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【第3話】知って構えてステロイド治療っ!
2013.8.7
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毎日暑くてじめじめした日が続きますが、みなさんバテていませんか?
私はつい先日、夏休みを利用してスペインに行ってきました。美術館を何件か巡ってきたのですが、ダリとかピカソの絵画よりも衝撃的だったのはスペインの移植事情です。スペインは臓器移植大国で、なかでもバルセロナは移植がかなり盛んだということです!
バルセロナで一番大きな病院の前のホテルに宿泊しておりましたが、黄色い救急車が何台も路上駐車しており物々しい光景でした。事故や病気でドナーが救急要請した場合は、臓器摘出に関わるチームも一緒に同乗して現場へ向かうそうです。うーん。。。移植に対して積極的で素晴らしい体制ですが、私は件数の多さに若干の怖さも感じました。日本ではドナー不足や脳死に関する倫理的問題があり、スペインほど移植は盛んではありませんが、これくらい頻繁に移植が行われるようになるには日本人の倫理観や宗教観を根本的に問われることになるのかなぁとも思いました。
さて今回は、腎臓病の治療の一種でステロイド治療に関することを書かせていただきたいと思います。これは、現在私が働いている病棟でステロイドによる治療を受けている患者さんで、様々な副作用と向き合っている患者さんから「こんなにたくさんの変化があるのだったらもっと前から詳しく聞いておきたかった」と言われたことがきっかけです。
「詳しく」聞いておくことでそれをイメージして精神的に備えることができると副作用発現の際、ストレスが軽減されるといわれています。医師・薬剤師からももちろん説明はあると思いますが、おそらく患者さんと接する時間が一番長い看護師の視点からご紹介させてください。
まず、ステロイド(副腎皮質ステロイド薬)治療を行う可能性のある腎疾患で代表的なものは微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症、急性糸球体腎炎、炎症所見の強い慢性糸球体腎炎、腎障害を伴う膠原病や血管炎などがあります。
使い方は、副腎皮質ステロイド薬は高投与量では免疫抑制作用が発揮されますが、投与量を少なくするとその作用は弱まり抗炎症作用が主となります。はじめは高投与量で、治療効果を見ながら徐々に減量していくのがステロイドパルス療法です。経口投与と点滴投与の二種類あります。
重篤な副作用として、下記のようなものがあります。
①感染症
②消化性潰瘍
③糖尿病
④精神異常(多幸感、鬱)
⑤無菌性骨壊死
⑥骨粗鬆症
⑦動脈硬化
⑧脂質異常症
⑨高血圧
⑩ムーンフェイス
⑪中心性肥満(体の中心部に脂肪が付きやすくなる)
そのほかにも脱力、筋萎縮、不眠、月経異常、創傷治癒遅延、食欲亢進などがあります。副作用が出た場合は、対症療法として速やかにステロイドの減量やその他の薬の処方がなされます。患者さんによっては、ステロイド治療が始まる際に予防的に胃薬や骨粗しょう症の薬が一緒に処方されることもあります。
とはいえ、副作用は本当に患者さんによって出る症状や頻度、重症度が全く異なるので、少しの変化でも医師または看護師に伝えることが重要です。
例えば、入院されてすぐステロイドパルス療法がはじまった方で、不眠がある方がいました。入院による環境の変化だから仕方ない、と考え医師や看護師に伝えずにいたらたった三日で昼夜逆転になってしまい、その後精神的にも眠れない辛さや昼夜逆転により起こってしまった便秘へのストレスで大変苦労されました。前述したとおり、副作用への対策は対症療法が主ですので早期発見・早期治療がカギとなります。そのうえで、どんなに小さな変化でも患者さんからの訴えは重要な情報なのです。
一口に①の感染症と言われても重症でなければただの風邪でしょ?とおっしゃる方もいますが、ステロイド治療中の風邪は免疫機能が落ちているため重症化しやすく、肺炎にかかることもしばしばです。また、ちょっと口の中が荒れたかな?と思っていたら口腔カンジダ症や口内炎にかかっていた、ということもあります。
感染症の予防は手洗い・うがいとマスクです。特にステロイドパルス療法の際は入院して投与量が減るまで「病棟内のみ」などの行動制限がされることもあります。
行動制限は、安静にもつながりますが同時にストレスにもなりやすいので、うまくストレスを解消できるような工夫が必要になります。
③の糖尿病に関しては、もともと持病で糖尿病がある方は悪化する可能性があり、そうでない方でも血糖値が高くなることがあります。殆どの場合血糖コントロールが必要となりインスリン注射や血糖降下薬の増量で対応します。それにより低血糖が起こりやすくなったり食事制限がかかり間食ができなくなったりします。今まで普通に飲めていた砂糖・ミルク入りのコーヒーがブラックへと変更され、ジュースが無糖のお茶へと変更されます。
また、糖尿病ではないのに1日3回のインスリン注射を打たなければならなくなったり、毎食前に血糖測定をしなければならなくなります。明け方に血糖値が極端に下がってしまう患者さんに、ステロイド投与中だけ21時の補食(アイスクリームなど)を食べていただいたこともあります。
④の精神異常については、自分は大丈夫だろうと考えていても薬の副作用で自分の意思に反して多幸感が出てハイになって夜も眠れなくなったり、普段ではとらないような行動をとったりします。その逆もあり、精神的に落ち込んで急に泣き出したり、治療をやめたいといわれる方もいます。多くの場合は、じっくり話を聞いて、興奮による不眠に対して睡眠導入剤を一時的に処方したり、抗鬱薬を処方したりすることもあります。
ステロイド治療はステロイドの量を徐々に減らしていくのが主で、突然中断してしまうと離脱症状(発熱、筋肉痛、無気力、疲労感など)、リバウンド現象(原疾患の悪化)などが起こってしまいますので、内服状況も医療者側が毎回確認できるようにしていきます。
主なものは上記の通りですが、副作用は本当に人それぞれで投与してみないとわからないというのが現状です。内服前に少しでもステロイドのことを患者さんと患者さんを支える方々に知ってもらい、副作用が出た時には医療関係者と協力して患者さんを支えていただけると患者さんも安心して治療に専念できるかと思います。治療の苦しさは患者さん本人にしかわからないもので、患者さんは孤独です。どの治療にも言えることだと思いますが、何よりも患者さんに必要なのは心の支えだと思います。
ステロイドの副作用について書かせていただきました。ステロイドというと副作用が強いというイメージが強いかと思いますが、使い方によって実にさまざまな疾患に対して効果を発揮する素晴らしい薬であり、腎疾患の治療にはなくてはならない薬です。効果がある分副作用のリスクはありますが、この薬のおかげで本来であればもっと悪化したであろう症状が軽減されることが多いのです。現在治療中の方も、これから治療を行う予定の方も、このような症状が出たらどのように対処するのかをイメージして、必要以上に怖がることなく、心の準備をして治療に臨んでください。
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