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飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談

【第4回】シャントトラブル2. 患者さんに生じるトラブル

2014.9.18

文:春口洋昭

2400

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前回(【第3回】シャントトラブル1. 透析中に生じるトラブル)は透析中に生じるトラブルについて解説しました。今回は患者さんに生じるトラブルについての話です。

シャントを作製すると、静脈が拡張したり、腕がはれたり、穿刺痕が残ったり、さまざまな症状が出現します。シャントそのものがもともと人体にはない血液の流れですので、ある程度の変化はやむをえません。また穿刺しなければ透析が行えませんので穿刺による変化はどうしても出てきます。

またシャントを作製すると静脈には10から20倍の血流が流れるようになります。シャント作製直後は静脈の変化はありませんが次第に太くなり、場合によっては瘤(こぶ)を形成することもあります。穿刺するためにはある程度静脈が太くなる必要がありますが、必要以上に太くなると見た目だけではなく出血の危険を伴うこともあります。


瘤形成

シャント静脈の一部が瘤状になっていませんか? 瘤はいろいろなところにできます。吻合部は比較的瘤ができやすいです。また穿刺部が瘤のようになっている患者さんもいるでしょう。ある程度の大きさの瘤は放っておいてもかまいません。ただ、だんだん大きくなる、痛みを伴う、赤くなる、皮膚が薄くなるなどの症状があれば破裂の危険があり手術が必要になります。
瘤は様々な原因で生じます。狭窄があってシャント静脈の内圧が高くなると静脈が拡張します(図1)。逆に狭窄でジェット流が生じると、その中枢の血管壁に強い血流が当たり、瘤を形成することがあります(図2)。シャント吻合部はそのようなジェット流が生じやすいので瘤を形成することが多いです。そのような変化ななくてもシャントの血流量が多いと瘤状に拡張することがあります。

図1:狭窄の手前の瘤
図2:狭窄後の瘤

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また頻回に同じ部位を穿刺していると血管壁が薄くなって、瘤を形成することがあります。穿刺部の瘤が大きくなるようでしたら、穿刺部位を変更するのが良いでしょう。これらの瘤は少しずつ大きくなりますが、止血ミスなどで血腫を形成すると突然瘤を形成することもあります。これは仮性瘤といって瘤に血管本来の壁がないため、薄く破裂しやすいです。
小さい瘤だからといってかならずしも安心はできません。瘤の皮膚が薄くなると青味がかってきます(図3a)。エコーで皮膚からの距離を観察することができますので、瘤にこのような変化が出現するようでしたら担当医に相談してください。

図3a:皮膚に近い瘤 画像クリックで拡大

治療は瘤を摘出します。瘤そのものだけが摘出できればいいのですが(図3a)のような瘤は摘出したのちシャントが流れなくなってしまいます。その部位を人工血管で置換することも行います(図3b)。また吻合部の瘤は摘出後に中枢でシャントを再建するのが通常です。

図3b:超音波所見 画像クリックで拡大


静脈高血圧症

シャント側の上肢全体または一部が腫れてくる病態を静脈高血圧症と言います。普通の高血圧とは違って、静脈の圧が高まって生じるためこのように言われています。シャント静脈が細くなったり一部が閉塞すると、その流れが身体の中心に流れず、手指の方に逆流すると「うっ血」の状態になります。
流れが少ないシャントではあまり生じませんが、もともと流れが多いシャントで中枢側に狭窄が出現するとこのような症状が起こりえます。上肢全体が腫れる場合や手指だけが腫れる場合などさまざまです。
図4)のように上肢全体が腫れる場合は、心臓に近い部位の静脈に狭窄や閉塞があります。血流量の多いシャント血がいろいろな静脈に逆流します。肩周囲や胸の静脈に逆流しますので、このような症状がある方は胸の血管を見てください。シャント側だけの静脈が拡張している場合は、中枢の静脈の狭窄が疑われます。

図4:静脈高血圧症 画像クリックで拡大

また手指だけが腫れることもあります。これは(図5)のようにシャントの本幹で閉塞(または強い狭窄)があって、手背から合流する静脈に逆流することで手指だけが腫れるのです。狭窄部の末梢側だけが腫れるため、見ただけで大体の狭窄部がわかります。

図5a:ソアサム症候群
図5b:ソアサム症候群の血行動態

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上肢全体が腫れると重だるく感じます。また痛みを伴うこともあります。体液量が多いと症状が強くなるため、透析前に症状が強くなる傾向にあります。また手指に腫れが生じると握ることが難しくなります。進行すると皮膚にびらんが生じます。このような病変は皮膚科で治療しても治りませんので、シャントの専門医に診てもらう必要があります。
治療法は狭窄部の経皮的シャント拡張術(PTA:Percutaneous Transluminal Angioplasty)が多く行われます。シャント本幹の狭窄がなくなれば、逆流する血流も消失しPTA後速やかに軽快します。また逆流する静脈をしばるだけでも改善する場合もあります。これらの治療が困難な場合は狭窄部(閉塞部)を人工血管でバイパスすることもあります。シャント血流量が多いために静脈高血圧症をきたしている場合は、血流を低下させる手術が選択されます。
症状が強い場合はいったんシャントを閉鎖して、反対側にシャントを作製しなくてはなりません。


スチール症候群

シャント側の手指の血流が低下して手指の冷感やしびれや痛みを伴い、重症になると手指が壊死する疾患です(図6)。シャントを作製すると動脈血の一部はシャント静脈に流れ込みます。通常はその分、動脈血流が増加して手指の血流が低下しないように調節します。ただし、もともと動脈硬化が強い患者さんでは手指の血流が低下する可能性があります。スチールというのは「盗む」という意味ですが、動脈血がシャントに盗まれるために生じる症状なのでこのように言われています。

図6:スチール症候群 画像クリックで拡大

この病態は手術後すぐに生じる場合と、次第に症状が強くなる場合があります。手術すると動脈血液の流れが急速に変化するため、術後24時間以内にスチール症候群を呈することがあります。特に肘部のシャントや人工血管移植手術後は、一時的にシャントの血流が非常に多くなり手指の血流量が低下するため、これらの手術後は手指の冷感や痛み、しびれが増悪しないかを注意深く観察します。症状が強い場合は作製したシャントを閉鎖しなくてはなりません。
シャント作製後ある程度時間が経過してから手指が冷たくなってくる場合は、①動脈硬化の進行、または②シャント血流量の増加によるものです。
治療法は症状と病態によって変わります。わずかな冷感や透析中に生じるしびれだけであれば血管を広げる薬を投与して経過を見ます。絶えずしびれたり、痛みが生じる場合は外科治療を考慮します。シャントが流れすぎていた場合は血流量を低下する手術を行います。血流量がそれほど多くないのにもかかわらずスチール症候群をきたす場合は動脈硬化が原因ですので、シャントを閉鎖しなければならないことが多いです。また手指が壊死するなどの高度の症状があれば、いかなる原因で生じていてもシャント閉鎖が必要になります。


感染

通常シャントはあまり感染することがありません。ただし人工血管はふつうのシャントに比べると数倍以上の感染の危険があります。感染の原因のほとんどは穿刺に伴うものです。穿刺ミスをすると人工血管周囲に血腫を形成します。それでも何回も同じ部位を穿刺すると、皮膚の常在菌が血腫内に入り込み感染の原因となります。細菌にとって血腫はこの上ない栄養分になるからです。
スムースに穿刺できた場合はほとんど感染のリスクはありません。穿刺ミスした場合は穿刺部を変えてもらうのが良いです。感染を生じると翌日ぐらいから穿刺部の痛みを自覚し、赤味を帯びてきます(図7)。穿刺部の変化がいつもと違う場合は速やかに透析クリニックに連絡をとって受診してください。感染では早期の治療が必要です。軽度の感染であれば抗生物質を投与するだけで改善することもあります。ただ人工血管にいったん感染すると薬ではなかなか治らず外科治療が必要となります。

図7:人工血管の感染 画像クリックで拡大

感染を放置しておくと細菌が人工血管の壁を通して血管内に入り込み、敗血症をきたすことがありますので要注意です。強い寒気があって、そのあと38.5度以上の発熱があれば細菌が血液に入っている証拠ですので、一刻も早く治療しなければなりません。このような症状になれば入院してシャントを閉鎖して人工血管を抜去します。しばらくはカテーテルで透析を行い、症状が改善すれば新たなシャントを作製することになります。敗血症は命にかかわる重大な病態ですので、穿刺部が赤くなっただけと考えずにすぐに治療を受けてください。
敗血症にはなっていなく感染部が一部に限局している場合は、その部分の人工血管だけを抜去して新しい人工血管でバイパスする手術も可能です。
閉塞して今は使っていない人工血管が感染することがあります。人工血管にそって、赤くなったり、一部が膨れて膿がでたりします。これは人工血管内にある細菌が増殖したことによって生じます。免疫能が低下した時に起こりやすいです。この場合も人工血管の抜去術が必要になります。


春口先生への質問・回答コーナー

臨床工学技士の方から先生に質問が来ております。

質問1 ハンドルネーム:Nishi さんから

透析中の血管痛について、起こりやすい背景、痛みが起こる原因、起こった際に診るべき事、取るべき処置や予防策をご教示いただきたいです。
腕を動かしたり、針先を調整したり、暖めたりと色々試みてはいるのですが、あまり有効ではなく何か手立てはないものかと常々頭を悩ませております。
基礎体重の設定も少なからず影響しているのかな? とも疑問に思っています。よろしくお願いいたします。

春口先生からの回答

血管痛は患者にとって最も憂慮する病態です。透析中のみの痛みであれば、①透析による虚血 ②過剰血流や中枢の狭窄のための血管内圧上昇 ③血流不足のために血管壁が吸引される ④手根管症候群等があります。①、④は手指の痛みが主になります。血管拡張薬や神経の薬が効果的な事が多いですが、症状が強い場合は外科治療が必要になります。
②は返血部周囲、③は脱血部周囲の血管痛が出現することが多いです。これらの痛みはシャントの狭窄を治療したりシャント血流を低下させる治療が有効です。

これらの病態が当てはまらない場合は交感神経を介した痛みの事が多いです。痛みの刺激で交感神経が興奮すると、血管から分泌される物質によるによって痛みが生じます。痛みが生じるとまた交感神経が興奮するという悪循環を呈するのです。この痛みに関しては悪循環を断つために、神経節のブロックやレーザー治療が必要になります。これらの治療はペインクリニックで行っていますので担当医に相談してペインクリニックを受診していただくのが良いと思います。

次回は「狭窄に対するバルーン拡張術」です。

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春口洋昭

春口洋昭
東京の飯田橋でバスキュラーアクセス専門外来のクリニックを開業しています。
午前中に主にエコーを用いて、シャントの診察を行って、午後はPTAや手術の時間にあてています。私は鹿児島大学医学部を卒業後、東京女子医大腎臓外科に入局し、太田和夫先生の指導のもと、一般外科、腎移植、泌尿器科などの研修を受けました。
開業してから、もっぱらバスキュラーアクセスの診療に携わっています。

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