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腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第10回】冬はお鍋! 視覚障害者の減塩調理法
2023.11.27
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけると嬉しいです。
第10回はミーナさんの知り合いの話を基にした、視覚障害者が取り入れやすい減塩の工夫についてです。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ)
冬は毎日お鍋を食べる全盲の梅子さん
手軽に調理でき、いろんな食材を同時に摂れて体も温まるお鍋。
今回は、そんな冬の定番メニュー“お鍋”の減塩対策についてのお話です。
梅子さん(仮名)は70代、全盲の一人暮らしの女性です。腎臓病はありませんが、10年ほど前から狭心症を患っており、循環器内科に通院しています。そんな梅子さん、毎年11月から3月まではお鍋を毎日食べるそうです。お鍋は野菜、肉、魚など好みの具材を煮込むだけで調理が楽だから、という理由です。
水炊きでもしゃぶしゃぶでも、具材を適当な大きさに切ってお鍋の中に入れるだけだし、しっかり煮込めば生焼けの心配もありません。味付けも、市販の鍋つゆ(鍋の素)を使えば調味料の分量を確認する必要もなく、確かに調理は楽です。しかし、市販の鍋つゆは味が濃いことが多く、塩分過多になりがちです。腎臓病患者さんにとっても、お鍋は塩分が気になる料理の一つではないでしょうか。
心臓が悪い梅子さんは高血圧で、医師からは診察のたびに「このままでは心筋梗塞や脳梗塞にかかる可能性があるので、減塩して血圧を下げた方が良い」と言われています。高血圧は心筋梗塞や脳梗塞だけでなく、腎臓病のリスク因子でもあります。それでも、冬は毎日お鍋を食べる梅子さん。
高齢で全盲の一人暮らしの梅子さんができる減塩対策は、どのようなものがあるでしょうか。
まずは、減塩の仕出し弁当を頼むという方法ですが、年金暮らしの梅子さんにとっては毎日3食分頼むことは経済的に難しいです。
家事援助のヘルパーさんに料理を作ってもらう方法も、利用時間の上限があり、毎日毎食は難しそうです。
お鍋以外の料理を自分で作るのはどうでしょうか? 普段から自分で調理をしている梅子さんは、簡単なものなら自分で作れますが、やはり作業が単純(切って煮るだけ)ということで、自分で作るのならお鍋が一番楽だと言います。
それではせめて市販の鍋つゆを使わず、調味料を工夫して減塩を目指して欲しいものですね。
粉末調味料を“手分量”で、入れすぎを防ぐ
鍋つゆを使わないお鍋の減塩調理について、家事援助で来てもらっているヘルパーさんに相談したところ「ボトルを傾けるとドボドボ入ってしまう液体の調味料ではなく、手で触って分量などを確認できる粉末調味料や固形の調味料を使ってはどうか」と提案されました。液体調味料をほんの少しだけ入れたかったのに、予想以上にドバッと入ってしまった、という経験がある方も多いと思います。粉末調味料だとそれが防げます。
お鍋なら、塩昆布、鰹節、粉末の和風だしや中華だし、粉末コンソメなどを指でつまんで入れてみましょう。手の感覚で分量もわかりやすく、どのくらい入れればどんな味になるのかは、目分量ならぬ“手分量”で確認できます。また、昆布や鰹の出汁の旨味を効かせることで、塩気を控えめにしてもおいしく感じられます。
ねぎ、しそ、みょうがなどの香味野菜や、ゆず、すだちなどの酸味のある食材をトッピングするのも、塩分を抑えながら味にメリハリが出るのでおすすめです。
こうして調味料の工夫で減塩することができるようになった梅子さんは、現在も狭心症はありますが、元気に生活できているようです。
液体調味料の使い過ぎを防ぐ方法
家族みんなの料理を作る場合や、醤油やお酢などの液体調味料を使いたい場合はどうしたら良いと思いますか? とんかつに液体ソースをかけたい、ハンバーグにケチャップをかけたい、というときもありますよね。
ということで、液体調味料の確認方法についても書いておきます。
目が悪くなってきて、調味料のかかりぐあいや分量を目で確認するのが難しくなってきたら、一度別のお皿やコップに調味料を入れて、それを手で持ったり指でかさを確かめるのが確実です。洗い物が増えて面倒かもしれませんが、調味料のかけ過ぎによる生活習慣病や調味料の無駄使いの対策にはなります。指でかさを確認するのに抵抗がある方は、手をしっかり洗い、心配な場合は使い捨てのニトリル手袋をするなどで、抵抗感も減らせると思います。
とんかつやハンバーグなどのソース類をかけて食べるものについては、別のお皿にソースを出してそこにつけながら食べる、という方法が確実です。これなら万が一ソースを出し過ぎてしまっても、食べる時に付け過ぎないよう調節できます。
この連載でも「味や香りに刺激を求めて調味料を何でもドバドバかける渉さんの話」や「チキンライスにケチャップ1本を使いきる陽子さん・正一さん夫婦の話」などを紹介しましたが、目が悪くなると色々な理由で塩分過多になりやすく、若い人でも高血圧などの生活習慣病のリスクが高まります。目が悪くなってきている方は、意識して減塩対策を行いましょう。
お鍋については調味料で塩分を調整するほか、練り物やウィンナーなどの加工食品を控える、穴の空いたオタマを使って汁を摂りすぎないようにする、といった工夫もできます。
減塩調理を上手に取り入れて、寒い冬をおいしく乗り越えましょう。
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