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障害者手帳を持つということ〜個人の尊厳と共生社会
2023.1.23
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先日、驚くものを目にしました。
とある障害者手帳を持つ人が、とあるSNSで「【レンタル障害者手帳持ち】というサービスを始めます」と発信したのです。
障害者手帳が交付されると「障害者総合支援法」の対象となり、障害の種別・等級に応じて国、都道府県、市町村によるさまざまな支援策が講じられています。地方公共団体が運営している全国の美術館・博物館などの多くの施設を、手帳を交付された本人(以下、手帳保持者と称します)と付き添いの介助者1名も無料あるいは割引で利用できます。
その人はそこに着目し「自分を行きたい施設に連れていけば、介助者として手帳の恩恵に預かれる、場合によってはタダで施設を利用できる」と言い出したわけです。
本来は手帳保持者の施設利用が前提の筈です。その発言は「あるべき使い方ではない」「制度の悪用だ」「同じ手帳保持者として迷惑だ」という批判的な声から「真似して多くの障害者が街に出ればいい」と肯定する声など、物議を醸しました。
腎臓機能障害は、内部障害として障害者手帳を交付申請できます
障害者手帳は、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳を総称した一般的な呼称です。障害者総合支援法に基づく福祉サービスは基本的に手帳がなくても受けることができますが、手帳を保持することが障害などを持っていることの証明となり、手帳があることで利用できるサービスもあります。
腎臓機能障害は内部障害の一つとして認められており、腎臓機能が一定のレベルまで低下し回復が見込めない場合は身体障害者手帳の交付申請が可能です。すでに多くの方が1〜4級の手帳をお持ちだと思います。
内部障害とは、疲れやすい、携帯電話の電波が悪影響となったり、トイレに不自由する、タバコの煙で苦しくなるなど、外見からはわからず、周囲の方の理解と配慮を必要とする障害です。腎臓機能障害以外に、心臓機能障害、呼吸器機能障害、肝臓機能障害、膀胱・直腸機能障害、小腸機能障害、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害などの種類があります。
なぜ障害者手帳が交付されるの?
障害者手帳は、前述の通り障害者総合支援法に基づく福祉サービスを適切に利用できるように交付されるものです。ここで、障害者総合支援法とは何を目的とした法律なのか確認してみましょう。
障害者総合支援法は、「障害者自立支援法」が一部改正され「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」として名称変更され、2013年4月1日に施行されました。
障害者自立支援法では、障害のある人がその有する能力や適性に応じて自立した日常生活や社会生活を営むことができるように支援を行うことが目的とされていましたが、法改正で目的そのものが改正されました。ここで、新旧の目的を見比べてみましょう。
障害者自立支援法(旧)
(目的)
第一条 この法律は、障害者基本法の基本的理念にのっとり、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、児童福祉法 その他障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって、障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。
障害者総合支援法(新)
(目的)
第一条 この法律は、障害者基本法の基本的な理念にのっとり、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、児童福祉法 その他障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって、障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とする。
強調した部分を見比べてみると、「自立した日常生活」が「基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活」と変わっていますね。これは、この改正の前に成立した改正障害者基本法での、「障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」、「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現」など、単に自立のみを目的とせず、個人としての尊厳が保たれるべき、などと基本理念が追加されたことを受けての改正なんです。
障害者手帳の理念や目的を理解して、上手に利用しましょう
「尊厳」とは、あなたを含めてすべての人が尊重し合うことです。
福祉サービスを利用する際、その提供の目的や理念を歪めて、障害を持たない人が得をするような使い方は果たして「人としての尊厳」にふさわしい行為でしょうか。自分が行きたい場所があって同行者を求めるのであれば良いと思いますが、障害のない人が得するために、手帳保持者の自分を「レンタルする」ことは、自分だけが良ければ良いという自分勝手やわがまま、エゴイズム(利己主義)にしか私には思えません。
20年ほど前ですが、こんな悲しい話題がありました。ある施設で、待ち時間なしでアトラクションに入ることができるサービスの悪用が増えて、そのサービスが廃止されました。障害を説明する苦痛への配慮から障害の説明を省いて自己申告だけで許可(カードを発行)していたため、障害の有無の判別がつかないまま利用者が増え、運営が難しくなったそうです。このように、本来の目的から外れた利己的な使い方が増えることにより、本当に必要としている人が利用できなくなるようなことがあってはなりません。
制度を「賢く」使ってあなたの自立と尊厳を守ることには何の問題もありませんし、最大限利用すべきです。問題なのは、違法ではないからと自分とその周辺の利益のみの目的で、制度を「ずる賢く」利用することです。
障害者手帳の利用場面に限らず、また、障害の有無に関係なく、お互いに人格と個性を尊重し合うことが、あなたの幸せとさまざまな人が共生する社会の実現に繋がります。
参考
- 厚生労働省「障害者手帳」(2023/1 アクセス)
- e-GOV 法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(2023/1 アクセス)
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