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知っておきたい「治験」のこと
〜新しいくすりが生まれるために
【第1回】
治験とは〜新しいくすりが生まれるまで〜
2018.4.19
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くすりが患者の手に届くまで
3歳で慢性腎炎に罹ってから、透析導入も含め私の人生においてくすりを服用しなかった時期はありません。
透析をはじめた頃にはなかったくすりが後年になって発売され、その新しいくすりのおかげで症状が軽減した経験もあります。私にとってくすりは「人生を変えてくれた」と言っても過言ではありません。
数年前から医療関連の会社で講演等のお仕事をいただくようになり、その中で「くすりがどのようにして私たち患者の手に届くのか」について少しずつ知るようになりました。
初めは「くすりとなる材料を研究・開発して、くすりが完成し、医師の手に届き患者が使用する。」程度にしか理解していませんでした。
しかし、考えてみれば当然のことですが、くすりは命に関わるものです。世に出るまでの道のりはとても慎重かつ厳しいルールが存在することに大変驚きました。
私たち患者は、病気の治療にあたりくすりや医療機器等のさまざまな恩恵を受けています。
それぞれがどのような役割を果たすのか、どのような段階を経て治療に活かされているのかを知ることは、私たち患者にとってとても大切なことです。
それこそが「患者が医療と協働すること」、「患者協働」とも言えるでしょう。
そして、患者の協力が不可欠であるにもかかわらず、くすりが誕生する流れの中でなかなか患者が知り得ないのが「治験」ではないでしょうか。
もちろん私も言葉は聞いたことはありますが、その具体的な中身については知りませんでした。
そこで3回にわたり、このあまり知る機会がなかった「治験」について皆さんと一緒に学びたいと思います。
治験とは
くすりが誕生するまでには、長い研究開発期間をかけて「くすりのタマゴ」にさまざまなテストを繰り返し、効果(有効性)の確認と安全性の評価を行います。
そして最後の段階で、人に使用した時の効果や安全性を調べることを「臨床試験」と言います。その中で国の承認を得るために、必要な数の健康な人や患者さんの協力を得て確認する過程を「治験」と呼びます。
「くすりのタマゴ」が「くすり」となるためには、国の厳正な審査をパスすることが必須課程なのです。
なぜ治験が必要なのか
以下のような新しいくすりや治療法の開発に、治験は不可欠です。
- まだ治療法が見つかっていない病気の新しいくすりの開発
- 日本人に合わせたくすりの開発
- 既存のくすりの副作用を少なくする研究や、飲みやすい形状にする工夫
そして、患者さん、医療機関、製薬会社の3者が協力して治験を行うことで、はじめて新しいくすりが生まれます。
現在私たちが使っているくすりは、多くの患者ボランティアによる治験を経て生まれました。
そして、これからの新しいくすりも治験から生まれ、未来へ受け継がれます。
科学は日々進歩していますが、人体には解明されていないことがたくさんあり病気のメカニズムも複雑です。そのため、全ての患者さんに同じようにくすりが作用するとは限りません。
従って、治験に参加した方のデータやわずかな変化も、将来多くの患者さんが服用する際の非常に貴重な情報になります。
治験は患者さんにとって新しいくすりと出会える貴重な機会であり、くすりが世に出た後は同じ病気に苦しむ患者さんの救いになるのです。
新しいくすりができるまで
くすりは次のような段階を経て開発され、9〜17年もの年月と多額の研究開発費を必要とします。
2〜3年 ▼ |
基礎研究研究室での実験を通じて、数多くの新規化合物の中から、新しい薬の可能性があると判断されるものを選別します。 |
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3〜5年 ▼ |
非臨床試験選別した化合物の効果と安全性を調べるため、ネズミ、ウサギ、イヌなどを使った動物を用いた試験に入ります。 |
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3〜7年 ▼ |
臨床試験動物を用いた試験で効果と安全性が確認されたものだけが「くすりのタマゴ」となり、人による臨床試験に入ります。これが「治験」です。さらに治験は通常3つの段階(相)を踏んで進められます。 |
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1〜2年 ▼ |
承認申請・製造販売医薬品医療機器総合機構にて、審査が実施され、効果と安全性が確認されたものだけが厚生労働省に承認され、病気で苦しむ人を助ける新薬が誕生します。 |
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6ヶ月〜10年 ▼ |
製造販売後調査治験では得ることのできない日常診療下での医薬品の効果や安全性を確認します。 |
研究者や医師だけではくすりは作れません、たくさんの人々の協力があってこそ新しいくすりは生まれます。
多くの人が安心して参加できるように、治験は厳しいルールのもとで行われます
「くすりのタマゴ」の効果や安全性を正確に調べるための治験は、科学的な方法で参加者の人権や安全を最優先に行われます。
治験を行う製薬会社、病院、医師は、「薬事法」とそれに基づいて国が定めた「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP:Good Clinical Practice)に従い、次のような手続きと仕組みのもとで行われます。この規則は欧米諸国をはじめ国際的に認められています。
【法律・GCPで定められているルール】
- 治験の内容を国に届け出ること
- 製薬会社は、治験を担当する医師が合意した「治験実施計画書」(「くすりの候補」の服薬量、回数、検査内容・時期などが記載された文書)を厚生労働省に届け出ます。厚生労働省は、この内容を調査し、問題があれば変更等の指示を出します。
- 治験審査委員会で治験の内容をあらかじめ審査すること
- 治験審査委員会では「治験実施計画書」が、治験に参加される患者さんの人権と福祉を守って「くすりの候補」のもつ効果を科学的に調べられる計画になっているか、治験を行う医師は適切か、参加される患者さんに治験の内容を正しく説明するようになっているかなどを審査します。
治験審査委員会には、医療を専門としない者と病院と利害関係がない者が必ず参加します。
製薬会社から治験を依頼された病院は、この委員会の審査を受けて、その指示に従わなければなりません。 - 同意が得られた患者さんのみを治験に参加させること
- 治験の目的、方法、期待される効果、予測される副作用などの不利益、治験に参加されない場合の治療法などを文書で説明し、文書による患者さんの同意を得なければなりません。
- 重大な副作用は国に報告すること
- 治験中に発生したこれまでに知られていない重大な副作用は治験を依頼した製薬会社から国に報告され、参加されている患者さんの安全を確保するため必要に応じて治験計画の見なおしなどが行われます。
- 製薬会社は、治験が適正に行われていることを確認すること
- 治験を依頼した製薬会社の担当者(モニター)は、治験の進行を調査して、「治験実施計画書」やGCPの規則を守って適正に行われていることを確認します。
患者も「共に未来のくすりを創る」という発想を
私は、正直「治験ってちょっと怖い」といいますか、あまり自分とは関係ないイメージを持っていました。
皆さんもそれに近い印象を持っているのではないでしょうか。
しかし繰り返しになりますが、患者が協力して「治験」という段階を経なければ、私たちが使用するくすりは誕生しないのです。
治験は、患者にとって遠い世界の無関係なことではなく、すぐそばにある「自分事」なんですね。
参考
- 厚生労働省 治験について(一般の方へ)(2018/04 アクセス)
- 日本製薬工業協会(製薬協) 「治験」のキホン(2018/04 アクセス)
- 日本製薬工業協会(製薬協) 治験に対する疑問(2018/04 アクセス)
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