じんラボリサーチ
【第13回】長期に渡る関係だからこそ言いづらい?
「透析をしている方が医療者に伝えたいこと」に関する調査
2021.6.28
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実施概要
調査目的
透析をしている方々は、多くの時間を透析施設で過ごしています。しかし、長く深く関わる場所だからこそ、遠慮が先立ってしまい普段思っていることや要望は医療者に伝えにくい…と悩む方は少なくありません。
そこでじんラボは、医療者が透析をしている方の気持ちに対する理解を深めより良い医療現場づくりに結びつけてもらうため、透析をしている方が透析医療への意見や伝えたい思いなどの実態調査を、東京慈恵会医科大学附属柏病院総合診療部の三浦靖彦医師と共同で行いました。
※調査結果は、2021年6月4日~6日に開催された第66回日本透析医学会学術集会にて、じんラボの宿野部所長が「透析をしている当事者の本音を医療の現場に~病気をもつ人と協働する医療へ~」と題してポスター発表しました(期間中はコロナ禍による緊急事態宣言下のためポスター掲示参加のみ)。
調査方法 | WEBアンケート |
---|---|
調査エリア | 全国 |
調査対象 | 透析をしている方 男女年齢不問 |
調査期間 | 2021年5月3日(月)~ 5月13日(木) |
有効回答数 | 96名 |
調査対象詳細
性別 | ||
---|---|---|
男性 | 67 | 69.8% |
女性 | 25 | 26.0% |
無回答 | 4 | 4.2% |
年代 | ||
〜29歳 | 1 | 1.0% |
30〜39歳 | 5 | 5.2% |
40〜49歳 | 29 | 30.2% |
50〜59歳 | 40 | 41.7% |
60〜69歳 | 11 | 11.4% |
70歳〜 | 5 | 5.2% |
無回答 | 5 | 5.2% |
透析歴 | ||
1年未満 | 6 | 6.3% |
1〜5年 | 32 | 33.3% |
6~10年 | 13 | 13.5% |
11~15年 | 15 | 15.6% |
16~20年 | 9 | 9.4% |
21~25年 | 10 | 10.4% |
26~30年 | 7 | 7.3% |
31年以上 | 2 | 2.1% |
無回答 | 2 | 2.1% |
(Q1)現在通院している施設について、総合的な満足度についてお尋ねします
(n=96)
(Q2-1)Q1で「満足」「どちらかといえば満足」と回答された方、どのような点に満足していますか?
(n=72:複数回答、回答数=230)
(Q2-2)満足している点について具体的に教えてください
(n=56、自由記述回答)
医師や看護師、スタッフに対する満足
- ドクターやスタッフとも対等に話せるおかげで、透析治療の方向性や内容も相談しやすく納得して治療できている。
- 医師、看護師、診療工学技士、送迎の方まで、透析医療を終末医療と捉えず、QOL(生活の質)のための透析医療として丁寧に、患者一人一人のために行ってくれている。体調がままならないときもあるが、支えてくださる医療者のためにも私自身一生懸命頑張って生きようと思える。
- 透析に関して不安なこと、疑問点、要望などを訴えると、受け持ちの方が必ず関心を持って対応してくれ、さらに必要であればリーダーへ報告して医師へ繋げてくれる。
- スタッフの皆さんが、少しの体調の変化でも親身になって解決に向かう治療などに繋いでくれる。
- 看護師さん、臨床工学技士さんの対応が速い。
- 患者に寄り添う姿勢が感じられる。
通いやすさや施設環境、透析治療に対する満足
- 職場から車で5分程度と近い。以前新型コロナウイルスに罹患した際には、特別措置として夜間透析対応をしてくれた。
- 自宅から近い、設備が新しい。またベッドとベッドの間に余裕があるので隣が気にならない。
- 23時まで透析ができるため、仕事後に通院できる。
- シャントエコー、心臓エコー、全身レントゲンなど検査が充実している。
- テレビは勿論、Wi-Fiがあるので透析中楽に過ごせます。
7割以上の方が現在通院している施設に「満足」「どちらかといえば満足」と答えています。満足している理由としては、特に「看護師等職員の対応」を挙げた方が63名(87.5%)と突出していました。次いで多かったのは、「医師の対応」と「通いやすさ」で、いずれも43名(59.7%)でした。
医師や看護師など医療スタッフの良い点としては、透析をしている方一人一人の気持ちに寄り添い、しっかりコミュニケーションを取ろうとする姿勢を挙げた方が多くいました。透析をしている方の体調は日々変化しやすいため、気軽に相談できる態勢や関係があると心強く感じるということがわかります。
また、自宅からの距離の近さや送迎サービスの実施など、通いやすさを挙げる方も多く見られました。
(Q3-1)Q1で「どちらかといえば不満」「不満」と回答された方、どの点に不満をお持ちですか?
(n=22)
(Q3-2)不満をお持ちの点について具体的に教えてください
(n=19、自由記述回答)
医師や看護師等職員に関する不満
- 透析時に不在なことが多く、相談したい時にも不在で、次回でいいですかと後回しにされることが多い。
- 常勤医とほぼ会うことがなく、長期的視点で適切な判断がされない可能性を懸念している。
- まな板の上の鯉状態で透析を受けている感じ。説明不足や私の身体を診ていてくれるという安心感が足りない。
- 人それぞれのその日の体調があると思います。心配事があって寝不足だったり、仕事が忙しく疲れていたりと様々ではないでしょうか。でも私が透析を受けている病院の看護師さんや技士さんは、血圧に変動があったりするとすぐに「ドライウェイトが!」と大騒ぎします。自分の知識や情報だけで判断せずに患者の言葉に耳を傾けてほしいです。話を聞いてください。
- 今現在の透析をアップデートしてほしい。 自分の考えや基準を押しつけて私の意見を否定されるのは、どうしても受け入れられない。
通いやすさや透析設備などに関する不満
- 感染対策が徹底されてない。
- オーバーナイト透析や隔日透析ができない。
- 会社近くの透析施設に通っているがコロナ禍で在宅勤務となったため、毎回フレックスを使い1時間かけて通うのを苦痛に感じている。
不満な点として最も多かったのは「医師」(11名)で、次いで「通いにくさ」(4名)でした。満足する理由は親身に寄り添う医療者の姿勢が多く挙がった一方で、不満な理由では患者の状態を診ない医療者の姿や、コミュニケーションが充分にとれないなどが目立ち、不安な気持ちを抱く方が多いようです。
中には「訴えたいことがあるのですが、直接言うとめんどくさそうに扱われるので絶対言えないです」という意見もあり、意見や要望を伝えるのを躊躇してしまうため一人で不満や不安を抱えているという声が見られました。
(Q4)それぞれの満足度を10段階で回答してください
(n=96)
※数字が大きいほど満足度が高い
(Q5-1)職員への満足度を10段階で回答してください
(n=96)
※数字が大きいほど満足度が高い
(Q5-2)職員への満足度について具体的に教えてください
(n=53、自由記述回答)
満足な点
- みなさん明るく接してくださいます。看護師さんや臨床工学技士さんは、ここ何年も穿針が上手な人が多く助かっています。
- 臨床工学技士が特に技術が優れていると思う。看護師も丁寧かつ親切。さまざまな検査やその説明も丁寧。
- 皆さんよく勉強されていますし、質問したらちゃんと調べて教えてくださるので信頼できます。自分は医療者ではないので分からない部分もありますが、自分の体はしっかり納得して医療を受けたいという気持ちを皆さんが当たり前に捉えて、いち人間として対応してくださるのがありがたいです。
- 上から目線ではなく、患者と対等に話をしてくれる。
不満な点
- 難聴なのでマスクが欠かせない今では、声が小さい医療者との会話がどうしても成り立たない。
- 無愛想だったり機嫌の波の激しいスタッフがいる。 雨の日に加湿器使用するなど、よくも悪くも作業がルーティン。
- 患者によって態度が違う。改善を求めても昔からだからどうしようもないという。
- 慣れてくると流れ作業的に対応される。 人として対応してほしい。
- 私語が多い。
(Q6)透析施設で働く医療者に伝えたい、率直な思いや要望などを自由に書いてください
(n=63、自由記述回答)
感謝など好意的な意見
- 盆暮れ正月GW、変わらぬ治療を提供いただいているおかげで楽しく生きられています。本当にありがとうございます。
- 自己で簡単に治療できない大変な病気を、一人一人きちんと向き合って考えてくださりありがとうございます!
- 皆様のおかげで生きています。 やさぐれるときもあるけれど 支えてくれてありがとう!
- GWで世間では9連休なんて人たちも大勢いますが、私たち患者は関係なく一日おきに通院です。それは自分のことだから仕方ないのですが、同じようにスタッフも仕事に来ます。だからスタッフに「私たちが来るからGWなんてなくて悪いね」と言ったら、「そんなこと承知でこの仕事についてるんだから、悪いねなんて言わなくて大丈夫ですよ」とニコニコ返事してくれて。盆も暮れもなく透析してくれて本当にありがたいです。感謝しています。
要望など改善を求める意見
- コロナ禍なのに、個室半個室対応をしようとしない。
- 長く続く人間関係なので、相互にコミュニケーションをとり、適切な距離感を持っていただけると嬉しく思います。
- 不安なことを聞きづらく相談しにくい。自分で考えて改善するしかない。
- 患者の言葉にもっと耳を傾けてほしい。通りいっぺんのやりとりだけで、「問題ないですか?」ってとりあえず聞いてくるだけ。具合悪いって言っても「様子を見ましょうか」だけ。もっと真剣に向き合ってほしい。
- TVなどを個々につけてほしい。 透析時間が長すぎて自分自身の時間が全くなく日々疲れるし。透析をやめたいです。
- 今はあなたは健康だとしても、将来はどうなるかわかりません。 あなたの親や祖父母の世代が、患者です。もしあなたの家族が透析患者だとしたら、同じように対応しますか?
- 個人的には私のような若年の透析患者が、社会活動をしやすくできるような病院機能や透析技術の発展改良を、積極的に推進いただければ有難い。
- 仕事帰りで疲れているのに、スタッフなどの話し声がうるさい。落ち着いて静かに透析を受けたい。
透析をしている方は透析の前と後で体調が大きく変化しますし、日頃の制限や透析による拘束などのさまざまな要因が絡み合って精神的に不安定になることもあります。記述回答には、「キツい時は正常な判断ができなくなり、反省することもある」「普段はなんてことないことでも、透析中身動き取れない状態だと許容できなくて不安になったりしんどくなったりする」という意見も見られました。
医療者に対して好意的な意見が多く挙がった一方で、スタッフとの関係悪化や差別などを懸念して言いたいことを口に出せない方は少なくありません。記述回答の中には、病院のご意見箱に投函した際に、関係管理職から呼び出しを受けて「当院で治療を続けたいのであれば、余計なことは言うな」と宣告された経験がある方もいました。
透析をしている方と医療スタッフは頻繁に顔を合わせ、関係は長く続きます。治療に通い続けるために、言いたいことを飲み込んでしまう方もいるのです。透析をしている方が安心して治療を受けるためには、医療スタッフの精神的サポートや変化に気づく観察力などが求められます。
透析施設では医療者と透析をしている方が、1回で長い時間、かつ長い年月関わります。お互いがそれぞれの立場を尊重し、透析をしている私たちも医療者と共に透析医療を創っているという意識をもつことがとても大切であることを改めて感じた調査となりました。
いただいた声は今回の透析医学会に留まらず医療者に伝えていきたいと思います。アンケートにご回答くださった皆さま、本当にありがとうございました。
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