夫婦間生体腎移植 〜繋がる想い〜腎臓病・透析に関わるすべての人の幸せのための じんラボ
【第6話・最終回】移植できたことに感謝、そして現在の生活
2016.4.18
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無事に移植を終え、ドナーである妻ともようやく再会し、新たな人生を与えてもらった感謝と感激の中で術後の入院生活を送りました。最終回の今回は、術後の経過を振返りながら、現在の生活までをお話ししたいと思います。
術後の経過
手術翌日の朝には、体重測定のためベッドサイドに体重計が準備され、「自力で起き上がり、ベッドから降りて体重を計る」という課題(?)を出されました。しかし、移植をさせてもらったありがたさを思ったら、多少の傷の痛みなど、なんてことはありませんでした。その日のうちにベッドサイドで軽く足踏みの練習を始め、1日500mLの水分摂取が課され、お昼には食事も開始されました。
術後2日目には、室内での歩行が始まり、洗顔や歯磨きなども室内の洗面台で普通に行えるようになりました。水分摂取も1日1,000mLとなり、つい2日前まで厳しい水分制限を課されていたのに、今度は逆に飲まなくてはいけないことへの戸惑いはありましたが、「飲める幸せ」をつくづく感じながら飲みました。こうして順調に回復していき、腎臓の凄さ、腎臓のありがたさを事あるごとに痛感し、妻の想いに感謝を重ねる日々でした。
移植5日目には、頸部からの点滴、尿道カテーテルも抜け、シャワー浴も可能になるなど、日を追うごとに身軽になっていき、食事もほとんど普通食に近いものが出されるようになりました。しかし、それと同時にこの日から、尿道カテーテルが抜けたことによる自己排尿との戦いが始まりました。
第3話の中でふれましたが、私の膀胱の許容量はわずか40mLで、そこに妻の腎臓が元気よく作りだす尿がどんどん溜まっていきますので、許容量まで溜まる前に排尿し、膀胱に負担をかけないよう徐々に許容量を増やしていかなくてはいけません。そこで、私に与えられたのは、「15分おきの排尿」でした。これは、24時間です。つまり、尿意の有無にかかわらず夜間でも15分おきに排尿しなくてはなりません。
しかし、それによって次第に膀胱も大きくなっていき、排尿の間隔も20分、40分となっていきました。尿意を感じてから排尿となるまでに13日かかり、その間も大変ではありましたが、辛くはありませんでした。15分毎、20分毎に排尿に行き、少しではあっても、その度に尿が出ることがありがたくて、嬉しくて、徹夜が続いた日々もいい思い出になっています。
術後、食事が始まってすぐに感じたことは“ごはんの美味しさ”でした。長年透析を続け、それなりに毒素が身体に残っているのが常の状態で食べる食事と、移植によってその毒素が抜けていった状態で食べる食事は明らかに味が違い、おかずが無くてもご飯が美味しく感じるほどでした。病院食をこれほど美味しく食べたことは初めてでしたし、味覚まで変わった感動は大変大きなものでした。
もう一つ驚いたのは、日々、肌がきれいになっていったことです。術後2、3日目には、腕の皮膚が新しい皮膚と古い皮膚とでまだらになっていくのが見てわかるようになり、徐々に新しい、きれいな皮膚に変わっていく様子を感動しながら観察する毎日でした。
こうして何のトラブルもなく順調に経過し、術後32日目に無事退院の日を迎えることができました。
退院の日、入院日にたどった経路を、今度は家路へと向けてたどる時の胸を押しつぶされそうな想いは、今でも忘れることができません。一足先に帰った妻や子供達の顔がちらついて、電車の中で一人涙にくれました。
帰郷後の生活と現在
透析離脱から1カ月以上過ぎても、20年間でしみ込んだ透析生活の習慣はなかなか抜けきらず、朝目覚めて「今日は何曜日?透析日か…」と思うこともしばしばありました。透析を忘れた夢を見て、慌てふためき目覚めたこともありました。
子供たちは、透析を受けている父親しか知らずに成長してきたので、毎日家にいる父親に、はじめのうちはかなりの違和感を覚えていたようです。
移植後、初めて迎える年末年始は、家族でゆっくりと過ごせる幸せが何よりも嬉しく、思わず号泣しました。
帰郷後、妻は術後約1カ月で職場復帰し、重症病棟の看護師として夜勤も普通にこなしています。勤務時間もかなり長時間で、重労働でもあるので、少しセーブして欲しいというのが本音ではありますが…。
私は移植後に「宮崎県腎協の会長を」というお話をいただき、しばらくお断りしていましたが、こうして移植へと進めたことも患者会のお蔭、移植をしても仲間として迎えていただき、こんな私に会を託そうと思ってくれる会員仲間への恩返しのために思い切ってお話しをお受けして、現在4年目に入ろうとしています。
こうして移植から5年が過ぎ、現在まで何のトラブルもなく順調に経過しています。妻への感謝は言うまでもなく、自己管理をしっかりとして心配をかけないことが、今の私にできる事だと思って過ごしています。
献腎移植は、ご存じの通り待機年数が長く提供数も少ないために、なかなか難しい現状で、生体間移植がかなりの勢いで増えてきています。確かに生体間移植は、現在では確立された医療でありドナーにも安全な医療ではあります。しかし私は、生体間での移植は、あくまでもドナーが主導で進むべき医療であると考えます。健康な身体にあえてメスを入れることの重大さ、意味の深さは身をもって感じています。
今、あらためて妻へ感謝し、こうして移植した当時の想いを振り返らせていただいたじんラボさんへ御礼を申し上げます。
そして、長きにわたり、拙い文章をお読みいただいた皆さん、ありがとうございました。
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