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透析の友・本の紹介【5】
眉村卓著・『妻に捧げた1778話』
2014.10.2
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紹介する本:眉村卓著・『妻に捧げた1778話』
私、よしいなをきは2003年から大阪芸術大学通信教育学部に籍を置いていました。文芸学科にて文章芸術を勉強していたのですが、この時の教授の1人に眉村卓先生がいました。
2003年の夏に大阪芸術大学のスクーリングが行われました。この年に「小説論」の授業があり、私は眉村先生に直接会えるものと思い楽しみにしていましたが、眉村先生のご都合で教壇には立たれないと聞かされました。このとき、私は「小説論」の単位を取得したのですが、眉村先生会いたさに翌年もう一度「小説論」を受講しました。2度目の講義でやっと眉村先生にお会いすることができたのです。
「小説論」の授業では純文学、大衆文学、SF作品など、担当教授毎に異なる文学の説明がありました。このとき、SF作品について解説してくれたのが眉村卓先生です。眉村先生と言えば、SF作家として著名な方で、特にジュブナイル作品(児童向け文学)では「ねらわれた学園」や「なぞの転校生」などが何度も映画化やアニメ化されており、知っている方も多いと思います。私自身、少年時代に先生の作品は数多く読みました。これらのジュブナイル作品は現在も装丁を新たにして書店に並んでおり、私は自分の子供にも眉村作品を読ませるくらいファンなのです。
授業では古典的かつ代表的なSF作品の解説や、SF作品の中で使われる、例えば「タイムスリップ」や「パラレルワールド」「タイムパラドックス」等の用語解説などもありました。SFとは縁遠いおばあちゃんの受講者が不思議そうに講義を聴いているのは面白かったですね。 授業の中で私が一番嬉しかったのは、こうした基本的なSF用語をSF作家の眉村卓から教授してもらえたということだと思います。
今回は2011年に映画化された小説「妻に捧げた1778話」(映画タイトル『僕と妻の1778の物語』主演:草彅 剛)をご紹介します。癌で余命1年を宣告された奥様のために、眉村先生が1日1話ずつショートショートを書いてあげたという内容です。
ショートショートというのはSFの一ジャンルでもあるのですが、短編小説(ショートストーリー)よりも短い、ということでショートショートと呼ばれています。短い中でも話の終わりに"オチ"があるものですね。先生は、奥様が毎日明るい気持ちで少しでも笑うようにしてあげれば免疫が増すのではないかと考え、1日1話のショートショートを書き始めました。 原稿用紙は3枚以上(実際は平均6枚書いたそうです)、エッセイにはしない、必ずお話にする、病人の神経を逆なでするような話にはしない、荒唐無稽な話でもいいが日常とのつながりをみせる、といった制約を設けて1778話を書き続けました。その時のショートショートをいくつかと、奥様が読んだ時のやり取りなどをこの本の中で紹介しています。
我々にはショートショート文中に一見分かりにくい箇所もあるのですが、それは注釈で理解できるようになっています。奥様に向けて書かれた作品なので、家族にしか分からない思い出が記された作品もあるのです。作品世界に共通の思い出が出てくることで奥様に喜んでもらおうと書いたものなのですね。
こうして眉村先生は日々作品を綴り、奥さんに読んでもらうことでお互いの絆を確認したのだと思います。先生は奥様に捧げた作品の中には、自分の感情ができるだけ出ないよう心がけたそうです。闘病する奥様を見て自分の寂しさや辛さが作品に盛り込まれないよう、寓話としての話作りに集中したとのことです。
最後の入院となった時には、奥様は自力では原稿を読める状態ではなく、眉村先生が枕元で朗読したそうです。しかし、最期が近づくと先生の声も届かず、枕元に書いた原稿用紙を積み上げていくことになりました。
しかし、弱り切っての今度の入院では、妻はもう、原稿を手に持って自分で読むことは出来なかった。病人の具合を見て、よさそうなときに彼が声に出して読んでいたのである。
そんな儀式みたいな真似は、やめたほうがいいのかもしれない。
だが、続いてきたことだけに、中断は悪い結果をもたらすような気がして、やめずにいるのであった。
そしてこの三日……妻はとてもそんなものを聞ける状態ではないので、書くだけは書き、置いているのだ。
「1775 話を読む」より
奥様が亡くなられた翌年が、私が大阪芸術大学に入学した年でした。先生が教壇に立たれなかった理由がそれであると翌年の授業で聞きました。その時の受講生の中には先生の『日がわり1話』(出版芸術社)という本を持ってきている人がいました。先生が奥様に書いた作品をいくつか抜粋し単行本にしたものです。当時の学生達はこの本を通じて、先生の"特別な執筆活動"を知ったのでした。
私も短い文章を多く書く方ですが、先生のようにいろいろな条件を課して、手を抜かず、1人の女性の為に文章を書けるだろうか、と考えます。方法は人それぞれ違うのかもしれませんが、相手のことを想い、残りの時を共にどう過ごすか考えることは誰しも必要なのかもしれません。そうした時の深い思いがこの本には綴られています。是非、お手に取ってみてください。
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