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自分のシャントをよく知ろう!
飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談

【第5回】今回は、バルーン拡張の話をします

2014.11.13

文:春口洋昭

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はじめに

シャントの静脈が細くなることを 「狭窄」と言い、シャントの血液の流れが悪くなります。
第3回で解説したように、狭窄が進むと脱血不良などの症状が出現しますが、この時狭窄部をバルーン(小さな風船)で拡張することを経皮経管的血管形成術(PTA: Percutaneous Transluminal Angioplasty)と言います。
以前は狭窄病変が出現するとシャントを作り直すか人工血管でバイパスする等の治療法しかありませんでしたが、1990年代からPTA治療が行われるようになりました。
この治療法は心臓の冠動脈狭窄に対して以前から行われていました。また下肢の動脈硬化の治療法としても一般的に行われていました。それをシャント狭窄に応用しています。
治療の原理は心臓や下肢と同じように狭くなった部位を血管の中からバルーンで押し広げることになります。


1. シャント狭窄に対する治療の実際

1)造影剤の注入

通常PTAを行う時は造影剤をシャント血管内に注入して撮影するといった方法がとられています。血管造影して連続で写真を撮ると狭窄部(血管の狭い部位)が描出されます。
普通にシャントの静脈から造影剤を注入すると、造影剤は中枢側(心臓側)にしか流れません。シャントの吻合部を描出するには2つの方法があります。1つは動脈を直接穿刺して造影剤を注入する方法。もう一つは上腕で強く駆血して造影剤を吻合部に逆流させる方法です。このようにしてシャント全体を造影して狭窄部を見つけます。狭窄部はシャント吻合部に近い部位にあることが多いですが、その他にも穿刺部や胸の近くの太い静脈が細くなっていることもあります。造影剤を注入するときに一時的に身体全体や手指が熱く感じることがありますが、すぐに消失しますので心配はいりません。


2)バルーン拡張

動脈から造影剤を注入した場合は新たに静脈を穿刺してシース(カテーテルを挿入するための少し太い管)を挿入します。まずガイドワイヤーという細くて軟らかい金属のワイヤーをシースから挿入して、狭窄部を通過させます。狭窄部を通過させることができたら、次はガイドワイヤーにかぶせるようにバルーンカテーテルを挿入します。ガイドワイヤーがいったん狭窄部を通過していますので、容易にカテーテルを狭窄部に通過させることができます。
カテーテルの先端には2〜4cmの長さの小さなバルーンがついています。拡張した時の直径は大体4㎜から7㎜で、胸に近い部位以外はこの程度の太さのバルーンで拡張します。吻合部に近い場合は大体4〜5㎜を、上腕部では6〜7㎜の太さのバルーンを使用することが多いです。
その後、インデフレーターという器械をバルーンの先端に装着して、バルーン内に造影剤を圧入していきます。バルーンによって違いますが、高耐圧バルーンでは30気圧まで加圧することができます。
バルーンを拡張すると狭窄部も拡張します(図1)。1回に大体30秒から2分ぐらい拡張し、1か所で2〜3回拡張することが多いです。バルーンを拡張した後もう一度血管造影を行い、狭窄部が拡張したことを確認し(図2,3)、最後にシースを抜去して終了となります。

図1 画像クリックで拡大

図2
図3

画像クリックで拡大

バルーンを広げるときには痛みを伴うため、痛みを和らげる対処をします。ゆっくりバルーンを広げたり、広げる部位に局所麻酔薬を注入したり、腋窩(えきか:わきのしたのくぼみ)や鎖骨下で血管周囲の神経に麻酔薬を注入したり、安定剤を注射を行うなど、施設によってやり方はさまざまです。当院はエコーガイド下で治療を行っていますので、エコーガイド下で血管周囲に局所麻酔薬を注入しています。それによって、痛みはかなり軽減され、無痛で治療が受けられることも多いです。
ほとんどの場合PTA後はそのまま帰宅できますが、入院で行う施設や、PTA後に血液透析を行い問題なく血液透析が行えることを確認する施設もあります。また心臓に近い部位を拡張した時には経過観察のために入院する施設が多いです。


3)バルーンカテーテルの種類

バルーンカテーテルにはいろいろな種類があります。通常はバルーンだけですが、その周囲にカッターがついたバルーン(カッティングバルーン:(図4))もあります。これはカッターで血管の壁に少し傷をつけて拡張する仕組みで、高圧をかけてもバルーンが完全に広がらない場合に使用します。20気圧でも広がらない狭窄病変が、カッティングバルーンを使用することで10気圧程度で広がることが多いです。カッターは非常に浅いもので、血管の壁をカットしてもほとんどの場合血液が漏れることはありません。
また吻合部などカーブの強いところでは、広げるとバナナ状に変化する特殊なバルーンを使用することもあります(図5)。

図4
図5

画像クリックで拡大


4)ステント留置

通常はバルーンPTAだけで治療が終了しますが、頻回にPTAを要する場合やバルーン拡張だけで血管の拡張が不良の場合は、ステントを呼ばれる金属製のメッシュ状のものを血管内に挿入します(図6)。ステントはそれ自身で拡張する力があり、ただPTAを施行した場合よりも拡張した状態が長く続くことがあります。しかしステントは穿刺部には使用することができませんので、ほとんどの場合上腕部より中枢に留置します。

図6 画像クリックで拡大


2. シャント閉塞に対するPTA治療

今では狭窄だけでなく、シャントが閉塞した時もPTA治療を行うことができます。まず血栓内にウロキナーゼを注入します。細い針で直接血栓内に注入することも可能ですが、シースを挿入してそこから注入することもできます。通常2〜3時間で血栓が溶解しますので、それからPTAを行います。血栓がほとんど溶解してシャントフローが復活した場合はそのまま狭窄部のPTAを行います。ある程度の血栓が残存している場合は血栓を吸引するカテーテルを挿入して、ある程度の血栓を吸引してからPTAを施行することが多いです。さらに血栓が多量の場合は、血管を切開して、血栓除去バルーンで血栓を除去してから、狭窄部に対してPTAを施行いたします(図7,8)。

図7
図8

画像クリックで拡大


3. 副作用と合併症

1)造影剤の副作用

2〜3%程度の患者さんで造影剤の副作用が出現します。ほとんどは皮膚のかゆみや一時的な吐気といった軽いものです。造影剤を投与してから5分程度で皮膚がかゆくなったり、顔面が紅潮したり、のどがかゆくなり、唇が腫れぼったくなったりすることがあります(即時性副作用)。その場合は近くの医師または看護師に伝えてください。造影剤の副作用の可能性があり、すぐにその治療が必要になることがあります。
また気分がすぐれない時は血圧が低下していることがありますので、すぐに伝えてください。PTAを行う医師は副作用の可能性を絶えず意識していますので、症状によってはそれ以上の検査を行わず中止することもあります。
前回の検査では問題なくても、このような症状が出現することがありますのでご自身の体調の変化に十分気をつけてください。造影剤の副作用はすぐにではなく1時間後から数日後に現れることがあります(遅発性副作用)ので、何か変化がありましたら連絡をするようにしてください。


2)バルーン拡張による合併症

バルーンによる合併症として多いのは血管破裂です。血管が弱い場合や血管に対してややサイズの大きなバルーンを使用した場合は、血管の一部が裂けて血液が皮下に漏れることがあります。通常バルーンをへこませたときに強い痛みを生じたり、その部分が腫れぼったくなりますのですぐに気づくことが多いです。このような事が起こってもほとんどがわずかな裂け目ですので、低圧でバルーンを拡張したり皮膚の上から圧迫することで止血することがほとんどです。
裂け目が大きいと圧迫だけでは対処できず外科手術を行うこともありますが、このような事は非常にまれですのであまり心配する必要はありません。


4. 再発は?

PTAを施行した後、数年またはそれ以上拡張した状態の患者さんもいますが、中には3〜6か月で再度PTAを行わなければならないこともあります。頻回にPTAを行う場合は外科治療を考慮しますが、PTA治療を続ける方が良いと判断した場合はやむなくPTAを行います。PTAを行う回数に制限はありません。再狭窄の原因はよくわかっていませんが、拡張するときに血管を傷害します。それを修復するために血管壁が厚くなることが一因と考えられています。


5. エコーガイド下PTA

当院では90%以上の症例でエコーガイド下にPTAを行っています(図9)。エコーの利点はX線被曝がなく造影剤を使用することがないということです。もちろん造影剤の副作用はありません。また先述したように血管周囲に麻酔薬を注入することも可能です。閉塞病変に対しても、エコーガイド下に血栓溶解剤を注入して血栓の溶解状態を観察することができます。PTA後の残存血栓の確認にもエコーは有用です。ほとんどの症例で行えますが、心臓に近い狭窄病変に対しては血管造影が必要になります。

図9 画像クリックで拡大

エコーガイド下PTAはエコーで病変部を正確に描出する技術が必要ですので、血管造影で行うPTAよりも高度な技術を要します。ただ最近はシャントの診断にエコーを使用することが多くなり、エコーガイド下でPTAを行う施設も増えてきています。


6. PTAのほかにどんな方法があるのか?

今では狭窄に対してはPTAが主流となっていますが、PTAでは治療が困難な症例や頻回にPTAを必要とする症例では外科治療を選択します。吻合部近傍の狭窄であれば、すぐ中枢にシャントを再建するのが一般的です。ただし中枢の狭窄に対しては図10に示したような外科治療を選択します。

図10 画像クリックで拡大


おわりに

近年シャントに対するPTA治療は飛躍的に普及しています。再狭窄という大きな問題がありますが、現在バルーンに薬剤を塗布して再狭窄までの期間を延長させるといった試みがなされています。また、さまざまなタイプのバルーンカテーテルが使用できることになり、今後、成績向上が期待できます。

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春口洋昭

春口洋昭
東京の飯田橋でバスキュラーアクセス専門外来のクリニックを開業しています。
午前中に主にエコーを用いて、シャントの診察を行って、午後はPTAや手術の時間にあてています。私は鹿児島大学医学部を卒業後、東京女子医大腎臓外科に入局し、太田和夫先生の指導のもと、一般外科、腎移植、泌尿器科などの研修を受けました。
開業してから、もっぱらバスキュラーアクセスの診療に携わっています。

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