管理栄養士である私が、透析患者になった腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第3話】低塩、低カリ、低リン、低水…
でも気持ちはハイで行こう!
2021.2.1
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私は管理栄養士です。保健所という第一線の行政機関で約30年間、地域の人々に食事指導を行ってきました。自分が透析患者になってから、食事に苦労している方が想像以上に多いことに気づきました。今回は、少しでも透析患者さんの気持ちが楽になるよう、ちょっとした“食べるヒント”を、管理栄養士の目線でお届けしたいと思います。
※この記事での目標値は、透析施設に週に3回通い、1回の治療時間が4〜5時間程度の血液透析(HD)を行う方を想定しています。週あたりの透析の回数が多い方、在宅血液透析(HHD)の方など透析を受けるさまざまな条件や、病態など個人差があるため、目標値はそれぞれ異なります。
減塩:調味料より香辛料を!
加工食品やスナック菓子は要注意
減塩は透析患者には必須です。目安としては1日6g程度と言われています(数字ではわかりにくいですね!)。
塩分を摂りすぎると喉が渇き、血圧が上昇します。私は、もともと薄味好みだったので苦労はなかったのですが、患者さんの中には、味が薄くては食欲がわかない方がたくさんいるようです。
そこで、減塩のコツをご紹介します。 主食はできるだけ白いご飯を選ぶようにします。特に麺類は回数を減らし、食べる場合はつゆを半分残します。また、味噌汁は昔より家庭で飲む機会が減りましたが、外食で出たら具だけ食べましょう。
味付けは、塩、しょうゆ、味噌、ソースなどの調味料ではなく、できるだけ生姜、大葉、ねぎ等の香味野菜、わさび、唐辛子、カレー粉等の香辛料を上手に使うことです。味は舌で「しょっぱい」と感じるものに注意を払うことがとても大事なのです。
意外と塩分で気づきにくいのが、ちくわ、はんぺん、ハムなどの加工食品、菓子類ではせんべい、スナック菓子です。 ある日、主人が買ってきたせんべいの栄養成分表示に、1袋60g当たり食塩相当量1.2gと表示されていました。夫は「1.2gだから問題ないよね?」と言いましたが、すかさず私は「ちょっと、待って! 60gに対し1.2gは2%の塩分濃度だから、味噌汁の倍の濃度だよ!」と。つまり、舌には「しょっぱい」と感じるはずです。案の定、しょっぱかったです。
減塩食品も増えていますが、つい油断して使い過ぎてしまうのが難点。しかも、減塩食品には、次の章で取り上げるカリウムが含まれていることがあるので要注意です。減塩食品などを利用することなく、食材そのものの味を味わうことができれば、万々歳ですね!
低カリ:食べてNGなものはなし!
調理方法で減らす工夫を。
カリウムは血圧を下げる作用があることから健康によいイメージがありますが、透析患者にとって摂り過ぎは命にかかわるミネラルです。日本透析医学会が示す目安は2000mg/日以下。特に野菜、果物、芋、豆、肉、魚、乳製品、海藻など多くの食品に含まれます。野菜も茹でたり、水にさらしたりすれば2~3割減少しますが、生野菜やフルーツをたっぷり食べることは危険です。
また、果汁100%ジュースや健康食品、人工甘味料「アセスルファムK(カリウム)」には、カリウムが含まれているので控えましょう。でも、ゼロにする必要はありません。摂るなら透析日に。ある透析施設では、透析中に2cmくらいのバナナが出されました(笑)。
そうそう、わかめやひじきなどの海藻はカリウムが多いのですが、「もずく」のカリウムはゼロに近いので食べても安心です。“食べてはダメ”ではなく、“何をどのくらい食べるか”です。もし、食べすぎたら、次回の食事量を少し減らす微調整をすればいいのです。
一口メモ:カリウムの摂取目安の違い
日本透析医学会は、透析患者さんは蛋白質をほどほど摂って栄養状態を良くする必要を鑑みて2,000mg/日以下を基準としていますが、基準値はあくまでも目安です。状態や検査結果を見ながら調整しましょう。
低リン:リン吸着剤をうまく活用しよう!
リンは、肉、魚、乳製品などの主に蛋白源の食品に多く含まれています(蛋白質1gあたり約15mg)。リン摂取量の基準値は「1日あたり(0.9~1.2)× 15 × 標準体重(kg)mg以下」なので、例えば身長が165cmの方は標準体重が60kgとなり、1日あたり約810~1080mgに収める必要があります。リンの摂りすぎは、体内のカルシウムとのバランスが崩れ、二次性副甲状腺機能亢進から骨粗しょう症のリスクが高まるので注意が必要です。
でも、無理して蛋白質(おかず)を減らしてしまうと、栄養状態が悪く(低栄養)なるので、毎食1皿は蛋白源をしっかり食べましょう。また、リン吸着剤を上手に服薬することで比較的調整が可能です。
落とし穴は、間食と加工食品。おやつに食べるものには生クリームなど、リンが多いものもありますが、間食ではリン吸着剤を飲まない患者さんが多いようです。3食に飲むリン吸着剤を調整して、間食を多く食べたら服薬しましょう。あと、加工食品にはリン酸塩などの添加物が含まれるので、ハムよりも肉、ちくわより魚を選びましょう。
そして、私のようにゆっくり食べる人(15分~20分)は、リン吸着剤を食前(食中)と食後に分けるなどの工夫もありかと思います。医師や薬剤師に相談するといいですね。
低水:食べ物はよく噛み、
飲み水はマグカップなどで量を把握!
水分をどの位摂って大丈夫かは、尿量によります。透析導入後、早ければ1年くらいで無尿になる方が多いかと思いますが、尿が出なくなると摂取した水分が体内に溜まるので、透析で除水します。体重増加が多ければ、それだけ短時間で血液の水分を除去するので、血圧低下や足のつり、吐き気などがでてきます。
中1日でドライウェイトの3%以内、中2日で5%以内になるように、水分を摂る量を意識しましょう。目安は、尿が出ていれば尿量+500mLです。 私は無尿なのでだいたい1日400~500mLにしています。朝、決まったマグカップに200mLを入れて、夕方までそれ以外はほぼ飲みません。もちろん、味噌汁やスープ類もほぼ飲みません。飲んだらその分、水を控えます。その後、寝る前までに+200mLで合計400~500mLを目安にしています。導入した頃は、週1回ジムに通い2時間トレーニングをすると約400g減るので、そこで調整していました。
塩分を1日6g以内に抑えられれば喉も乾きませんし、薬を飲むときの水だけで足りると思います。コツは、食事でよーく噛むこと! 口の中で一口50回噛むと、唾液と混ざりドロドロになって水分が無くても飲み込むことができます。パン食に、ぜひチャレンジしてみてください。
一口メモ:水分管理をもっとくわしく知りたい方へ
なぜ水分制限する必要があるのか、特にどんなことを気にすればいいのか、どうすれば上手に制限できるのか、もっと詳しくしりたい方は「透析患者さんの水分制限と工夫」もご覧ください。
そして、アルコールは一気に体重を増やしてしまうので要注意! 便秘も大敵。透析患者の便秘は多いので、規則正しい食事と適度な運動が必須です! 浮腫みが出たり、高血圧になったら主治医に相談しましょう。
「透析患者は制限が多くて大変ね」とよく言われます。病院の栄養指導では、「〇〇はダメ! 控えて!」と言われること、多いですよね。実際、健康な人に比べたら大変です。
でもね、世の中には、アレルギーや先天性代謝異常など、もっと食事制限が厳しい疾患があるんです! それに比べたら透析食はまだやりやすい食事療法です。だから、あえて「気持ちはハイ!」で行きましょう。
そうそう、無尿になって得したことは、高速道路でトイレの心配をしなくて済むこと…、ラッキーじゃありませんか(笑)!?
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