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第9回長時間透析研究会・政金生人先生講演
『最高・最適な透析条件を考える』
2014.1.21
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『透析と共に生きて』森本幸子(兵庫県 元町HDクリニック)
『透析と共に生きる幸せ』畠山岳士(滋賀県 第二富田クリニック)
2013年11月10日開催の「第9回長時間透析研究会」で、ランチョン・セミナーとして講演された政金生人先生の『最高・最適な透析条件を考える』のレポートです。
政金生人(まさかねいくと)
医療法人社団清永会矢吹嶋クリニック 院長
1986年山形大学医学部を卒業
2000年同大学大学院医学研究科修了
山形大学医学部付属病院、
山形県立日本海病院、
公立置賜総合病院、
矢吹病院を経て2008年より現職
全国の透析医療の先輩を訪ね、多くの透析患者に会ってきた体験から、透析の良し悪しは患者に答えがあることを確信し「愁訴がなく、患者が元気な日常生活を送れるかどうかがもっとも簡単な適正透析の指標である」とした「愛Pod(Patient oriented dialysis)計画」を2005年から提唱。
本講演では、フランスのタッシンでの30年前の長時間透析の実績と日本での現状の比較と、そこから見える長時間透析の課題について、また、ダイアライザの特性からみた一人ひとりに合った透析治療とは何か、さらに政金先生が提唱している「愛Pod計画」について話されました。
透析治療における光と影
「まさにこの長時間透析研究会の今回のテーマですが」政金先生が話し始めました。物事には良い面と悪い面があり、その良い面の一つとしてCTS(手根管症候群)の発症遅延を挙げました。
「現在の透析液は以前に比べて非常にきれいになっており、そのお陰でCTSの発症が遅くなっている。アミロイド症は透析液の汚染が原因だったと考えられており、現在はフィルター技術の発展とともに透析液がきれいになってCTSが起きにくくなっている」
「フランスのタッシンでは、長時間透析を行うことで30年以上も前から64歳以上の人の5年生存率が67%だったそうです。日本の37%に対し驚異的な数値です。タッシンの成績はなぜすごいのかというと、非常に小さな面積膜のダイアライザを使い、おそらく汚染されている酢酸透析液の使用で、10年でほぼ全員がCTS(ほとんどがアミロイド症)にかかっている。それでも圧倒的な生存率を誇る。日本では65%以上の人が服用している降圧剤の使用は2%しかない」
長時間透析にともなう長期生存が光とすると、透析によるCTS(手根管症候群)の発症は陰と言えるでしょう。
透析アミロイド症のCTS(手根管症候群、猿手)と破壊性脊椎関節症について写真を交え説明を続け、長生きしながらアミロイド症にならないことが大切であると強調しました。
「30年前のタッシンの長時間透析は、小分子量尿毒素(尿素、カリウム、リン)の除去を格段に増やし、体液量を正常化して生存率を改善したとのことです。しかし、汚染された透析液を持続的に使った影響や、生体適合性不良のアミロイド症の発症が起こってしまったのではないか。もし、フランスで清浄化された透析液で、生体適合性のよいダイアライザが使用されていたらアミロイド症の発症が抑制され、寿命はさらに伸びたかもしれない」
医療側は勘違いしやすい。こんなに高い医療器具を使っているのに…
「最先端の治療技術(器具)が必ずしもよい治療効果を生むとは限りません」として、治療効果は、(医者の)治療介入が生体側に反応する産物であり、生体側の要因の影響を受けると続け、治療効果には患者の満足度が大きく関与する。患者の満足度を左右するものは改善させたい愁訴をいかに低減させるかにかかっている、と説明しました。
「こんなに高い医療器具を使っているのに…と言われる先生たちもいるが、どんなにいい治療をしても患者ありきの話です。科学的数値だけでは判断ができず、患者が如何に暮らしているかということが意外に重要ではないか。患者さんが透析は快適である感じること、うつ状態ではない、快適な生活ができているといったことが、患者の長期生存に繋がっていると思う」
誰にとって良いのか、何の為に良いのかを「最高・最適の透析条件」というスライドを用いて解説を続けます。
「若者か高齢者か。また、生存期間延長なのか。合併症の予防のためなのか。QOL向上のためなのか。除去効率を上げるためなのか。人によって目的が違う。画一的な治療はできない」
日本の透析ガイドラインとフランスでの違い
それでは、どのような血液透析がよいのか。政金先生は日本透析医学会の『維持血液透析ガイドライン:血液透析処方』をスライドに映し、説明を続けます。
「ガイドラインのステートメント(公式発表)として、透析量は尿素のspKt/V を用いることを推奨すること。透析量は、月1回以上の定期的な測定を推奨すること。実測的透析量としては、最低確保すべき透析量としてspKt/V 1.2以上を推奨する。目標透析量としては、spKt/V 1.4以上が望ましい。透析時間は4時間以上を推奨する。とあります」
政金先生は、この数字はやや啓発的な理由で作られていることから、日本のガイドラインは最小限の推奨レベルだと説明されています。
また、日本の透析時間の実態を見たとき、施設透析が平均3.92時間、自宅透析でも4.92時間であることを挙げた上で、カナダのオールナイトロング透析では週6回8時間透析を行うことで、患者さんにはみなぎるエネルギーがあり、そこまで長時間透析を行えば自然分娩までできると説明しました。
透析時間は長い方が確実に予後がよい。政金先生はこう続けます。
「週3回8時間以上、週6回8時間以上の透析は、CKDステージ3、4に匹敵する(無症状)。週3回4時間の透析はCKDステージ5の「疲れやすい、尿毒症症状など」と同じレベル。かゆいとかだるいといった患者さんのすべての症状は透析不足と考えるべきです」
長時間透析の課題
では長時間透析の課題は何でしょうか?
ヨーロッパでの透析時間は週あたり36時間が目安だそうです。週36時間以上の透析をすると逆にリンが不足し、週7回もやると21リットルの除水になり、カルシウムバランスがマイナスになる。日本の透析液では考えられないが、ヨーロッパでの透析液はリンやカルシウムの添加を行っているとのことです。
「抜きすぎるということであれば、アルブミンが抜けすぎるという問題もある。β2-ミクログロブリンなど大きな物質を抜くために、穴の大きな膜を使う。日本の臨床技師さんは、抜ける膜、穴の大きな膜が好き。貧血が下がって痒みも無くなったけれど、同時にアルブミンも下がってしまう。アルブミンが下がりすぎると予後が良くないとされている。我が国のダイアライザの指針では非常に抜ける膜を使いましょうということになっている」
なぜ、大きい物質を取る必要があるのか。政金先生はこう続けます。
「なぜ、大きな物質を取るのか。腎臓の仕組みではβ2-ミクログロブリン、アルブミン、サイトカインも濾過して、尿細管で分解再吸収します。CKDになるとこのうちサイトカインが蓄積してしまいMIA症候群(「Malnutrition(栄養障害)」「Inflammation(慢性炎症状態)」「Atherosclerosis(動脈硬化)」の頭文字から)といった状態になってしまう。そこで大きな物質も取った方がいい」
「ただし、大きな物質を取った方がいいとはされているが、実際のところ、造血阻害因子、関節痛起因物質、掻痒(かゆみ)起因物質など、β2-ミクログロブリン、RBP、α1−M、α1酸性糖蛋白など広い範囲で起因物質であろうと考えられていて、どれが直接原因かは特定されていません。これらが大体原因だろうと考えられていて、乱暴に言ってしまえば、どうもこの辺りが怪しいからみんな取ってしまえという考えです」
血液透析の役割の優先順位とダイアライザの選択
透析治療には生体適合性というものがあると政金先生は続けます。
「例えばダイアライザの材質だとか、透析回路だとか、血液の成分が外に出てそれらの異物と接すると、血液中の成分が活性化されて体に戻って炎症を起こす。それが動脈硬化を進めて、透析患者さんは心臓病になったり、足の血管が詰まったりする。また、急激に毒素を取るということも、体の中に非生理的な状況を作ることになる。何かしらの非適合性が生まれてくる」
ここで、透析歴34年・PMMA(蛋白吸着性のダイアライザ)歴25年の春木繁一先生がスライドで紹介されました。
「春木先生がこう言っています。
「5時間を超える頃からなんとも気持ちがいいんだよ。
お風呂でぬくぬく温まっている感じなんだよ。
この1時間をしないなんてもったいない」」
「患者がこういう風に言ったとき、医者はどういう意味があるかを考えた方が良い。なんで最後の1時間は気持ちいいのだろうか。春木先生が使っているダイアライザは蛋白質を吸着するダイアライザです。もしかしたら5時間くらいになるとダイアライザの中は全部詰まっているのではないか。なんにも抜けていないんじゃないか。だからラクなんじゃないかって思う訳です。急に走った後に急に立ち止まったりしたらダメです。心臓がバクバクしてますから。走った後にジョグで流して、調子を整えて家に帰る。そういうこともあるかなって思うんです」
このように冗談を交えながら説明し、次のように続けます。
「僕たちも普段から患者のこういう言葉に注目して、なんで患者さんはこう言うんだろうって、もっと考えないといけない。今日、来ている患者さんも、こういう発言はお医者さんにどんどんしてもらいたい。そうするとそこに何があるんだろうって医者は考えますから。そうすると意外に面白いことが見えてくる」
説明の中でPMMA膜は4時間を超えた頃から吸着の効果が薄れてくるとされました。では、そのような特性の膜はやめて他のポリスルホン膜に変えたらどうか、と説明を続けます。PMMA膜からポリスルホン膜に変えたところ、体重がたちどころに落ちることが示されたグラフを投影し説明を続けます。
「患者さんの体重が落ちるということは筋肉が落ちるということ。患者さんの活動線も落ちるということですから、やせることは良くないことです」
続いてEVAL膜の特性についての説明です。「EVAL膜は末梢循環が保たれることが分かっている。足が冷たくならない。透析中に足が冷たくなるというのは、血小板が活性化される。すると末梢でこれが詰まるんです。そういう透析は体に良くないです」
つまりダイアライザには、患者の体に対して色々な作用をもたらすものがある。ダイアライザには化学成分が含まれていて、化学成分の影響を受けにくい治療が患者にとって良い治療ではないか、と考えを述べました。
「前希釈HDFについても生体適合性に合う。前希釈の方が、血液が薄まり化学物質との接触が少なくなる。合わせて、化学物質反応性蛋白が透析液に排出されるので患者には良い」
ダイアライザにはアミノ酸のロスが少ないEVAL、PMMA、AN69、on-line HDF前希釈や、低分子蛋白の除去によいPS、PEPA、PESなどさまざまなタイプがあるそうです。
「これらのダイアライザを患者さんが選べるようにするといい」
政金先生は楽しそうに続けます。
「今日の気分はこれだぜ、みたいに。そうするとダイアライザを選んだ患者にも責任がある。お互いにチャレンジを許すようなやり方があってもいい。お互いに方策を探るということは必要なのかもしれない。患者も自分の透析は任せっきりにしてはいけないんです」
血液透析の役割は、生体適合性や毒素の除去等さまざまあります。「優先順位がどっちが良いかと言えば、 僕は生体適合性を重視すべきだと思う。ダイアライザのチョイスが重要です」
治療効果の評価について・愛Pod計画
日本透析学会のガイドラインの透析治療の効果の評価に関してのステートメントは以下の通りです。
- 短期的指標としては、透析中の循環動態と尿毒素除去効率を用いて評価する。
- 中長期的指標としては、尿毒素の維持レベル、栄養状態、生命予後に関するQOLの指標を用いて評価する。
- 透析効果の評価に基づき、必要に応じて透析処方を変更することが望ましい。
これらは愛Pod計画をベースに政金先生が書かれたとのことです。
愛Pod計画は、政金先生が提唱されている患者指向の透析方法です。愛Podシートと呼ばれる評価シートを使い、年に2回、患者から透析・日常生活に関する20項目について質問し、患者一人一人の状態を点数化します。これを総合的に見ることで病院の満足度評価に活用できます。
「どんなにいいダイアライザを使っても、患者が言うことを聞かないとか、ドクターが横柄だと満足度は低いということが分かります。是非、うちのホームページから愛Podシートをダウンロードして使ってみてください」
「愛Pod シートを使うことで患者愁訴の分析ができます。かゆみ、寝付き、睡眠、血圧低下、興味がわかないなどの項目が高いなど、どういうことに患者が悩んでいるかが分かる。また、寝付きが悪い人、睡眠障害がある人は寿命が短いというエビデンスもあり、血圧低下が頻繁な人は動脈硬化が進行している可能性もある。死亡リスクの分析ができます」
「死亡リスクを分析してみると年齢も性別も透析条件も関係なく、辛い、痒い、いらいらするといった症状のある人が一番死亡リスクが高いんです。愁訴系合計の高い30点以上の人たちが死亡リスクが高い。いろいろな症状というものが巡り巡って患者を苦しめるということなんです」
自分が透析患者になったら、そして患者に必要なことは
政金先生自信が透析をするとしたら、どのような条件での透析をするか、という話をされました。
「自分が透析をするとしたら、在宅透析を隔日で8時間透析にします。ダイアライザはPMMA膜か、今は無きエバブレンがあれば…。QBは200−250ml/min、QDは400-500ml/min、できれば内シャントはない方がいい。ではありますが、すべては体調次第で決めると思います。結論としては、やってみないとわからない」
最後にアメリカにおける透析医療について触れました。
「愛Pod計画を思いつくまでは、アメリカのやり方はダメだと思っていた。データばかり見ていて、と思っていましたが、2年前にアメリカに行くと論調が変わっていたのに驚きました。"Ask Your Patients! & Do Something it! " 患者の訴えを元に実行する、まさに愛Pod計画の考え方と同じです」
「結論としては"Do as you to be done."、自分がして欲しいことを患者にして欲しい。己の欲せざる所、人に施す勿れ、ということで」
【研究員:よしいなをき所感】
私が通っている透析クリニックの看護婦長さんに「今度、政金先生の講演を聴くんです」と言ったところ、「政金先生の講演会は面白くて、いつでも盛会ですよ」との評判でした。実際にその通りで、ユーモラスな語り口で、本来なら非常に難しい内容の話を丁寧に分かりやすく伝えてくれるものでした。政金先生の人柄を感じることができた講演会でした。
政金先生は長時間透析の良い面も悪い面も捉えた上で、一人一人の患者さんに合った治療は何であるかということを、芯から考えている方だと感じました。
私たち患者はヘタをするとオンラインHDFかHDかというくらいしか透析の種類を知らず、ダイアライザの種類だけでも、実はまだまだ選択肢があるということを気がつかせてくれる講演だったと思います。
私は是非、先生が言うところの「今日の気分はこれだぜ」というようなダイアライザの種類をチョイスする透析をやってみたいと思います。中2日、自転車に乗りすぎて体に毒素が溜まりすぎた時、「先生、今日はこの膜を試してみましょうよ」とか言ってみたい。そのためには患者のプロとして勉強しなくてはいけないですし、それにさまざまな情報が公開されるといいですね。
良い透析とは何か、患者さんも考えることができる講演会でした。
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