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理学療法士ゆうぼーの じんラボ運動療法講座【第10回】
肩関節症と予防運動療法
2014.12.22
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透析による整形外科合併症には、手根管症候群をはじめとした関節症・神経症状が併発するリスクが高くなります。
特に透析アミロイドーシスによる肩関節症は非常に多く生じます。またこれは透析中に肩の痛みが悪化する傾向が強く、心身共に負担になってしまうことが多いようです。
今回は肩関節症に重点を絞り、肩関節・肩関節周囲の筋肉の解剖を説明しながら、肩関節症発生のメカニズムとその予防運動療法をご紹介します。
肩関節の解剖
赤いマルで囲まれた部分が肩関節です。肩関節は肩甲骨と上腕骨から構成されています。
人間の頭の重量は体重の約8〜13%と言われています。体重50kgの人であれば、頭の重みは約5kg程度になります。
思いのほか重量感がありますが、この頭を支えている肩周囲には、棘上筋(きょくじょうきん)・棘下筋(きょくかきん)・肩甲挙筋(けんこうきょきん)・三角筋・小円筋・大円筋・僧帽筋(そうぼうきん)等、多くの筋肉があります。
しかしこれだけ多くの筋肉があっても、一つひとつは微細な筋肉です。それぞれの働きは異なっているため、生活習慣によって負荷のかかる筋肉は限定されてきます。
例えばデスクワークや読書をすることが多い方は、頸部(けいぶ:頭と胴体をつなぐ部分)の筋肉や僧帽筋の上部繊維に負荷がかかりがちです。野球やテニスをされる方は回旋筋腱板(肩甲下筋・棘上筋・棘下筋・小円筋)を痛めやすいです。このようにその人の生活スタイルによって負荷のかかり方や、それに伴って痛める筋肉は変わってきます。
肩関節を動かしてみて、みなさん自身がどのような動きで痛みや制限を感じるか試してみましょう。
肩関節は球状をしている関節ですので、360度可動することが可能な関節です。しかし痛みや制限は原因によって発生する部位や方向が異なります。
そこでまず以下の運動をしてみてください。
肩関節前方挙上
片腕を前に伸ばし、そのまま上に挙げる
この動きで痛みが生じる場合は上腕二頭筋腱(じょうわんにとうきんけん:腕を曲げた時に浮き出る筋肉。)の腱鞘炎(けんしょうえん)や棘上筋による問題が考えられます。
肩関節外転
①手のひらを上にして腕を真横に伸ばす
②そのまま真上の方へと挙げる
この側方(わきの方)への外転運動で痛みが生じる場合は、回旋腱板(かいせんきんばん)に問題がある可能性があります。またアミロイド沈着による痛みが生じやすいのもこの動きになります。 どちらの動きにおいても痛みや可動域制限が生じる場合は、拘縮(こうしゅく:関節の動きに制限がある状態)が発生している可能性がありますので注意が必要です。
透析患者さんでは、アミロイドが烏口肩峰靭帯(うこうけんぽうじんたい)や肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)、上腕二頭筋滑液鞘(じょうわんにとうきんかつえきしょう)等に沈着してインピンジメント(衝突)が起こり、痛みが発生することが多いです。これに伴い肩を動かすことを避けていると関節拘縮が生じます。関節拘縮は関節包や筋肉が硬くなってしまうことにより、運動時の痛みや可動域制限が出ます。
またアミロイド沈着による痛みは臥位(がい:寝た状態)や夜間になると悪化する傾向が強いです。この理由は、ベッドに横たわっているとベッド面に押し付けられることや関節が狭窄してしまうことにより痛みが生じやすくなることが挙げられます。
しかし立位や座位姿勢では腕が重力に従って垂れ下がることにより関節が広がるので、痛みは生じづらくなります。
このように肩周囲は痛めやすい構造になっている上、透析患者さんはアミロイド沈着による特有の症状が出る傾向があります。
そこで肩関節症の予防運動療法をご紹介します。
コッドマン体操
この体操は、自分の腕の重さを利用して、肩関節周囲の筋肉や関節包(かんせつほう)をほぐすことができます。写真のように腕を垂らし、円を描くように腕を回しましょう。
肩甲骨の体操Ⅰ
①胸を張って肩を後方へ引くようにする
②肩を出来るだけ前に突き出す
これは肩甲骨周囲の筋肉を伸ばす運動になります。この写真では分かりにくいのですが、胸は張ったまま肩の動きに注意して行ってください。
肩甲骨の体操Ⅱ
写真のように背側でタオルを持ち、上下に動かします。これも肩甲骨の運動になりますが、上方回 旋・下方回旋という動きを伴います。Ⅰの体操よりも複雑な動きをするため、肩関節周囲の多くの筋肉を使います。そのため痛みが生じる場合も多いので、痛みが生じた方は中止してください。
内旋・外旋運動
楽しみながら実施しましょう!!
セラバンド(米国理学療法士協会認定商品)を使った運動です。セラバンドを丈夫な柱などに縛るか他の人に持ってもらい、写真のように真横に引く運動です。
この運動は肩周囲の筋肉だけでなく、大胸筋や広背筋などの大きな筋肉まで使用されます。スポーツではインナーマッスルなどと呼ばれ、この運動は重要視されています。それは前回「膝関節の運動療法」の際にお話しした主動作筋と拮抗筋の働きがあるからです。外側-内側とバランス良く維持する必要があります。
肩は手を上げ下げするだけでなく、捻じったり、回したりとさまざまな動きをします。この動きは日常ではあまり使用しないので、しっかりと鍛えておくと良いでしょう。
以上説明した通り、肩関節は構造が複雑なために痛めやすくなっています。特に透析患者さんは発症頻度が高いので、今回紹介した運動は注意して実施してください。
参考
- 奥津一郎(1996)『長期血液透析患者における手根管症候群および肩インピンジメント症候群の鏡視手術/透析会誌 p.1363〜1369』
- 奥津一郎、浜中一輝、田邊恒成(1996)『長期血液透析患者の肩痛-透析患者における新しい疾患概念/日整会誌p.55〜60』
- 齋藤正和、松永篤彦(2005)『透析患者の体力特性とその測定方法/理学療法22 p.258〜262』
- 松嶋哲哉 (2013)『透析患者における運動と効果 臨床と研究/日本透析医会雑誌 28 p.94〜100』
- 下条文武、荒川正昭(1988)『透析アミロイドーシス/SRL宝函 p.1〜6』
- 山本卓、風間順一郎、成田一衛(2012)『腎と透析 透析アミロイドーシス関連骨症の診断と治療/東京医学社 vol.72 no.5 p.723〜727』
- 二宮俊憲、小川亮惠、井上剛(1997)『肩関節21巻第3号 透析患者の肩関節痛について/日本肩関節学会 p.561〜563』
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