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【舞台演出家・中村龍史さん、留美子さん
特別インタビュー!】
腹膜透析、在宅血液透析を
夫婦の絆で乗り越えていく・在宅血液透析編

2015.10.26

聞き手:よしいなをき

2425

緑の文字の用語をクリックすると用語解説ページに移動するよ。

中村龍史さんは2020年1月22日にお亡くなりになりました。御冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族・関係者の皆さまに、心からお悔やみ申し上げます。

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前回「腹膜透析編」では舞台演出家の中村龍史さん、留美子さんご夫妻に、国内外での公演活動をしながら腹膜透析をされていた体験を熱く語っていただきました。
今回の「在宅血液透析編」では、その後、施設透析、血液透析 に移行してからの透析における工夫や、苦労されたこと、これから透析を受ける方へのメッセージなどを紹介します。

中村龍史さん ご自宅にある血液透析装置と中村龍史さん ご自宅にある血液透析装置と

【中村龍史プロフィール】

演出家、振付家、エンターテイメント作家
1951年上野に生まれ。劇団四季の4期生を経て役者修行。
1981年コンサートの構成・演出・振付を一人で手がける演出家としてデビュー。
松任谷由実、小林幸子、東京パフォーマンスドールなど数多くのコンサートを手がけて、その後、演劇・ミュージカル・国体開会式など300本以上の舞台を創り出している。
遺伝性の多発性嚢胞腎がもとで1998年から腹膜透析を導入。
2001年から『マッスルミュージカル』に取り組み、日本発オリジナルミュージカルとして2度にわたりラスベガス公演を成功させた。
現在は、アスリートを表現者に育成し、三世代で楽しめるステージを追求する「中村JAPAN DC」を主宰。
著書「満身ソウイ工夫(光文社)」
透析歴17年。

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自己穿刺に必要な“勇気”とは

よしい 今は在宅血液透析をされていますが、腹膜透析から在宅血液透析への移行はスムーズでしたか?

中村龍史さん 12年間腹膜透析をしてきて、その後、築地の透析クリニックで2年間血液透析を受けていました。そのクリニックで在宅血液透析の支援を受ける予定だったけれど、いろいろな制約があってなかなか始められないので、インターネットで在宅血液透析のトレーニングを受けられるクリニックを探したところ見つかったのが品川ガーデンクリニックだった。ここで先生から在宅血液透析の話を詳しく聞いて「善は急げ! 」ということで、2013年の2月から3ヶ月間、毎週月、水、金曜日にクリニックに通ってトレーニングを受けたんだ。…最初説明を受けた時に面白いなって思ったのは「針を刺すところ、見られますか?」って臨床工学技士さんに訊かれて「大丈夫です」って答えて、「それが見られる人は在宅に向いていますよ」って説明されたこと。 …よしいさんは見られる?

よしい 以前は全然見られなかったのですが、最近見るようになりました。

中村龍史さん 今後、在宅血液透析を考えているのであれば、シャントのどこを刺しているかとか、やっぱり見ておいた方がいいよ。

よしい やはり最初に大変なのは穿刺ですか?

中村龍史さん いやあ、どちらかといえば機械の操作の方が大変かな。穿刺は“ある種の勇気”があれば、後は痛さだけだから…。

よしい “ある種の勇気”というのはどういった勇気ですか?

中村龍史さん 子供のころにさ、鉄棒で「飛行機飛び」ってやったことある? 両足を鉄棒にかけて、こうやって(身振りを交えながら)ぐるぅ〜ん、トンって感じで…。あれが思い切ってできるようになる勇気(笑)。

よしい 子供のころ初めて自転車に乗れるようになったときのような…?

中村龍史さん うん、そんな感じだ(笑) でもねぇ…穿刺って楽しいよ。腕を見ながら「今日はどこに刺そうかなぁ」って考えている。週に5回の透析をしているから血管の状態も分かってくるね。

よしい ボタンホール(毎回同じ部位に穿刺することで皮膚からシャント血管までのルートを作成する穿刺方法。専用の穿刺針を用いることで痛みが軽減できる)は使われていないのですか?

中村龍史さん 最初はボタンホールで始めたけれど、なかなかうまくできなくて…。うまくできない人は意外に多いみたいだよ。毎回、同じところに穿刺してボタンホールを作るんだけど、刺す時はカサブタを取って専用の針を刺すんだ。ボタンホール用の「ペインレスニードル」って、先が尖っていない針を使うので痛くなくて良いって言うけれど、私の場合はこれを使うとカサブタの一部がボタンホールの中で詰まってしまって静脈圧が上がってしまう。そうすると返血ができないからブザーが鳴りっぱなしになっちゃう(苦笑)

ボタンホール用ペインレスニードル 先端が丸く痛みを軽減するボタンホール用ペインレスニードル 先端が丸く痛みを軽減する

そうしたら一旦、鉗子(かんし:血流を遮断するために使うはさみ状の医療器具)で挟んで回路を外して、シリンジ(注射器の注射針を取った注射筒の部分)っていう器具で詰まったゴミを引っ張り出さないといけない。押子の部分を引くのだけれど、片手でやるのが大変なんだよ。何度やっても異物が取りきれず警報音がビービーなって…(苦笑) それで嫌になって、カサブタの異物が入らないようにするにはどうすれば良いんだろうと思った時に、普通の針でやれば良いと気づいた。普通の穿刺針だとやはり痛いんだけれど、また静脈圧が高くなってシリンジで吸い出すことを何度もやるくらいなら、どうせ毎日刺しているのだから慣れてきて我慢できるだろう、そっちが良いや、って思うようになった。

よしい 私は自己穿刺が一番大変かと思っていましたが、片手でシリンジを引くのも大変ですね。


在宅血液透析にしてよかったこと

中村留実子さん 在宅血液透析にしてからいろいろな検査値が良くなりましたね。

中村龍史さん うん、この前の在宅血液透析の勉強会(「東京ネクスト内科・透析クリニック 第3回在宅血液透析患者会参加レポート Part2」質問2を参照)では、陣内先生は「在宅血液透析では週に最低18時間が基本」言っていたけれど、私は週5回、1回3時間半で17時間半。けれど、リンカリウムの値は問題ない。最初は週6回、1回3時間でやっていたんだ。でももう1回くらい休みたいなあって思うようになって、今は週休2日でやっています。火曜日と金曜日が基本お休み。

中村留実子さん 時々、仕事の都合に合わせてローテーションをずらすこともできます。

中村龍史さん 頻回でもう2年やっているから、多少はずれ込んでも数値的な影響は出ないね。仕事柄、夜に舞台を観に行くこともあるし、そうすると朝早く透析を済ませてから外出する。たまに時間的にどうにもならなくて、夜の11時頃から透析を始めて夜中の3時ごろに終わってクタクタになってしまうこともあるけれど、やらなきゃいけない時は大体やっているね。

よしい 忙しくてもきちんと透析をするのが大事なのですね。

中村留実子さん 仕事で大阪に行った時に、帰りに台風で飛行機が飛ばなくて帰れなくなったことがありました。ちょっとヒヤっとしましたね。

中村龍史さん 航空会社からは「飛んだところで羽田に着陸する確約はできない、条件付きで飛ぶ。羽田に降りられなかったら名古屋だ。」って言われて…(苦笑) 新幹線で東京に帰ることも検討したけれど、考えてみたら車を羽田に置いてきちゃったからね。

中村留実子さん 結局、関西空港の隣のホテルに1泊して、翌朝の6時のフライトで帰ることができました。

中村龍史さん 自宅に帰ってすぐに透析を始めたんだよ(笑) 多少の時間差は大丈夫だね、在宅血液透析は。


多少の水分の増えも調整ができる

中村龍史さん よしいさんは普段、何時間の透析を受けているの?

よしい 月曜と水曜は5時間で、金曜日は5時間半です。

中村龍史さん 5時間はすごいね。透析中は何をしているの?

よしい 私は文章を書くのが好きなのでブログを書いたり、書くための参考になればと思って本を読んだり、映画を観たりしています。

中村龍史さん おお! 私もホン(脚本)を書くことが多いよ。

中村留実子さん 施設に通っている時には書きものをしたり、映画を観たりしていたから、あなたと一緒ね。

中村龍史さん 今はギターを弾いたりすることもあるよ。

よしい 透析の長い時間をどう過ごすのかって、透析患者の1つの課題ですね。

中村龍史さん よしいさんは、大体いつもどれくらいの体重の増えなの?

よしい 私は汗かきなので、今の時期でしたら(取材時は7月)中2日空きの後でも2.5kg増えくらいです。

中村龍史さん すごいね! 中2日空きで2.5kgの増えって。我々の場合だと舞台の打ち上げとかで、飲むことを抑えるのが難しい時もあって、そういう時は1日で3kg増えちゃうこともある。でも頻回で透析ができるから1回の透析で水分を取りきれなくても大丈夫なんですよ。1時間当たりに水を引く量は0.8Lを限度にしていて、3時間の透析で0.6Lを残して、次の日の透析では完全に引ける。多少増えても大丈夫だよね。


中村流プライミングと食事のこと

中村龍史さん 話を戻すと、穿刺よりはプライミングとかの、透析の前後の準備や後片付けが大変だよね。準備で約30分。回路の中に生理食塩水を通して気泡が入っていないか確認するのが面倒くさい(笑) 空気が回路に入っちゃうのが一番怖いからちゃんと確認するけれど、でも少しくらいの空気は許せるよ(笑)

よしい えー! ホントですかぁ!?(笑) それは中村流と言って独自のものでは…(笑)

中村龍史さん 大丈夫! 今なんともないから…(笑)

中村留実子さん (笑いをこらえている)

中村龍史さん いや、真面目に言えば、返血側に気泡が入っていたら大変だから、こっちはちゃんと確認します。出て行く側には気泡が抜けていくところがあるから大丈夫なんだ。私も手順を覚えていく中で必要最低限の大事なところはちゃんと理解しているよ。

よしい 食事のことで気をつけていることはありますか?

中村留実子さん 以前、食事で気をつけていたのはバランスですね。リンやカリウムなど摂ってはいけないものは色々とありますが、栄養素としては大事なものだから、ほんの少しでも材料に使うようにしていました。保存期の時から低蛋白、カロリーを高めに、塩分を控えめというのは、ずっと続けてきて慣れてしまったので苦は無かったです。でも、在宅血液透析をしている今が一番食事の支度は楽ですよね。ほとんど普通の食事です。気をつけているのは塩分くらいで…。逆に低リンになってしまいそうで、在宅になってからは「蛋白質をもっと摂ってくれ」と主治医から言われてしまいました。

中村龍史さん 在宅血液透析で気をつけなくてはいけないのは、透析をしすぎて低栄養になってしまうことだよね。それは気をつけています。

中村留実子さん 蛋白質の摂取量は1年くらいかけて増やしたんです。保存期の食事に慣れていて、お肉にしてもパッと見たら蛋白質は何gって分かるくらいでしたから、最初は思い切り増やせなくて…(苦笑) 人間って意外にそういうものなんだなあって、自分でも可笑しかったんですけれど、それにも慣れました(笑) 少しずつ体に良さそうで良質な蛋白質を増やしていきました。今は結構お肉食べますよね。

中村龍史さん そういう意味では今は普通の食事です。飲み物については少し気にしているけれど…。でも長く続けてきた習慣があるわけだから、がぶ飲みするわけじゃないからね。最近は透析が終わって1杯軽〜く飲むのが楽しみかな。

中村留実子さん 腹膜透析から在宅血液透析に変わって、本当に楽になりましたね。

中村龍史さん それまで長かったからなあ。腎臓が悪いってところから始まって、クレアチニンがちょっとずつ上がっていった頃からずっと食事を作ってもらっていたから、本当に大変だったと思う。今は食事の面だけみても在宅血液透析を始めたことのメリットはものすごくあったと思う。


これから透析を受ける人に

よしい 最後にじんラボをご覧の方にメッセージをお願いいたします。

中村龍史さん 私には叔父が2人いて、2人とも透析導入しています。何か寓話のような話だけれど、1人の叔父さんは「これを一生涯やらなくてはいけないか? 」って感じて、毎日毎日が「オレはもうダメだ」って思っていた。もう1人の叔父さんは「これさえやっていれば一生涯生きていける」って考えていて、「これさえやれば生きていけるんだから問題ないじゃないか」って…。透析を受けることを重く受け止めてしまえば、こんな辛い病気はないからね。けれど重く受け止めてどうするんだ。自分が自分の人生を作っていかなくちゃならないんだから、ここで諦めちゃうの? いや、まだ終われないって気持ちがあるんだったら、透析を受けることは毎日歯を磨くことと同じくらいのことだと思えばいい。

中村留実子さん 透析をすることは息を吸うのと同じくらい体には必要なことですよね。息を吸うのは無意識じゃないですか。もちろん透析は意識しなくちゃできないかもしれないけれど、呼吸することと同じくらいに考えて、自分の人生の中で取り組むべきことを続けるのが良いと思います。私は透析患者ではないのですが、でもそういう感覚を持たないと辛いんじゃないかなって思います。

中村龍史さん いろんな考え方があってさ、4時間、5時間の透析をしているのならば、その時間を楽しめばいいじゃない。私はクリニックで透析を受けていた時、どうやって4時間を過ごすか考えていた。映画だったら2本観られるし、ペプシとグミとじゃがりこを持ちこんで、これを透析中の“三種の神器”って呼んでいた(笑) 透析中に食べるのを楽しみにしていたから(笑)

中村留実子さん 看護師さんたちからは、“中村さんのピクニック”って呼ばれていましたね(笑)。

よしい 私も事前に観る映画を決めておくと透析が楽しいと思えることがあります。

中村龍史さん そう! 楽しいでしょ。

よしい はい、普段1人になれる時間ってなかなか無いですから。

中村留実子さん いつもこの人が2階で透析をしている時は、私も1人で書き物をする時間にしていて、1人になる楽しさがあります。

中村龍史さん ずっと2人とも同じ仕事だから2人で一緒にいることが多いんですよ。在宅血液透析中に助けてもらう時は呼んだりもするけれど、この人も1人になれるし私も1人になれる。1人になれる時間って有効だし有意義な時間だと思う。

よしい 私のカミさんも同じことを言っていまして「お互いが1人になれる時間があるのは助かる」と…。

中村龍史さん でしょう! 透析をするメリットをもっと世間に広めていく必要があると思う。こう言うと先生たちは怒るかもしれないけれど(苦笑) 透析を受ける本人からするとデメリットばかり聞かされても辛くなるばかりだ。じゃあ、「メリットって何ですか? 」って聞かれた時に「普通の人と同じように生活ができます」ということと「4時間〜5時間、個人的な時間が持てます」ってちゃんと伝えなければと思う。

【よしいなをき所感】

取材の途中で中村留実子さんからわらび餅をいただきました。よく冷えていて喉越しの良いつるんとした食感で、とても美味しいわらび餅でした。中村龍史さんはスプーンで口元に運びながら「透析患者からすると、こうしたみずみずしいものって美味しいよね。水分がそんなに摂れない人間からするとすごく嬉しい」と言われ、その時に私も全く同じことを感じて、立場も経験も違うのに、同じ時間を過ごしてきたかのような錯覚に陥りました。一瞬、まるで家族と一緒にいるような安心感を覚えたのです。

先日、中村龍史さんが出演された『コント以上、芝居以下! おかしいな二人vol.3 』を観てきました。1時間30分の舞台の間中村龍史さんは最初から最後まで出ずっぱりで会場を笑いに包みます。オムニバス作品10本と見応えがあり、中村さんはそれぞれの作品をさまざまな表情で演じます。最初から最後までお腹の底から笑い続けて、見終わるとなんだか元気になったように感じました。中村さんは本当にパワフルな人で、その溢れ出すパワーが伝わったのだと思います。

舞台を続けたいから腹膜透析を選んだ。そして在宅血液透析を選んだ。透析は生きる枷ではなく、自らの活動のために必要なことで、もはや空気を吸うことと同じようなこと。

「俺はいっぱい人を楽しませたいんだ! 辛いなんて感じている場合じゃない! 」

中村さんはそう考えているように思います。

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よしいなをき

よしいなをき
透析はしていますが普段はスポーツ自転車に乗って 体を鍛えています。
仕事は、平凡なサラリーマンですが、透析の時間を利用して、ブログを書いたり、小説を書いたりしています。

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