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自分のシャントをよく知ろう!
飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談

【第2回】シャントを視て、触って、聴いてみよう。自分でできるトラブルの早期発見

2014.6.2

文:春口洋昭

2400

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前回は透析を受ける前の患者さんに向けて、透析やシャントの歴史、シャントの種類についてお話しましたが、今回からはすでに透析を受けている患者さんが、実際どのような事に気をつけてシャントを管理すればよいかの話をしたいと思います。

上腕動脈表在化やカテーテルでなく、自己動静脈内シャント(AVF)や人工血管内シャント(AVG)で透析を受けている患者さんには、シャント(動脈と静脈の短絡)があります。シャントの静脈には通常の10倍から20倍の血流が流れているので、そこに穿刺して透析ができます。その静脈の血流が低下して血栓ができ、血管が詰まってしまう(シャント閉塞と言います)と透析を受けることができなくなります。

シャント閉塞は突然起こることが多いですが、それには何らかの前兆を伴っています。シャント閉塞は血圧の著明な低下や脱水などでも起こりますが、その多くは狭窄(血管の狭い部位)があります。狭窄が出現するとシャントはさまざまな信号を送りますので、ちょっとした変化に気づくことが重要です。

患者さんは、シャントを視て、聴いて、触ることぐらいしかできませんが、実はシャントの閉塞を予測するのに最も役に立つのがこの、視る、聴く、触ることです。すでにこれらのことを実践している患者さんも多いと思いますが、ここではこれらの自己診断の方法とその原理についてまとめました。


1. 視る

シャント静脈は皮膚から盛り上がり少し太くなっていることが多いです。瘤を形成したり、血管自体が著明に太くなっている患者さんもいるでしょう。ただ、シャントは毎日見ていると、その変化に気づくことがないかもしれません。
当院には患者さんが3〜6か月に一度定期受診する患者さんが多いですが、毎日シャントを見ている患者さんよりも私の方が変化に気が付くようです。私は一応毎日自分の顔を見ますが、変化はわかりません。でも数年前の写真と比べると明らかに変化(老化)しているのがわかります。シャントもそれと同じで、時々は腕を撮影しておいて見比べるのが良いでしょう。特に瘤がある場合はそれが通常の状態になっているため、患者さん自身では大きさの変化が分かりにくいので定期的な写真撮影が有効です。
時には、他の患者さんのシャントと見比べることもあるでしょう。そうするとそれぞれ違っているので戸惑うかもしれません。「私のシャントは瘤だらけ」とか、逆に「ほとんど血管が見えない」という場合もあると思います。本当にシャントは千差万別です。他人と比べて一喜一憂しないことが大切です。
それから腕を視るときはシャント血管だけでなく、皮膚が赤くなっていないか、または手指が青白くなっていないか、かさかさしていないか、腕全体が腫れていないか、などをチェックしてください。


2. 触る

ご自身のシャントを触ると「指にざわざわした感じ」があるでしょうか? これは「スリル」と呼ばれるもので、動脈の勢いのある血流が静脈に流入して、そこで乱流を生じるものです。水道の蛇口をひねると最初はゆっくりした透明の流れが見えると思います。ある程度蛇口をひねると白っぽくなり、水があちらこちらに飛び跳ねるのがわかります。この状態が乱流です。シャント静脈内の血液はすごいスピードで血管壁に当たりながら進んでいきます。この乱流がスリルとして触れるのです。
さて、実際に触ってみてどうでしょうか? ちょうど良いシャント血流ではシャント吻合部ではスリルが強く、肘や上腕に行くに従いスリルが弱くなります。肘部でも強いスリルを感じる場合は、シャント血流量が多すぎる可能性があります(※注)
吻合部に触れた時、このようなスリルではなく拍動(動脈の脈のような、トントンとした感じ)があれば中枢の狭窄が示唆されます。このようなシャント静脈はやや硬く触れ、指で押すと押し返すような弾力があります。
指で押したときの弾力は、シャントを診察する上で重要な所見です。前述したような押し返すような硬さでは中枢側の狭窄が疑われます。途中まで硬く、あるところから軟らかく触れる場合は、その変化するところに狭窄があります。

図1 触ってみる

押しても全くへこまない程度の硬さの静脈は、壁に石灰が沈着していたり、血管内に血栓が形成されている可能性があります。石灰を形成している場合は、まるで石を触れているような硬さですのでわかりやすいと思います。石灰化していても、壁だけで内腔に石灰が突出していなければ治療の必要はありません。
逆に、シャントを押してもほとんど抵抗がない場合は、吻合部側の狭窄でシャント血流量が低下している可能性があります。狭窄が進むと脱血不良をきたすかもしれません。このようなシャントはスリルそのものが弱く、場合によってはほとんど触知できません。


3. 聴く

聴診器をお持ちの方は、是非シャントの音を聞いてみてください。軽く聴診器を当てるだけで、うるさいような「ゴーゴー」、または「ザーザー」という低音が聞き取れると思います。このような音は血液が良好に流れている証拠です。逆に「ヒューヒュー」といった口笛のような高い音が聞こえる場合は、そのそばに狭窄があることが疑われます。
連続した音ではなく「ザッ、ザッ」とした音が聞こえる場合は、その中枢側に狭窄があるかもしれません。これらを図2にまとめてみました。大事なのは1か所だけでなく多くの場所で音を聞くことです。音の変化がある場所に狭窄があることが多いからです。

図2 音を聴く

シャント音は透析の前後でも変化します。透析後に血圧が低下したり、血管内水分量が減少すると当然シャント音は小さくなります。いつも決まった時間にシャント音をチェックしておくことが重要です。


4. 腕を持ち上げる

これはとても簡単な方法ですので、ぜひやってみてください。
まず仰向けに寝ます。そのときの血管の張りを覚えていてください。そして腕を見ながら少しずつ腕を上げていきます(肩の方向ではなく、腕を床から持ち上げ天井の方向に上げるのです)。45度ぐらい上げるとシャント静脈が凹むかもしれません。凹む場合は、その中枢側に狭窄がないと考えられます。腕を上げることで重力によって、シャント静脈内の血液が心臓に返るためある程度凹むのです。
狭窄があると血液が下に下がらず、血管が膨らんだままになります。途中まで膨らんだ、その中枢が凹む場合はその境目に狭窄があります。これは座って行うと、より鮮明になります。椅子に座って手をだらっと下げたときの血管を見ます。続いて手を肩の上に持ち上げて、血管が凹むかどうかを見るのです。

図3 腕を持ち上げてみよう

血管が凹まなかったからといって、必ずしも狭窄があるわけではありません。血流が多い場合は、腕を上げてもどんどんシャント静脈に血液が流入するので、血管は凹みません。腕を上げたときに、血管がどのように変化するかを見ておきましょう。

視る、聴く、触る、腕を持ち上げることで、大体のシャントの流れと狭窄部がわかります。どれも時間がかからず簡単に行えることですので、自分に合った方法を続けて変化を記録しておくとよいでしょう。
「自分のシャントは自分で守る」ことが大切です。何か変化があれば、すぐに透析スタッフに相談してください。シャントの閉塞を予防することにつながります。

※注:シャントは多く流れればいいというものではありません。シャントが流れすぎると、心臓に負担がかかります。体格にもよって異なりますが、私たちの心臓は1分間に約5Lの血液を駆出しています。流れの多いシャントは1分間に2L以上流れます。すなわちその患者さんは1分間に7Lの血液を流さなければならないことになります。心臓が約40%多く働くことを意味しています。これは、例えば座っていても立っている状態、立っている場合はゆっくり歩いている状態の時の心臓の働きが必要になります。長い間にわたって、心臓が働きすぎると、次第に疲弊して心臓の機能が低下することもありますので、あまりもシャント音が大きい方、スリルが強い方は、スタッフに相談してください。

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春口洋昭

春口洋昭
東京の飯田橋でバスキュラーアクセス専門外来のクリニックを開業しています。
午前中に主にエコーを用いて、シャントの診察を行って、午後はPTAや手術の時間にあてています。私は鹿児島大学医学部を卒業後、東京女子医大腎臓外科に入局し、太田和夫先生の指導のもと、一般外科、腎移植、泌尿器科などの研修を受けました。
開業してから、もっぱらバスキュラーアクセスの診療に携わっています。

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