食生活研究室腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第6回】「自立」という観点で「食事の準備」を考える
2023.2.20
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけると嬉しいです。
第6回はミーナさんの体験を基にした、自立の観点から考える視覚障害者の食事の準備です。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ:s.yuri)
お湯の沸かし方からはじまった道江先生の授業
今回は、小学生の家庭科の授業で行った調理実習のお話です。
私は生まれつき目が悪かったため小学1年生から盲学校に在籍していました。
盲学校の家庭科の先生は2名いて、小学生と中学生の家庭科の受け持ちは道江先生(仮名)というベテランのおばあちゃん先生でした。
家庭科の授業は5年生からスタートしました。
初回はオリエンテーションがあり、その次の授業から調理実習が始まりました。エプロンと三角巾を身につけはりきって調理室へ行ってみると、そこには食材も鍋や包丁などの調理器具も用意されておらず、電気ポットが1台置かれているだけでした。
道江先生は「今日はお湯の沸かし方を練習します」と言うのです。
てっきり何か作るのだと思っていた私たちは拍子抜けです。
電気ポットに水を入れてボタンを押して待つこと数分…お湯が沸きました(笑)。
そのお湯を使ってお茶を入れてみんなで飲んで、その日の授業は終了というあっけないものでした。
家庭科ってつまらない…。
はじめての調理(?)の授業に、私たちはあまり良い印象を持てませんでした。
次の2回目の家庭科の授業も電気ポットでお湯を沸かす練習でした。今度はお茶ではなく、カップラーメンを食べることになったので、ラーメンが大好きな同級生の男子は大喜びしていましたが、それでも何か物足りないような感じがしました。
3回目の授業はガスコンロを使って鍋でお湯を沸かす練習に移りました。沸騰したお湯にレトルトカレーやレトルトのハンバーグなど、それぞれ好きなものを入れて温めて食べました。
火を使うのは少し緊張したものの、この回も正直あまりおもしろいとは思えませんでした。
4回目の授業もやはり鍋でお湯を沸かすもので、ゆで卵を作りでした。この辺でやっと調理実習らしくなってきたような感じです。
それから回を重ねるごとに、電子レンジを使った簡単な調理や、火や包丁の基本的な扱い方を学び、ご飯やみそ汁など、色々なものを作るようになりました。
食べることは生きること
道江先生は、お湯を沸かす練習にどうしてこれほどまでに時間をかけたのでしょう…。
カレーライスやハンバーグなど、子供たちに人気のメニューの作り方を教えた方が楽しい授業になったでしょうし、子供たちも喜んだはずです。
後から道江先生はこう語っていました。
「そのような授業は、楽しい思い出として残るだけで、生きるために必要不可欠である『自分の食べるものを自分で用意できるという生活力』は身につかないため、あえてこのような授業にした」
5年生の夏休みの宿題には、自分でお湯を沸かしてカップラーメンかレトルト食品を温めて昼食に食べるという課題が出されました。カップラーメンやレトルト食品は体に悪いものだということには目をつぶり、食事を自分で用意させることに主眼を置いていたのです。
食事を作る時に重視すること
あなたが料理をする時に重視することは何でしょう?
おいしいものを作りたい。まずはこれですよね。まずいものを作りたいという人はいませんよね。
手軽に作りたい、安く作りたい、栄養バランスの良いものを作りたい、好きなものだけ作りたい、凝ったものを作りたい……「おいしいもの」以外のポイントは人によって食の好みやニーズが違うので、バラバラだと思います。
しかし、そもそも食事は何のためにするのかというと、根本的なところは「生きるため」ではないでしょうか?
腎臓以外にも病気や障害がある方は、食事の準備が大変な場合が多いと思います。
腎臓病の食事療法にも気を使いながら、自分ができる方法で食事を用意するというのは、本当に骨の折れる作業でしょう。それでも、人はご飯を食べなければ生きてはいけません。
幸い昨今は派遣のヘルパーさんに食事を作ってもらえたり、生協などがやっている減塩仕出し弁当なども頼めたりするので、それらを利用すれば済む話ではあります。しかし、たとえばいつも来てもらうヘルパーさんが感染症にかかったりして来られなくなった時など、自分で食事の用意がまったくできない場合は一大事です。
そんなトラブルに備えて、自分のできる方法での食事の調達を常に考えておいた方がいいでしょうし、どうしても難しいという方は、食事の用意をお願いできる人や施設を増やしておいた方がいいと思います。
一般的に「自立」というと、自分のことを自分で行うことだと言われがちですが、依存先を増やすというのも自立の一つの形なのではないかと思います。道江先生がお湯の沸かし方の授業にあんなに時間をかけたのは、それを伝えたかったのではないかなぁと思っています。
確かにイチから調理ができればそれに越したことはないですが、誰かに作ってもらったお弁当なりレトルト食品なりを温めて食べるということでも、生きるための食事そのものは完遂できますからね。
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