました。
開業してから、もっぱらバスキュラーアクセスの診療に携わっています。

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