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【第2回】社会との折り合いをどうつけていくか~盲導犬と透析クリニックの話~
2024.3.25
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目や耳や手足に障害のある人の手伝いをする盲導犬、介助犬および聴導犬のことを「身体障害者補助犬(通称:補助犬)」といいます。中でも、視覚障害のある人が街中を安全に歩けるようにサポートする盲導犬は最も頭数が多く、2023年10月時点では全国で836頭の盲導犬が活動しています。毎年4月の最終水曜日は「国際盲導犬の日」、今年は4月24日(水)です。
今回は、透析クリニックで盲導犬の同伴を断られた透析患者さんのお話をもとに、社会との折り合いの付け方について考えてみます。
「犬は入れられない」透析クリニックに断られた栄一さん
栄一さん(仮名)は70代の全盲の透析患者です。視覚障害は生まれつきで、高齢になってから高血圧による腎硬化症を患いました。
栄一さんは若いころから盲導犬とともに生活しています。買い物に行くのも、役所や銀行に行くのも、もちろん通院も盲導犬と一緒です。しかし、栄一さんがもともと通っていた病院には透析室がなかったため、透析が必要になった栄一さんは主治医から近隣の透析クリニックを紹介してもらいました。
当然、透析にも盲導犬とともに通うつもりでした。しかし、そのクリニックの院長は「犬は汚いので病院には入れられない」と言うのです。困った栄一さんは、どうしたものかと頭を抱えてしまいました。
なお、身体障害者補助犬法では公共の施設で補助犬の同伴を拒んではならないとありますが、やむを得ない理由がある場合はこの限りでなく、断ったとしても特に罰則はありません。
では、「汚い」と言われた盲導犬の健康状態と衛生状態はどうなっているのでしょう。
まず、盲導犬になる前に健康診断があり、仕事に耐えうる体力と健康状態の犬でないと盲導犬にはなれません。盲導犬としてデビューしてからも、年に一度は獣医師による健康診断があり、狂犬病をはじめとした各種感染症(人畜共通感染症)については毎年予防注射を受けています。また、盲導犬にも定年があり、高齢で体の弱った犬が仕事をすることはありません(盲導犬の定年はだいたい10歳前後、人間でいえば65歳くらいに相当)。その他、定年に達していない犬でも、健康上の問題で盲導犬の仕事に耐えうる状態でないと判断されれば、早く引退させることもあります。
次に衛生状態ですが、大勢の人が利用するさまざまな施設に出入りするわけですから、盲導犬ユーザーは衛生管理にはかなり気を遣っています。電車やバスの他、病院やレストランなど衛生面に配慮しなければいけない場所に行くこともありますからね。そのため毎日ブラッシングをし、定期的にお風呂に入れ、そして時々は盲導犬協会の職員のフォローを受けながら、犬の体調管理と衛生管理を行っているのです。
リスクがある人の一方で、助けられている人もいるジレンマ
このように、盲導犬は普通のペットの犬よりも健康的な生活をしているし、不潔とも考えにくいのですが、世の中には色々な人がいます。単純に犬が嫌いという人もいますが、動物アレルギーの人もいますし、免疫力が低い患者さんなどは動物の媒介する病気が怖いと思うかもしれませんね。
透析患者さんの場合は健康な人よりも免疫力が低いので、さまざまな病気にかかるリスクがあります。それを考えると、透析クリニックの院長の「犬は汚い」という言葉は、単なる犬嫌いや障害者差別で片付けられる話でもないように思えてきます。
おそらくこれは、すぐには答えの出ない問題でしょう。
動物によって具合が悪くなる可能性がある人がいる一方で、補助犬の力を借りて生活している人たちがいるのもまた事実ですので…。
では栄一さんはその後どうしたのかというと、盲導犬の同伴が可能な別の病院を探してそこで透析を受けることにしました。透析中、盲導犬はベッドの下で寝ており、他の患者さんや職員に迷惑をかけるようなことはないそうです。
今回は、盲導犬の同伴をめぐる病院とのやり取りについてお話ししましたが、この社会には色々な人が暮らしています。自分とは違う状況に置かれている人々の立場を知り、理解を深め、お互いに歩み寄ることができれば、もっと暮らしやすい世の中になるのではないかと思うのです。
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参考
- 政府広報オンライン「体に障害のある人の目や耳や手足となって働く 「身体障害者補助犬」への理解を深めましょう」(2024/3 アクセス)
- e-Gov法令検索「身体障害者補助犬法」(2024/3 アクセス)
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