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腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第3回】視覚障害者の塩分過多と野菜の摂り方について
2022.11.21
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけると嬉しいです。
第3回はミーナさんの知り合いの話や聞いた話を基にした、視覚障害と塩分過多、野菜の摂り方に関するエピソードです。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ:s.yuri)
中学生で高血圧を発症、先天的な視覚障害の千鶴ちゃんの塩分過多な食生活
千鶴ちゃん(仮名)は私の同級生です。私も千鶴ちゃんも先天的な視覚障害のため小学部から盲学校に入り、クラスも寮の部屋も同じでした。
千鶴ちゃんは渋い抹茶に梅干し、煎餅、漬物などかなり渋い食べ物が好きでした。寮の朝ごはんには、よく梅干しやノリの佃煮、柴漬けなどが出ており、多くの小学生が残す中、千鶴ちゃんは一人だけ、みんなが残した梅干しや漬物をもらって白ご飯をかきこんでいました。
千鶴ちゃんは、中学生になると頭痛や足のむくみが辛いと漏らすようになりました。次第に体調にも変化があらわれ、小学生の時は得意だった体育の授業もバテることが多くなってきたのです。
病院に行くと、中学生にして高血圧になっていることが判明し、このままではいずれ心臓病や腎臓病などにかかるリスクが高いと告げられたそうです。降圧剤を服用し、学校や寮で出される食事はソースを控え、しょっぱいおかずは少なめによそうなどの減塩のための配慮がなされましたが、千鶴ちゃんは隠れてこっそり煎餅などを食べる始末…。体調が悪化したのか、高校生になるころには学校自体も休みがちになってしまいました。
若いころからバランスのとれた食事を
先天性の視覚障害者のエピソードはあまり参考にならないのでは…、と思われた方もいるかもしれませんが、これは先天・後天の問題と言うより、若い方に意識していただきたい食習慣の教訓としてお話ししました。
視覚障害者には好きなものばかり食べてしまう人が多く、若くして肥満や高血圧など、多くが生活習慣病予備軍となりがちです。日頃からバランスの取れた食事を意識しないと、すぐに偏った食生活になってしまいます。
管理栄養士が常駐する施設で栄養計算された食事を摂っている人でも、間食が多過ぎる、好きなものだけを食べるという癖がついていると、食事管理の意味がまったくありません。
ちなみに、盲学校の入学相談時には「好きな食べ物」と「嫌いな食べ物」を聞かれ、塩分については腎臓が悪くなるずっと前から盲学校の管理栄養士さんから「塩分は1日6gまで」と言われていました。視覚障害者に多い偏食を正し、健康的な食生活が送れるよう配慮されているのでしょう。
味や香りに刺激を求めて調味料を何でもドバドバとかける渉さん
渉さんは(仮名)は50代の糖尿病の男性で、全盲です。30代で糖尿病、40代に糖尿病網膜症を発症し、その数年後失明しました。糖尿病の合併症があるにも関わらず、目が悪くなりはじめた頃から後がけの調味料の量が増えてきました。
奥さんやお子さんは、始めは渉さんが見えにくいため間違えてかけ過ぎているのかと思ったため替わりに適量をかけていたのですが、「味が薄い」とさらに自分でドバドバと追加するようになったそうです。もちろん、糖尿病の合併症の進行と他の生活習慣病の予防のためには、それではダメなことは本人も理解しています。しかし、どうしても味を濃くせずにはいられないのだと言うのです。
視覚障害者が調味料をかけすぎないための工夫
目が見えなくなると調味料のかかり具合が分からずに調味料をかけすぎてしまう人は多く、料理の見た目を楽しめない分、つい味や香りに刺激を求めてしまう人も同じくらいいます。
自分で調味料をかける場合でかけすぎを防止するには、視覚障害者用の一定量が出る仕組みの醤油さしや調味料入れを使う方法があります。
味や香りに刺激を求めてしまう人は、とにかく日頃から薄味に慣れるしかありません。最初のうちは、目が悪くて調味料のかかり具合がわかりづらいとか、味や香りに刺激を求めてつい…。という程度でも、舌が濃い味付けに慣れてしまうと、濃い味付けでないと満足できなくなってしまい、やめなければいけないとわかっていてもやめられなくなってしまいます。腎臓病で目が悪くなってきている人は、舌が濃い味付けに慣れてしまわないよう、日頃からダシや香辛料、お酢などを活用して薄味に慣れておく工夫も必要なのです。加工食品に頼ることが多い一人暮らしの方などが急に薄味に慣れるのは難しいかもしれませんが、できることから地道にやって行くことが大切だと思います。
野菜ジュースを野菜代わりに摂っている隆二さん
隆二さん(仮名)は一人暮らしの60代全盲の男性です。健常者の奥さんと暮らしていましたが、奥さんに先立たれたため、食事の準備を自分でやらなければならなくなりました。
週2回ヘルパーさんの調理だけではすべての食事を賄えないため、ヘルパーさんに近所のスーパーに連れて行ってもらい、お惣菜や冷凍食品、そして野菜ジュースを大量に買うことにしています。隆二さんは包丁を使うのが怖く、生野菜の代りに野菜ジュースを飲むのだそうです。
しかし、野菜ジュースは商品によっては糖分や塩分、食品添加物が多く含まれていますし、生野菜の代替としては疑問です。
視覚障害があっても野菜をうまく摂る方法
隆二さんに限らず、包丁を使うのが怖い視覚障害者は一定数います。そういった人たちは、冷凍食品やお惣菜を食べることが多いので、野菜不足に陥りやすくなります。
隆二さんは、健康のためにと野菜ジュースを毎食飲んでいるようですが、じんラボをご覧の皆さんの中にはカリウム制限が必要な方も多いでしょうし毎食野菜ジュースは飲めませんよね。加工食品をある程度は利用しつつも全体のバランスを取る必要があると思います。
それでは、目が悪くなって自分で調理することが難しいと感じるようになったらどうしたら良いのでしょうか?特に一人暮らしだったり、ご家族と同居されていても高齢や病気などの理由で家事をこなす人がいない場合もあるでしょう。
そうした場合、コンビニやスーパーで売ってる袋入りの千切りキャベツやレタス、カット野菜やカットフルーツなどの活用がおすすめです。個包装されたものであれば食べすぎ防止にもなります。
商品の近くに一回分の小袋ドレッシングも置かれていますし、最近は、高血圧の方のニーズに応える形で減塩ドレッシングを置いてあるコンビニもあります。
食べる際もただお皿に盛ってドレッシングをかけるだけということで、難しい作業はありません。
その他、煮物など温かい料理に使える冷凍野菜の活用もおすすめです。冷凍野菜は解凍すると水っぽくなるから苦手だという人もいますが、水分をしっかり絞ればまぁまぁ食べられますし、水分を絞ることでカリウムもある程度減らせるでしょう。冷凍野菜については別の機会に詳しくエピソードでご紹介しようと思います。
野菜さえ食べていれば健康になれると信じて疑わなかった園子さん
続いては20代の女性、生まれつき弱視の園子さん(仮名)のお話です。
園子さんは子どもの頃から虚弱で、障害者向けの職業訓練センターを休みがちだったため、指導員の先生から「そんなことでは仕事に就くのは無理だよ」と言われていました。
視力以外に大きな病気はありませんでしたがお肉が嫌いで、いつも食べるのは野菜ばかり。「野菜は健康にいいし、太らない。野菜を食べていれば健康になれる」と、園子さんは信じて疑わなかったのです。そのため、常に蛋白質不足で、疲れやすい上に風邪をひきやすく、鉄欠乏性貧血にもなっていました。主治医からも「もう少し栄養のあるものを食べなさい」と言われていましたが、嫌いな肉類はなかなか口にしようとはしませんでした。
わがままなだけじゃない。視覚障害者の好き嫌いには理由がある場合が多い
「偏食」というと好きなものばかり摂ってしまうというイメージがあるかもしれませんが、嫌いなものを一切食べないというのも、必要とする栄養素に偏りがある偏食です。
食べ物の好き嫌いは単にわがままだとか、甘やかされた結果だと思う人が多いかもしれませんが、視覚障害者の場合、それなりの理由があるケースが少なくありません。
例えば私の友人に、生のオレンジは嫌いだけどオレンジジュースは大好きだという人がいました。生のオレンジは皮が固くきれいに剥いたり、手や食器、テーブルを汚さずに食べるのが難しいからだと言っていました。オレンジは食べたいけど、うまく食べられない…となれば、ジュースなら手軽だと思うのも仕方ないのかもしれません。
園子さんがお肉を嫌いになった理由はわかりませんが、視覚障害者は食べるのが難しいものが嫌いになる傾向にあり、食べ物へのアクセスが簡単という理由で加工食品が大好きになってしまうことが多々あるのです。自分で食事を用意しなければならない人はある程度は仕方ないかもしれませんが、さまざまな食品をバランス良く取り入れ、偏食にならないようにしましょう。
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