食生活研究室腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
腎臓病・透析をしている方にも知っていただきたい、視覚障害と食について
【第5回】視覚障害者の自炊での工夫
2023.2.6
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視覚障害のある方の食にまつわる本連載は主に視覚障害者の方の話が中心ですが、腎臓に関する話も時折織り込まれています。
透析をしている方は腎性網膜症や糖尿病性網膜症などによって視力が低下する人が少なくありません。この連載では視覚障害のある人がどのような食問題に陥りやすいのか、またどのように対応していくのかについてもお伝えするほか、病気と向き合って生きていく心構えなどもたくさんお話しいただいていますので、視覚障害の有無に関わらず自分に置き換えて読んでいただけると嬉しいです。
第5回はミーナさんの知り合いの話や聞いた話を基にした、視覚障害者の自炊の工夫に関するエピソードです。なお、本連載に登場する人物の名前はすべて仮名、背景情報も個人が特定されないように配慮しています。
(じんラボスタッフ:s.yuri)
料理が好きな弱視の恭子さんはお肉の生焼け対策には缶詰を活用
恭子さん(仮名)は弱視の30代女性で、私の盲学校の先輩にあたります。恭子さんは料理が好きで、私も何度かごちそうになったことがあります。
恭子さんの作る料理は家庭的なものが多く、目が見えにくい分、道具や材料にはさまざまな工夫が見て取れます。
数ある恭子さんの料理の中で私が直接教えてもらったものが、焼き鳥の缶詰を使った親子丼です。お肉の調理で焼け具合を判断するのが難しいなどと相談したときのことでした。
作り方は、まず卵を深めの器に割り、焼き鳥の缶詰(塩でもタレでも可)を汁ごと入れます。続いて玉ねぎを薄く切って卵の中に入れ、電子レンジでチンしたらご飯の上にのせて三つ葉を飾るだけです。
これなら簡単ですし、お肉が生焼けになる心配もなければ味付けで調味料を入れすぎる心配もありません。しかし、缶詰の焼き鳥はリンが多そうですし、汁ごと入れると塩分過多になりかねないので、リンや塩分制限が必要な方は注意が必要です。
腎臓の機能が低下している方は加工食品をうまく活用しつつリンと塩分に注意
親子丼の作り方を教えてもらった時、私はまだ腎臓病を患っていなかったので、この親子丼のレシピをベースに具材を変えて様々な卵とじをよく作っていました。
普通の親子丼の作り方で作ったこともありますが、微妙な色の違いがわからないと肉にしっかり火が通っているか判断できません。生の鶏肉にはカンピロバクターという食中毒の原因となる菌がついているので、口に入れるまで生焼けかどうか確認できないのは危険です。
余談ですが、私の友人で弱視者3名だけで焼き肉屋に行ってO-157にかかった人がいます。一般的に飲食店での食中毒は、店側の衛生管理や食材の品質が原因で集団食中毒となることが多いですが、この日に食中毒にかかったのはこの3人だけ、つまりお肉の生焼けが原因でした。弱視者には「中途半端に見えている」ことで「大丈夫だろう」と思い込む人は多く、これほど危険なことはありません。焼肉屋は照明が薄暗く煙が上がっているなど視界が悪いことが多いので、目が悪くなってきたら気を付けましょう。
味付けに関しても、目分量で調味料を量れないので、普通の親子丼は数えるほどしか作ったことがありません。
視覚障害者は自分で料理をする際、おいしさや栄養バランスよりも安全性と簡便性を重視する傾向があります。実際、缶詰や冷凍食品などを多用する視覚障害者は私も含めて多く、すぐに血中リン濃度が上がってしまいます。
そんなわけで、私はお肉に関しては食中毒が怖いので、半調理されたものや半加工されたものを使うしかないと割り切っています。それでも缶詰の汁は使わないようにするほか、リンの高そうな加工肉などをメインにしたおかずだけでお腹いっぱいにしないよう、野菜や炭水化物も含めてバランスよく食事をとるように気を付けています。
魚も生焼け対策が必要です。一番簡単な方法はサバの水煮缶など缶詰を買ってくることです。これなら絶対に生焼けにはなりませんが、毎回缶詰の魚を買っては割高になりますし、たまには新鮮な魚も食べたいと思うこともありますよね。
そういう時は、お刺身用のように生食できる魚介を選びましょう。万が一生焼けとなってしまっても、それが原因でお腹を壊すようなことはありません。ただ、生食できる魚介類は鮮度が命ですので、その日に食べる分、使い切る分だけを買ってくるようにしましょう。
ちなみに、私は魚の調理に失敗し、生焼けの魚介類でノロウイルスにかかってしまったことがあります。それ以来、自分で魚介類を調理する時は缶詰か生食用のものしか買わないようにしています。
「米くらい炊けなくてどうする」試行錯誤の上、鉄平さんがたどり着いたふっくらご飯のコツ
続いてのエピソード紹介は、40代弱視の男性・鉄平さん(仮名)のお話です。中学生の時に進行性の眼病にかかり、弱視といっても現在はほとんど見えない状態です。奥さんとお子さん1人と生活しています。普段家のことはほとんど奥さんがやってくれていたのですが、ある日奥さんが体調を崩して入院することになってしまいました。
それをきっかけに、奥さんに何かあった際、お子さんが不自由な思いをしないようにと、鉄平さんは炊事や洗濯、掃除など家のことを一通りできるように練習を始めました。そんな鉄平さんが試行錯誤の末たどり着いたご飯の炊き方を紹介します。
まず、お米は普通に計量カップで計ります。お米を研いで水を切るところまでは皆さんと同じ手順で行いますが、ここからがちょっと違います。
皆さんは、炊飯器の目盛りを見ながら水を入れていくと思いますが、目が悪いと目盛りの数字がよく見えませんし、片目失明者などは立体視ができないため、見える方の視力が良くても水かさを目で見て把握するのが難しいのです。
そこで、計量カップを活用します。計量カップの目盛りも見えないのでは?と思われた皆さん、実は目盛りは使いません。
例えば、3合のお米を炊くのであれば、お米は米の計量カップ3杯分入れますね。水の量も同じカップで3杯入れればいいのです※。ただし、お米の量に対して水の量を同じにしてしまうと、かなり硬めのお米が炊き上がるので、ふっくら炊き上がったご飯を楽しむためには3杯半程度がちょうどよいように思います。
水加減はご飯の硬さの好みやお使いの炊飯器の種類にもよりますので、色々と試してみながら、ちょうどよい水の量を見つけてください。
※炊飯の水加減の目安は米1合(180mL、約150g)に対して水200mLです。
ご飯を炊けることが自信につながる
私も、炊飯には結構苦労しました。この方法にたどり着くまで、炊き上がったお米がカチカチになったり、反対にベチャベチャになったりして、随分ともったいないことをしました。あまりに炊飯が難しく思うあまり、サトウのご飯でもチンして食べようかなぁと思ったこともありました。
じんラボを御覧になっている皆さんの中で、目が見えにくくて炊飯に苦労している方は、一度この炊き方を試してみてください。ただ水加減はトライ&エラーで自分なりの正解を見つけるしかないので、うまく炊けるようになるまでは何度かの失敗を経験する必要があることを忘れないでください。
炊飯は料理の基本、目が悪くなってきても、自分でおいしいご飯を炊けると自信につながりますし、自分で炊いたご飯を家族においしく食べてもらえたら嬉しいですよね。
おまけ:「まさか自炊なんてしないよね?」と大家さんに言われた弱視の青年
私の知り合いで、地元を離れて東京の大学に進学した18歳の弱視の青年がいました。お母さんと都内の不動産屋を巡ってのアパート探しの際に目が悪いということを伝えると、大家さんから「自炊しないこと」を条件にされたそうです。
視覚障害者が賃貸物件を借りる場合、火事や事故などを心配する大家さんは多く、自炊や石油ストーブ、喫煙などの禁止をはじめ、転落を心配して洗濯物をベランダに干すことや、窓を開けることさえ禁止するなど、色々と細かい条件を出されることがあります。
しかし、毎日外食ではお財布にも体にもよくありません。そこで折衷案としてガス台を撤去し、電子レンジと卓上IHを活用することで話がまとまり、晴れて新生活を始めることができたそうです。
視覚障害者が調理する場合、ガスの使用はヘルパーさんや家族のいる時だけにするとか、電子レンジや炊飯器などでの火を使わない料理を覚えておくなどの工夫は必要でしょう。
食事とは関係ありませんが、喫煙習慣のある方は目が悪くなってきたら屋内での喫煙はやめましょう。視覚障害のある友人にも、たばこの火の不始末で家が火事になった人がいます。例えボヤ騒ぎ程度でも集合住宅で火事を起こしてしまえば、退去を言い渡されてしまう可能性もあります。
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