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シャントのお悩みここで解決!「自分のシャントをよく知ろう!」総まとめ

2017.7.10

文:じんラボスタッフ

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大好評の「自分のシャントをよく知ろう!」は、東京の「飯田橋春口クリニック外部サイトへ」春口洋昭先生に執筆、ご回答いただいたシャントの情報満載のシリーズです。
この度、皆さんが知りたい情報を見つけやすくするためのまとめページを作成しました。

透析患者さんには、とても身近で命綱でもあるシャント。
まだまだ知らないことや不思議に思っていることがたくさんあることでしょう。また、これからシャントを作るかもしれない慢性腎臓病(CKD)患者さんにもさまざまな疑問があると思います。
バスキュラーアクセス(シャント)が専門の春口先生は、数多くの患者さんのシャントの診療・治療をなさっています。春口先生の連載記事や質問・回答集(FAQ)を通して、不安や疑問を解消しましょう。


【第1回】内シャントが生まれるまでの歴史とバスキュラーアクセスの種類

  • [ 主な内容 ]
  • 内シャントが開発されるまでの歴史
  • バスキュラーアクセス(シャント)の種類

【第2回】シャントを視て、触って、聴いてみよう。自分でできるトラブルの早期発見

  • [ 主な内容 ]
  • シャントトラブル早期発見のための自己観察法

【第3回】シャントトラブル1. 透析中に生じるトラブル

  • [ 主な内容 ]
  • 透析中に起こるシャントトラブルについて(脱血不良、血流量と穿刺部の関係、静脈圧上昇、再循環、穿刺ミス等)

【第4回】シャントトラブル2. 患者さんに生じるトラブル

  • [ 主な内容 ]
  • 一般的なシャントトラブル(瘤形成、静脈高血圧症、スチール症候群、感染等)

【第5回】今回は、バルーン拡張の話をします

  • [ 主な内容 ]
  • シャント狭窄、閉塞に対する治療
  • 経皮経管的血管形成術(PTA)

シャントのお悩みここで解決! シャントのFAQ

「自分のシャントをよく知ろう!」で寄せられたシャントに関わる質問と、飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の回答を使いやすくまとめました。


1. シャントの基礎知識

静脈と動脈の血が混ざることで害はありますか?

ニックネーム:もりぞうさん

素朴な疑問かもしれませんが、前から気になっていたので質問させてください。
シャントは静脈と動脈をくっつけて作られるので、静脈の血と動脈の血が混ざるということになります。それは何か害があったり、後から問題が出たりするのでしょうか。

春口洋昭先生からの回答

ご指摘のようにシャントでは、静脈に動脈の血液が混入します。これはとくに害はありません。逆に動脈に静脈の血液が混じると、組織の酸素濃度が低下するため、手指(爪)や唇が紫色に変色します。すなわち混ざった血液が動脈と静脈のどちらに流れるかで違うのです。シャントでは混ざった血液が静脈に流れるため心配はいりません。

シャントの発育の違いは何が原因でしょうか?

ニックネーム:アヤナミさん

シャント手術をした後、静脈が発達して太くなるといいますが、これは太くなりすぎて困るということはないでしょうか? また、シャント手術後、血管がものすごく発達する人と、なかなか発達しない人がいますが、根本的には何が違うのですか?

春口洋昭先生からの回答

私は開業してから6,000人近い透析患者さんのシャントを拝見していますが、確かにシャントの発育は人それぞれで、とても太くなる方と発育が悪く非常に細い血管の方がいらっしゃいます。
通常はシャントを作製して2〜3か月になると穿刺可能な程度に発育し、その後少しずつ太くなり5〜10年では安定したシャント静脈になります。その後血管石灰化や狭窄の進行または穿刺によって、一部が瘤化したり、狭窄、閉塞を伴ったシャントになっていきます。40年以上も1つのシャントを使い続ける患者さんもいる一方で、シャントの発育が悪く3か月以内に治療が必要な方もいらっしゃり、本当に千差万別です。
このようにシャントの発育が異なるのは一言でいうと血管の性質と状態の違いです。

若い患者さん(特に男性)で糖尿病や動脈硬化症がなくて腎臓以外の血管が良い場合は、シャント作製の翌日から穿刺可能になるほど太くなることがあります。このような患者さんでは動脈も静脈も非常に太くなり、さらに血流量が増加するといった循環が生まれます。場合によってはシャントに3,000mL/min以上の血流が流れ込み、過剰血流となって血流を少なくする手術を行うこともあります。また瘤ができて破裂の危険がある場合は手術が必要になります。
一方、特に高齢の女性で基礎疾患として糖尿病や高血圧症を有する患者さんは、もともとの血管が細いことに加えシャント作製時にすでに動脈硬化が進行しています。さらに静脈壁も厚く、拡張力に乏しくなっています。このような患者さんではシャントを作製してもなかなか血管が太くなりません。現在はむしろこのような患者さんが増えシャントの発育不良が大きな問題になっています。

よく肘から上にはシャントは作れないと言われるのはなぜですか?

ニックネーム:ひよこマメさん

シャントを作る場合、大抵は手首にシャントを作りますが、私の場合は9才の時にシャントを作りました。その時、手首辺りの血管が細いと言われ肘上の近くにシャントを作りました。おかげで再手術もせずに10年以上もっています。そこで疑問なのですが、よく肘から上にはシャントは作れないと言われるのですがそれはなぜなのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

まずご質問に対する回答の前に、なぜ最初に肘に作らず前腕(肘から手首までの部分)に作るかの理由をご説明します。
第1にシャントは作製部位の中枢側(肩側)の血管しか穿刺できないということです。脱血と返血の2か所に穿刺する必要がありますが、前腕で作製すれば多くの穿刺部位が確保できるからです。穿刺することによって、血管が傷つきますので、なるべく広い範囲に穿刺ができるのが良いのです。肘に作製すると穿刺部位が上腕部(肩と肘の間)に限られてしまいます。
第2に前腕でシャントを作製すれば、シャントが閉塞したときの次の手術が容易だという理由が挙げられます。シャントが閉塞した場合はその場所よりも中枢側でシャントを再建しますが、最初から肘に作製すると次に再建する部位がなくなってしまいます。ご質問の方もこの部位をお知りになりたいと思いますので、これに関しては後で述べます。特に日本のように腎移植症例が少ない国では、長期間にわたり透析療法を受けることになりシャントを長く使用する可能性が高くなります。片方の上肢のシャントでなるべく長く透析を行うためには、前腕にシャントを作る方が良いのです。

第3に肘でシャントを作製すると血流が多くなりすぎる可能性があるということです。前腕と比べると肘の動・静脈は太いため、シャントの血流が多く流れます。もちろん多いので問題なく透析が行えるのですが、時間がたつとさらに血流が多くなり(過剰血流)心臓の負担が増えます。またその分手指の血流が少なくなるスチール症候群(詳しくは【第4回】『シャントトラブル2. 患者さんに生じるトラブル』をご覧ください)をきたす可能性があります。それらを防ぐ意味でも前腕のシャントが望ましいのです。

さて、今回の質問はすでに肘にシャントが作製されている場合に、それよりも中枢にはシャントが作れるのか? ということですが特殊な方法を使えば作れます。ただ普通の内シャントは作製できません。これは動脈と静脈の解剖学的な位置関係の問題がからんできます。

上腕部で穿刺可能な静脈は、唯一橈側皮静脈(とうそくひじょうみゃく)という、上腕の少し親指側を走行している静脈です。もう一つ小指側を走行する尺側皮静脈(しゃくそくひじょうみゃく:こちらの方が太い)もありますが、とても深い位置を走行しているためそのままでは穿刺ができません。

さて吻合する動脈ですが、上腕では尺側(小指側)を走行しています。そのため同じく尺側を走行している尺側皮静脈と直接吻合することができます。ただし、前述したように尺側皮静脈は深いためそのままでは穿刺ができないのです。そこで、尺側皮静脈を浅く穿刺しやすい位置に移動します。具体的には皮膚を長く切開して静脈を剥離し、皮下トンネル内に静脈を移動して動脈と吻合するといった比較的大きな手術が必要になります。

橈側皮静脈と上腕動脈が直接吻合できればよいのですが、先述のように両者は遠くそのまま吻合することはできません。そのため、5㎝ぐらいの人工血管で動脈と静脈をバイパスすることは可能です。この場合、人工血管を使いますが、穿刺は自分の静脈で可能になります。

肘から上には作れないというのは、このような解剖学的な理由のためです。

希望すれば足にシャントを作ることができるのでしょうか?

ニックネーム:匿名希望さん

足にシャントを作る人がいると聞いたことがありますが、希望をすれば誰でも足にシャントを作る事ができるのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

下肢(脚側)にシャントを作製することは理論的には可能です。 2つの方法があります。1つは足首でシャントを作製してふくらはぎの静脈で穿刺するというものです。これはとても特殊な場合だけしか行いません。痩せていてその部位の静脈に穿刺できることが必要です。また足の血流がある程度保たれていないと術後の足指の血流が悪くなる可能性があります。それから靴によって吻合部が圧迫されることが考えられます。またふくらはぎは日常生活でぶつけたり、けがをすることが多いため、寝たきりの患者さん以外ではほとんど行わないと思います。私は見たことはありますが、自分では作製したことはありません。

もう一つの方法は太ももの内側またはふくらはぎに人工血管を移植する方法です。この方法は上肢(腕側)でシャントや人工血管が作れなくなった患者さんで行うことがたまにあります。
ただ下肢が腫れたり足指の血流が悪くなったりしやすいです。過剰血流を起こしやすく、心臓に負担がかかることもしばしばです。また上肢と比べると不潔になりやすく、上肢で作れる場合は下肢に人工血管を移植することはありません。

このように下肢のシャントや人工血管には問題点が多いです。そのため希望されてもよほどのことがない限り、下肢にシャント作製や人工血管移植を行うことはありません。

吻合部に人工血管を使用するメリットとデメリットを教えてください。

ニックネーム:manchanさん

透析を導入して9年目になります。その間左手に1回、右手に3回シャントを作りなおし現在のシャントは右手裏側にあります(左手にはリザーバーが入っています)。以前よりシャントトラブル(狭窄)が多くPTAを繰り返しており、現在のシャントは吻合部とその付近で狭窄してPTAをしても2〜3ヶ月ほどしか持たない状態が続いています。

シャント外来の担当医より「狭窄する吻合部の血管を人工血管にしてはどうか? 」という提案を受けました。
春口先生の解説では「吻合部近傍の狭窄では人工血管を使わないのが一般的だ」とありました。吻合部分に人工血管を入れてよいかどうか分かりません。拒否反応はないのでしょうか?
また、吻合部に人工血管を使用した例はありますでしょうか? 吻合部分のみを人工血管にするという方法について、先生のお考えとメリット、デメリットを教えていただきたいです。
担当医の説明では「穿刺をする部分ではないので、感染症のリスクは低い」との事です。ちなみに現在のシャントを中枢に作り直すことは難しいです。

春口洋昭先生からの回答

確かに吻合部だけを人工血管にする方法はあまり行いません。その場合は、中枢で作製することが可能な事が多いからです。
ただご質問では「3回シャントを作りなおしており、中枢に作り直すことは難しい」とのことですが、それは裏側(尺側※と思いますが)にシャントがある場合、中枢で作り直すには動・静脈の距離があるため、静脈を多く剥離すると穿刺部位が少なくなる可能性が高いからだと思います。※尺側(しゃくそく:腕を手前に曲げた時に外側にくる部分)

このような場合は動脈から静脈まで人工血管(3cm程度)をつないで、新たなアクセスを作製すれば現在と同じ部位で穿刺が可能になります。私もこのような場合は、吻合部だけを人工血管にするシャントを作製することはあります。
担当医も同じような考えで人工血管を勧めたのだと思います。また、人工血管は穿刺さえしなければ感染するリスクは非常に低いというのはその通りです。

吻合部だけを人工血管にするメリットは
①穿刺部が温存される。
②剥離する静脈が少なく、出血などが少ない
③過剰血流になる可能性が低い

デメリットは
①わずかであるが感染のリスクは通常のシャントより高い(手術中に感染しなければ、その後感染することはほとんどない)
②人工血管と静脈の吻合部に狭窄を生じることがある。

中枢で再建することができないシャントであれば、吻合部だけを人工血管にするのはよい方法と思います。

「体調が良いうちに内シャントを作製した方が良い」と言われました。なぜでしょうか?

ニックネーム:保存期さん

いよいよ透析導入が近づいてきたらしく、主治医からはシャントを作製しておいた方が良いと言われました。できることならまだ透析を先延ばしにしたく、すぐにシャントを作らなくても良いのではないかと思うのですが「体調が良いうちに内シャントを作製した方が良い」と言われました。なぜ体調が良いうちにシャントを作る必要があるのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャントが成功するかどうかは、もちろん手術する医師の技量や患者さんの血管そのものが大きく関係します。ただそれ以外にも患者さんの体調も重要な因子となるのです。特に脱水や溢水(いっすい:水があふれること)状態、低栄養、低血圧などはシャントの成否に強くかかわります。腎不全が進行するとこれらの症状が出やすくなり、術後のシャント閉塞や発育不良の原因になります。
またシャントを作製すると、シャントを流すために心臓の負担が増加します。腎不全末期ではすでに水分過剰による心臓の負荷が強くなっていますので、その状態でシャントを作製すると心臓が耐えきれなくなり心不全をきたす危険が高まります。そのためある程度体調のいい時にシャントを作製するのが望ましいのです。

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2. シャントトラブル

シャントの状態と、かさつきには何か関係があるのでしょうか?

ニックネーム:サエキさん

先生の連載の第2回「シャントを視て、触って、聴いてみよう。自分でできるトラブルの早期発見」に「シャント血管だけでなく、皮膚が赤くなっていないか、または手指が青白くなっていないか、かさかさしていないか、腕全体が腫れていないか、などをチェックしてください」とありました。シャント血管の状態と皮膚の赤味、かさつきは何か関係があるのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャント血管に血栓ができたり感染があると、皮膚が赤くなり痛みが出ることが多いです。突然赤くなった場合はこれらの事が起こっている可能性があるため、すぐにスタッフにお伝えください。固定のテープにかぶれると赤くかゆみが出ますし、瘤化したシャント静脈の血管壁に石灰化があると周囲の組織と癒着するため、時々赤く痛みが出ることがあります。これらは感染ではありません。3週間程度で自然と軽快しますので心配はいりません。

シャントに全く問題がなくても、かゆみがあってひっかくと皮膚に炎症が起こって赤くなります。また冬場はかさつきが見られることが多いでしょう。これらの変化があると皮膚のバリアーがくずれて感染しやすくなります。ですから特に冬場は十分に保湿して清潔に保つことはとても大事です。

シャント感染予防で患者が気を付けることを教えてください。

ニックネーム:コウムラさん

私は人工血管ではなく普通のシャントなのですが、シャント感染で私たち患者が気をつけなくてはいけないことはなんでしょうか? また、透析の直後のお風呂、シャワーはNGとよく言われますが、体を洗うのはシャントの衛生にはよくないのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャントの感染予防はとても大事ですね。患者さんが気を付けることもいくつかあります。

1.皮膚の状態を良好に保つこと。
最も大切なのは、皮膚を乾燥させないことです。皮膚には細菌感染を予防するバリアー機能を持っていますが、乾燥するとそのバリアーがなくなってしまい細菌感染を引き起こしやすくなります。乾燥で皮膚がかゆくなると皮膚をひっかき、さらにかゆくなるといった悪循環を起こします。特に冬期は乾燥しやすくなりますので、ワセリンなどを薄く塗り保湿を心がけてください。

2.穿刺部からの出血をそのままにしない。
止血後に絆創膏で保護しますが、テープに血液が付着したままにしておくと感染のリスクが高まります。透析後少なくとも12時間以内には絆創膏をはがすようにしてください。出血していなければそのままで良いですが、じわじわ出血する場合はきれいなガーゼで少し押さえて、止血を確認した後に新しい絆創膏で保護してください。

3.透析日の入浴とシャワーはNGか? 
実は透析日に入浴をして感染が増加したとのデータはありませんので、透析後の入浴の是非はよくわかっていないのです。ただ一般的な事項として穿刺部は太い血管の上にあり、そこから感染すると血液内に細菌が全身に回る(敗血症)になる可能性があります。浴槽のお湯には雑菌があり、穿刺の傷から菌が侵入することは防げません。そのため大事をとって、透析直後は入浴をしないように指導されていると思います。シャワーに関しては直後でなければ(6時間程度経過)個人的には問題はないと思います。 またご指摘のように身体を洗うのは衛生管理としてはよいことですが、通常一日おきの入浴やシャワーでも十分良い衛生状態は保てます。毎日シャワーを浴びないと感染が予防できないということはありません。シャント管理に関しては透析施設が責任を持っており、入浴やシャワーに関しては施設の方針に従うのがよろしいかと思います。

局所麻酔シールを使うとシャントが石灰化しやすいということはありますか?

ニックネーム:アスペクト比Pさん

リドカインを使用した局所麻酔シールを使うとシャントが石灰化しやすいということはあるのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

ご質問のようなことは経験がありません。
また私の不勉強かもしれませんが、理論的にも局所麻酔が石灰化を促進するといったことはないと思います。
局所麻酔シールの部位は穿刺する部位になります。その部位に石灰化があるとすれば、むしろ穿刺による影響の方が考えやすいです。

感染による血管切除手術後、左手が冷たくなります。対処法を教えてください。

ニックネーム:アスペクト比Pさん

シャント感染で血管ごと切除する手術をしましたが、その後左手が冷たくなりました。どのような処置をすればよいでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

どのような手術を行ったかがわかりませんが感染の手術後に手指が冷たくなったとすれば、感染が動脈までおよんでおり動脈を結紮(けっさつ:結ぶこと)切断した可能性があります。
感染が動脈までおよぶと動脈を温存することが難しいため、そのような術式になることが多いです。その場合どのレベルの動脈を結紮切断したか、またもともとの末梢循環がよかったのか悪かったのかによって症状の強さが変わります。
手指がやや冷たい程度であれば、血管拡張薬を服用したりマッサージや保温である程度改善します。
症状が強い場合は結紮切断した動脈のレベルにもよりますが、血管形成術を行い手指の血流を増やすことができます。
いずれにせよ術式と症状の強さによって治療法が異なりますので主治医とご相談ください。

血栓が他の器官に流れる危険はありますか?

ニックネーム:ほすれさん

先日、シャント感染の疑いで入院しました。結果的には感染ではなく、血栓性静脈炎とのことでしたが、この時にできた血栓は、心臓や肺、脳などに流れるなど危険なことは無いのでしょうか? もし危険だとすれば、どのような治療をすればいいのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

まず、静脈血栓は通常一度肺で足止めされますので、血栓が心臓や脳に流れる危険はほとんどありません。ただ、卵円孔と言って、右房と左房をつなぐ孔がふさがっていない患者さんは、脳に流れる危険はわずかですがあります。
血栓が肺に流れるかどうかは、どのような血栓のでき方なのかによっても異なります。シャント血管が分岐していて、片方の静脈が血栓性閉塞を起こし静脈炎となった場合は、すでに閉塞しているため血栓が肺などに流れる心配はありません。
一方シャント本幹の壁の一部に血栓ができてその部分にシャント血流がある場合(壁在血栓といいます)は、血栓が肺に流れる可能性があります。その部分に穿刺したり強くマッサージをすると、血栓が壁からはがれて肺に流れる危険性があります。一度に大きな血栓が肺に流れると肺塞栓になり、呼吸困難や胸痛などの症状が出現します。ただ通常シャント静脈に形成される壁在血栓は少ないため、そのような危険はほとんどないといっていいと思います。それでも、シャント血流が流れている血管壁の壁在血栓の場合は、可能な限りその部分の穿刺を避けることと、強くマッサージしないことを心がけてください。

除水が多くなるとシャントが閉塞してしまうのでしょうか?

ニックネーム:ニンニンさん

ついついお水を飲み過ぎて、毎回の体重測定で技士さんや看護師さんから怒られてしまいます。先日ある看護師さんから「こんなに体重が増えたら除水が多くなってシャントが潰れちゃうよ! 」と注意されてしまいまいました。どうして除水が多くなるとシャントが潰れてしまうのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャントに限らず血液を流すためには、ある程度の血管内の水分が必要になります。除水が多くなると、短時間で血管内の水分量が減少して血栓ができやすくなるのです。また除水が多くなると血圧が低下してシャント血を流す力が弱まり、血液がよどみやすくなります。このことも血栓の原因となります。水分量が徐々に変化するのであれば、身体が血管内水分量を調節することができるため血栓はできにくいですが、血液透析のように短時間で水分量が変化すると血管内水分量を調節することが困難になり血栓ができやすくなります。

透析中の血管痛についての取るべき処置や予防策

ニックネーム:Nishi さん(臨床工学技士)

透析中の血管痛について、起こりやすい背景、痛みが起こる原因、起こった際に診るべき事、取るべき処置や予防策をご教示いただきたいです。
腕を動かしたり、針先を調整したり、暖めたりと色々試みてはいるのですが、あまり有効ではなく何か手立てはないものかと常々頭を悩ませております。
基礎体重の設定も少なからず影響しているのかな? とも疑問に思っています。よろしくお願いいたします。

春口洋昭先生からの回答

血管痛は患者にとって最も憂慮する病態です。透析中のみの痛みであれば、①透析による虚血 ②過剰血流や中枢の狭窄のための血管内圧上昇 ③血流不足のために血管壁が吸引される ④手根管症候群等があります。①、④は手指の痛みが主になります。血管拡張薬や神経の薬が効果的な事が多いですが、症状が強い場合は外科治療が必要になります。
②は返血部周囲、③は脱血部周囲の血管痛が出現することが多いです。これらの痛みはシャントの狭窄を治療したりシャント血流を低下させる治療が有効です。

これらの病態が当てはまらない場合は交感神経を介した痛みの事が多いです。痛みの刺激で交感神経が興奮すると、血管から分泌される物質によるによって痛みが生じます。痛みが生じるとまた交感神経が興奮するという悪循環を呈するのです。この痛みに関しては悪循環を断つために、神経節のブロックやレーザー治療が必要になります。これらの治療はペインクリニックで行っていますので担当医に相談してペインクリニックを受診していただくのが良いと思います。

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3. 血流・血流量

血流量の基準は? また、どこまで上げることができるんでしょうか?

ニックネーム:よしゆきさん

クリニックの先生から血流量を上げるように言われたのですが、現在すでに300mL/minを超えており、これ以上、血流を上げて良いのか心配です。血流量はどのような基準で、どの程度まで上げることができるのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

どのくらいの血流量にするかはクリニックの先生の考え方があり、一概には言えません。
標準的な血流量は日本では200mL/min程度です。欧米では300mL/min〜400mL/minで、日本よりも多くの血流量をとっています。透析量と生存率の因果関係も出されており、透析量を増やすことで生命予後が改善するとのデータもあって、可能な限り透析量を上げようとする考え方もあります。
どれぐらいの血流量が適正かに関しては、クリニックの先生の考え方次第になりますが、最低でもドライウエイト1kgあたり4mL/minを維持透析患者の目安にするという考え方があります。例えば70kgの患者さんでは280mL/minになります。
よしゆきさんはすでに300mL/minを超えている血流量であり、透析時間や膜面積にもよりますが通常は十分な透析量があると考えられます。さらに血流量を上げる理由としては、現在の透析量ではまだ少ない場合(体格が大きく透析効率が低いなど)と、さらに透析量を増やして生命予後を改善させようとする意図のいずれかと考えられます。

血流量を上げることによって、血圧が低下したり心機能に悪影響があると心配されるかもしれませんが、ゆっくり血流量を上げるのであればほとんど問題はありません。ただし急速に血流量上げると低カリウム血症をきたす可能性もありますので、少しずつ上げることが望ましいと思います。
またシャントによっては300mL/min以上の血流を上げられない場合もあります。シャントがその血流量に耐えられるかも判断材料になります。 いずれにせよ担当の医師とよく話し合い、なぜさらに血流量を上げる必要があるかをよく聞いてみてください。納得して徐々に血流量を上げるのであれば問題ないと思います。ただよしゆきさんが納得できないのであれば、血流量を上げるのはお勧めしません。

もともと静脈が発達している人でもシャントの手術は必要でしょうか?

ニックネーム:ソボクな疑問さん

シャントを手術する以前に、見た目にも静脈がものすごく発達しており、血管が太く浮き出ているような人がいますが、そうした人でもシャントの手術は必要でしょうか?

春口洋昭先生からの回答

ご指摘のように静脈が発達していて、そのまま穿刺しても透析が行えそうな患者さんはいます。透析の針を穿刺することは可能ですがそのように太い静脈でも50mL/min程度しか血流は流れていません。透析で必要な血流量(200mL/min)を脱血するためには300〜400mL/min以上の血流が流れていることが必要ですので、いくら太い静脈でも透析は行えません。多くの血流を静脈に流すためには動脈の力が必要で、そのためにシャントを作製するのです。
ただし大腿静脈や内頸静脈などの深くて血液が集まってくる静脈では条件によっては200mL/min以上の脱血が可能です。そのためにシャントが閉塞した患者さんには、深部の太い静脈にカテーテルを挿入して透析を行うのです。

シャント作製で手や指先などへ血が流れなくなってしまうことはありますか?

ニックネーム:くまばちさん

透析歴10年で今さらの質問で恐縮です。動脈と静脈を繋いで、手や指先などへ血が流れなくなってしまうことはないでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャントは動脈と静脈をつなぐものですので、ご指摘のようにつないだ部位よりも末梢の手指の血流が低下することがあります。これを「スチール症候群」と呼んでいます。本来手指に向かうべき動脈血流がシャントに盗られてしまうので「スチール=盗む」ということばが使われています。スチール症候群の症状は、最も軽いものから第1度:手指の冷感や軽いしびれ、第2度:透析中に生じる手指の痛み、第3度:非透析日にも生じる手指の痛み、第4度:手指の壊死になります。早期に発見して適切な対応をとることで重症化することは防げます。
シャントを作っている患者さんは多かれ少なかれそのような病態になっているはずですが、実際にスチール症候群を発症する患者さんはそれほど多くありません。それはシャントに盗られる血流分の動脈血流が増加して、手指の血流を保つようになっているからです。
それではどのような患者さんでスチール症候群を発症するのでしょうか。まずは元々動脈硬化が強く、手指の血流が低下している患者さんです。このような患者さんでは末梢の血管抵抗が高いため、より流れやすいシャントに多くの血液が流入します。もう一つはシャント血流が多い場合です。末梢の血流を保つようにいくら動脈血流を増やそうとしても限度があります。シャントが発達しすぎて過剰なシャント血流になると、動脈硬化がそれほどなくてもスチール症候群を起こす可能性があります。
後者の患者さんではシャント血流量を低下させる手術が有効になりますが、前者の患者さんで高度のスチール症候群が起こった場合シャントを閉鎖せざるを得なくなることがあります。 スチール症候群はシャント作製24時間以内に現れることがあります。もともと末梢循環が不良の方に、太い動・静脈でシャントを作製すると起こりやすいです。この場合は強い痛みや冷感を伴うことがあり、早急な治療(シャント閉鎖など)が必要になります。一方でシャントを作製して10年以上してから現れるスチール症候群もあります。透析歴が長くなるにつれて動脈硬化が進行したために現れるもので、進行は緩徐(かんじょ:ゆっくり)です。

シャント血流量を患者自身が把握する方法はありますか?

ニックネーム:匿名希望さん

数年前、シャント流量が2000mL/minまで上がってしまい、医師から「2000mL/minもあると心臓に負担がかなりかかる」と、シャントの血管をつぼめるオペをしました。その時は、頻脈(ひんみゃく:脈が非常に速いこと)があり、たまたまシャントエコーでシャント流量を調べたところ2000mL/minもあることが判明したのですが…。
シャント流量はシャントエコーだけでしか分からないのでしょうか? 患者自身が分かる方法があれば知りたいです。もしエコー以外にないようならシャントエコーは定期的に受けた方が良いのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

エコーや特殊な機器を用いずにシャント血流量を正確に知る方法はありません。
特に患者さん自身は、他の患者さんと比較ができませんので、適正なのか過剰血流なのかの判別はつきにくいと思います。ただ透析スタッフは多く患者さんのシャントに触れているため、大体のシャント血流量は推察できます。スタッフが血流過剰を疑えば血流量測定を受けるように指示されると思います。
患者さんご自身でわかる一応の目安としては、前腕で作製したシャントで肘部までスリルが良好に触れる場合は、1000mL/min以上ある可能性が高いと思ってください。
また過剰血流による心負荷症状(頻脈、血圧上昇、心胸比の上昇、階段昇降時の息切れ、なんとなく不調が続くなど)がありましたら、過剰血流の可能性がありますので担当医にお伝えください。

頻繁にPTAを行っていて大丈夫なのでしょうか?

ニックネーム:Izumiya11さん

最初のシャントは2年で潰れてしまい再建しました。
それ以後は何事もなかったのですが、再建後20数年経ってからは毎年PTAを定期的に行うようになりました。

一昨年の今頃、抜針時に出血が止まらなくかさぶたで止まっている状態になり、その部分を撤去し右腕にシャントを作り直しました。成長が遅いことから昨年は4回PTAをいました。血流はある程度(250〜300mL/min)は採れています。ただPTAを行う際のカテーテルが4mmでも痛くてたまりません。狭窄していなくとも年間4回のPTAを繰り返したのは無理に血管を広げているような気がしてなりません。左シャントの時にはPTAを20年間しなくて済んでいたのですが、現在、このように頻繁にPTAを行っていて大丈夫なのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

最初のシャント作製から20年経過して新たにシャントを作製した場合、加齢や腎不全の病態が続いているため、動脈硬化や静脈が硬くなるなどの変化が起きています。初回のシャントでは良好な血管でシャントを作製することができたため十分な発育が望めます。その後狭窄が出現しても、透析には問題ない程度の血流が得られることが多いです。ただ20年後は血管や全身の状態も変わっており、シャント作製の条件としては明らかに悪くなっています。そのためシャントの成長が遅く定期的なPTAが必要になっているのだと思います。
PTAは何回でも行えますが、PTAを繰り返していると血管にダメージが加わり、だんだんPTAの間隔が短くなることも多いです。3ヶ月に2回以上PTAを繰り返さなければならないときは、外科治療のほうが良い場合が多いので、担当医とご相談してください。

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4. 止血・穿刺

自己止血とベルト止血ではどちらがシャントにはいいのでしょうか?

ニックネーム:くまばちさん

クリニックの看護師さんから指で押さえる自己止血の方法を覚えるように言われました。ベルトでの止血の方が患者としては楽ですが、自己止血とベルトでの止血どちらがシャントにはいいのでしょうか? またその理由を教えてください。

春口洋昭先生からの回答

可能であれば指で止血するのが良いです。ただ、正確に止血しないと漏れたり、止血時間がかかったり、場合によってはシャントが閉塞することがあります。そうならないためにはトレーニングが必要です。 いくつかのポイントを挙げます。

1.正確に血管の穿刺部を押さえる。
皮膚の穿刺部と血管の穿刺部は少しずれます。皮膚の厚さにもよりますが、どのくらいずれているのかをイメージして押さえなければなりません。

2.針孔(めど:針で開けた穴)よりもやや上流(血液が流入する側、シャントでは手首側の事が多い)を押さえる。
下流側で押さえると、流れをせき止めるようになり、かえって針孔からでたり、皮下血腫ができたりします。

3.強すぎず、弱すぎずの力で押さえる。
押さえる力が弱いと、針孔からの出血がいつまでも続いたり、皮下血腫ができることがあります。ただ逆に強く押さえるとシャントの血流を遮断して、シャントが閉塞する危険があります。最初はシャント血流が遮断しない程度に少し強めに押さえ、徐々に力を弱めるのがポイントになります。弱めた場合針孔から出血する場合は出血がないところまで再度少し強く押さえます。

止血ベルトはとても便利で患者さんとしては重宝すると思います。これも使い方が大切でまず針孔にきちんと圧力がかかるようにすることです。特に瘤になったところに穿刺している場合は止血部位が横方向にずれて出血することがあります。また強さの加減が難しく、強くなりすぎたり、弱すぎたりすることがあります。人は強さを微妙に調節することができますが、ベルトではできません。止血時間も重要で、遅くても帰宅してすぐベルトを外さなくてはなりません。

帰宅してから出血した場合には自分で止血しなければなりません。また、臨時で他の透析施設で透析を受けることがあるかもしれませんが、その施設では止血ベルトを使用しない可能性もあります。自己止血方法を知っておくことは、自分でシャントを守るという意識を持つうえで重要な事と思います。

穿刺する場所に関して、返血部と脱血部の距離が離れている方が良い理由は何でしょうか?

ニックネーム:森野熊さん

シャントに穿刺する場所で返血部と脱血部の距離が離れている方がいいと聞きましたが、理由は何でしょうか?

春口洋昭先生からの回答

効率の良い透析を行うには、身体を通った尿毒素の濃度が高い血液を脱血する必要があります。返血した低い濃度の尿毒素の血液を再び脱血すると透析効率が低下します。これを「再循環」と呼び、返血した血液の15%以上が脱血部に回ると明らかな透析効率低下が表れます。
脱血の針先と返血の針先が近いと再循環を起こしやすくなるため、ある程度(5cm以上)距離を離して穿刺することが推奨されています。再循環を起こすかどうかは、シャントの血流量や返血部の中枢の狭窄の有無にもかかわってきます。すなわちシャントの勢いが弱いと、返血した血液が脱血部に逆流しやすくなり、再循環を起こします。また返血部の中枢に狭窄があると、スムースに中枢方向に血液が戻らず、脱血部に逆流する可能性がありますがこれも再循環の原因となります。
穿刺部位が限られていて、どうしても穿刺部位が近くなる場合は、せめて脱血と返血の針を逆方向にすることが望まれます。そうすることによって、穿刺部が近くても針先の距離が保たれるからです。

自己穿刺をする際、固いところに当たり針が進まないことがあります。なぜでしょうか?

ニックネーム:K*さん

普段、在宅血液透析で自己穿刺をしています。先日、シャントのエコー検査では問題なしと言われたのですが、穿刺時に固いところに当たり、それ以上針が進まないということがありました。固くて針が進まないというのはなぜなのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

自己穿刺をしていると硬いところは自分の感覚でなんとなくわかりますね。 針が進まないというのは、内筒(穿刺針は2重構造になっていて、血管に刺した後、金属で出来ている内筒は抜き、やわらかい素材で出来ている外筒は留置する)が血管内に入りにくいとうことと、内筒は入っても外筒が進まないという2つの場合がありますので、その2つにわけて説明いたします。

1.そもそも針が血管内に入りにくい場合
最も考えられるのは血管壁の石灰化ですが、石灰化した血管は触ると石のように硬いのでわかります。この場合は少しずらすと石灰化の内部分があるため、穿刺ができることが多いです。その他の原因としては血管壁にある血栓で、穿刺すると抵抗があり硬く感じます。この場合は血栓を通過して初めて血管内腔に届くので、抵抗があっても少し深くまで針をすすめなくてはなりません。また頻回に穿刺していると血管の前壁の皮下組織が硬くなり、針が進まないといったこともあります。

2.外筒が硬い部分に当たって進まない場合
針の外筒が血管内に入って逆血が見られても、ある程度以上は押し込むことができない場合があります。血管内の硬くなった静脈弁や石灰化した組織が原因かもしれません。また血管に隔壁があって外筒が隔壁に当たって進まない場合も多いです。血管には問題がなくても針の角度がつきすぎていると、外筒が後壁に当たりやすく進みません。蛇行した血管でも外筒が壁に当たりやすくなります。また針が血管の真ん中を貫いていない場合、横の壁に外筒が当たって進みにくくなります。

今回のご質問の方はエコーでは問題ないとのことでした。この場合、実際には存在する病変(たとえば静脈弁や隔壁など)をエコーで描出することができなかったことも考えられます。本当に血管に問題がない場合は穿刺の角度や方向、中心をとらえているか、蛇行した壁に当たっていないかなど、穿刺方法をもう一度チェックしてもらってください。

同じ所に繰り返し穿刺するのは、なぜ良くないのでしょうか?

ニックネーム:ばんやさん

クリニックのスタッフさんは、いつも新しい場所を探して穿刺するのですが、これがいつも痛くて仕方がありません。前回穿刺した時に痛くなかったことがあり「前と同じところに刺してほしい」とお願いしましたが「それは良くない」と言われました。同じ所に繰り返し穿刺するのはなぜ良くないのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

穿刺をすると血管の壁が傷つきます。しばらくすると自然に修復しますが、同じ部位を反復して穿刺すると修復する時間が無くなってしまいます。穿刺部の壁が弱くなって瘤を作ったり、逆に血管の壁が硬くなって、狭窄(きょうさく:シャントの静脈が細くなること)を起こす可能性が高くなるのです。そのため、同じ部位に反復穿刺するは避けるのが望ましいのです。

止血後に出血してしまう原因と改善策を教えてください。

ニックネーム:ぶらっどさん

透析終了時は止血バンドで5分ほど止血をして、体重を計ってロッカールームへ行くのですが、私の場合帰り間際の着替えをしている時に突然出血してしまいます。かなり血が流れてしまい「洗うのは誰だと思っているのよ」といつも妻から叱られてしまいます。透析後にこうも出血してしまうのには何か理由があるのでしょうか? どうすれば改善できますか? よろしくお願いいたします。

春口洋昭先生からの回答

いったん止血したと思っても、その後突然出血する場合は2つのことが考えられます。
1つは穿刺している血管壁や皮下組織が薄い場合です。頻回に同じ部位を穿刺すると血管に瘤を形成することがあります。そうすると血管壁や皮膚が引き伸ばされ、止血する力が弱くなります。
もう1つはシャント血管の内圧が高い場合です。シャントは通常の静脈血の10〜20倍の血液が流れます。穿刺しているところより中枢側(肩側)に狭窄がなければ、シャント血管への圧力はそれほど高くなりませんが、狭窄があるとその血液の行き場がなくなり血管の圧力が高くなります。ホースの出口をつまむとホース内の圧力が高くなりますが、それと同じ原理です。このように圧力が高い血管は絶えず血液の逃げ場を探します。止血直後はまだしっかりと針孔が塞がっていませんので、血管の圧力が高いと突然出血します。 いくら狭窄がひどくシャント血管の内圧が高くても穿刺すれば脱血することができるため、そのままの状態になっていることが多いです。止血不良や突然の出血が続く場合は、エコーや血管造影で調べてもらってください。高度な狭窄があれば突然閉塞する危険も高まりますので、その前に経皮経管的血管形成術(PTA: Percutaneous Transluminal Angioplasty)を行うことが望ましいです。

スタッフはどんなことに気を付けながら穿刺をしているのでしょうか?

ニックネーム:こわがりさん

血液透析歴5年なのですが、未だにスタッフが穿刺をするのを直視できずに怖くて目をつぶっています。「見えない腕の中の血管にあんな太い針をよく刺せるな」と感心しているのですが、穿刺をするスタッフはどのようなことに気をつけながら穿刺をしているのでしょう? 「私は血管が見える」というスタッフもいて、確かにいつもうまく穿刺できています。

春口洋昭先生からの回答

まずはその日の透析が問題なく行えること、そして長期にわたってシャントが使用できることに気を付けています。そのためにはまず穿刺ミスをしないことが重要です。穿刺ミスの最大の理由は穿刺する血管の選択の間違いになります。問題なく針先が血管内に入ること、また外套針(がいとうしん:一般的な穿刺針は金属でできた内針管と外套針の二重構造となっていて、その外側の針を外套針という。患者のシャントに穿刺した後、内針管を抜き柔らかい材質の外套針を留置する)をちゃんと進めることができる血管を選びます。そのためにはよく見ること、それからよく触ることが重要になります。慣れたスタッフは少し触れただけで穿刺血管の状態や深さ、蛇行の状態を知り適切な穿刺部位を決めることができます。
また穿刺部位によっては十分な血液を確保することができません。どれだけいいシャントでも、シャント血が十分流れていない血管では脱血不良を起こします。また脱血部と返血部が近いと再循環を起こし透析効率が低下します。そのようにならないように穿刺部位を決めます。
さらに同一部位に頻回に穿刺すると瘤を形成したり狭窄の原因になりますので、穿刺部が集中しないように気を付けます。どうしても狭い範囲でしか穿刺できない場合は、少しずつ穿刺部を変えて前回と同じ部位に穿刺しないように気を付けています。

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5. シャントの自己管理

シャントを長持ちさせるために注意することを教えてください。

ニックネーム:そらまめさん

透析導入してすぐの頃は血管が細かったこともあり、頻繁に詰まったりしていましたが、再建手術をしてからは特に大きな問題もなく過ごしております。実際、シャントを長持ちさせるのには、患者はどのようなことに注意すればよいのでしょうか? また、定期的に経皮経管的血管形成術(PTA: Percutaneous Transluminal Angioplasty)を処置すべきと主治医の指導をうけていますが、これはその通り定期的に受けた方が良いのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

シャント再建手術後に問題ないとのことで、よかったですね。おそらく狭窄部の中枢で再建したのでしょう。

1.シャントを長持ちさせるために患者さんが注意すべきこと。
シャントはご自身でいくら注意しても狭窄してしまったり、また突然閉塞することもあります。シャントは元々非生理的な血流であり、静脈には通常の10倍以上の血流が流れます。そのため血管壁は傷害をうけて壁が厚くなったり、石灰化が起こることは避けられません。ある程度のところで進行が止まれば長持ちするシャントになります。
患者さんができることは、狭窄の進行を早期に察知することです。毎日指でシャントを触れてください。手に「ざわざわ」とした感じが伝わるでしょうか? これがスリルと呼ばれているものです。スリルが弱くなったときは、それよりも吻合部側の狭窄が疑われます。またスリルから拍動に変わったときはそれより中枢側の狭窄が疑われます。また聴診器を持っているのであればシャント音を聞いてください。「ザーザー、ゴーゴー」という連続音が聴くことができれば問題ありません。音が弱くなったり「ザッザッ」のような断続音に変化すれば狭窄の進行が疑われます。
もちろん透析スタッフも触診や聴診を行っていますが、自分の血管の変化はご自身が最もよくわかると思います。少しでも変化があればスタッフに知らせてください。

2.定期的なPTAは必要か?
新しいシャント作製後に明らかな狭窄がなければ、もちろん定期的なPTAは通常は必要ありません。今回の場合は、新たに狭窄したか、以前からあった狭窄部が進行したためにPTAを勧められているものと思います。狭窄部が脱血部と返血部の間にある場合は狭窄が進行しても脱血不良や静脈圧上昇などの症状がでません。そのまま放置しておくと突然閉塞する危険があります。おそらくそのような病態であり閉塞する前のPTAを勧められているものと思います。ただこの場合いつPTAを施行するかは難しい問題です。軽度の狭窄であれば、PTAが血管に傷害を与えて再狭窄までの時間を短くすることもあります。主治医になぜPTAが必要なのか、そのメリットとデメリットを聞いて判断されるのがいいでしょう。

よい血管だと言われますが、太くならないようにできますか? また、穿刺部分が普段でも触ると痛みを感じます。

ニックネーム:オルカさん

最初に作ったシャントが17年間トラブル無しできたのですが、シャントの傷がある部分が、ぽっこり膨らんでいたり、血管が太くなっています。よい血管だと言われますが、これは太くならないようにできるのですか?
また、最近穿刺部分が透析中でなくても触ると痛みを感じるのですが、なぜでしょうか?(10年ぐらいまで痛みはありませんでした)

春口洋昭先生からの回答

17年間もシャントトラブル無しで過ごすことができたので、とてもよいシャントなのだと思います。シャントの傷は動脈と静脈を吻合した場所になるのですが、10年以上たつとある程度膨らんできます。シャントはよく川にたとえられますが、吻合部はまさしく滝壺の場所になります。

吻合部では勢いの強い動脈の血流が直接静脈の壁に当たります。静脈の壁は薄いため、そこに強い圧力が加わると膨れやすくなるのです。また吻合部の2〜5㎝の間は狭窄をきたしやすい場所になりますが、そのため膨れた血管にさらに圧力が加わって瘤が大きくなります。いったん太くなった血管は手術をしない限り小さくはなりませんが、スタッフからそのようなことが言われていないのであれば、いまのところ手術の必要のない膨らみなのでしょう。あまり気にしなくてもよいと思います。

穿刺部位の痛みですがいろいろな原因があると思います。穿刺部は赤くなっていませんか? 赤く少し硬いようであれば、血管壁に血栓ができているかもしれません。血栓が炎症を起こすと触っただけで痛みを生じます。また穿刺部が少し膨らんでくると、その周囲の神経が引っ張られるような形になり痛みが出ることもあります。また穿刺する場所が集中していると皮下組織が硬くなり、軽度の炎症が起こり痛みを感じることもあるでしょう。

同じ場所に週3回、10年以上穿刺すれば皮膚も血管も相当傷みます。穿刺部を変更して少し休ませることで痛みが緩和するかもしれません。

閉塞の恐れがあるシャントに対して必要なケアを教えてください。

ニックネーム:アスペクト比Pさん

シャントを作ってから10年経ち閉塞する恐れがあります。今後、どのようなケアが必要でしょうか?

春口洋昭先生からの回答

作製してから10年ぐらいすると静脈に瘤が形成されたり血管壁に石灰化が現れたり、穿刺部が細くなったりといろいろな変化が出てきます。
「閉塞する恐れがある」と言うのはスタッフにそのように言われたのでしょうか? もしそうであればどこかに強い狭窄(きょうさく:シャントの静脈が細くなること)があったり、一部の静脈が閉塞してる可能性があります。完全に閉塞する前に何らかの治療(経皮経管的血管形成術(PTA: Percutaneous Transluminal Angioplasty)など)が必要かもしれません。担当医に相談してシャントエコーなどで血管の状態を調べてもらい、治療の必要性を判断してもらってください。
また強い狭窄がある場合、ご自身では閉塞を予防することはなかなか困難です。ただ透析中の除水量が多いと血圧や体液量の変動が大きくなり、さらに閉塞の危険が増します。透析間の体重増加に気を付けてください。

シャント血管が太いのに血栓ができる理由はなんでしょうか。また、予防する方法を教えてください。

ニックネーム:匿名希望さん

以前、シャントの血管はかなり太い方なので、つぶれる事は無いと思っていましたが、シャントに血栓ができて詰まり、つぶれてしまいました。その時不思議に思ったのですが、シャント血管が太いのに何故血栓ができてしまったのでしょうか? 今のシャントも太い方ですが、太くてもまた血栓ができて詰まってしまう事があるのでしょうか? もし、そうなら血栓を防ぐ方法ってあるのでしょうか?

春口洋昭先生からの回答

太いシャント静脈には2種類あります。1つはシャントの流れが多く血管全体が太くなる場合です。この場合、太い静脈のスリルは良好で軟らかく触れます。このような太いシャント静脈には血栓を生じることはほとんどありません。
もう一つは細いところがあって、その手前(シャント吻合部側)の静脈の圧が高くなって太くなるものです。この場合はシャントのスリルが弱くむしろ拍動のように感じます。このような静脈は流れが遅いため、血栓が生じやすいのです。実は同じ狭窄の程度であれば細い静脈よりも太い静脈に血栓ができやすいのです。

道路で考えてください。2車線の道路で1車線だけが工事中で車一台だけが通れる場合、ある程度渋滞しますが車は止まることなく通過します。
しかし4車線のうち3車線が工事中の場合は、同じ車が一台通れるスペースがあっても4車線分の車がそこに殺到するため大変な渋滞が生じます。

これと同じことがシャントの静脈でも起こります。すなわち同じ程度の細さならその手前の静脈が太ければ太いほど、血液がよどんで血栓が生じやすいのです。

ご自身の太い静脈を触れてください。やや硬くて拍動を感じるようであれば、このような病態になっています。もしそうであればPTAなどで狭窄部を早めに拡張して、血液のよどみを解消することが必要になります。

間をおかずに何度もPTAが必要な場合は4車線を2車線にすることです。すなわち、太い静脈を5mm程度の人工血管に取り換える(その場合狭窄部のいっしょに治療ができる)などの治療法があります。

シャント側での腕時計や血圧測定は良くないと思いますが、止血の圧迫はどの程度まで大丈夫でしょうか?

ニックネーム:せるにさん

素朴な疑問なのですが、シャントの腕に腕時計をしてはいけない、血圧の測定をしてはいけないと言いますが、透析の穿刺時には駆血帯で腕を縛ることがあります。やはり腕時計はシャントとは逆の腕にした方がいいのでしょうか? また血圧測定も…やはりよくないですよね? 止血の圧迫はどの程度まで大丈夫でしょうか?

春口洋昭先生からの回答

腕時計ですが、通常シャント吻合部が腕時計をする位置になります。腕時計のベルトで吻合部を圧迫すると、シャントが閉塞する危険がありますので避けるのが望ましいです。またタバチエールシャントといって親指のつけ根に吻合がある患者さんも、シャント血流の通り道になりますのでシャント側に腕時計をしないでください。ただ吻合部が前腕中央部や肘にある患者さんは、腕時計の位置にシャント血が流れていませんので、腕時計をしてもいっこうにかまいません。

おっしゃるように透析の穿刺時には一時的に駆血します。この駆血は静脈血流のみを一時的に圧迫するものです。血圧計も一時的に駆血いたしますが、その際、動脈血流も一時的に遮断いたします。そのため、血圧計の駆血の方が強く、まだ自動血圧計の場合は駆血する時間を調整することができません。よってより血栓を形成しやすくなります。
また穿刺の際の駆血は透析をおこなうためのもので、他の方法で代用できません。また駆血前後で透析スタッフがシャントフローを確認することができます。一方、自宅での血圧計測定では透析スタッフがチェックすることができず、閉塞したりシャント血流が減少しても気づかないことがあります。非シャント側で血圧を測定することができるため、あえて危険をおかしてシャント側で血圧測定を行う必要はありません。

止血の圧迫は、血液が漏れない最も弱い圧迫が望ましいです。強く圧迫しても早く止血するわけではありません。また強く圧迫するとシャント閉塞の危険があります。スリルを感じる程度の弱い圧力で十分です。ただ、その時に血液が漏れると、止血しませんので、完全に止血していることが条件になります。


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