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慈恵医大横尾教授に聞く「再生腎臓の今、そして未来」
【第2回】再生腎臓の研究内容

2016.2.25

文:所長

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前回の【第1回】腎臓の再生医療に光 では腎臓の再生医療にスポットライトが当たるまでのお話でした。今回は横尾先生の研究内容についてご紹介します。

横尾先生


所長 先生の今回の研究内容について、新聞記事等では拝見しているのですが、じんラボをご覧の皆さんに分かりやすく教えていただけますか。

横尾先生 最終的には患者さん自身の腎臓を作らないといけません。別な人間の腎臓を作ってもしょうがない訳だから。
最終像としては、患者さんの脂肪もしくは皮膚から1cm角くらいの組織を取らせてもらって、それを腎臓のための幹細胞に変える。ここまでのテクニックはもう出来ています。その幹細胞から腎臓まで作らなくてはいけないのです。

幹細胞から患者さんの腎臓を作るということはものすごく複雑なことだから、そのプログラムには未知な部分もあってそのすべてを解き明かすのは現段階では難しいんです。
だから多くの研究者が行っていることですが、その部分を借りちゃいます。

つまりこういうことです。生まれたての子供はみんな腎臓を持っています。あれだけ複雑なものをお母さんの子宮の中で作っているんです。もとはと言えば、受精卵という1個の細胞が10カ月経ったら腎臓を持っている。お腹にいる10カ月の間に腎臓を作っている訳です。誰でもやっている。1億人ものすべての人間が間違いなくやっている。
それだけ複雑なプログラムにもかかわらず、何にも間違えずにほとんどの人がやっている。これはもう人だけじゃなくて、マウスだってラットだって豚だって猫だってなんでも、お腹にいる間に腎臓を作っている。

では、腎臓を作るのに10カ月かけて作っているのかというとそうではなくて、人の場合はわずか2日間くらい。腎臓の元の細胞が腎臓になるタイミングが来たら、そこにある細胞が勝手に2日間でパッと分化します。もうそこは未知の部分。ただものすごく精巧なプログラムがその2日間に働いて、あとは勝手にどんどんどんどん腎臓になっていくんですね。
だから、その2日間だけこのプログラムを借りちゃう、という訳です。

胎児の体の中に患者さんから取った腎臓になることが分かっている幹細胞を入れて、腎臓になるためのプログラムを入れてもらうのです。そうすると幹細胞はもうプログラムされているので、取り出しても後は勝手に腎臓になっていくんです。

それはもうマウスやラットでは確認しています。ただそのプログラムというのはマウスのプログラムなので、マウスの大きさになると「そこで止まりなさいよ」となり、すごくちっちゃい腎臓になります。だから豚の胎児等のプログラムを借りると豚ぐらいの大きさになるので人と同じくらいのサイズになります。

豚の胎児が腎臓を作っている最中にその環境を借りると、患者さんから取った幹細胞にへ腎臓に分化するプログラムがわっと入る訳です。
そしてそのプログラムが入っている細胞を取り出して患者さんに戻しちゃう。プログラムスイッチだけ人では出来ないので動物の環境を借りて、分化し始めたところを取って患者さんに移植する。そうすると患者さんの身体の中で血管がどんどん入ってきて尿を作り始める。血管は患者さんのものなのですよ。もとは患者さんの細胞から、どんどん大きくなって尿を作り始めるんです。

胎生臓器ニッチ法

胎生臓器ニッチ法

所長 取るのは患者さんのどういった細胞なのですか?

横尾先生 今までやったのは脂肪の細胞です。腹膜透析等でお腹を開くときにちょこっとだけ、1cm角あれば十分なんです。もしくはiPSみたいに皮膚の細胞。ちょっとだけ麻酔して5mm角くらい。そうするとその患者さんの細胞だからスイッチが入ってから患者さんに戻しても拒絶が起きない。免疫抑制剤を飲む必要がないんですよ。自分の細胞だからどんどん血管が入ってきて尿を作り始めるんです。

所長 よく分かりました。

横尾先生 最初の成功はラットで、尿が出来るところまでは確認しています。ただ患者さんに応用するには、ちゃんとその尿を膀胱まで導かなくてはいけません。もちろん留置腹膜カテーテルみたいに体表に出して尿を出してもいいのですが、僕らはそういうことが目標ではなく、ちゃんとトイレに行って出るようにしなくてはいけないので膀胱まで尿をつなげたい、と。
実はこの部分が一番行き詰って、ここ3年間くらいは全くうまくいってなかったんですね。

尿管も臓器で、尿量に応じてミルキングっていう蠕動運動をしますが、そういった動きがないと例え再生した腎臓と膀胱を管でちゃんとつないでも、尿はまったく流れていかないんです。人間って逆立ちをしていても、膀胱に尿は溜まるんですね。それぐらいすごい力で引いているんです。その引く力を試すために新しい方法を開発して、腎臓から膀胱まですんなり効果的に尿を導く方法を見つけたっていうのが、今回のニュースです。

所長 新聞に掲載されていたニュースですね。
※ニュースの内容は東京慈恵会医科大学プレスリリース外部サイトへをご参照ください

再生腎臓からの排尿のイメージ 東京慈恵会医科大学プレスリリースより引用

横尾先生 作った腎臓から中継地点を介して、元々の膀胱につなげます。尿を掻き出す尿管の力は、自分の腎臓から出るのと、再生腎臓から出るのではちょっと違います。中継地点がないと蠕動運動の大きさが全然違うので、こういった応用をすることで尿をちゃんと膀胱まで導けます。

ということで、マウスでは脂肪細胞から取った幹細胞から尿を作り、尿を出すというところまで全部出来きました。ただ、これをマウスでだけやっていてもしょうがないので、現在猿を用いた研究を開始しました。
マウスはどうしても小さすぎて人間にはなかなか対応が出来ないので、人と同じ霊長類で何か新たな問題点がないか、前半の幹細胞から尿を作るところと、後半の尿を出すところまで本当に通しで出来るのかマーモセットという霊長類での実験に着手しています。

次回は「【第3回】希望の光に」です。

参考

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所長

所長
一般社団法人ペイシェントフッド代表理事。社会福祉士。透析歴31年。
14年間勤めた一般企業を退職後、福祉職を経て、2010年9月に株式会社を設立し、2018年4月からは一般社団法人ペイシェントフッドに法人格を変更。
長い年月にわたり「治療を受ける」という「受け身の立場」で医療と関わってきましたが、腎臓病を経て、透析を受ける当事者として、その経験・想いを「腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのために」役立てられないかと一念発起し、起業しました。
「じんラボ」はみなさんと一緒につくりあげていくコミュニティです。
「ひとり一人の「生きる力」が、医療を支える、希望ある社会」の実現に皆さんと共に歩んでまいります!どうぞよろしくお願いします!

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