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慈恵医大横尾教授に聞く「再生腎臓の今、そして未来」
【第3回】希望の光に
2016.2.29
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2回にわたってご紹介してきた再生腎臓のお話も、この第3回で最終回です。
臨床に向けて横尾先生の努力は続きます。
所長 時系列でもう一度確認させていただきたいのですが「2日間で腎臓ができる」という前半部分を発見したのはいつ頃ですか。
横尾先生 それはもう10年以上前です。2005年に論文として発表しています。
その当時はあと3〜4年あれば後半の尿を出すところまでいけると言っていたのですが、ここまで10年かかりました。それは想定していたことと別のことが起こったからですが、あんまり過度な期待を持たせてガッカリさせないように、自分たちが思っているより少し長めに言うようにしています。
ただあんまり夢がないと、これまた希望も何にもないんじゃ日々頑張っている患者さんには少しでも希望っていうのが必要だと思うので、まったくもう無理ですよ、何十年もかかりますよ、っていうのではいけないと思います。頑張れば、ちょっとクリアしたら何かしらブレイクするし、もっともっと人に近づくよって。それはバランスだと思うんですけど、そういう風に考えています。だから、理論的にはもういくと思います。そのために新しい何か別のハードルがないかってことを検証するんです。
所長 10年以内に人への応用を目指したいと記事には書いてあるのですが。
横尾先生 僕としてはずいぶん長くしました。あまりこういうことを言っていいのか分からないですが、これから先は非常に注意しながら進めなくてはいけません。我々の方法はバイオ皿の上で全部作るのではなくて、分からないところはすっ飛ばして、一種の動物にやってもらっちゃうってところがありますので、動物愛護のこととか、いろいろクリアしなければいけない問題があります。人を助けるためならおおっぴらに動物を殺してもいい、ってことになってくるとそれはお叱りを受けることになるので、やはり倫理のこと等1個1個クリアしなければいけません。
人に近づけるためには大きくて人に近い動物での実験が必要なのですが、こういった実験をするために何匹くらい必要で、動物に負担をかけずにっていうようなことを申請して通すのにやっぱり数年かかっているんですね。
これがニュースになる相当前からうまくいくと確信していて次に進めようと思っても、申請してからあれもダメ、これもダメといろんなことを言われて、結局今年の7月にやっと猿が入る施設を作れたんですけど、施設が認可されるのに数年かかっているんです。予算をなんとか組んでですね、研究計画も立っているんですけどそこで何にもできない。書類書きだけで年単位。
所長 厚労省の認可ですか?
横尾先生 厚労省もですけど、まずは大学や第三者機関での実験動物委員会とか遺伝子組換委員会とか倫理委員会とか、そういうところを全部通さないといけなくて。これが人でっていうならまだしも、猿とか犬とか人に近いというか、家庭で飼われるような動物に関しては、やっぱりラットやマウスと違ってかなりハードルが高いんですね。想定外です。
今頃はすでに予算も取れて、猿に進んでいるって思っていたんですけど、そこにすごく時間がかかっちゃって…。
こっそりやる訳にはいかなくて、最終的に患者さんに還元できなければ意味がないし、適当なことをやっているグループみたいなイメージを持たれたらアウトなので、きちんとやっていたんですね。それが一番のネックですね。
所長 動物実験で思い出したのですが、製薬メーカーに仕事で行った時に工場の中に動物の慰霊碑があるのを見かけました。薬もやっぱり動物が犠牲になって開発されているのだなと。そこはしっかり踏まえた上で進めないといけないですね。患者としては早く、早くという気持ちがどうしても生まれるんですが、やっぱり倫理というところは冷静に考えなきゃいけない。ただただ自分たちが良ければいい、という話になってはいけないと思います。ただ数年っていうのは長いですね。
横尾先生 長いですね。書類書きだけですから…。もちろん他の仕事は進めるにしてもね。 今後、マウスで最終的にうまくいきました、今度は人でやりましょうってことになると、厚労省とかいろんなところがもっともっと関わってきます。網膜の場合は相当早かったですけどね、申請してから6ヶ月でした。
所長 適切な時間はどのくらいなのか決めるのは難しいですね。ただ患者として年単位は長いな、と。
横尾先生 本当に。何年かあったら何匹かはトライ出来ているはず。
所長 海外でもこういう取り組みの場合、こんなに時間がかかるものなのですか?
横尾先生 いや、国によります。しかも動物にもよるんです。アメリカでは犬や猫だとすごく時間がかかります。ヨーロッパは比較的ゆるいです。イスラエルなんかは人でも認可はかなり早いです。胎児用の細胞を使うとか、人の胎児を使うとか、ものすごく早いです。
所長 国による生命倫理観というか…。
横尾先生 そう、全然違うんですよね。最終的に人にいく時には海外でやった方がいいんじゃないかとは言われています。日本ではちょっと遅すぎると。僕としては日本にこだわりたいのですがそうはいっても、早く患者さんに届けるためには最善のことをしたい。猿で成功したらおそらく世界中の企業が乗ってくれると思うんですよね。そうするとどっちがいいのかと。日本はお金を集めるのも大変だし、許可を得るのも大変だし。
所長 先生のいう臨床実験というか、臨床というのは本当の患者さんに施すことが臨床で、それまでが10年ってことですか?
横尾先生 そうです。普通は正常なというか、腎臓が悪くない方でまったく健康な方で試すという方法がありますが、我々の方法は腎臓が機能している方にやっても意味がない。逆にマイナスになってしまう可能性がある。本来、薬が出来たら副作用がないか調べるために病気じゃない人に飲んでもらって、副作用はありませんでしたってことになったら、初めて病気の方に使うのですが、このシステムは腎臓を作っちゃう訳だから、腎臓がある方に作っても意味がない。だからそのステップワークをなくして初めから患者さんに。悪い言葉を使うと人体実験という言葉を使われる方もいるけれど、これはもう実験じゃなくて治療ですね。
所長 患者に治療として用いられる時、その患者はどのように選ばれるのですか?
横尾先生 透析されている方でも始めたばっかりで尿も多少出ている健康な方と、かなり進行されて例えば認知が進んだりとか、尿も全く出ないし、長いこと透析をされてそろそろ透析をやめたいっていうような意思があったり、もしくは家族がそう思っていたりする方、どちらを選ぶかというと、やっぱり後者になっちゃう。
所長 後者というのは認知の入った方ですか?
横尾先生 認知とは限らないですけど、終末期に近い方ですね。その方をどのくらい延命したか。そこで尿をちゃんと表に出せるということと安全性を確認して、尿も多少出ている健康な方へ進むというのが今の流れなのです。
透析を週3回から1回に減らすことだけでも十分効果はあると思います。
また、外科的な処置のテクニックはそんなに難しくないと思います。移植といっても、私は完全な内科医ですがシャント等が出来るぐらいの技術があれば十分対応できます。臨床がうまくいった暁には、この治療は例えば慈恵だけでしか出来ないということはなくて、ある程度全国的に展開することは可能だと思いますね。
所長 やっぱり夢を見ますね、私も透析歴30年なので。もちろん移植の登録をして20年以上待って、2回呼ばれましたが、2回とも移植には至りませんでした。献腎移植ってなかなか進んでないですよね。
横尾先生 そうですね…、日本は特にドナーがね。
所長 本当によく分かりました。新聞を読んでいるだけでは分からないものですね。
横尾先生 分からないと思います。記者さんも十分分かっていない場合がある、腎臓専門じゃないし。前半の研究が終わって後半なんですよって言っても、なんとなく分かりづらい。実際後半だけで前半部分の説明をまったくすっ飛ばすと、尿を出すだけでなんでニュースになるのか、という言い方をされるし。
所長 今日のお話で前半とか後半とかすごくよく分かったので、じんラボでしっかり伝えたいと思います。
横尾先生 私たちは楽観主義じゃないとやっていけない面がありますが、不用意に期待を持たせる気もないんです。
でも、透析を一生続けるのか…っていうところから、出口があるかないかでやっぱり気持ちが違うと思うので、そこら辺をうまく伝えていただきたいなと思うんです。
所長 これから透析に入るって方から、よく相談を受けるんです。今日もメールが来たのですが、そのメールでは奥さんがもうすぐ透析って言われ、食事管理とか諸々をどうしていったらいいか分からないと。たぶん細かいことが分からず漠然とした不安がすごくあって質問されてきたのだと思います。
CKDの方の中には1日でも透析になるのを遅らせたいと食事管理、制限を精神的にまいっちゃうんじゃないかなっていうぐらいに厳しくされている方もいらっしゃいます。
そういう方やさまざまな悩みを持たれた方に対して、じんラボではピアサポート活動を少しずつやっていて、なにか不安に思っている人はちょっと話に来ませんか?気軽にお話しましょう、という場を設けています。
もうすぐ透析だという方は、透析になると人生は終わりだ、みたいに思っちゃっている方も多いんですね。出口のない暗闇に入っちゃうみたいなイメージです。でも話をしに来られると、サポーターがみんな結構元気な透析患者なので、透析していても元気でいられるとリアルに分かってもらい、それで少し希望持ってもらって透析が人生の終わりじゃないと安心して帰っていただいています。
透析患者は透析導入日はもう1つの誕生日ってよく言っているんです。また新しい人生が始まるという捉え方をしてもらう、透析をどう生活の中に自分らしく取り入れていくかってところだと思うんですよね。
でも先生のこの研究で希望の光が見えてきて、いつかこの治療を受けられる日も近いんだと思うと、それがすごく明るい光になると思います。
横尾先生 そうなんですね。じんラボの活動、本当に素晴らしい活動だと思って、いつも拝見させてもらっています。
所長 ありがとうございます。
じんラボは私の魂ともいうべき存在でして、今から4年前に1年かけて準備して、もうすぐオープンして丸3年になります。最初はどうしても情報が透析寄りになっていたのですが、これからはもっとCKDの患者さんに何か伝えることに力を入れていきたいなと思っています。
横尾先生 なるほどね、いや本当に素晴らしいですね。何かお手伝いできることあったら言ってくださいね。
所長 そう言われると、たぶんいっぱいお願いしちゃうと思うんですよ(笑)。
横尾先生 私はもちろん研究がメインというか、それが柱の1つなんですけど、慈恵医大には医局員が130人います。日本の腎臓内科としてはたぶん最大規模だと思います。研究をやりながらですけど、そのベースは患者さんを診る仕事です。別な形でも何かお手伝いできることがありましたら、またぜひ声をかけてください。
所長 はい、またぜひ相談させてください。 本日は本当にありがとうございました!
【取材後記】
今回は研究でお忙しいなか快く取材に応じていただき、難しい実験内容について分かり易くご説明いただき、新聞記事だけでは分からなかったことも、すっきりと理解できました。皆さまはいかがでしたでしょうか?
横尾先生の研究にかける想いが、そのまま患者への愛情として感じた1時間ほどのインタビューでした。 今後もまたお力添えいただけるとのお言葉も頂戴してとても嬉しかったです。
これからもじんラボでは先生の研究に注目していきたいと思います。
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