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渋谷笹塚循環器HDクリニック訪問レポート
「小さな透析クリニックの挑戦」
2015.7.30
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この度「じんラボ」にて、渋谷笹塚循環器HDクリニック院長・朝田一生先生に記事を執筆いただくことになりました。朝田先生は東京大学付属病院やさまざまな医療の現場で、数多くの不整脈治療に取り組んでこられた循環器内科の専門医であり、心疾患などの合併症が多い長期透析患者にとって心強い医療者のお一人です。
渋谷笹塚循環器HDクリニックは2014年5月に開院されたばかり。患者のさまざまな要望に合わせるため透析終了は24時です。また在宅血液透析の導入にも対応しています。アメニティも大変充実しており、長い時間透析を受けなくてはならない患者のことをよく考えた施設作りをされています。
今回は朝田先生が考える“患者と一緒にゴール設定を考える透析医療”とは何か、お話を伺いました。
【渋谷笹塚循環器HDクリニック】
院長:朝田一生
所在地:〒151-0073
東京都渋谷区笹塚1-30-3 ビラージュ笹塚Ⅲ 4階
フリーダイヤル:0120-051-137
TEL:03-5738-1501
FAX:03-5738-1502
京王線笹塚駅より徒歩1分
透析医療・循環器診療・一般内科を軸に救急医療を含めた幅広い分野での医療を患者に提供する。広範な診療経験を元に、地域の“かかりつけクリニック”としての機能と、治療を受ける人と協力しあう理想の医療を目指している。
患者のライフスタイルに合わせた医療の提供
よしい かなり遅い時間まで透析が受けられると聞きましたが。
朝田院長 患者さんの活動(仕事等)に合わせて24時まで透析ができるようにしています。できる限り患者さんのライフスタイルに合わせた医療を提供したいと考えています。遅い患者さんだと19時45分に来られて4時間の透析をされる方もいますし、「長い時間受けたい」と早い時間にいらっしゃる方には時間を延ばしたり、一時的に体重が増えすぎた時に時間を延ばしたいという方にも対応していますので、いろいろな要望に応えています。
よしい 働きながら透析されている患者にはありがたい話です。オンラインHDFといった最新の設備を取り入れ、また在宅血液透析の訓練支援などもされていますね。
朝田院長 クリニック内はオンラインHDFのみを扱っています。在宅血液透析は今2人目が自己穿刺のトレーニングに入っていて、じきに3人目が始まります。年内にあと2人できるようにしたいです。
よしい 在宅血液透析は通院されている患者の中から希望者が出ているのですか?
朝田院長 通院されている患者さんから希望者が出ることもありますし、ご自宅が遠方で通うのが大変な方には積極的に勧めています。通勤、通学、そしてクリニックに通うだけでも体力はどんどん削られてしまいますから。
よしい 朝田院長は日曜日などには他の病院や透析施設にも行かれているとお聞きしました。
朝田院長 先日も当直をしてきました(笑)。急患で心停止された方の対応もしたことがあります。今も救急救命の現場にいることがあって、日曜日の夜に夜勤をして、翌日の月曜日にはクリニックに来て普通に働いています。終わるころにはフラフラになっていますが…(笑)
よしい お話を聴いていると、まるで中2日空きの患者のようですね(笑)
朝田院長 ですね!(笑) 透析を受ける患者さんは普通の人よりもシビアに合併症が起きるので、自分が透析を担当する以上3次救急ができるくらいにならないといけないと常々考えています。本当に何が起きるかわからないです。透析をやる覚悟をした以上、何を訊かれても対応したいし、いろいろな合併症に対応して、できたら関節注射と神経ブロックができるようになりたいのです。やはり痛いのは耐え難いですから。
充実のアメニティの意味
よしい クリニックのアメニティがすごく充実していて、DVD内蔵のテレビがあり、無線LANが使えるので透析を受けながらネットができるのは魅力的だと思います。
朝田院長 透析時間が長いのはやはり大変だと思います。透析を受けることで体調が良くなったりするので、患者さんの中ではそのメリット、デメリットを相殺して長い時間透析を受けるのだと思います。そのデメリットを少しでも軽減するための透析用のリクライニングチェアだったり無線LANだったりテレビだったりするので、別にあれがメインではないんです。 アメニティがあるから頑張ってね、じゃなくて時間を延ばすことに苦痛を感じないようにしたい。延ばした分体調が良くなったら人生楽だよと伝えたい。1日5時間の透析だとしたら起きている時間が15時間として3分の1。とんでもなく長い時間ですよ。
よしい 確かに透析時間を短くしたいという患者もいます。
朝田院長 必要な透析量って本当は人によって違いますよね。体格とか運動量とか、本当はその人に合った透析の適正量というものが分かるといいんです。食事の量から適正な透析時間とか分かると面白いんですけれど(笑)。日によっても違うかもしれません。ある日は5時間やった方がいいだろうし、ある日は4時間で足りるということもあるかもしれません。
よしい 朝田先生は“患者さんとのゴールの設定を考える医療”と言われていますが、それはどのようなお考えでしょうか?
朝田院長 目標がないと透析を受けるのは辛いですよね。仕事をするために透析をするというのであればそれでもいいですし、家族のためでも何でもいいのですが、患者さんには目標を見つけてもらいたいと思います。 食事を楽しむとか家族とゆっくり過ごすということもいいですし、何か患者さんがしたいことを最大限支援する形で透析医療を提供したいと思っています。せっかく週に3日会うわけですから、患者さんの人生に関わっていく医療に取り組みたい。
医療側と患者側が一緒に協力しあう医療を目指して
よしい 「治療を受ける人と協力しあう理想の医療を目指す」と貴院のWebサイトにはありました。
朝田院長 うちの技士長は患者さんをあまり患者扱いしていません。基本は患者さんの自己管理、我々はそれをサポートする感じです。あまり命令するようなことはしたくないので、患者さんには提案する形をとっています。ああしなさい、こうしなさいではなく、こうした方が良いんじゃないですか、ということですね。一緒に解決できることが良いと思うのです。身体症状を診て体が痒いといった症状があれば、こうしていきましょうかといった具合に患者さんが困っていることにコミットするのが良いでのはないかと。もちろん患者さんが気づきにくいところは私がしっかり診ていくので、患者さんもできるところでしっかり自己管理していくのが良いと思います。
患者さんから信頼を勝ち得なければいけない、というのが私のポリシーです。数多く不整脈を診てきましたし、救命救急の現場に今でも足を運ぶのは、まずは自分がしっかり自信を持って医療に取り組み、一通りのことはしっかりとできるようにならないといけない、医者としてのキャパを可能な限り高めていきたいと思っているからです。でも、医療側だけが頑張っても上手くいかないし、患者側だけ頑張っても上手くいかない。一緒に頑張っていくのが一番です。
よしい 私はできるだけ自己管理をしっかりとしたいと考えていますが、いつも医療者の方にお世話になりっぱなしで、申し訳ないように思います。家族にも迷惑をかけています。
朝田院長 迷惑をかけた分、健康になればいいんですよ。透析を受ければ、人にしてあげられることも増えますし。隣にいる人が元気にしているのと、“どよーん”としているのでは、絶対に元気にしているのが良いですよね。まずは自分が健康になって周りに笑顔でいるのが良い。何かを返そうと考えるよりも、普通に元気にして笑顔でいるのが一番じゃないですか。
よしい 今後クリニックをどのようにしていきたいとお考えですか?
朝田院長 このクリニックは卒業型のクリニックにしていきたいと考えています。患者さんにはみなさん卒業してもらうようにしていきたい。在宅血液透析とか、移植を受けるとか、PDラスト(透析医療の終末期の一つの手段として腹膜透析を選択する方法)ということも場合によってはあるかもしれません。特に移植は10年は保つと言われていますから。定年後に時間ができたら、もし可能であればパートナー間で移植についてゆっくり話し合ってもいいのかもしれません。 また最初は夜間などで施設透析を頑張ってもらい、在宅血液透析に移るということも卒業の一つの形ですね。
よしい じんラボをご覧のユーザーに何かメッセージをお願いいたします。
朝田院長 困ったことがあれば何でもご相談ください。それが「分からない」という答えかもしれませんが、何かしらの答えは用意します。また、自分の体を守るのは自分です。自己管理をしっかりとして元気で楽しく過ごしてください。
透析室を見学しました
渋谷笹塚循環器HDクリニックの待合室に入った瞬間、そこが医療施設の中だとは一瞬思えないくらいでした。モダンなインテリアが配置された室内にはクラッシックが流れていて、柔らかなソファに腰掛けていると気持ちがリラックスしていくのが分かります。
インタビューを終え、透析室を見学しました。室内には透析用のリクライニングチェアが並んでいます。大きな窓から室内いっぱいに陽が差し込み、明るくオープンな雰囲気です。シートの数は15床とのことで、広い透析室ではありませんが狭さを感じさせません。
突然「よしいさん!」と声をかけられました。声のする方へ目をやると、なんとチーム☆スカイメンバーの1人、梅ちゃんがいました。
「ここで透析をされていたんですね」
ここでは全ての患者さんが透析をしながらフットケアを受けていました。
患者さんの1人が声をかけてくれました。
「ここの透析を受けるようになってから元気になったんだよ」
「写真、撮ってもよろしいですか? 」と聞くと「どうぞ! どうぞ!」とにこやかに応じてくれました。
思わず笑顔に向けてシャッターを切ります。
リクライニングチェアを見るとDVDプレイヤー内蔵のテレビに、タブレット用のアームスタンドも備えられています。 「透析の合間にネットを見たりメールをしたりしているよ」
こちらの写真は、ちょうどお昼ご飯を食べながら、管理栄養士の方から栄養指導を受けている様子です。
透析室の真ん中にテーブルが配置され、そこに医療スタッフの方がいて周囲全ての患者さんの様子を見ることができるそうです。
臨床工学技士・技士長の梅津さんが話をしてくれました。
「患者さんの数もスタッフの数も少ないのですが、患者さんをいつも近くで診られるので安全面でみたらメリットは大きいです。誰かしら透析室にはスタッフがいますが、隣の透析液管理室からもマイクを通して患者さんの声、ブザー音などを聞けるようしています。それに、いつ来ても常に同じスタッフが担当するので患者さんも安心しているようです。また、少ない人数でも患者さん一人ひとりに対応できるように、患者さんの入室時間を細かく設定しています。」
今後はApple TVを導入し、オンデマンドで映画などを観られるサービスも検討されているとのことで、常に患者さんのためになるサービスを検討し続けている姿勢に、患者として頭がさがる思いがしました。
【よしいなをき所感】
透析室に入ると、アットホームな雰囲気が伝わってきました。患者もみなさん元気ですし、スタッフの方とも仲が良いのがすぐに伝わってきます。患者の安全を考えたら、小規模な施設に抑えて一人ひとりの患者さんに手厚く透析医療を提供するという方法も1つの理想の医療であることがよく分かりました。また朝田先生はさまざまな医療の現場で活躍された経験を持ち、今現在でも研鑽を積まれ、さらに医療者としてのキャパを広げていきたいとのことで、患者から強い信頼を得ているのが伝わってきます。
そんな朝田先生の新連載がいよいよスタートします。透析患者の合併症として多くみられる心疾患について、我々透析患者がどのようなことに普段から気をつけたら良いか詳しく執筆していただきます。今後の記事掲載にご期待ください。
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