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慈恵医大横尾教授に聞く「再生腎臓の今、そして未来」
【第1回】腎臓の再生医療に光

2016.2.22

文:所長

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2015年9月に「再生腎臓を使って排尿に成功 人への応用は10年以内に」というニュースが大きく報道されました。 私達患者にとっては大きな希望ともいえるこのニュース。

ただ、新聞記事からだけではなかなか分からない実験内容のこと、実験への想いを多くの皆さんにお伝えしたいと考え、日頃からじんラボを応援してくださっている東京慈恵会医科大学腎臓高血圧内科の主任教授横尾隆先生に取材をお願いしたところ、快くお受けいただき今回のインタビューが実現しました。

興味深いお話をたくさんお聞かせいただいたので、全3回に分けてお届けします。

横尾隆先生と所長


所長 先生が以前、東京腎臓病協議会のイベントで再生医療の講演をされた時、参加された皆さんはそのお話を興味津々に聞いていましたし、その後に出た新聞記事を見た患者さんたちも嬉しいニュースとしてツイッターやフェイスブックで一斉に発信したりしてすごい反響だったんです。

今日は先生の研究内容について触れながら、再生医療について伺いたいと思っていますのでよろしくお願いします。

横尾先生 こちらこそよろしくお願いします。

所長 では早速ですが、先生がそもそも研究を始めたきっかけを教えてください。

横尾先生 研修医の頃に腎疾患の患者さんを受け持ったことが始まりでした。
当時、がんやエイズ等はかなり注目されていたのですが、腎疾患は悪化しても移植や透析という治療法があることから、医学の領域ではあまり注目度が高くなかったのです。
でも実はものすごく苦しんでいる方が多くて、その苦しみはじわじわと長期に及ぶんですね。長期ということはその分負担も長い。それをなんとかしたいという思いから腎臓の領域に進み、その後は留学の機会も得られて研究を進めてきました。

しかし「患者さんに役立つための治療法開発を」と思っていても実はなかなか難しいのです。

研究には流行り廃りがあって、流行っている研究には研究費もつくし、人も集まるので活性化されて切磋琢磨していくことが出来るのですが…。 研究を始めた頃は「再生医療」というものはなく「遺伝子治療」や「ゲノム解析」というものがキーワードでしたから、私が留学から帰ってきて研究費と人を集めるためにまず始めたのが遺伝子治療でした。しかし当時すでに腎臓の遺伝子治療は一部で行われていたので、私は骨髄から取った幹細胞を使って再生を行う遺伝子治療の研究を進めました。

ところが1個の遺伝子の異常によって生じる疾患と異なり、いろんなことが複雑に絡んでいる腎臓病には遺伝子治療はなかなか難しいということが分かってきて、腎臓の遺伝子治療というものが徐々に廃れていったのです。
それと同時に「再生医療」つまり患者さんの細胞を腎臓に変えて、それを身体に戻して新しい腎臓をつくる治療法が注目を浴びるようになっていきました。すると「再生医療」にはどうしても幹細胞が必要になってくるのですが“腎臓と幹細胞”の研究をしているのは私しかいなかったため「腎臓の再生医療といえば慈恵医大の横尾」という風に自然と自分にスポットライトが当たるようになっていったのです。

そうすると研究費が集まるようになり、一緒に研究をやりましょうと仲間意識を持った人が集まってきてくれて一気に研究が進みました。注目されることもなく、そのままずっと進んでしまっていたら脇役のままだったんですよね。

横尾先生

所長 腎臓にスポットライトがなかなか当たらなかったのはなぜでしょう、腎臓って地味な臓器なのでしょうか?

横尾先生 そうですね、地味な上に諦められていたからですね。例えば糖尿病だったらインスリンを出す単一のβ細胞だけなんとかなればいい訳です。「β細胞が出来る→β細胞をたくさん増やす→血糖が下がる→インスリンを出す→血糖が上がったら引く」といった具合です。心臓だったら収縮するようなシートがあって、それを貼り付ければ機能は回復するとか…。

ところが腎臓の場合は複雑な構造で、ネフロンっていう1個の腎臓に100万個もあるような構造体を作らなければ尿は出ないのです。1個の細胞でさえ苦労しているのにあんな構造体、しかもすごく複雑な構造体を作るのは無理だと。
文部科学省も含めて国がもはや諦めろというようなスタンスなんですね。

ネフロンの働き

ま、諦めろとは言わないけれど例えば何年までに前臨床試験を始めましょう、といった向こう10年のロードマップがないんです。心筋や網膜等は2〜3年以内に臨床研究始めましょう、となっていて実際に阪大で心臓、理研で網膜を始めました。ちゃんとロードマップに則っているんですよね。腎臓だけは諦められている。

そういった事情と、どうしても腎臓病は「=死」をイメージされない。それはいいことですが、注目度といった意味ではあまりよくないですよね。

所長 「がん」だとインパクトありますもんね。

横尾先生 そうです。「この患者さんはもうあと余命何カ月です、助けてあげましょう」とか言われるとみんなに注目されるんだけど「この方は何年か経って合併症を起こし、だんだん苦労されるでしょう。腎臓病のある人とない人では30年後にはこんなに違うんですよ」と言ってもインパクトが弱いんですよ。国もインパクトのあるところにお金を出した方が票になるから。

所長 そうなんですね…。やっぱり国民からの注目でしょうか…。

横尾先生 その通りです。だからそういった意味で注目が上がらなかった。
その上透析患者さんの数は約32万人ですが、高血圧患者さんと糖尿病患者さんの100分の1程度しかいないんです。そこも注目されにくかったということですね。

所長 私は3歳のときに慢性腎炎になったので物心ついたら入退院だったんです。子供なのでお医者さんと会うのが嫌だったんですよね。会うと毎回スネを触られて「むくんでるよね」と言われてすぐ入院とか。「プレドニンだね」とか言われるのがすごく嫌で。

そういう風に苦しんでいる患者がたくさんいても、ある意味インパクトがなくて注目されていなかったんだなと、今の先生のお話でわかりました。当時本当につらい治療を僕だけではなくてみんなやっていたので…。先生がこうして研究してくださっていることは患者として本当にありがたいです。

横尾先生 僕の担当も小児科の子で物心ついた時には腹膜透析を始めていて、腎臓の低形成だったので治療のしようがなくて結局命を助けられなかったんです。今だったらもっと何かできたのかも知れないとは思うんですが、それは20年以上前ですから…。 でも、やっとですよ。気に障ったらすみません。経済的なところを国が注目するようになってきた今、費用対効果を求められるとどうしても透析治療はやり玉にあがりやすい。けれど患者さんからお金を取りましょう、なんてことになるとそれは良くないので、透析に代わる治療法はないか、ということでやっと重い腰を上げてくれたというのが現状ですね。

所長 再生医療について最初にニュースで見たのはiPSの山中教授だったのですが、それだけで透析患者は「何年後に現実の治療となるのだろう???」なんて話をしていて、冷静に考えればこんな複雑な臓器を?ってなるんですが、患者としてはどうしても期待しますよね…。

次回は「【第2回】再生腎臓の研究内容」についてです。

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所長

所長
一般社団法人ペイシェントフッド代表理事。社会福祉士。透析歴31年。
14年間勤めた一般企業を退職後、福祉職を経て、2010年9月に株式会社を設立し、2018年4月からは一般社団法人ペイシェントフッドに法人格を変更。
長い年月にわたり「治療を受ける」という「受け身の立場」で医療と関わってきましたが、腎臓病を経て、透析を受ける当事者として、その経験・想いを「腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのために」役立てられないかと一念発起し、起業しました。
「じんラボ」はみなさんと一緒につくりあげていくコミュニティです。
「ひとり一人の「生きる力」が、医療を支える、希望ある社会」の実現に皆さんと共に歩んでまいります!どうぞよろしくお願いします!

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