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自分のシャントをよく知ろう!
飯田橋春口クリニック・春口洋昭院長の解説とお悩み相談
【第1回】内シャントが生まれるまでの歴史とバスキュラーアクセスの種類
2014.4.14
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「じんラボ」オープン1周年を記念して、東京の「飯田橋春口クリニック」春口洋昭先生に執筆していただくことになりました。春口先生はバスキュラーアクセス(シャント)を専門に数多くの患者さんのシャントの診療・治療をされています。
透析患者さんにはとても身近なシャントですが、まだまだ知らないことや不思議に思っていることがたくさんあるでしょう。また、これからシャントを作る慢性腎臓病(CKD)患者さんにもさまざまな疑問があると思います。 春口先生の連載を通してこれらの疑問を解消し、シャントをよく知るきっかけになればと思います。
Ⅰ. 内シャントが開発されるまでの歴史
血液透析を受けるためには、1分間に200mL/min程度の血液を人工腎臓に通すことが必要になります。私たちの腕の静脈からは採血はできますが、1分間で200mL/minの血液を取り出すことは困難です。そのため、内シャントが開発されました。内シャントを作製すると静脈に動脈血が流れ込み、静脈の血流が10倍から20倍に増加します。そうすれば、シャント化された静脈に穿刺して血液透析に必要な血流を得ることができます。ここではまずどのようにして内シャントが開発されたか、その歴史について簡単に解説いたします。
人体に対して初めて血液透析を行ったのは、ドイツ ニュルンベルク出身の、ゲオルグ・ハースで、1924年のことでした。11回の透析を行いましたが救命には至りませんでした。それから約20年後の1945年9月11日、オランダのコルフ博士が67歳の薬剤性腎不全に対して自身の開発した人工腎臓を用いて血液透析を行い、見事救命に成功しました。1950年ごろからは、コルフの人工腎臓が急性腎不全患者を次々と救うようになってきました。しかし、救えたのは急性腎不全の患者であり、慢性腎不全患者の救命はかないませんでした。それは人工腎臓の問題ではなく、繰り返し使えるアクセスがなかったからです。
1960年にシアトルワシントン大学のスクリブナーは、どうにか慢性腎不全患者の救命ができないものかと心を砕いていました。ずっとそのことを考えていたスクリブナーはある日の午前4時突然目を覚ましました。「プラスティックのチューブを患者の前腕の動脈と静脈に挿入してつないでおけばいいのでは」と思いついたのです。動脈と静脈には大きな圧力の違いがあり、つないだチューブは必ず動脈から静脈に流れるはずです。そして、透析を行う時にそのチューブをはずして、動脈からの血流を人工腎臓に通して、静脈のチューブに返す。透析が終了したら、動脈と静脈のチューブを再度つなげればよい。スクリブナーはその様に考え、同じワシントン大学に在籍していたエレクトロニクスの技術者のクイントンと共同で新たな器具を開発いたしました。これが後に「外シャント」と呼ばれるものです。
1960年3月9日、小児外科医のデビッド・ディラードは、重篤な尿毒症症状で入院していたボーイング社の機械工のシールズに、出来上がったばかりの外シャントを埋め込みました。シールズは1週間に2回の透析を行い、世界初の慢性透析患者になり、その後11年間も生きました。外シャントを埋め込むことで、その後も次々と慢性腎不全の救命に成功し、非常に有用な方法として認識されるようになってきました。しかし、外シャントは血栓で閉塞することが多く、また感染しやすいといった問題を抱えていました。
そのような状況において、1966年にニューイングランドジャーナルに掲載された「Chronic hemodialysis using venipuncture and a surgically created arteriovenous fistula」が内シャントの幕開けとなります。このシャントは筆者であるブレシアとチミノの名をとって、当時はブレシア・チミノシャント(または単にチミノシャント)と呼ばれました。チミノは学生時代、ニューヨークの輸血センターで働いていました。その時に上肢の静脈に12-16Gの穿刺針を挿入し、上腕部をターニケットで間歇的に駆血することで透析が行えること気づいていました。この経験と先ほどのスクリブナーの考案した外シャントが結実したものが、内シャントでした。これは、動脈と静脈を直接体内で吻合して、吻合後しばらくすると、静脈に動脈血を直接流入させるものです。静脈には10倍から20倍の血流が流れるため、そこに脱血用と返血用の2本の針を穿刺して透析を行うことができます。スクリブナーの外シャントと比べると血栓形成が少なく、次第にバスキュラーアクセスの主流となり現在に至っています。
Ⅱ. バスキュラーアクセスの種類
透析のための血液の取り出し口をバスキュラーアクセスと言います。上記で示した外シャントや内シャントはバスキュラーアクセスの一つの形態になります。
1. 自己動静脈内シャント(AVF)
ブレシアとチミノが開発したものが、自己動静脈内シャント(AVF)です。これは主に手首近く(腕時計をする部位)で吻合して作製します。この位置には橈骨動脈と橈側皮静脈が走行しており、その両者を吻合することができます。肘近くで内シャントを作製することも可能です。ただあまり中枢側で作製すると、穿刺する部位が限られてしまい、またシャントが閉塞した時に新たに作ることが困難となります。そのため、内シャントはなるべく手首に近いところで作製するのが良いと考えられています。血管が太い方では、親指のつけ根にシャントを作製することも可能です。ただ、前腕の血管が細く手首で作製できない場合は、肘で作製することになります。初回のAVFは、穿刺までには通常2週間から1か月程度を要しますので、透析導入予定の2-3か月前には作製しておくことが望ましいのです。
日本では2008年の時点で、AVFで透析を受けている患者さんは最も多く、約90%に上ります。ただ、透析年数が長くなり静脈が荒廃すると、下記に示すような人工血管内シャントや動脈表在化が増加します。それでも透析25年以上の患者の約80%がAVFで透析を受けています。
AVFの利点は、長期開存に優れていることです。中には30年以上、最初のAVFで透析を受けている患者さんもいらっしゃいます。また、作製が比較的容易であり、感染の危険が低いことも大きな利点になります。欠点としては、シャント血流が多くなると、心臓の負担が増えたり、手指が冷たくなったり、瘤ができることです。その一方で、シャント静脈が細くなると、十分な脱血ができなくなります。このような欠点はありますが、以下に述べるAVG、上腕動脈表在化、カテーテル法と比べると、比較的管理が容易であり、なんといっても長期開存が期待できるのがAVFの魅力です。
2. 人工血管内シャント(AVG)
静脈が細い患者さんでは、自分の血管を用いたシャントの作製が困難となります。そのような場合、腕の深い位置を走行している太い静脈と動脈を人工血管でバイパスする方法があります。バイパスした人工血管は皮膚の浅い位置に埋め込みますので、人工血管を穿刺して透析が行えます。これを人工血管内シャント(AVG)と呼んでいます。透析用の人工血管は1970年代から使用できるようになり、アメリカではAVFの患者さんよりも多い時期もありました。
現在使用できる人工血管には3種類あます。使用できるようになった順に、ePTFE人工血管、ポリウレタン製人工血管、PEP人工血管となります。ePTFE人工血管はテフロンに熱を加えて、伸展加工したもので、しなやかで屈曲しにくく、耐久性が良いものです。ただ、穿刺した孔が自然に塞がらないため、移植後2週間以上経過し、周囲の組織と人工血管が十分癒着してから穿刺しなくてはなりません。ポリウレタン製人工血管、PEP人工血管は3層構造になっていて、自分で針孔を止血できる機能を有しています。そのため、周囲組織との癒着を待たず、手術の翌日から穿刺することが可能です。
AVGはAVFと比べて、血栓形成の危険が高く、開存性にやや劣ります。また人工物であるがゆえに、感染の危険がはるかに高くなります。そのため、AVFが作製できる患者では、なるべくAVFを作製します。日本ではAVGの患者さんは7%程度ですが、次第にその割合が増えています。
3. 上腕動脈表在化法
肘の少し中枢側で、上腕動脈を皮下に移動させて、そこに穿刺するといったバスキュラーアクセスです。動脈は本来筋肉、筋膜よりも深い位置を走行しています。もちろん動脈に直接針を穿刺すれば、十分な血流を引き出すことが可能ですが、深い位置を走行していますので、穿刺や止血が困難で、反復透析には適していません。そこで、筋肉よりも浅い位置に上腕動脈を表在化するという発想が生まれました。表在化しておけば、穿刺・止血の問題がなくなります。
通常、上腕動脈は脱血のみに使用し、皮下の静脈に返血します。この静脈はシャント化されていないため、通常それほど太くありません。さまざまな皮下静脈を探して穿刺しますが、何回か穿刺していると、静脈穿刺が困難となります。そのため、上腕動脈表在化法では、脱血の問題はなくても、しばしば返血の問題で継続不能となります。
上腕動脈表在化法の利点は、AVF、AVGと異なり、非生理的血流がないことです。AVFやAVGでは500mL/min以上のシャント血流が流れます。シャント血流量が2000mL/minになる患者さんもいます。そうするとその分心臓が余分に働かなくてはなりません。心機能に余裕がある患者さんでは問題ありませんが、心機能が低下した患者さんでは、このシャント血流が心負荷となって、さまざまな症状を引き起こします。そのため、たとえAVFが作製できても上腕動脈表在化法や後述するカテーテル法が選択されます。
4. カテーテル法
スクリブナーらが、外シャントを考案したころ、ロンドンではシャルドンが鼠径部の動・静脈にカテーテルを挿・留置した透析を開始いたしました。その後、カテーテルの中が2つに分けられ、静脈1本のみに穿刺して透析が行われるようになりました。
ただ、カテーテルは人工血管よりも感染のリスクが高く、3週間程度しか留置できません。長期にわたってカテーテルで透析を行うことができないため、主に緊急用、もしくは透析導入時に一時的な使用目的で留置されました。慢性維持透析患者のバスキュラーアクセスとしては、前述したAVFが優れています。
1980年代に入ってから、カテーテルの途中にカフがついていて、皮下トンネルを作製して埋め込むタイプの透析用カテーテルが使用できるようになりました。このカテーテルの登場によって、人工血管や動脈表在化法の手術が困難な患者さんのバスキュラーアクセスの選択の範囲が広がりました。
皮下トンネルを作製することで、従来のカテーテルと比べて、感染の危険性は減少しました。しかしそれでも、絶えず異物が体内と体外を交通しているため、AVFやAVGと比べると感染の危険性は高くなります。
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