食生活研究室腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
料理研究家 宮成なみの夢を叶えるごはん日記の作り方
【第5回】おばあちゃんとがめ煮
2016.4.11
緑の文字の用語をクリックすると用語解説ページに移動するよ。
じんラボ をフォローして最新情報をチェック!
- 【第1回】お腹を痛めて生んだ子が…母の決断!お腹を痛めて生んだ子が…母の決断!
- 【第2回】突然の発病
- 【第3回】初めて聞く言葉「しょくじりょうほう」
- 【第4回】闘病生活ってどんなもの? 模索し続けた可能性
- 【第6回】具沢山のスープ 〜保存期の食事療法〜
- 【第7回】食改善・体験報告:飲み方を変えただけで、たったの1週間で、リンが2.7mg/dLまで下がってびっくりした時の話
1年弱の入院生活を終え、食事療法と投薬治療のおかげでなんとか透析をせずに退院することができました。しかし、私の身体は58㎏から38㎏まで痩せ、手足はマッチ棒のように細くなり、目はくぼみ、頬はこけて、お腹だけぽっこり膨らむ餓鬼のような体になりました。さらに肌はレンガのように乾いていて、40歳の母より16歳の私のほうが老化が進んで見えました。
母が持ってきたオーバーオールが重くて、ブカブカで、肩がすれて痛い。
服のなかで身体が泳いでいる。
まずは服を買いにいこう。
退院の日、帰りに母とショッピングセンターのフードコートに寄り、1番小さいパックのたこ焼きを1つ買って2人で分けました。そして入院前と後で体重が20㎏も違っていたので、部屋の中で着られるワンピースを1枚買ってもらいました。
帰ったらまだ残暑の厳しい時期だったのに、家に帰るとおばあちゃんが玄関前でウロウロしながら待っていて、私の姿が見えると駆け寄ってきました。
自分の体のことより、おばあちゃんが転けるんじゃないかってハラハラして…。
「なみちゃん、よかったね、よかったね。おかえり、おかえり」って、抱きしめて頭を撫でてくれました。
その夜、食べたのは「がめ煮」。九州の定番料理の煮物です。
見た目からして、父の皿より私の皿のがめ煮の方が色が薄い。
出汁で炊き、味付けをしたら、私の分はすぐに引き上げて汁を入れずにタッパーに保存。家族の分はそのまま味がしみるまで、鍋の中で煮込みます。
だけど、鶏肉の味がしっかりしみて、干し椎茸の出汁が効いていて、食べた瞬間に「ああ、お家の味だ、私帰ってきたんだ」ってやっと実感できました。
私は入院中、大学ノートに退院したらやりたいことを書いていました。
本当に“Ifのお話”ですけど…。
もし、退院したら…。
もし、元気になれたら…。
もし、これができたら…。
最初に出てきたのは、「退院したらたこ焼きを食べに行きたい」でした。
「検査が終わったら、たこ焼き食べに行こうね」って母と話していたら、緊急入院になってしまい、食べに行けなくなってしまいました。当時は土曜日の学校帰りに友達とたこ焼きを食べに行くのがたまの楽しみで、見舞いに来た友人と「退院したら、またたこ焼き食べに行こうね」と約束をしていました。
夢と呼ぶには本当に、本当に小さな願い。
私の中で「たこ焼き」は、当たり前だと思っていた平穏で幸せな日々の象徴だったのかもしれません。
それまでの私は、風邪と虫歯でしか病院には行ったことがなくて、健康であって当たり前。
平凡でありふれた、普通の女の子だった自分が大キライでした。なんの変哲も取り柄もない、そんな自分が嫌だったのです。
だけど、普通の女子高生だった私は、元気に走り回ることのできていた私は、どんなに素晴らしかったことでしょうか。後悔してもしきれなくて、健康だった時の自分に戻りたくても戻れなくて…。
あの時の私の夢は「普通の女子高生になること」でした。
この記事はどうでしたか?
食生活研究室の最新記事
- 慢性腎臓病(CKD)と食のリテラシー【第2回】最近目にするさまざまな用語 その②次世代のたんぱく資源? 培養肉や昆虫食
2024.12.16 - 慢性腎臓病(CKD)と食のリテラシー【第1回】最近目にするさまざまな用語 その①超加工食品や代替食品ってどうなの?
2024.11.25 - 慢性腎臓病(CKD)とフードファディズム【第3回】気になる「健康食品」と健康のための食品選びの知恵
2024.07.22 - 慢性腎臓病(CKD)の食事療法での皆さんの愚痴や悩み
2024.04.15 - 慢性腎臓病(CKD)の食事療法でのうれしい変化と“棚ぼた”
2024.01.15