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【舞台演出家・中村龍史さん、留美子さん
特別インタビュー!】
腹膜透析、在宅血液透析を
夫婦の絆で乗り越えていく・腹膜透析編
2015.8.20
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中村龍史さんは2020年1月22日にお亡くなりになりました。御冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族・関係者の皆さまに、心からお悔やみ申し上げます。
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じんラボ所長の宿野部武志が、ある患者会の集まりで声をかけられました。その方は、舞台演出家の中村龍史さんと奥様の留美子さんでした。所長が「じんラボ」で腎臓病と透析に関する情報や体験談を発信していることをお話したところ、中村さんご夫妻は「透析患者が情報発信しているのが面白い! ぜひ協力したい! 」と仰ってくださいました。そこで私よしいなをきが中村さんご夫妻のご自宅にお邪魔して、腹膜透析と在宅血液透析に取り組まれてきたお話を聴かせていただきました。
中村龍史さんは透析をされながら『マッスルミュージカル』など数々の舞台演出を手がけ、留美子さんは舞台脚本を書きながら食事制限などのサポートを行い、まさに夫婦二人三脚で仕事と透析に向き合ってきました。地方や海外での公演活動に精力的に行いながらの透析治療への取り組みには、さまざまな工夫や困難がありました。
【中村龍史プロフィール】
演出家、振付家、エンターテイメント作家
1951年上野に生まれ。劇団四季の4期生を経て役者修行。
1981年コンサートの構成・演出・振付を一人で手がける演出家としてデビュー。
松任谷由実、小林幸子、東京パフォーマンスドールなど数多くのコンサートを手がけて、その後、演劇・ミュージカル・国体開会式など300本以上の舞台を創り出している。
遺伝性の多発性嚢胞腎がもとで1998年から腹膜透析を導入。
2001年から『マッスルミュージカル』に取り組み、日本発オリジナルミュージカルとして2度にわたりラスベガス公演を成功させた。
現在は、アスリートを表現者に育成し、三世代で楽しめるステージを追求する「中村JAPAN DC」を主宰。
著書「満身ソウイ工夫(光文社)」
透析歴17年。
腹膜透析の頃から、体はしっかりと動かしてきました
よしい 中村さんの原疾患は遺伝性の多発性嚢胞腎とお聞きしました。
中村龍史さん 私の父が生前、私も同じ多発性嚢胞腎を患っていると知ってものすごいショックだったみたいですね。父も叔母も叔父も姉もみんな嚢胞腎から透析を受けることになったから。
留美子さん この人の家系は医学的にも研究対象になるのではないかというくらい、透析を受けられている人が多かったんです。
中村龍史さん 透析を受けることに違和感が無かったわけではないけれど、「いずれは自分も透析を受けなくてはいけないんだろう」ということは考えていたよ。ずっと家族の姿を見てきたから、同じように透析施設に通わなくてはいけないんだろうなっていうのは分かっていたね。普通の患者さんであれば家族に透析を受ける人もいなくて、いきなり病気を宣告されたらショックだろうなって思う。 …ところで、よしいさんは慢性腎臓病を患ったばかりの時に、自覚症状ってあった?
よしい 保存期に入ったばかりの頃は自覚症状は全然無かったです。
中村龍史さん 私も自覚症状は無かった。いずれは透析を受けなくちゃいけないって言われても自覚症状は無いし、でも主治医からは「体を動かしたら休みなさい」って言われて…。今にして思うと本当に休む必要があったんだか…(苦笑)
よしい 私も主治医から「歩く時は分速5メートルくらいで歩いてくれ」って言われたことがありました。
中村龍史さん 分速5メートル?? 1分間で5メートル歩くってこと? (笑)
留美子さん そのほうが疲れちゃいそうですネ(笑)
中村龍史さん まるで狂言とか歌舞伎みたいだね(笑) そういう医療者が伝える情報って基本的にどこまで正しいんだろう? 本当は間違った情報もありそうだよね。
留美子さん 今まで随分と体を動かしてきたのにね(笑)
中村龍史さん 主治医に言わせたら「なるべく動かないようにした方が良いですけどね」って、それしか言わないけれど…(笑) でもそうしたことは自分で試すのが良いっていうのが私の持論なんだ。腹膜透析をしていた12年間、お腹にチューブを入れて振り付けなどで体を動かしていたからね。私の舞台活動中の体の動きを見たら、みんなびっくりすると思うよ。
よしい 12年間腹膜透析ですか、それは長いですね。
中村龍史さん 実はギネスに申請しようと思っていて…(笑) 他の人に聞くと腹膜透析12年って奇跡的な長さなんだね。長くても5・6年って言うし、気が付いたら私は12年、舞台や振り付けの仕事でしっかり体を動かしながら腹膜透析を続けていた。医者からは腹膜透析をあまり長くやり過ぎても腹膜や腸が硬くなるって言われたけれど、そんなことも無かったな。12年目になった時に排液が少なくなってきて先生と相談して、そろそろ無理かなあ…と。
舞台活動を続けるには腹膜透析が良かった
よしい 腹膜透析を選ばれたのは舞台活動を継続するためですか?
中村龍史さん 実は施設透析をしていたこともあって、自宅から築地のクリニックまで行くのに車で45分くらいかかっていたんですよ。クリニックを往復する時間や、着替えなんかして4時間の透析をするとトータルで6時間くらいはかかっちゃう。それでは仕事にならないですよね。時間が勿体無いということと、血液透析だと中2日空きの後は体がきついよね。腹膜透析は毎日できるから中2日空きのような辛さが無い。1回の透析効率は腹膜透析の方が低いけれど、ゆっくりと時間をかけてやれるので体には優しいよね。
うちでAPDシステムって機械を使って腹膜透析をしていた時は、1日に13時間くらいかけていました。寝ている間に機械で4回、3時間おきに透析液の入れ替えをしていた。毎日夜の10時に始めると次の日の午前11時には終わるのだけれど、途中で離脱もできるから普通にご飯を食べたり、仕事したりして離れることもできたね。
よしい 腹膜透析だとほとんど仕事に支障は無かったんですね。
中村龍史さん 支障は無かったね。でも、朝はお腹から透析液を廃液する時間がなくて仕事先に移動した後に出すとか、移動中の車の中で出すとか飛行機の中で出したこともあります。
よしい 体から透析液を出す時は立ち上がらなくてもいいのですか?
中村龍史さん 椅子に座るくらいの高さがあれば大丈夫。透析液の廃液は高ければ高いほど速く出せるけれど、車のシートだと少し遅いかな、高さがかせげないから。
よしい 自分で工夫できるところが血液透析とは随分違いますね。
中村龍史さん 腹膜透析は工夫だらけだよね。本当は透析液バッグを温める機器があるのだけど、旅先ではホテルに行くと熱いお湯をバスタブに溜めて、その中に透析液バッグを入れて温めちゃう。これが一番速く温まるんです。以前、温めるのが面倒くさくて冷たいままお腹に入れたことがあるんだけれど、すごくお腹が痛くなって大変だった! (笑)
よしい 冷たいまま入れるとお腹が痛くなるんですか!? 夏の暑いときは冷たいまま入れられるというわけではないんですね…。
中村龍史さん ダメダメ。直接お腹を冷やすから、もう、痛くて痛くて…(苦笑) ニューヨークのホテルで時間が無くて、このまま入れちゃえ! って入れちゃったら、中に入れた透析液3.0Lが自分の体温で温められるまで、ずーっと痛かった(苦笑) 他に工夫ということでは、ホテルのクローゼットがあるでしょう。その中のハンガーのところに透析液のバッグをかけて、自分は床に座っていると高さがあるからお腹に透析液が入っていくのが一番速いとかね。
留美子さん 車の中でもハンガーに引っ掛けて、っていうのがありましたね。
中村龍史さん 車内だと高さがないんだよね。だから窓から手を出して上に持ち上げるようにして透析液を入れるようにしていた。大体、3kgのウェイトを持ち上げているのと同じだったね。
よしい それはすごく大変じゃないですか!?
中村龍史さん 大丈夫。お腹に入っていくとだんだん軽くはなるからね。入りきるのに10分くらいかな。自分らしくポジティブな捉え方をすれば、ちょっとしたトレーニングだったかな(笑)
よしい なんだか透析を楽しんでいるのが伝わってきます。
中村龍史さん 一日が透析だけで終わっちゃうのはつまんないじゃない(笑)
公演中、腹膜透析で大変だったこと
よしい 海外での公演活動なども精力的にされていますが、腹膜透析をされていて大変だったことはありますか?
留美子さん 最初の頃はAPDシステムや周辺機器を自分たちで輸出していました。個人輸出という形でしか海外に持ち出せなかったんです。そのうちに業者も考えてくれて、現地で手配してくれるようになりました。
中村龍史さん アメリカと日本で同じ会社なのに、アメリカは大雑把なんだよね(苦笑) 日本は丁寧というより少し過保護なのかな。日本の場合だと箱詰めされた周辺機器が丁寧にビニールで包まれていて、説明書まであって、マスクまでちゃんと入って、すぐにできます!って感じで(笑)
留美子さん アメリカだと全く逆で、ものすごい大きなダンボールに無造作に入っていてビックリしました。それで実際にチューブを合わせてみたら、口の大きさが違っていたんです。
よしい チューブの口の大きさが違うというのは…?
中村龍史さん お腹のチューブとAPDシステムのチューブをつなげようとする時、チューブが根元まで入り切らないでネジ山が3つくらいはみ出しているんだよ。これはちょっと怖かったから、始める時と終わる時に消毒用のイソジンをたらしながらやっていた。ニューヨーク、カナダ、中国でもそうだった。同じ規格のはずなのになぜかチューブのコネクターが入りきらない。日本だけだよ、きちんと入りきるのは…。
留美子さん ラスベガスでの公演では滞在期間が1ヶ月だったからすごい荷物でした。透析液だけで山のようにあって、ものすごい量で笑っちゃいましたね(笑)
中村龍史さん 一緒に行った連中にも「どうしたんですか? 」って言われて(笑)
留美子さん 当時は腹膜透析を受けていることを周りの方は知らなかったですからね。日本食にこだわりがあってお米とか食料品をたくさん持ってきたんだって周りの方は考えていたと思います。
中村龍史さん 当時はいろいろな言い訳をしながらやっていたね。
留美子さん 長崎の佐世保の市民百人ミュージカル『佐世保ブギウギ』(長崎県佐世保市の多目的ホール「アルカスSASEBO」開館5周年記念で行った市民参加ミュージカル)の時も、ホテル関係者以外の方は腹膜透析を受けていることを知らなくて…。稽古終わりに外で食事をしつつ打ち合わせとなると、慌ててホテルに戻って透析液を入れて…(笑)
中村龍史さん レストランに駆けつけ、でも、部屋に置いてあるAPDシステムが時間になると、ピー、ピーっと鳴る、レストランまで聴こえるわけではないけれど、途中で「ちょっとゴメンね」って、部屋に戻り、透析液の入れ替えをしてまた戻ってくる(笑)2時間45分くらいが過ぎると又、入れ替えに‥…。ホテルの部屋も広かったので、時にはスタッフを集めての打ち合わせ中にも「何かピーピーいっていますよ」って言われて…(笑)
留美子さん 面白かったネ。面白がってちゃいけないですけれど(笑)
よしい 面白がる余裕があるのが素敵ですね。
中村龍史さん お腹の中に3L近くの透析液を入れているから、お腹周りが大きくなっちゃうんだよね。同じジーンズでもサイズの大きいのを別に買うんだよ。31インチと33インチを2本買うんだけれど、必ず店員さんに「違う大きさですが大丈夫ですか? 」って聞かれちゃう(笑)
よしい それは腹膜透析をしている人でないと分からない話です(笑)
12年腹膜透析をしていて1日だけ透析をしなかった日
中村龍史さん ハワイで姪の結婚式があって、その時に業者が送ってきた透析セットが間違っていたことがある。ひと昔前のAPDシステムだったのでチューブが繋がらなかったんだ。マニュアルで操作をすることもできないし12年腹膜透析を毎日してきた中で、この日1日だけ透析ができなかった。
ハワイから業者に電話して、先方から「今、どちらですか? 」って聞かれて「ハワイです」って答えたら、電話の向こうで緊張が走るのが伝わってくるんだ。「すぐに持っていきます! 」って言われて…(笑) で、次の日に本当に飛行機で持ってきてね。俺の気持ちとしてはね、せっかくのハワイなんだからアロハとか着て来て欲しいなー、なんて思ったんだけど会社員だからね。ビシッと決めてガチガチの格好で来ちゃった(笑)
よしい 平身低頭で来なくちゃならないのにアロハは着られないです(笑) ですが、海外ではいろいろな問題が起きるのですね。
中村龍史さん それは想定内として、自分でなんとかするって気持ちじゃないと海外には行けないんだよ。ハワイの時は1日ずっと横になっていて、すぐに命にどうのということはなかったから良かったけれど。
留美子さん リスクは自分持ちですよね。海外に行ったらまず慌てないことって、自分に言い聞かせていました(苦笑)
患者同士の横のつながりが大事
中村龍史さん この前、病院に行った時におばさんが2人いて、腹膜透析をやるのはすごく大変だと思っている。ものすごく丁寧に手を洗わなくちゃいけないとか、周囲も衛生的にしてすごく綺麗にしなくちゃいけないって思っているようで、ものすごく気持ちがピリピリしているのが伝わってきたんだ。
私も始めたばかりの時は、確かに手をちゃんと洗ったりしていた。よしいさんの話じゃないけれど、私も主治医から「必ず始める前に3分は手を洗いなさい」って言われたけど、「そんなに洗っていたら手が小ちゃくなっちゃうよ」って言ったら主治医も笑っていた。…冗談じゃないよ、10秒だよ、オレなんか(笑)
三人 (爆笑)
留美子さん 手術をしようっていうんじゃないんですから…(笑) 毎日となったら大変ですよね。
中村龍史さん チューブをつなぐ時だってマスクをしなさいって言うけれど、マスクしたことないもん(笑) 最初ちょこっと息止めるくらい。
留美子さん 私もとなりで一緒に息を止めて…(笑)
中村龍史さん 真面目にやっている人はたくさんいるし大変だよ。始めたばかりの時は患者同士の横のつながりが少ないから、これくらいでも大丈夫って言うのが分からないんだよね。
留美子さん だから、できるだけ自分たちが経験したことを話していくことが大切だなって思っているんです。
中村龍史さん 長い間、真面目にやらなきゃならないって思っていると本当に辛くなっちゃうよね。私なんかこれで12年よくやったと思うよ。毎日だものね。気持ちを楽にしていたから12年続いたのかもしれないね。
【よしいなをき所感】
お話を伺いながら感じたのは、中村さんご夫婦の仲の良さです。腹膜透析をしながらも、お二人で楽しみながらさまざまな体験を共有されてきたことがすぐに分かりました。1つの質問にお二人が交互に次々と、楽しそうにお話してくださいました。
また中村龍史さんは好奇心旺盛で、逆に私が質問されることも多くありました。常に新しい情報を得て、ご自身の透析ライフに生かそうという気持ちがとても強いのだと感じました。
今回のインタビュー内容のテープ起こしをしながら、何度も笑い出してしまいました。それくらいお二人のお話が面白く、またコンビネーションの良さが伝わってくるのです。そのような終始賑やかで楽しい雰囲気が伝わる記事にせねばと、少し緊張しながらまとめさせていただきました。
次回「在宅血液透析編」でも中村さんご夫婦のさまざまな体験談が飛び出します。ご期待ください。
【中村龍史・公演情報】
『コント以上、芝居以下! 「おかしいな二人」vol.3』
開催日時:2015年9月16日(水)〜19日(土)
チケット料金:4000円(全席自由)
上演スケジュール
16日(水) 19時から
17日(木) 19時から
18日(金) 19時から
19日(土) 14時から
※開場は開演の20分前
開催場所:赤坂CHANCEシアター
港区赤坂2-6-22デュオ・スカーラⅡ B1F
※赤坂郵便局隣のビル地下1階
千代田線「赤坂駅」2番出口より徒歩2分
南北線・銀座線「溜池山王駅」10番出口より徒歩4分
銀座線・丸ノ内線「赤坂見附駅」赤坂方面出口より徒歩6分
チケット購入は、Confetti
もしくは
e+ (イープラス)
お問合せ
オフィスひらめ & 中村JAPANドラマティックカンパニー
TEL 03-3439-3623
FAX 03-3439-0275
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