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理学療法士ゆうぼーの じんラボ運動療法講座【第8回】
腰痛症と腰痛予防運動療法
2014.8.21
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はじめに
今回は、誰しも悩まれた経験があると思われる腰痛症についてお話ししたいと思います。
腰痛には、骨・関節・神経・筋肉・内臓などの病変によるさまざまな原因があります。特に透析患者様は長時間同じ体勢を課せられる為、腰部の痛みが慢性化しやすくなっています。
腰痛にはさまざまな発生の仕組みがありますが、腰痛発生患者様に共通していることは、腰周囲の筋肉(腹直筋・腹斜筋・多裂筋・脊柱起立筋等)が低下していることに加え、脊柱アライメント(解剖学的に正しい脊柱の位置や姿勢、正中軸)に変形が及んでいることが挙げられます。
先天的にせよ、諸原因に伴った後天的症状にせよ、筋力低下や脊柱の変形は腰痛症の患者様ほとんどにみられます。
腰痛について
腰痛治療には外科的な手術や薬剤の服用、装具による固定法、理学療法等さまざまありますが、今回は腰痛発生のメカニズムについて説明しつつ、腰痛を予防するための運動療法を紹介します。
運動療法により腰部周囲の筋肉を強化することは、変形などによる骨格的な不整を有する人にとって非常に大切なことです。骨格が正常でない場合は姿勢不良に影響してきて、二次的な症状として別部位の痛みを誘発したり、痛み発生箇所周辺の筋力低下を招きます。また腰部の痛みも増悪してしまいます。
腰痛の代表的な原因
- ①退行変性
- 年齢を重ねるごとに骨の強度や筋肉の収縮力が低下していきます。特に透析患者様は骨がもろくなりやすいので、なおさら進行が早まるリスクがあります。
- ②椎間板の機能低下
- 椎間板は椎骨のクッションの役割を果たしますが、加齢や身体を酷使することにより、椎間板は水分を失いクッションとしての作用を喪失していきます。
- ③筋力低下
- 腰部周囲の筋力が弱まることにより体幹部の固定性が悪くなり、動作時における身体のバランスも低下してしまいます。これにより腰への負担が増大します。
以上、代表的な腰痛発生の仕組みと原因について挙げましたが、他にもヘルニアや脊柱管狭窄症などさまざまな原因があり、人によって原因は異なります。
腰椎アライメントについて
腰痛症と姿勢との密接な相関関係について簡単に説明します。
矢状面(横側)からみた腰椎は生理的前彎(ぜんわん)といって図AのようにS状になっており、胸椎より前に出ている構造をしています。 この特徴によりクッション性を高めています。また、脊柱は左右に捻じる動きも行うので、捻転(ねんてん:ねじれて向きを変えること)できるようにこのような構造をしています。
図A:脊柱矢状面(横から見た面)
臨床的には、腰痛症の患者様はこの胸椎から腰椎移行部や骨盤のアライメントに異常をきたしていることが多くなっています。
また、頸椎(首の骨)や肩こりによる痛みは腰痛とは一見関係ないように捉えられがちですが、腰痛を引き起こす主要な原因となります。
首と腰は位置的に遠いのですが、頸椎と腰椎は胸椎を介して繋がっています。要するに腰椎も頸椎も脊椎という大きく一つの単位として括られます。
さらに肩こりが発生しやすい肩甲骨周囲筋(僧帽筋(そうぼうきん)や菱形筋(りょうけいきん))などによって繋がっています。
首の痛みや変形・肩こり等による姿勢不良や痛みを回避するような動作が、やがて腰痛症の起因因子となってしまう訳です。
腰椎は身体の中心にあり、姿勢を維持する為の軸となります。腰痛が発生すると写真Bのような姿勢になる傾向が多く、腰が曲がると膝も曲がってきます。
実際に腰を前方に曲げた姿勢で立っていただくと分かりますが、重心が前方へ偏り過ぎてしまうため、膝を曲げることによって安定化を図ります。これを意識的に行う方は少ないと思いますが、人は姿勢反射という能力があるので無意識に転ばないようなバランスの姿勢を保持しようとします。その為、腰痛が発生すると写真Bのような姿勢をとることが多なくる訳です。
写真B:腰痛症患者に多くみられる立位姿勢
このような姿勢不良になると、下記などの問題が生じてきます。
- 腹筋の働きが悪くなる
- 背筋の緊張が高まって痛みが発生しやすくなる
- 腸腰筋・大腿直筋の短縮
- ハムストリングス(太ももの裏)の伸張性低下による筋出力低下(筋力が発揮しづらくなる)
以下でこれら腰痛に伴う症状へのアプローチ方法、腰痛予防運動を紹介します。
運動療法
①骨盤前・後傾運動
椅子に腰掛け、骨盤の動きを意識し、オヘソを前に出すようにします。20〜30回程度行ってください。
腰椎は骨盤(腸骨・仙骨・坐骨・尾骨)の動きや傾きの影響を多大に受けます。よって骨盤の制動性を失ってしまうと腰椎症の増悪を招きかねないので、痛みが出ない範囲で骨盤前・後傾運動を行いましょう。
②座位で出来る腹筋運動
手を前に突き出し、雑巾がけをするように動かします。これも20〜30回を目安に行ってください。
仰向けに寝て行う腹筋運動が一般的ですが、それでは自分の体重+重力が加わり負荷が強過ぎるので、座った状態でも出来るこのような腹筋運動は腰痛にもやさしくかつ効果的です。
③ハムストリングス(太ももの裏)のストレッチ
タオルを足裏に引っ掛けます。これを腕の力を利用して、体幹を前屈させます。
すると太ももの裏が伸ばされ、引っ張られるようになります。これを痛みが出ない範囲で行ってください。
③は、②が容易に出来るようでしたら、応用編として実施してください。
④大腿直筋のストレッチ
正座し後方に手を付いて、徐々に上体を後ろへ倒していきます。太ももの前面が引っ張られるような感覚がしてくるので、これも痛みが出ない範囲で行ってください。
短縮して収縮力が低下した筋肉は、ストレッチをすることにより収縮しやすくなります。また姿勢不良も筋肉の伸張性が増すことにより改善が望めます。
⑤背筋のストレッチその1(背臥位)
1. 仰向けに寝て、膝を抱えるようにして丸くなってください。
2. 腕の力を利用して、膝をおなかに押し付けるように引き寄せてください。
⑥背筋ストレッチその2(四つ這い)
四つ這いになり、骨盤の動きを意識しながらオヘソを床に向かって突き出すように動かしてください。
腰椎症患者様は、写真Bのように姿勢が悪くなることが多くなっています。このような姿勢になると背筋の緊張が高まり、いわゆる筋肉が張っている状態になります。それにより血行不全になり、筋肉が硬直した状態に陥ります。
そういった筋肉の緊張を解き、腰痛の予防・姿勢改善を図るべく念入りなストレッチは不可欠です。
逆に身体を反り返すような姿勢をとる場合もありますが、普段動かさない方向に身体を動かしてみると、不動状態であった関節の可動性向上や筋肉のハリ軽減になるでしょう。
⑦腰椎の捻転可動域運動、背筋のストレッチ
肩が床から離れないように意識して、足を捻じります。背中やオシリの筋肉が引っ張られるようになりますので、痛みが出ない範囲でストレッチしてください。
⑧殿筋筋力強化訓練
仰向けに寝て膝を立て、オシリを出来るだけ高く上げます。20〜30回を目安に行い、慣れてきたら回数を増やしてください。
⑨下肢筋力強化訓練
この運動は下肢の踏ん張る力(殿筋・ハムストリングス・下腿三頭筋等)の強化に効果的です。片側の足をやや前に出し体重を乗せていきます。前に出した足の膝関節が90°程度まで曲がったあたりで止めて、また開始姿勢に戻るという運動を、片側10〜20回を目安に行ってください。
★この運動は負荷が強くバランスを崩しやすいので、手すりなどに掴まって実施してください。
⑧の殿筋筋力強化訓練と⑨の下肢筋力強化訓練は、殿筋(オシリの筋肉)や下肢全体の筋力を鍛える運動になります。
股関節と骨盤の連動した動きを伴うこれらの筋トレは、腰痛症に併発しやすい筋力低下発生部位に当たる腸腰筋やハムストリングスの筋力強化に非常に効果的です。
いくつか自宅でも出来るような簡単な運動療法やストレッチをご紹介させて頂きましたが、運動は無理して行う必要はありません。体調や血圧の状態に留意しながら実施してください。
注意事項
腰痛発生したばかりの急性期の方や動作時における痛みが著しい方は、運動を行わないでください。医師の診断を受けることをおすすめ致します。
参考文献
- 佐々木邦雄ほか『股関節肩腰仙椎の矢状面アライメントのレ線学的検討:西日本整形・災害科学会/整形外科と災害外科2001-09-25 p.1015〜1017』
- 武政龍一ほか(1994)『慢性腰痛に対する体幹筋力強化訓練:日本理学診療医学会/理学診療5 1994 p.90〜95』
- 加賀谷善教ほか(2005)『腰痛発生機序からみた運動療法の選択:鹿屋体育大学スポーツトレーニング教育研究センター/スポーツトレーニング科学2005-3 p.44〜48』
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