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腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第9回】腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい~視覚障害者が安心して食事を楽しむ工夫
2023.9.4
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけると嬉しいです。
第9回はミーナさんの知り合いの話やご自身の体験を基にした、視覚障害者が安心して食事を楽しむ工夫に関するエピソードです。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ)
毎日闇鍋〜美月ちゃんと目隠しご飯〜
私より2歳年下の美月ちゃん(仮名)は生まれつき腎臓が悪く、小学生で腎不全となり、数年の透析の後、お母さんから腎臓移植を受けました。
移植前から使っていたステロイド剤や移植後の免疫抑制剤の影響で中学生で弱視となり、私が通う盲学校に転校してきました。免疫抑制剤は移植された腎臓が機能している限りずっと飲み続けなければならず、高校生になる頃には目がほとんど見えなくなっていました。
そんな美月ちゃんの、目が悪くなってからの悩みごとの一つが“闇鍋問題”です。
視覚情報で料理の内容や量を把握できないため、口に入れてみるまで何だかわからないのが恐ろしいのだそうです。生まれつき腎臓が悪く、食事療法が当たり前の日常である美月ちゃんにとって、中身のよくわからないものを食べることは今まであり得なかったのだと思います。
学校の給食や病院の食事は献立の通りに出てくるので問題ありませんが、家庭で食べるものや弁当、外食では、名前から中身が想像できないものも多く、予想と違うものが出てくることも少なくありません。
もともと目が悪い私からすると、毎日闇鍋は「ちょっと不便だな」とは思っても「怖い」と思ったことはなかったので、驚いたことをよく覚えています。
視力が低下してきたら…安心して食事を楽しむための工夫
皆さんも、目隠しをして中身のよくわからないものを食べさせられるとしたら、とても怖いですよね。
視力が低下していて、料理を見てもそれが何なのか視認できない人は、できるだけ商品やメニューの名前から材料などが想像できるものを買うとよいでしょう。難しい時は同伴者、ご家族、店員さんに聞いて確かめるのが確実です。
外食や弁当の場合
A定食、日替わりランチ、レディース御膳などは、名前だけでは中身がわからないので、メニューの写真が視認できない人は店員さんや同伴者に聞きましょう。
スーパーやコンビニなどのおつまみセット、お買い得総菜詰め合わせ、なども中身のわかりにくいものの代表例ですね。
家庭で調理された料理の場合
自分で作った場合は材料がわかりますが、ご家族やヘルパーさんに料理を作ってもらっている人は、材料やメニューを聞いて食べる量を調節したり、素材や成分の情報を食事療法に活かせるといいと思います。
追記…私もちょっとだけ闇鍋でドキドキするようになってきた
生まれつき弱視で進行性の眼病だった私はずっと見えにくい世界で生きてきたので、闇鍋状態を怖いと思ったことはありませんでした。
ただ、腎臓の機能が低下してきて食事に気を遣わなければならなくなり、材料がよくわからない総菜や弁当を買うのは控えるようになりました。
「視覚障害=情報障害」という話は過去の記事でも度々お伝えしてきましたが(「透析と視覚障害【第3回】情報の獲得」)、こんなところにまで影響があるなんて、私も腎臓が悪くなるまで考えもしませんでした。
魚の骨を取ってくれるヘルパーさんとの食事
続いては、私ミーナの話です。ヘルパーの悦子さん(仮名)に同行してもらい買い物に行った際、昼食を食べることになりました。
地元でとれた新鮮な魚介類が楽しめるお店に入り、私たちは「本日のお魚定食」を注文しました。メインの魚料理は日替わりで、この日はブリの照り焼きでした。
ブリならあまり骨がないだろうと思ったのですが、実際に箸を入れてみると所々に小さな骨がありました。私がその骨をうまく避けられず、全部口に入れてしまいそうになったのを見た悦子さんが、「お箸を貸して」と言ってきたのです。お箸を渡すと、悦子さんは私の食べかけのブリから器用に骨を取り除いてくれ、おかげでブリの身をおいしくいただくことができました。
あなたが大切にしたいものって何でしょう?
さて、このエピソードを読んでどう思われましたか?
他人に魚の骨を取ってもらうなんて恥ずかしい、と思われた方もいれば、わがままな人だ、と嫌な気持ちになった方もいるかもしれません。
正直、私も少し恥ずかしいなと思いました。魚の骨を取ってもらうことなど幼い頃に母にやってもらって以来でした。
もちろんその場で断って、骨つきのまま食べることもできました。でも私は、せっかくおいしいブリの照り焼きを食べる機会に恵まれたのですから、ここはご厚意に甘えて食事を楽しみたいと思ったのです。
結果、食べやすくなったブリをおいしく楽しくいただくことができ、お腹も心も十分に満たされて帰途につきました。「また悦子さんと一緒にご飯食べに行きたいな」「今度は同じ店の別の定食も食べてみたいな」と思っています。
このエピソードに正解はありません。自分が何を大切にしたいのかということが重要なのです。
病気の治療も日常生活も、大きなことから小さなことまですべて選択の連続ですね。自分が大切にしていることに忠実な選択ができれば、後悔することは少ないのではないでしょうか。
皆さんが、治療や生活の中で「大切」だと思っていることは何でしょうか?
今一度、考えてみてもらえると嬉しいです。
余談~ミーナの好きな食べ物・嫌いな食べ物とその理由
当連載の「【第1回】砂糖菓子が大好きで腎性貧血に!?〜ミーナの偏食の話〜」で、私は甘いものが大好きで白ご飯が嫌いというお話をしましたが、他にも好きな食べ物、嫌いな食べ物があります。
今回はおまけとして、一見ただの偏食にしか見えない私の食の好みを理由とともに挙げてみます。
①アジの開きは嫌い・アジフライは大好き
先ほどのブリの話と関連しますが、アジの開きは骨を取るのが難しいので嫌いです。骨を気にしなくていいアジフライとアジのお刺身は大好きです(笑)。
②生のオレンジは嫌い・缶詰のオレンジは好き
生オレンジは皮を綺麗に剥くことができず、手やお皿、テーブルがべたべたになるので嫌いになりました。オレンジの味は好きなので、オレンジ味のお菓子やジュース、缶詰は好きです。
③お鍋は嫌い・おでんは好き
お鍋は中身がわからず、水炊きもキムチ鍋も目が見えなければどれも闇鍋になってしまいます(笑)。おでんは具材がだいたい決まっているので安心して食べられます。
④ステーキよりもハンバーグ
ハンバーグは切るのが簡単で、スプーンでも食べられるから気軽に味を楽しめます。
⑤野菜スープよりもシチュー
シチューは具が大きく、スプーンでもフォークでも箸でもつかみやすく食べやすいです。
⑥とんかつ定食よりもかつ丼
丼物はお皿が一つで済むので食べやすいです。とんかつ定食を頼んでも食べるのが大変なので結局ご飯の上にのせてしまいます。
⑦ケーキよりもシュークリーム
ケーキは高さや奥行きがわかりづらく、スプーンを差す角度を間違えて皿の上でケーキがつぶれたり、手や指にクリームがついてしまうことが多いので、クリーム系のデザートを食べるならシュークリームやプリンがいいです。
⑧アイスはカップがいい
棒アイスやコーンの上にのったソフトクリームは、形が崩れたり溶けてきたりしてもわかりにくく、よく膝に落してしまうので、カップアイスをスプーンで食べる方が楽ちんです。
⑨幕の内弁当よりも焼肉弁当
幕の内弁当は色々なおかずが入っていますが、弁当屋によって中身もおかずの配置も違うので食べるのが大変です。それなら「焼肉弁当」のような中身が明らかな弁当の方が安心して食べられます。
⑩食パンよりも総菜パン
菓子パンや総菜パンは、食事をパン2つくらいで済ませられるということや、手で持って食べられるお手軽感が好きです。
こうして食べ物の好き嫌いを並べてみると、味が理由ではなく、食べにくかったり綺麗に食べることが難しいものや具材がよくわからないものが嫌い・または避けていることがわかります。視覚障害者に偏食が多いのも、こうしたことが背景にあるのかもしれません。
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