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腎臓病に負けない! 保存期に取り組みたい運動療法

2022.1.17

文:s.yuri

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腎臓が担っている複雑な働きは一度衰えてしまうとなかなか元に戻らず、慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)になってしまうケースが多くあります。しかし、腎臓病は早期発見によって適切な治療を心がけ、食事や運動など患者さん自身の生活習慣を見直すことでも、進行を抑えられる可能性があります。この記事では、腎臓病患者さんに保存期から意識して取り入れていただきたい運動について解説します。


かつて「透析導入前の保存期は安静が重要」と言われていた理由

これまで、腎臓病について医師や看護師から「病気の進行を遅らせるために運動は控えるように」と言われたことや、本やインターネットで「保存期の腎臓病患者さんは安静にすることが重要」といった情報を目にしたことがあるのではないでしょうか?

かつて、透析導入前(保存期)の腎臓病患者さんは病気の進行を抑えるために、運動は控えてできるだけ安静にすることが重要だとされていました。理由は2点あります。

1点目は、運動することで血中に増加する老廃物が弱った腎臓に悪いと考えられたためです。「クレアチニン」という老廃物やヘム蛋白「ミオグロビン」は、筋細胞が運動などで壊れる結果、血中に流れ出ます。これらの増加は、腎臓で尿をつくる過程に影響するため、運動を続けると故障を抱えた腎臓に余計な負担をかけてしまうと考えられていました。

2点目は、発汗によっても腎臓の血流量が減少するためです。運動で大量の汗をかくと体内水分量が減って脱水状態になりやすく、腎臓への血液量が一時的に減ります。腎臓に流れる血液量が減少すると濾過する機能が全体的に低下し、血圧を維持しようと腎臓からのレニン(昇圧物質)分泌や糸球体に関わる動脈の変化で、血圧が上昇します。血圧が過度に上がれば腎臓の糸球体に過大な圧力が加わり、腎臓の機能がますます悪化するリスクがあります。

こうしたことから、腎臓病患者さんは運動をできるだけ控えて安静に過ごすことが大切だと長らく考えられていたのです。


現在は保存期から“適度な運動”が推奨されている

しかし現在は、中等度までの運動負荷は尿蛋白量を増加させず、腎機能障害を進行させないこと、そして運動療法によって推算糸球体濾過量(eGFR)が改善する ことがわかっており、高度の蛋白尿がある方などを除き、適度な運動が勧められています。

腎臓病が進行する要因のひとつに、肥満、高血圧、耐糖能異常、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が挙げられます。特に有酸素運動は血圧を下げるほか、肥満や高血圧、高血糖、血中脂質等の改善効果があるので、体調に合わせて可能な限り取り組むべきでしょう。

加えて、適度な運動習慣は心不全や脳卒中のような心臓・血管の合併症を減少させる効果があるほか、筋力の維持や転倒の予防につながるため、怪我の予防と併せてQOL(生活の質)の向上に役立ちます。

もちろん無理は禁物です。特に血圧経過が気になる方や高齢の方、症状が安定しない心臓病もある患者さんは注意しましょう。主治医と相談しつつ、自分の体調や体力を把握しながら少しずつ体を動かしてみてください。


適度な運動とは? どのような運動をどれくらい取り入れればいい?

体に負担をかけないために、“適度な”運動量を把握することが大切です。日本腎臓リハビリテーション学会の『腎臓リハビリテーションガイドライン』(2018年発行)によると、以下に記載する程度の運動が推奨されています。

有酸素運動
運動の概要 ウォーキングやサイクリング、水泳などのように低い負荷で無理なく続けられる運動
運動の目安 高齢者:普通の速さで歩く程度
中高年者:速歩き程度
若年者:軽いジョギング程度
運動の頻度 歩行、走行、サイクリングなどの運動を1回につき20~60分、1日あたり1~2回、週3~5回
レジスタンス運動(筋肉に繰り返し負荷をかける運動)
運動の概要 ダンベルやゴムチューブ、ウェイトトレーニングマシンなどを使ったり、腕立て伏せやスクワットのように自分の体重(自重)で筋肉に負荷をかけたりして筋力を高める運動 力を入れるときに息を吐いて、力を抜く時に息を吸うことを意識する
運動の頻度 10~15回往復を1セットとし、各種目1セットを週2回から始め、慣れるにつれてセット数、負荷、頻度も増やす 最終的には8~10種目、1種目につき2~3セットを週2~3回
柔軟体操
いわゆるストレッチ。抵抗を感じたりややきつく感じたりするところまで伸長させ、関節ごとに60秒静止させる。
※注意事項
  • トレーニング前後に柔軟体操を行う。
  • 高温下/寒冷下の運動は体の負担になるため避ける。
  • 食後は2時間以上あけて行う(糖尿病患者は食後1〜2時間頃)。
  • 各種目に合わせて正しいフォームで行う。
  • 過負荷にならないよう注意する。

日常の家事や仕事で体を動かす「生活活動」の度合いも考慮して、無理なく体を動かしてみましょう。


「運動で透析導入まで15年もった」方も。
じんラボ会員の保存期の運動事情

じんラボ会員の方を対象とした保存期の運動についてのアンケート では、運動を習慣に取り入れている(または取り入れていた)理由として、体力維持や気分転換を挙げる方が多くいらっしゃいました。

  • 脳出血で倒れて左半身に痺れが残り、リハビリに。1年後には週3日の透析治療が始まり既に十数年経ちました。保存期には散歩やサイクリングなどの運動を行い、精神的に辛い時期もありましたが、今では仕事・生活も充実しています。(50代男性/千葉県/透析歴11~20年)
  • 天気のいい日は毎日少しでも運動するようにし、クレアチニン値2mg/dLくらいから透析導入まで15年持ちました。運動の内容は、若い時から、昼休みの屋外バドミントンを前衛のみ一歩しか動かないという条件でやらせてもらっていました。あとは、帰宅時に一駅分の約2kmを20分で歩くようにしていました。(60代男性/兵庫県/透析歴6~10年)

「医師から運動しないよう指示を受けたため」「ほかの疾病が原因で運動できない」という理由で運動をしていない方もいらっしゃいました。腎臓病患者さんは、症状によっては運動療法を十分にできない疾患を合併していることが多いため、一概に健康のために運動できない方がいるのも現状です。

  • 運動制限指示があって運動していません。ステロイドパルスから半年経ちますがまだステロイド剤を服用しています。筋力低下が激しく、立ち上がる時に脚が震えます。ステロイド剤を服用しなくなると筋力はある程度戻るのでしょうか。今は少し歩いても筋肉痛になり不安です。(60代男性/千葉県/CKDステージG3)

何よりも、運動を楽しむことが大切

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これまで運動がもたらすメリットについてお話しましたが、運動は義務ではありませんし、誰かに強制されるものでもありません。人それぞれ向き不向きや好き嫌いがあって当然です。一人でマイペースに取り組んでも、友人や家族と一緒に励ましあいながら取り組んでも大丈夫です。無理なく続けられるような運動やペースを見つけてみましょう。

重要なのは、「楽しい」と思える運動をすること、そして「これくらいならできる」ものから始めることです。
楽しいと思えない物事の習慣化はハードルが高いですし、新たに物事を始めるときには大きなエネルギーを使います。初めは「少し物足りないかも? 」くらいから始めることで、「今度はもう少し長くやってみよう」「これもやってみよう」とモチベーションにもつながります。

ほかには、好きな音楽を聴いて気分を高めたり、フェイスブックやTwitterなどのSNS(交流サイト)を使って一緒に運動を楽しむ仲間を見つけたりするのもいいでしょう。飽き性な方は、動画配信サイトのエクササイズ動画などを探して日替わりで挑戦してみるのもおすすめです。気軽に自宅でできる運動の動画が数多く配信されていますよ。

【執筆後記】

腎臓病と診断され、不安ばかりがよぎり運動どころではない、透析が始まり日々の日常生活に忙しく運動する余裕がない、さまざまな状況の方がいらっしゃると思います。
とは言え、もし少しでも運動ができるのであれば、朝起きた後に軽くストレッチをする程度から始めてみませんか? 「運動療法」と聞くとハードルが高く感じるかもしれませんが、軽く体を動かすだけで、血行を促進させて肩こりや冷え性の改善が期待できますし、気分転換やストレス解消にも役立ちます。

ただ、繰り返しになりますが、急の激しい運動は思わぬ不調やけがの元となります。少しずつ体を慣らしてから運動強度を上げ、主治医と相談しながら運動を取り入れるようにしてくださいね。
日本腎臓リハビリテーション学会の「腎臓リハビリテーションガイドライン」はインターネット上で公開されています。腎臓病での運動療法に関してさらに知りたい方はガイドラインをぜひ読んでみてください。医療者との意思疎通を図りつつ、患者さん自身が運動療法に自発的に取り組むきっかけづくりとしてみてはいかがでしょうか。

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s.yuri

s.yuri
じんラボのライター。大学卒業後、地元紙で主に教育や警察、司法、スポーツ、地域ネタを追いかける社会部記者として働き、その後夫の転勤に伴いゆるいフリーランスでライター・編集者として活動してきました。
学生時代から医療福祉に関する執筆に関わりたいと思っていたのが、十数年の時を経てじんラボでご縁をいただました。透析や腎臓病の勉強を重ね、少しでも元気の出る情報をお届けします。

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