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重複障害と透析

【第5回】目が悪くなってきたら怪我や内出血に注意~ぶつかる・つまずく・転ぶ~

2024.10.28

文:ミーナ

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認知症に関する新聞記事イメージ

腎臓病患者さんの中には、骨代謝異常があったり、ステロイド系の薬剤の長期使用で骨がもろくなり骨折しやすくなっている人もいるかと思います。また、透析をしている場合は抗凝固剤や血栓予防薬の影響で内出血が生じやすかったりもします。目が悪くなってくると周囲の安全を確認しにくくなるので、怪我や転倒のリスクは大きくなります。また、秋から冬は夏に比べて暗くなる時間が早いので、外出時は特に注意が必要です。

今回は目が悪い人の怪我の事例を挙げながら、その対策を考えてみましょう。


1. 曲がり角でぶつかって顔の骨を骨折した美月ちゃん

まずは、食生活研究室のエピソード「毎日闇鍋〜美月ちゃんと目隠しご飯〜」で登場した美月ちゃん(仮名)に再登場していただきましょう。美月ちゃんは生まれつき腎臓が悪く、小学生の時に腎移植をしたのですが、ステロイド剤の長期使用の影響で目が悪くなり、盲学校に転校してきました。

ある日、校舎内の曲がり角で大柄な全盲の男子生徒と正面衝突してしまいました。相手も目が見えないのでお互い様ということで、一言謝りあえば済む話だと思われましたが、ステロイドの影響で骨がもろくなっていた美月ちゃんは、顔の骨を骨折してしまいました。

盲学校では校内での接触事故などを防ぐために、廊下や教室に誘導手すりがあるなどの工夫がされていたり、廊下を歩くときのルールも細かく決められています。それでも年に数件はこうした事故が起きてしまいます。視覚障害者のために作られた施設や環境でもこうした事故が起きるなんて、ちょっとびっくりしませんか。そう考えると、普通の公共施設や道には、もっとたくさんの危険があることが想像できますよね。


2. 「中途半端に見えている」が仇になって駅のホームから転落した清美さん

続いては弱視者にありがちな怖~いお話を紹介します。
清美さん(仮名)は中途視覚障害の40代の女性です。進行性の眼病で徐々に視力が衰えていきましたが、病気を受け入れられず、杖を持つことにも抵抗を感じていました。

ある日、用事のため、いつものように杖を持たずに電車で出かけました。ホームがいくつもある大きな駅で乗り換えがあり、清美さんはホームを移動して乗り換えの電車を待っていました。やがてホームに電車が入ってくる音がしたので、乗車しようと電車の方へ歩いて行ったのですが、あっさりと線路に落ちてしまったのです。

実は、ホームに入ってきたと思った電車は自分が待っていた電車ではなく、別のホームに入ってきた電車であり、しかもその日は天候が悪く霧が出ていたためによく見えず、足を踏み外して落ちてしまったのです。
その後、お客さんが緊急停止ボタンを押してくれたり線路から引き上げてくれたりして助けてもらえたとのことで、軽い捻挫と打撲で済みましたが、一歩間違えれば大惨事でした。


3. 怪我をしたことにも気づかない邦夫さん

邦夫さん(仮名)は60代の糖尿病患者さんです。10年ほど前に糖尿病網膜症を発症し弱視となりました。ここ最近は神経障害の方がだいぶ進行してきており、足の感覚がわかりにくくなってきています。そんな邦夫さん、ある時足をぶつけてしまったのですが、足の感覚が鈍く、目も悪いのでぶつけたことに気が付きませんでした。家族から血が出ていると言われ、はじめて自分が怪我をしていることに気付いたといいます。
その傷はなかなか治らず、現在も病院で手当を受けています。普通の人なら些細な怪我であっても、糖尿病の邦夫さんの場合、一歩間違えれば足の切断に至るかもしれず、とても怖いことです。


目が悪くなってきた人が怪我や内出血を予防する方法

それでは次はいよいよ、目が悪くなってきている腎臓病患者さんが怪我などを予防する方法について考えてみます。

めがねやサングラスで見やすい環境を作る

眼鏡の処方箋

まずは当たり前のことですが、自分に合っためがねやサングラスなどで見やすい環境を作りましょう。一般的な近視や遠視のめがね、老眼鏡などはめがね屋さんで作ってもらえますが、糖尿病網膜症などの目の病気を診断されている場合は、眼科で処方箋をもらうと良いでしょう。

また、大学病院などの大きな病院では「ロービジョン外来」という弱視者の視環境を相談できる外来を設けているところもありますので、必要に応じて相談してみましょう。ロービジョン外来では病気の治療ではなく、補装具の選定、目のリハビリ、支援機関などへの橋渡しが主な診療内容となっています。

露出の少ない服を着る

人が怪我をしやすい部位は主に四肢です。腕にシャントを作製している透析患者さんは、腕の怪我でシャントの損傷や閉塞のリスクがあります。また、糖尿病患者さんや動脈硬化などで血流が悪くなっている方は傷が治りにくく、特に足の怪我では壊疽や足の切断にもつながることもあります。手や足を怪我から守るためには長袖などの露出の少ない服を着るのが良いでしょう。

ゆっくり歩く

目が悪いことを人に知られたくないという気持ちから、見えている時と同じ速さで行動しようと無理をしてしまう人がいますが、ゆっくり歩いた方が、何かにぶつかった時などの体への衝撃は少なく怪我の予防になります。また、つまずいたり転びそうになった時も体勢を立て直しやすくなります。
例外として、先天的に目が悪く勘が良い人は反射神経が良いので速足で歩いてもそうそう大怪我はしませんが、中高年で目が悪くなった人は、加齢による運動能力や反射神経の低下、他の病気による身体能力の低下などがあり危ないので、真似しないようにしましょう。
急がずに済むよう、いつでも時間に余裕を持って行動するのが大切です。

助けを求める

目が悪くなると周囲の状況がわかりにくくなります。わからないことをそのままにしておくのも怪我や事故につながります。目が悪い人の怪我や事故の原因には、2つ目の電車のエピソードのように、勘違いや思い込みから来るものもたくさんあります。特にその場での判断が必要な場合など、自分での判断が難しければ、周囲の人に聞くのが良いでしょう。

杖を持つ

折りたたみの白杖

弱視者で一番ハードルが高いのは実はこれです。「まだ見えてるから大丈夫」「近所の人や会社(学校)の人たちにどう思われるか心配」「病気を受け入れられない」などの複雑な感情が入り混じり、どんなに危険な状態になっても杖を持ちたがらない弱視者が多くいます。そして、駅のホームから転落した清美さんのように実際に痛い目に遭うまで、あるいは本当に目が見えなくなるまで、頑として杖を持たずにいる人もたくさんいます。
しかし、小さな怪我が大事に至る可能性がある病気をもつ人は、安全のためにできる対策は是非してほしいと思います。
もちろん、常に杖を持たなければいけないということではありません。
弱視で杖を使う人の中には、状況によって持ったり持たなかったりという人もたくさんいます。たとえば、折りたたみの白杖をカバンに入れておき、暗い夜道や、人混みでだけ使うなどです。抵抗がある方も、少しの時間から試してみてもらえたらと思います。

部屋の整理整頓

さて、上記5つは主に外を歩くときに注意することを挙げましたが、家の中での危険もたくさんあります。特に、物が雑然と置かれた散らかった部屋は転倒や怪我をしやすいので、こまめに掃除して片付けておきましょう。人の動線を確保しておき、そこに段ボールなどを置かないようにするのもお忘れなく。


今回は目が悪い腎臓病患者さんなどの怪我の予防について話しましたが、いかがだったでしょうか。透析をしているとさまざまな病気にかかるリスクがあり、糖尿病患者さんや動脈硬化が進んでいる方は血流が悪いために治りが遅くなりがちなど、ちょっとした怪我でも治療に時間がかかることもあります。

できるだけ怪我をしないよう、まず予防するのが大切なことだと思います。

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ミーナ

ミーナ
1990年9月生まれです。生まれつき、先天性緑内障という目の病を持っており、幼い頃から弱視で現在はほとんど見えていません。腎臓は2017年に急な体調不良から緊急透析導入となり、今に至ります。原因は不明です。視覚と腎臓の重複障害ですが、日々楽しく生活しています。
趣味は読書で、4時間の透析中に1〜3冊くらいは読んでしまうかなりヘビーな読書家です。

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