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透析の友・本の紹介【2】
春木繁一著・『透析とともに生きる
腎不全からの再生 精神科医自らを語る』
2013.10.16
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紹介する本:春木繁一著・『透析とともに生きる 腎不全からの再生 精神科医自らを語る』
人工透析黎明期から透析治療を受けられ、また自らは精神科医として透析患者のこころの問題に取り組まれてきた青葉クリニック院長・春木繁一先生が書かれた本を紹介します。
内容は春木先生の体験を元に書かれていますが、若き研修医時代に腎炎を患うところから始まります。いよいよ医療の世界に飛び込み、これからというときに扁桃炎から腎炎を発症。なんとか慢性化しないよう治療に専念し、一時は病気の進行を抑え復学、精神科医として離島の診察所で働くのですが…。
のどかな島での生活が腎炎の存在を忘れさせるかのようですが、横浜に戻り都会での診療をするようになると再び腎炎の兆候が…。宥子夫人との出会い、都会での精神科医としての再スタート、論文に明け暮れる毎日。そこへついに尿毒症の魔の手が訪れます。
1972年6月、頭部の異様な重さを感じた春木先生は自ら血液検査を実施、結果は尿素窒素(BUN)が80近くになっていて、尿毒症が急激に進行していました。結婚を直前に控えての折、慢性腎不全に。食事もしだいにのどを通らなくなり、もはや透析以外に助かる方法はないというところまで来てしまいます。しかしこの頃の透析装置はまだキール型と呼ばれ安全性も高くなく、また透析装置自体、数が少ないという時代でした。
横浜から東京の聖路加国際病院へ転院。しかし、転院してすぐに春木先生は自ら意識混濁が始まっていることに気がつきます。聖路加病院でも当時は透析装置の数が少なく、すぐには透析が受けることが出来ません。そこで今度は設備の整った東京女子医大へ転院することになります。
東京女子医大に転院したときには血中尿素窒素(BUN)の値は200を超えていました。
身体は、これ以上には重く感じられない、というくらいにだるく、実に重く重く感じられた。頭を手で持ち上げないといけないくらいに感じた。幸い部屋にはトイレがついていたので、かろうじてつかまり歩きでトイレまでは行けた。トイレからの帰りはベッドにドサッと倒れこむようにしてたどりつく始末だった。
(13章 太田先生との運命的な出会い より)
東京女子医大でのシャント手術中に、同大学の太田和夫先生から透析患者の精神葛藤の話しを聴くことになります。透析患者の人は、心に〈透析拒否の心〉が生まれてきて、透析治療に慣れるまでに精神葛藤を繰り返し、自殺してしまう人も多いと。いかにして彼らの精神的安定が得られるか研究を始めてみませんかと提案されます。これが春木先生にとって「サイコネフロロジー」の始まりでした。
いよいよ初めての人工透析となるのですが、これが大変なことに。
「血が止まらない、止まらない」。噴出する溶岩のように、口、鼻、耳……粘膜という粘膜から真っ赤な血が流れ出して止まらなかった。尿毒症の症状である出血傾向が強くなってきたのであった。不安を通り越して、恐ろしかった。「どうなるのだろう!?」
(14章 いよいよ透析が始まった より)
手術三日後には尿毒症の出血傾向から透析を受けることになります。しかし激しい吐き気が襲います。出て来たのは血の塊。尿毒症が進んでしまってからの透析での「不均衡症候群」がこれほどまでに過酷だとは、私は知りませんでした。
こんな治療はもう二度と受けたくないと春木先生は思われたそうですが、なんとか精神科医としての再起を図るため、当時、研修医になった奥様の力を借りて人工透析治療を受けていきます。現在、私たちは週に3回、月、水、金とか、火、木、土とか決められた日程で透析を受けていますが、1970年代当時は透析装置が足りないことから、月、水、金の次の週は火、金と週3回と週2回を繰り返したそうです。また、リンの吸着剤に乾燥水酸化アルミニウム・ゲルを服用していたということまで書かれています(現在はアルミニウム脳症、つまりアルミニウム中毒が起こることから乾燥水酸化アルミニウム・ゲルの服用は「禁忌」となっています)。
この本を読むと、黎明期の人工透析治療が如何に過酷だったのか分かります。その過酷な治療を乗り越え、透析歴は現在41年。自らの透析経験をベースに透析患者のこころの問題に取り組み、日本の「サイコネフロロジー」の第一人者へと復活を遂げていきます。
とにかく我々透析患者にとっては読み応えがあります。そしてお医者様が書いた本でありながら表現は分かりやすく読みやすい。また、あのとき自分では言葉にして表すことが出来なかった透析への思い、読んでいけば、そうだ、自分もあのとき同じことを感じた、思ったと気づくはず。透析患者の思いが幾重にもちりばめられた傑作と言えるでしょう。
是非、透析を受けている時間に読んで頂きたい1冊です。長い透析時間があっという間に過ぎていくこと間違いありません。
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