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【第1話】おにぎり一つ買えない…糸球体腎炎になり、突然始まった食事制限

2023.10.30

文:てぃこ

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おにぎりイメージ

私は先天性の心臓疾患をもち、0歳よりペースメーカーを利用している40代女性です。この体験談は、糸球体腎炎と自己免疫性溶血性貧血による長期入院中に執筆しました。日ごろから食生活には気を遣っていた私が直面した腎臓病の食事制限の壁、新しい食生活との向き合い方を綴ります。


突然始まった食事制限と水分制限

健康診断で脾腫(ひしゅ)と高値の自己抗体(ANCA)が見つかり、膠原病科で経過観察中だった2023年のある日のこと。
なんの前触れもなく丸1日尿が出なくなり、病院へ行くと、胸水・腹水・肺水が全身に回り、腎不全・心不全・及びネフローゼ症候群になっていた。
のちに膜性増殖性糸球体腎炎だとわかるのだが、その場で即入院となり、準備する間もなく腎臓病の食事制限と水分制限に直面することになった。

脾臓が腫れて大きくなった状態のこと。

病院での水分制限は、心臓への負担を避けるために最初は砕いた氷のカケラを数個だけ口に含ませてもらえるところから始まり、数日後、1日の水分量は500mLまでとされた。
24時間で、500mL。上手く配分しないと、どこかで喉が渇いても潤せなくなる。
禁止されると飲みたくなるもので、夏の麦茶、同僚との飲み会でのビール、喫茶店で味わったクリームソーダ……そんなものがぐるぐるとアタマを駆け巡った。
食事も腎不全用のものが出され、その時「もう二度と、何も考えず好き放題に飲み食いすることはないのだ」と、自分に起きていることに愕然とした。
それまでの私は自炊することが多く、お味噌や酵素ジュースを自分で手作りし、冷凍食品は何十年も使用したことがないくらい食生活にはとても気を使っていた。塩分計で汁物の塩分濃度を測り、大葉や茗荷などの薬味を多用し、市販の顆粒出汁も使わず、夏場は2リットル近くのお水を飲んでいた。お酒もほとんど飲まず、タバコも吸わず、運動習慣もあった。

塩分計で汁物の塩分濃度を測る

それなのに、どうしてこんなことになったのか? もっと外食して、焼肉や海鮮、贅沢で美味しい食べ物を沢山食べておけば良かったと、本当に悔やんだ。
旅行も大好きだったのに、蛋白質の宝庫であるホテルのビュッフェはほとんど食べられなくなる。豪華な旅館やホテルに食事付きで泊まれない。
外食の時も残さないといけないのか。定食は注文できず、単品で調整しなければいけなくなるのか。そんな事もすごく心配した。

病院で出された初めての蛋白質調整ご飯は、衰弱に伴い嗅覚が敏感になり過ぎて体が受けつけなかった。でんぷん質となった調整ご飯は粘っこく重くお腹に溜まるように感じ、すぐに食べないと硬くなり、自宅から持参していたお箸は1ヵ月で折れた。普通のお箸では無理だと、鉄道の枕木や建築素材として使われる硬い栗の木のものを購入した。
ステロイド治療が始まって、ようやく問題なく蛋白質調整ご飯が美味しく食べられるようになった。

ある日、食事抜きの検査の後、病院のコンビニに立ち寄った。
一つのおにぎりの成分表を見ると、蛋白質が10g・塩分が2gもあった。当時の私の食事制限は、1日あたり蛋白質20g・塩分3g。朝と夜のご飯を考えると購入できず、おにぎりを棚に戻した。
おにぎり一つ、気軽に買えなくなったことに衝撃を覚えた。


新しい食生活に向けて

気を持ち直したのは、入院中に出会った腎臓移植後5年目の方と、腹膜透析を導入することになった方、この2人との出会いがきっかけだった。
2人はとても明るかった。病気のことも心地よく話せて、2人の今までの経緯や生活の様子を聞けば聞くほど、「もしかしたら私もやっていけるのではないか」と思えるようになった。

そこから、腎臓病の食事の勉強が始まった。病院の管理栄養士さんに2度に渡り勉強会を開いてもらった。

退院後の食事をどうするか。
減塩について考えた時、数ヵ月前に友人が手作りの特製スパイス酢を作ってプレゼントしてくれたことを思い出した。米酢にニンニク、カルダモン、レモンシード、コリアンダーなどなど、沢山のスパイスが入っている。刺身は、醤油を使うよりもそのスペシャルなお酢で食べた方が美味しい。炒め物の最後の味付けにも垂らせば、塩をあまり使わなくて済む。これからの減塩の強い味方になってくれるはずだ。

私にとって最大の難関は、蛋白質調整だろう。現在の蛋白質の制限量は1日50g。今までは食欲旺盛だったので、朝昼晩と蛋白質は欠かせなかった。
まずは食べられる量を把握しようと、毎日毎食、病院食の写真を撮った。一食で出される肉や魚のメインのおかずの量は、ほんのひと口、ふた口のこともある。想像以上に摂れる蛋白質は少なく、野菜や米などにも蛋白質は含まれるので、バランスを取ることはすごく難しいと思った。

幸い、仕事は自営業のため、お昼は宅配の冷凍のおかずを利用し、一食分の計算の負担を減らして楽をすることにした。
とりあえず、最初だから色んなことを試し、尿蛋白を自分で検査しながら悪化させないラインを見つけようと思う。

退院後、実際に作ってみた低塩・低蛋白の食事

退院後、実際に作ってみた低塩・低蛋白の食事

救いは、摂れる塩分や蛋白質が減っても、食事の楽しみまではなくならなかったことだ。
減塩や蛋白質調整の食品も多数販売されているが、どれも高価で、毎日食べるものとしては現実的ではないものもある。無理をすると続かなさそうなので、自分の食欲と、高価な便利グッズ、食事の満足感、周りの人々の理解……うまく折り合いをつけることができればいいなと思う。友人の特製スパイス酢のような、頼もしいアイテムもある。
前向きに新しい食生活と楽しく向き合おうと思っている。

いずれ、『スパイス・ハーブ料理の名人』になろう! それが目標である。

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てぃこ

てぃこ
40代。先天性の心臓疾患でゼロ歳よりペースメーカーを利用。幼少時、体育の授業は全て見学だった。20年の会社員生活を経て、現在はエステサロンを経営している。趣味は合気道と登山、旅行と食べること、腸内細菌を増やす菌活。
健康診断で脾腫と高値の自己抗体ANCAが見つかり、膠原病科で経過観察中の2023年、腎不全及び心不全・ネフローゼ症候群に。病名確定に2ヶ月かかり、患者数がとても少ない糸球体腎炎のひとつと診断される。現在、CKDステージ2。

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